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ー 地球温暖化と異常気象に関する論文

エネルギー転換の幻
―― 現状認識と現実的アプローチ

2025年6月号

ダニエル・ヤーギン S&Pグローバル副会長
ピーター・オルザグ ラザード社CEO兼会長
アタル・アルヤ S&Pグローバル チーフエネルギーストラテジスト

再生可能エネルギーによる電力生産は増えているが、化石燃料による電力生産も史上最高レベルに達している。しかも、世界人口の8割が暮らすグローバル・サウスでは、「脱炭素化」の前にまず「炭素化」が進むと考えられる。つまり、現在進行しているのは、「エネルギー転換」というよりも、むしろ「エネルギーの追加」に他ならない。実際には、エネルギー転換は、エネルギーだけの問題にとどまらない。それは、世界経済全体を再構築するに等しい。経済成長、エネルギー安全保障、エネルギー・アクセスが関わってくる以上、われわれはより現実的なエネルギー転換の道筋を模索する必要がある。

領土拡張時代の到来
―― 気候変動と土地・資源争奪戦

2025年4月号

マイケル・アルバータス シカゴ大学 政治学教授

気候変動によって、他国による領土征服の脅威が再び地政学の中枢要因に浮上している。温暖化は勝者と敗者を作り出す。例えば、温暖化を追い風にできるカナダやロシアが勝者に、異常気象に苦しむアメリカや中国は敗者になるかもしれない。実際、異常気象による壊滅的な災害に直面しているアメリカは、グリーンランドやカナダの一部を含む北方の国への領土的野心から具体的な行動をみせるかもしれない。気候変動による深刻な脅威に直面する中国も、資源、生活可能な土地、地政学的優位を確保しようと、東南アジアへ侵入し、ロシア東部や北朝鮮の領土さえ奪いとるかもしれない。気候変動のもっとも劇的な影響を経験するのはこれからであり、土地をめぐる競争は始まったばかりだ。

気候変動と民主主義
―― 異常気象と選挙

2024年10月号

カレン・フロリーニ クライメート・セントラル 副会長(ストラテジック・インパクト担当)
アリス・C・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(エネルギー・環境担当)

いまや選挙の障害を作り出しているのは、偽情報、外国政府による干渉、選挙結果の改ざんだけではない。気候変動が引き起こす異常気象もそうだ。ハリケーン、洪水、山火事、熱波などさまざまな災害によって、有権者は選挙権をますます行使しにくい環境に直面している。カナダは、2023年の森林火災で地方選挙の実施に手間取り、パキスタンは2022年の国政選挙前に、国土の3分の1が洪水で覆われる事態に陥った。投票所、IDカード、通信ネットワークが被害を受け、破壊されても、投票という民主主義の基本的権利を市民が行使できるような対策をとる必要がある。

気候変動とポピュリスト
―― 温暖化対策と文化戦争

2024年9月号

エドアルド・カンパネッラ ハーバード大学ケネディスクール リサーチフェロー
ロバート・Z・ローレンス ハーバード大学ケネディスクール 教授(国際貿易、投資)

ポピュリストの指導者たちは、とにかく地球温暖化対策を目の敵にし、将来の利益よりも現在の満足を優先する人間の本質を利用して、政治的に成功を収めている。米民主党議員の59%が気候変動問題への対応を最優先課題にすべきだと考えているのに対し、共和党議員でそう考えているのは12%にすぎない。政治的主流派のリーダーは、より魅力的な政治戦略、もっと感情的なストーリー、よりボトムアップの参加型政策アプローチを通じて、市民をもっと温暖化対策へ動員し、気候変動に懐疑的な人々が温暖化対策のメリットを受け入れるように、貿易と技術革新を通じて、グリーンテクノロジーのコストを、化石燃料コスト以下に抑え込む必要がある。

気候変動型災害に備えるには
―― 緩和と適応を連動させよ

2023年10月号

アリス・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(エネルギー・環境問題担当)

2023年に発生した気候災害の規模は、政府や政策立案者がもはや温暖化の緩和策、つまり、二酸化炭素やメタンなど大気中に排出される有害な汚染物質を削減する戦略に焦点を当てるだけでは不十分であることを、われわれに再確認させた。世界各国は、異常気象に耐えられるように、インフラや政策を見直して「適応」にもっと注意を払う必要がある。十分な対応を怠れば、気候変動が引き起こす過酷な衝撃が、広く世界において人々の生命、生活、コミュニティを押し潰すことになるだろう。温暖化対策に「適応」を含めて、対策の幅を広げ、緩和と適応の2つのアプローチを連動させる必要がある。

気候変動と海面レベルの上昇
―― 温暖化リスクを伝えるもう一つの指標

2023年5月号

アリス・C・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(エネルギー・環境担当)
レイフ・ポマランス 元国務副次官補(環境・開発担当)

