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― ユーラシアニズムに関する論文

プーチンの思想的メンター
―― A・ドゥーギンとロシアの新ユーラシア主義

2014年5月号

アントン・バーバシン 在モスクワ国際関係研究者
ハンナ・ソバーン 米フォーリン・ポリシー・イニシアティブ (ユーラシア分析担当)

2000年代初頭以降、ロシアではアレクサンドル・ドゥーギンのユーラシア主義思想が注目されるようになり、2011年にプーチン大統領が「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ドゥーギンの思想と発言はますます多くの関心を集めるようになった。プーチンの思想的保守化は、ドゥーギンが「政府の政策を歴史的、地政学的、そして文化的に説明する理論」を提供する完璧なチャンスを作りだした。ドゥーギンはリベラルな秩序や商業文化の破壊を唱え、むしろ、国家統制型経済や宗教を基盤とする世界観を前提とする伝統的な価値を標榜している。ユーラシア国家(ロシア)は、すべての旧ソビエト諸国、社会主義圏を統合するだけでなく、EU加盟国のすべてを保護国にする必要があると彼は考えている。プーチンの保守路線を社会的に擁護し、政策を理論的に支えるドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、いまやロシアの主要なイデオロギーとして位置づけられつつある。・・・・

ユーラシア主義か、栄誉ある小さな戦争か
―― 三つのシナリオとプーチンの選択

2014年4月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授

プーチンがユーラシア主義のイデオロギーや権力志向に取り憑かれ、合理的な思考を失い、ウクライナ侵略のコストと利益を判断できなくなっているとすれば、彼は今後も現在の路線を突き進むと考えるのが無難だろう。ウクライナに対する大規模な地上戦の開始を阻むものは何もない。一方、プーチンが合理的な考えを取り戻し、コストと利益のバランス、ユーラシア主義路線の余波を見極めることができれば、ウクライナと世界秩序を破壊する前に、侵略を止めるだろう。プーチンは、(ユーラシア主義の)イデオロギー、地政学的利益、そして自己利益から、今回の行動に出ている。だが指導者を突き動かすのはイデオロギーだけではない。欧米が厳格な対抗策をとれば、プーチンにもロシアにもほとんど利益をもたらさないコストのかさむ戦争への代替策、それも面目を失わずに済む代替策を模索するように促すことができるだろう。

「プーチンのロシア」の謎に迫る

2002年12月号

ダニエル・トレイスマン カリフォルニア大学準教授

専門家の多くは、プーチンがロシアを新たな存在へとつくり替えつつあるとみている。だが、表向きは変化していても、一枚皮をめくれば、エリツィンのロシアとプーチンのロシアの間に大きな違いはない。オリガークたちはいまも健在だし、彼が導入した改革の多くは見かけ倒しにすぎない。むしろ、新しい要素とは、着実な経済成長を背景にこれまでになかった楽観ムードが社会に漂い、若くて冷静な大統領を多くの市民が支持していることだろう。エリート、企業経営者、そして民衆の多くも、自分たちの生活は来年になればもっとよくなると考えている。心理的閉塞感が打ち破られたことこそ、今のロシアを説明する重要な要因なのかもしれない。

プーチンの最大の敵は石油オリガ―キーだ 

2000年4月号

リー・S・ウォロスキー 外交問題評議会フェロー

ロシア政財界の最強のプレーヤーであるオリガーキーたちは、民主主義と市場経済の確立に向けたロシアの改革路線を脅かしている。巨大なロシアの石油産業を支配する者が、世界の石油供給の大部分を支配する。そしてロシアの石油を完全に支配しているのは石油オリガーキーたちだ。オリガーキーたちの略奪行為によってロシアの富はことごとく吸い取られ、政府を含むロシア社会の広範な層が貧困化している。

