1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― アメリカの衰退に関する論文

日韓対立と中国の立場
―― 東アジア秩序の流動化の始まり?

2019年10月号

ボニー・S・グレーサー  戦略国際問題研究所 ディレクター(中国パワープロジェクト) オリアナ・スカイラー・マストロ   アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所 レジデントスカラー

日韓関係の亀裂を利用しようとする中国の最終目的が何かは明確ではない。韓国にアメリカとの同盟関係を破棄するように公然と促してはいないし、第二次世界大戦期の残虐行為にペナルティを課す対日キャンペーンを展開するようにけしかけてもいない。むしろ、日韓関係の緊張をアメリカのリーダーシップの衰退として認識させようとしている。アジアにおける米同盟システムが十分に傷つくほどに緊張が高まることを望みつつも、日韓関係が完全に破たんしてしまうほど悪化することは望んでいない。とはいえ、北京は、近隣諸国が中国のことを「アメリカよりも信頼できるパートナー」と位置づけることを望んでいる。もちろん、その結果、東アジアの優先順位とパワーが大きく変化すれば、アメリカの地域的立場は形骸化し、アジアの戦後秩序は再編へ向かうことになる。

中国対外行動の源泉
―― 米中冷戦と米ソ対立の教訓

2019年9月号

オッド・アルネ・ウェスタッド イェール大学教授(歴史・国際関係)

中国はかつてのソビエト同様に、共産党が支配する独裁国家だが、違いは国際主義(共産主義インターナショナル)ではなく、ナショナリズムを標榜していることだ。ソビエト以上の軍事・経済的なポテンシャルをもち、同様に反米主義のルーツを国内にもっている。しかも、アジアにおけるアメリカの立場と地位を粉砕しようとする中国の路線は、スターリンのヨーロッパに対する試み以上に固い決意によって導かれているし、中ロ同盟出現の危険もある。何らかの(国家的、社会的)統合要因が作用しなければ、目的を見据えて行動するアメリカの能力の低下によって、多くの人が考える以上に早い段階で、恐れ、憎しみ、野望によって人間の本能が最大限に高まるような制御できない世界が出現する危険がある。

米外交の再生に向けて
―― 21世紀の課題に備えるには

2019年5月号

ウィリアム・バーンズ 元米国務副長官

アメリカの外交インフラのなかで混乱が生じているし、これが何を引き起こすかはほとんど検証されていない。全般的に捉えると、トランプのアプローチはたんなる衝動ではなく、ホッブス的な世界観に基づいており、戦略には程遠い。この2年で、トランプ政権はアメリカの影響力を低下させ、その理念の力を空洞化させたばかりか、アメリカの世界における役割についての国内の分断をさらに深刻にした。最近における(トランプによる)後方撹乱は言うまでもなく、米外交をここ数十年苦しめてきた予算不足、過剰展開、そして度重なるダメージを覆すには1世代はかかる。求められているのは、残存するアメリカの支配的優位という歴史的な機会を利用して、新しい現実を反映するように国際秩序を刷新していくことだ。そのためには、外交という失われた資源を再生し、取り戻す必要がある。

今回ばかりは違う
―― 米外交の復活はあり得ない

2019年5月号

ダニエル・W・ドレズナー フレッチャー法律外交大学院 教授(国際政治)

政治的二極化が常態化するにつれて、米議員たちは外交政策のことを次の選挙のためのオモチャとしかみなさなくなり、外交エリートたちは、大統領のことを部屋に残された「最後の大人」とみなし、大統領の外交権限肥大化を問題にしなかった。しかし、感情的で幼児並みの知性レベルしか示さない人物が大統領に就任する事態への準備はできていなかった。アメリカというジェンガータワーは辛うじて崩れずに建っているが、ブロックをあといくつか抜けば、ぐらつきは肉眼でもはっきりと分かるようになる。次期大統領が表面的取り繕いを超えた抜本的修復策をとるべき理由はここにある。指導者が正しいことを為すための政治的意思を示すように求めるべきタイミングでもある。しかし、今回ばかりは、本当に終わりかもしれない。

さようなら、国際主義のアメリカ
―― トランプ時代の歴史的ルーツ

2019年4月号

エリオット・A・コーエン ジョンズ・ホプキンス大学教授(戦略研究)

トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

解体した米欧同盟
―― 新同盟形成の余地は残されているか

2019年4月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(米外交政策)
ジェレミー・シャピロ 欧州外交問題評議会 リサーチディレクター