海面上昇は、海岸線の侵食、、下水の逆流、沿岸コミュニティの水没と集団移住など、気候変動が引き起こす問題を気温上昇以上に具体的に想起させる。気温上昇を1・5度に抑えることの重要性をより理解しやすくするために、各国は気温だけでなく、海面上昇の上限を設定すべきではないか。IPCCの推定では、気温上昇が1・5度以内にとどまれば、2100年までに世界の海面が上昇する中間値は約36―76センチに収まるとされるが、温室効果ガスの排出量がほとんど減少しなければ、アメリカでは2100年までに海面が106―213センチ上昇する危険がある。すでに、国連安全保障理事会は2023年2月に、海面上昇に焦点を絞った会合を開催している。

エネルギー不安の時代
―― 移行期におけるリスクにいかに備えるか

2023年5月号

ジェイソン・ボルドフ コロンビア大学 クライメートスクール 学院長
メーガン・L・オサリバン ハーバード大学ケネディスクール 教授(国際関係)

「エネルギー安全保障に対する過度な懸念が、気候変動との闘いを妨げるかもしれない」。専門家がこう考えていたのはそう昔の話ではない。だが、いまやその逆が真実だ。ネット・ゼロへの移行が進むにつれて、エネルギー安全保障への配慮が不十分であることが、気候変動対策により大きな脅威を突きつけることになるかもしれない。移行期におけるリスクを抑えながら、クリーンエネルギーへのシフトを試みるには、一方で、石油の戦略備蓄の強化、重要鉱物の戦略備蓄、供給混乱への保険策としての火力発電所の温存なども必要になるだろう。政策立案者はいまや、エネルギーと気候の安全保障を適切なバランスで考え、ともに成立させる必要があることを理解しなければならない。

トルコ地震とエルドアンの政治的命運
―― エルドアン政治の終わり?

2023年4月号

ソネル・カガプタイ ワシントン・インスティチュート  トルコ研究プログラム ディレクター

1999年のトルコ大地震では、民衆と家父長的国家間の「社会契約の限界」が露わになった。地震とそれに続く経済危機が社会不満を高め、オスマン帝国の残骸のなかで国を再建してきた「世俗的でしばしば非自由主義的なケマル主義者の政治体制」の崩壊が進んだ。その瓦礫のなかから、エルドアンと彼のイスラム主義政党が権力を握り、トルコを変貌させていった。だがいまや、エルドアンはかつてとは逆の立場に立たされている。今回の大地震は、約25年前の地震と同じように、石灰化した政治秩序を崩壊させるかもしれない。

気候変動と感染症
―― 温暖化と感染症リスクの拡大

2022年12月号

クレア・クロブシスタ Deputy Editor for cfr.org
リンゼー・メイズランド Editor for cfr.org

多くの研究が、気候変動と人獣共通感染症の脅威拡大との関連を指摘している。温暖化によってウイルスの宿主の生息域と数が拡大し、ヒトとの接触、感染経路が増えているからだ。世界の平均気温の上昇に伴い、アメリカ疾病対策予防センター(CDC)に報告される新規ライム病の患者数は、1990年代初頭からほぼ倍増し、いまや年約3万人に達している。このような状況を受けて、近年では、人間、動物、自然環境のつながりを重視した公衆衛生の考え方、「ワンヘルス」という概念が広がりをみせている。この概念の下、農業・畜産、獣医学、環境汚染などの分野や研究領域を統合することが、将来のグローバルな健康脅威に備えるために必要だと提唱されている。だが、専門家たちは、世界は気候変動に起因する感染症拡大リスクに対する備えが依然としてできていないとみている。

あらゆる都市に猛暑対策担当官を
―― 熱波に備える最高猛暑責任者の任命を

2022年7月号

キャシー・ボーマン・マクラウド アトランティック・カウンシル シニア・バイスプレジデント

2022年は暑い年になるだろうが、少なくとも今後100年間でみればもっとも涼しい年の一つになるはずだ。熱波は人命を奪うだけでなく、道路の陥没や線路の歪みなど、インフラにもダメージを与える。ほとんどの飛行機は気温が49度を超えると離陸できなくなるし、携帯電話は気温が40度に達すると機能しなくなる。ハリケーンや竜巻とは違って、熱波はドラマチックなニュース映像になりにくいが、暴風雨と同じように、熱波は対策をとり、備えることができる。熱波に名前をつけたり、カテゴリーを示したりすれば、大衆の注意を引きやすくなる。実際、この措置はアテネ(ギリシャ)やセビリア(スペイン)など世界6都市で実験されている。だが、気温上昇への対応計画を立案し、実行する担当者を置いている都市は、世界にも数えるほどしかない。人命を救うために、各国の自治体指導者は、最高猛暑責任者(CHO)のポストを設けるべきだろう。

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