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テーマに関する論文

停戦交渉と欧州の立場
―― ウクライナと欧州の安全を確保するには

2025年1月号

エリー・テネンバウム フランス国際関係研究所 安全保障センター ディレクター
レオ・リトラ 新ヨーロッパセンター シニア・リサーチフェロー

2025年に、ロシアとの包括的な和平合意が成立する可能性は極めて低い。合意が成立しても、それは休戦に限られ、政治的協議は先送りされるだろう。交渉が実現しても、米露(そして潜在的には中国)の交渉者が、サウジやトルコの仲介で欧州大陸の将来を決定するとすれば、それは悪夢のシナリオだ。「ウクライナとヨーロッパの主要国がテーブルに着かない交渉などあり得ない」と強く主張しなければならない。そして、ロシアの攻撃を阻む抑止力として、ウクライナ領内に欧州部隊を派遣する覚悟をもつ必要がある。欧州部隊の軍事プレゼンスは安全保障の盾として機能し、欧米の手堅いコミットメントを示すことになる。この環境でウクライナに侵攻すれば、欧州とNATOを巻き込む危険が高いため、ロシアはエスカレーション策に訴えるのを躊躇するはずだ。

イスラエルの幻想とジレンマ
―― ネタニヤフとトランプ

2025年1月号

シャロム・リプナー アトランティック・カウンシル シニアフェロー(非常勤)

イスラエル国防軍の幹部たちは、「ガザとレバノンにおける目標はすべて達成した」とネタニヤフに伝え、ガザから人質を帰還させ、レバノンにおける紛争を終わらせるために譲歩することを支持している。ネタニヤフもこの方向に進むことをある程度希望しているかにみえる。だが、連立政権内の極右強硬派(スモトリッチとベングビール)は、人質解放に反対し、ガザと西岸をイスラエルの長期的な支配下に置くことを望んでいる。一方、多くのイスラエル人は、アメリカの新政権は「イスラエルを無条件で支援する」と考えている。だが、トランプの支持を前提にすれば、イスラエルは世界で孤立することになるかもしれない。今後、ネタニヤフは「トランプを満足させると同時に、スモトリッチとベングビールをなだめる」という不可能な任務に直面するかもしれない。

ロシアの基地は温存されるか
―― シリアの体制崩壊とロシア

2025年1月号

トーマス・グラハム 米外交問題評議会 特別フェロー

アサド後のシリアにおける、ロシアの当面の関心は、タルトスの海軍基地、そしてフミイエム空軍基地を守ることだろう。これらの基地は、中東におけるロシアの影響力を行使する上で重要なだけでなく、東地中海への足場だし、リビアやサヘルでの軍事プレゼンスを含む、北アフリカでのロシアの作戦を支援する後方支援の拠点でもある。プーチンがシリアにおけるロシアの軍事基地を簡単に放棄することも、大きな戦略的後退を穏やかに受け入れることもあり得ない。そのような事態は、大国としてのロシアの評判を落とすだけでなく、プーチンの国内での政治的地位も失墜させることになる。

AIの台頭と国家の衰退
―― AI企業の台頭と宗教の復活

2025年1月号

ヘンリー・キッシンジャー 元米国務長官
エリック・シュミット 元グーグルCEO兼会長
クレイグ・マンディ アライアント・コンピューティング ・システムズ共同創業者

AIは、国際システムで競合するアクターの相対的地位をリセットし、国家に国際政治インフラにおける中心的役割の放棄を強いるかもしれない。今後、社会的、経済的、軍事的、政治的なパワーを独占するのはAIを所有・開発する企業かもしれない。そして、国籍よりも宗教的単位のほうが、アイデンティティや忠誠心にとって、より関連性の高い枠組みにされるのかもしれない。世界が、AI関連の企業連携に支配されるにせよ、ゆるやかな宗教別のグループに分散していくにせよ、それぞれのグループが権利を主張して衝突する新しい「領土」は、物理的な土地ではない。それは、デジタルランドスケープになるだろう。

このエッセーは、Genesis: Artificial Intelligence, Hope, and the Human Spiritからの抜粋・編集。

ヨーロッパの安全保障
―― 自立的欧州安全保障へ

2025年1月号

ノルベルト・レットゲン ドイツ連邦議会議員

交渉に入れば、トランプが停戦を成立させることを求める国内圧力に直面することをプーチンは理解している。当然、そのような交渉から生まれる合意が、ウクライナやヨーロッパが安心できるものになるとは考えにくい。ワシントンがモスクワの戦争目的を受け入れれば、NATOの信頼性は大きく損なわれ、ヨーロッパの安全保障構造の基盤は揺るがされる。そうならないように、欧州の主要な軍事大国であるフランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、イギリスはヨーロッパ合同戦略の策定を主導する必要があるし、欧米間の適切な責任分担を見直し、防衛力を強化しなければならない。実際、強力な防衛力に邪魔されない限り、プーチンが侵略をウクライナだけで断念することはないだろう。

