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テーマに関する論文

ヨーロッパの核のトリレンマ
―― アメリカ後の抑止力をいかに形成するか

2025年5月号

マーク・S・ベル ミネソタ大学 政治学准教授
ファビアン・R・ホフマン オスロ大学オスロ原子力プロジェクト 博士研究員

欧州安全保障のために、ヨーロッパは政治的意志を固め、防衛予算を増やし、調達プロセスを調整する必要があるが、これに加えて、核の選択肢に関する戦略的トリレンマを克服しなければならない。⑴ロシアに対する信頼できる、効果的な抑止力を形成し、⑵核の先制使用を抑えるような戦略的安定性を確保し、⑶新たな核拡散(核保有国の出現)を阻止しなければならないが、ヨーロッパがこれら三つのすべてを達成することはできない。実際、どれか二つを選択すれば、三つ目は不可能になる。「アメリカ後」のヨーロッパにとって、「もっともましな」対ロ抑止戦略はどうすれば実現できるのか。

「捕獲された国家」の経済的末路
―― 経済を蝕む壮大な政治腐敗

2025年5月号

エリザベス・デイビッド=バレット サセックス大学政治学教授

実業家の大統領が富豪と組んで連邦政府の管理権を乗っ取るという事態は、アメリカ近代史ではかつてない展開だ。だが、世界的にみれば、バングラデシュ、ハンガリー、南アフリカなど、政治家、ビジネスエリートの小集団が自己利益のために国と経済をねじ曲げてきたケースは数多くある。このプロセスを描写する「国家の捕獲(state capture)」という言葉もある。政治腐敗によって、そうした国は成長率の低下、雇用の減少、格差の拡大、高インフレに直面する。トランプとマスクが米経済の捕獲に成功すれば、市場をゆがめるだけでは済まない。世界経済にもダメージを与えることになる。アメリカは、世界をクリーンな統治へ向かわせる警察官としての歴史的役割を放棄しただけでなく、豹変してマフィアのボスになりつつある。

ルワンダの目的は何か
―― コンゴ侵略とアフリカ秩序の崩壊

2025年5月号

ミケラ・ロング ジャーナリスト、作家

ルワンダとその支援を受けた反政府勢力M23が、コンゴ民主共和国(DRC)東部を短期間で制圧したことで、東アフリカの地域秩序は根底から揺るがされている。ルワンダ政府は、コンゴ東部はルワンダの「歴史的領土」の一部と公然と主張している。実際、この動きは、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻に似ている。だが、国際社会の対応は鈍く、国連も欧米諸国も、アフリカの主要な国際機関も有効な対策をとっていない。いまやルワンダは、アフリカ大湖地域の地図をどこまで塗り替えるのかを決めようとしている。コンゴ東部の「バルカン化」、「保護国化」、あるいは、「コンゴの政権転覆」など、さまざまシナリオが取り沙汰されている。

ナショナリズムと強権者の時代
―― 覆された国際システムとトランプの世界

2025年5月号

マイケル・キマージュ ウィルソン・センター ケナン・インスティチュート 所長

いまや世界のアジェンダを設定しているのは、自国の偉大さを強調するナショナリストの指導者たちだ。トランプは、プーチン、習近平、モディ、エルドアンと同じタイプの指導者だ。強権的なナショナリストを自任する彼らは、ルールに基づく国際システムや同盟関係、多国籍フォーラムなどほとんど気にしていない。当然、グローバル秩序に関するいつもの描写はもう役に立たない。国際システムは一極支配でも二極体制でも多極体制でもない。現在のような地政学的環境では、すでに曖昧化している「欧米」という概念はさらに後退していく。

領土侵略時代の復活
―― 形骸化する規範の意味合い

2025年5月号

タニシャ・ファザル ミネソタ大学 政治学教授

2022年にロシアが試みた大規模で大胆な領土侵略の試みは、少なくとも今のところ、例外的なケースにとどまっている。しかし、侵略者が厳格に罪を問われなければ、各国は、国際的な反応を引き起こす危険の低い、法域が曖昧な地域で領有権を主張するようになるかもしれない。このような小規模な攻撃が、領土征服を禁じる規範に大きなダメージを与える危険がある。武力行動が増えるにつれて、国際システムを構成するルールや制度の大きなネットワークが解体し始めるかもしれない。領土征服を禁じる規範が解体すれば、世界は大きな危険にさらされる。