ロシア・ユーラシアニズムと「反西欧」の構図

1999年4月号

チャールス・クローバー 『ファイナンシャル・タイムス』キエフ支局長

ユーラシアニズムとは、「西欧とは異なるロシアのユニークなアイデンティティを確立させようとする試みのことで、ユーラシア中枢に位置するロシアを起点に南や東へと目を向け、この巨大大陸の東方正教会系の民族と、イスラム人口を地政学的観点から一つにまとめあげる」ことを構想している。具体的には、「国内の経済政策面では左派よりで、対外政策面でアラブ諸国を助け、東方世界に傾斜し、旧ソビエト地域の統合を強化する政策である」。すでにロシア共産党のジュガーノフ委員長や、プリマコフ首相は、ユーラシアニズムという理念を政治外交の世界で具体化させ、少なくとも、国内政治そして一部外交面でも勝利を収めつつある。伝統主義と集団主義をつうじて、ユーラシアにおける民族集団を一手に取りまとめ、反リベラル・反欧米のスタンスで大同団結させようとするこのロシアの試みは、「西欧(WEST)」、そして世界にとってなにを意味するのだろうか。

ロシアこそがユーラシア秩序再生の要

1998年5月号

ヴァレリー・V・ツェプカロ  駐米ベラルーシ大使

現状の分散化・分裂化現象が続く限り、法や正義ではなく、再び利益や力のバランスによってユーラシア秩序を回復せざるを得なくなり、新たな、そして不吉な「歴史の始まり」が導かれるだろう。ユーラシアの分裂状況を放置すれば、中央アジアやコーカサスでの紛争が他の諸国を巻き込み、トルコ、イラン、中国、日本、そして欧米諸国の利益の錯綜や対立がこの大陸をカオスへと突き落としかねない。米国のユーラシアでの影響力には限界がある。秩序再生は、あくまでロシアによる過去と現在を踏まえた新理念の構築にかかっている。

ユーラシアの地政学と日米中を考える

1997年11月号

ズビグニュー・ブレジンスキー 戦略問題国際研究所(CSIS)顧問

世界の人口の75パーセント、GNPの60パーセント、エネルギー資源の75パーセントが存在するユーラシア大陸は21世紀の安定の鍵を握る「スーパー・コンチネント」だ。ユーラシアにおけるアメリカの差し迫った課題は、「いかなる単独の国家、あるいは国家連合も、アメリカを放逐したり、その役割を周辺化させたりするような力をもてないようにすることだ。この点でとりわけ重要なのが、NATO、そして、アメリカと中国の関係であり、これを軸に、ロシア、中央アジア、日本との安定的共存を図っていかなければならない。NATO拡大とロシアの関係同様に、アメリカ、日本、中国の戦略関係にも細心の配慮が必要になる。肝に銘じておくべきは「再軍備路線への傾斜であれ、単独での対中共存路線であれ、日本が方向性を誤った場合には、安定した米日中の3国間アレンジメント形成の可能性はついえ去り、アジア・太平洋地域でのアメリカの役割は終わる」ということだ。

中国・ロシアを国際秩序に組み込む道

1997年7月号

マイケル・マンデルバーム  外交問題評議会・東西関係プロジェクト議長

「正統的共産主義」がすでに崩壊・解体しているにもかかわらず、ロシアと中国はいまだに新たなシステムを構築できずにいる。そのため両国では、国内ではナショナリズムが幅を効かせ、対外的には自国の主権や地位に過度に敏感な外交路線が採用され、こうした環境を背景に、「ウクライナと台湾が、世界でもっとも危険なスポット」として浮上してきている。大切なのは、国際社会が現状の変革に反対していることを明確に伝え、彼らの現状変革の試みを今後も先送りし続けるように仕向け、すでに定着しつつあるポスト冷戦秩序のなかに、この二つの国家をゆっくりと組み込んで行くことである。いまわれわれに必要なのは、厄介で他の存在を脅かすようなロシアと中国の行動パターンが永続的ではないことを認識した上での、「忍耐強さ」である。

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