アサド後のシリア
―― 待ち受ける危険

2025年1月号

スティーブン・A・クック 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)

シリアの権力者となって四半世紀近くが過ぎた段階で、バッシャール・アサドは権力ポストを追われ、アサド王朝は終わりを迎えた。アサド体制はわずか2週間で、説明のつかぬ形で一掃された。もちろん、ダマスカスにどのような後継政権が誕生するかには、数多くの疑問がある。イスラム主義政治勢力がシリアでパワーを蓄積していることをかねて警戒してきたアラブ首長国連邦、サウジアラビア、ヨルダン、エジプトが、ハヤト・タハリール・シャム(HTS)がダマスカスで統治体制を組織化するのを傍観するとは考えにくい。今後、HTSに対する反対運動が発生するかもしれない。シリアが暴力的な未来に向かう運命にあるわけではないが、新体制に対する反乱リスクを考えないのは軽率だろう。

日本とトランプ
―― 試されるリーダーシップ

2025年1月号

マシュー・P・グッドマン 米外交問題評議会地政学研究センター ディレクター

「北朝鮮そして中国の東シナ海、南シナ海での活動に毅然とした態度をとるつもりがあるのか」。日本の指導者たちは、トランプの安全保障政策をもっとも心配していた。関税引き上げ策への懸念ももっている。日本製品に対する関税引き上げだけでなく、中国や(カナダや)メキシコで組み立てられた日本製品が打撃を受けることも警戒している。一方、中国経済のデカップリングなどに対する日本政府の意欲は限定的になるかもしれない。日本は経済大国であり、インド太平洋地域におけるもっとも重要なアメリカの同盟国だ。東京がこの先の荒波をどのように乗り切るかは、日本のリーダーシップはもとより、トランプ政権のリーダーシップの試金石にもなるだろう。

新シリア紛争の行方
―― 関係諸国はどう動く

2025年1月号

スティーブン・A・クック 米外交問題評議会 シニアフェロー(中東・アフリカ研究担当)

アサド政権に対抗する武装勢力が、イスラエルがヒズボラに大きなダメージを与えた現状を大きな機会とみなしているのは明らかだろう。いまやシリア政府を支援するイランやヒズボラそしてロシアの力は限られている。一方、トルコは「アサド後のシリア」への影響力を確保することを再び重視するかもしれない。イスラエルも、シリアにおける「アサド問題はイランの問題でもある」ために、状況を前向きにみているかもしれない。そして大統領就任後のトランプが、シリアに展開する米軍部隊の撤退を選ぶ可能性もある。

トランプはいかに世界を変化させるか
―― 高官人事と外交政策

2024年12月号

ピーター・D・フィーバー デューク大学 教授

トランプと側近チームは、高官任命では何よりも大統領への忠誠を重視することを明らかにしている。トランプへの忠誠を調べるもっとも簡単なテストは、「2020年大統領選の結果は盗まれたのか、あるいは、2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件は反乱行為だったのか」を問うことかもしれない。次期副大統領となったJ・D・バンスが言うように、これらの問いに対してトランプが認める答えは一つしかない。このリトマス試験紙があれば、トランプは「チームの一員」だと考える人物だけを登用して、軍や情報機関の上層部を政治化できる。問題は、トランプのキャンペーンレトリックが、アメリカが直面する脅威を何ら理解していない、非現実的な大言壮語と薄っぺらな万能薬の類いで構成されていることだ。

全面戦争の時代へ
―― 包括的紛争時代の多様な抑止力

2024年12月号

マーラ・カーリン ジョンズ・ホプキンス大学教授

戦争は人間と知的マシンとが協力して、よりスピーディーに展開され、無人機(ドローン)などの自律型ツールに大きく依存するようになった。宇宙とサイバー空間がますます重要され、しかも、「紛争勢力が多様化」している。国、テロ組織、武装集団が入り乱れているだけでなく、ウクライナ国軍にはスペイン内戦以来と思われる規模の国際的義勇兵が参加している。世界が目撃しているのは、過去の理論家が「総力戦」と呼んだものに似ている。だが、新テクノロジーと経済のグローバル化ゆえに、現代の戦争はかつての総力戦の焼き直しではない。全面戦争の時代における抑止をより信頼できるものにするには、戦争の定義が変化し、さまざまな抑止が必要になっていることを理解しなければならない。

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