Review
キッシンジャーの知られざる素顔
1999年6月号

国益だけを見つめる冷徹な現実主義者として知られるキッシンジャーだが、彼の外交センスは、冷徹な分析能力というよりも、実際には、彼自身もあまり気づいていない二つの資質によって導かれていた。一つは、「膨大な情報を踏まえた上で、そこから実行可能なエッセンスを導き出す類い希な能力」である。彼は、タイミングよく本当の問題の所在をかぎ分け、それに対処するために、官僚や外交官がどのような行動をとるべきかを思い描く抜群のセンスの持ち主だった。そしてもう一つの才能は、「他人の能力を直感的に見抜く力」、そして、でき得る限り相手の立場に「共感」を示す柔軟性である。世間のキッシンジャー評、あるいは、彼の自画像にもない、この二つの資質が彼を当代一流の外交交渉者に押し上げたのである。