中国とヨーロッパの地政学
―― 米欧対立を中国は生かせるか

2025年5月号

ジュード・ブランシェット ランド研究所 中国研究センター長

「トランプはプーチンとの関係改善に熱心で、アメリカの伝統的な同盟国に反感を抱き、貿易戦争が国内政治に及ぼす影響を軽視している」。北京は現状をこのようにみている。事実、米欧関係が大きな圧力にさらされているために、習近平は、ヨーロッパ各地に外交官を派遣して、中国を信頼できる代替パートナーとして売り込み、安定した経済協力の機会を提供できると強調している。実際、ウクライナの戦後開発を支援する上で、中国ほど有利な立場にある国はないだろう。各国がアメリカの後退の可能性に備えてリスクヘッジを試みるなか、北京は頼れるパートナーとして自らを位置づけたいと考えている。

経済モデルの破綻から再生へ
―― 人と地球に貢献できるシステムを

2025年5月号

マリアナ・マッツカート ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 経済学教授

いまや、少数の主要プレーヤーによる重商主義への転換が、世界経済を報復的な貿易政策の応酬という事態に陥れつつある。現在の経済モデルは破綻しつつある。トランプ政権が解決策を示しているわけではない。減税、関税、金融規制緩和の提案が詰め込まれた福袋を与えているに過ぎない。公共の価値の創造よりも企業利益を優遇している破綻した経済モデルを退け、持続可能で公平なシステムに置き換えていかなければならない。政府、企業、労働組合の関係をリセットし、地球全体の改革を実現可能なものにするために内外で連携を形成しなければならない。世界は人と地球に貢献できるシステムを必要としている。そのためにも、経済がどのように機能し、誰に恩恵をもたらすのかを根本的に再編しなければならない。

対中デカップリング
―― 衝撃を抑え、効果を最大化するには

2025年4月号

スティーブン・G・ブルックス ダートマス大学 政治学教授
ベン・A・バーグリー 米財務省 政策アナリスト

平時に対中デカップリングを強行すれば、ワシントンがまさに回避したい紛争へ北京を向かわせる恐れがある。経済的混乱のなかで、台湾を侵略する機会も近く失われると考えて、武力行使に乗り出すかもしれないからだ。さらに、経済的遮断で中国に大きなダメージを与えるには、米同盟国の参加が不可欠だが、同盟国は、平時の経済的遮断は躊躇するだろう。アメリカが中国を経済的に切り離すことで受ける被害は比較的小さいかもしれないが、日本、韓国、オーストラリアを含むパートナー諸国は大きな代償を払うことになる。むしろワシントンは、危機に備えて、デカップリングを温存することで、対中抑止力を維持する一方で、同盟諸国が痛みに耐えられるように、経済同盟を組織して対策を考案していくべきだ。

ウクライナとアメリカ
―― 問われる米欧の絆

2025年4月号

ヴォルフガング・イッシンガー 元駐米ドイツ大使

トランプ米大統領は、プーチン露大統領を懐柔して、中国の習近平国家主席との「結婚」を断念させ、アメリカとの祝福されない同盟に応じさせる「逆キッシンジャー」戦略を狙っているのか。重要なのは、ウクライナを分断し、手っ取り早く停戦を実現することではない。永続的で確実な和平枠組みを確立することだ。ウクライナを(和平プロセスに)参加させなければならないし、その結果は公正で、ウクライナを売り渡すものであってはならない。ヨーロッパは、ウクライナでの戦争を永続的に終わらせるために、アメリカを必要としている。そして、アメリカも、その任務をうまく達成するには、ヨーロッパを必要としている。

勢力圏の復活
―― 停戦交渉は第2のヤルタなのか

2025年4月号

モニカ・ダフィー・トフト タフツ大学 教授(国際関係)

パワーポリティクスの復活をけん引する米中ロが、いずれも「わが国を再び偉大な国に」というストーリーを掲げる指導者に率いられているのは偶然ではないだろう。かつての偉大さを取り戻すには、中国にとっては、台湾だけでは十分ではなく、ロシアにとっても、ウクライナだけでは、プーチンのビジョンを満たすことはできない。アメリカもカナダ併合を視野に入れ始めている。現在の諸大国は、1945年のヤルタ会談で連合国首脳が世界地図を書き換えたように、新しい世界秩序を形作ろうとしている。中ロが手を組むのか、米ロが手を組んで中国と対抗する一方で、ヨーロッパ、日本、韓国は自立路線を強めていくのか。

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