トランプ政権の最初の2年間にわたって、ヨーロッパの指導者たちは「虐げられた配偶者」のような状態に追い込まれた。酷い扱いを受けながらも、離婚を恐れ、状況は改善すると見込みのない期待に思いを託してきた。しかし、離婚は避けられなかった。トランプ政権にとって、大西洋関係の統合とは、ヨーロッパがアメリカの言う通りに動くことを意味するに過ぎなかった。すでに同盟は死滅している。今後、アメリカが、ヨーロッパのノスタルジックな幻想のなかに存在する利他的なパートナーになることはあり得ない。新しい大西洋関係には、同盟の価値を認識する米大統領と、域内の分裂を克服し、米欧の平等なパートナーシップにコミットするヨーロッパ人が必要になる。

リベラルな秩序・第4幕へ向けて
―― アメリカと国際主義の伝統

2019年2月号

ギデオン・ローズ フォーリン・アフェアーズ誌編集長

冷戦後、しばらくすると、欧米社会の多くの人が、秩序は自分にプラスに作用していないと反発し、「私腹を肥やすことに熱心なだけで、機能不全に陥っているエスタブリッシュメント」に舵取りを委ねる理由はないと考えるようになった。そこに協調よりも競争を、自由貿易よりも保護主義を、民主主義よりも権威主義を好ましいと考えるトランプが登場する。それでも、ウィルソンからFDR・トルーマン、そしてブッシュ・クリントンに受け継がれてきたリベラルな秩序は動いている。「自発的で、ルールに支配される国際協調が相互利益をもたらす可能性」についての認識は依然として存在する。秩序の第4局面を切り開くのは容易ではないが、そうできるし、問われているものが非常に大きいだけに、そうしなければならない。重要なのは、支配的影響力をもつ世界の大国が、勝利を目指すのではなく、世界を主導することに向けて誠実にコミットすることだ。

民主主義を救うには
―― 歪んだ米経済システムの是正と外交の再生を

2019年2月号

エリザベス・ウォーレン 米上院議員(マサチューセッツ州選出・民主党)

ワシントンはこの数十年で一握りのエリートにだけ恩恵をもたらす政策をとるようになった。これを批判し「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプの政策も、実際には「トランプファミリーファースト」で、中間層には最低限の配慮しかしていない。一方、中国では、習近平国家主席が権力基盤を固めて「偉大なる復興」を語り、国有企業が共産党幹部に巨万の富を与えている。ロシアのプーチン大統領のパワーも、彼に友好的なオリガークが運営する国営企業との複雑な関係によって支えられている。しかも、これがモデル化されて、トルコやハンガリーを含む各国へと拡散している。このままでは、アメリカを含む、民主社会も、政治腐敗と泥棒政治への道を歩み、民主主義とは名ばかりの国に転落していく恐れがある。流れを覆すには、一握りのエリートだけでなく、すべてのアメリカ人に恩恵をもたらす政策と外交が必要になる。

トランプが思うままに行動できる理由
―― 形骸化した抑制と均衡

2018年11月号

ジェームズ・ゴールドガイアー アメリカン大学教授(国際関係論)
エリザベス・N・サンダース ジョージタウン大学外交大学院准教授

なぜドナルド・トランプ米大統領は好き勝手に振る舞えるのか。実際には、これは、トランプ個人に留まる問題ではなく、アメリカ政治を支えてきた抑制と均衡のシステムが形骸化していることで引き起こされている。米議会の外交専門家が少なくなり、国務省は虐げられ、国家安全保障会議が肥大化している。同盟国の立場も公然と無視されるようになった。トランプは、かねて進行してきたこのシステムの劣化を前に、暴走しているに過ぎない。大統領権限の拡大を阻止したいのなら、トランプが引き起こしたダメージだけでなく、そのダメージが明らかにしたより根深い問題、つまり、大統領権限の抑制を担うべき組織が、その意欲と能力の双方を着実に失っているという現実に対処していかなければならない。

色あせた対米投資の魅力
―― 流れはポストアメリカのグローバル経済へ

2018年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所 所長

対米投資が大きく減少している。米企業を含む多国籍企業による2018年の対米純投資はほぼゼロに落ち込んでいる。これは、長期におよぶビジネスコミットメントをする対象としてのアメリカの魅力が全般的に低下していること、つまり、すでに流れがポストアメリカのグローバル経済へ向かっていることを意味する。さらに、法人減税、他の地域よりも力強い経済成長という投資を促す環境が存在し、しかもワシントンが、米企業が外国へ投資するのを抑える公式・非公式のハードルを作り出しているにもかかわらず、今後、米多国籍企業による外国への投資が増えていくとすれば、これも世界がアメリカ抜きのグローバルシステムに向かいつつあることを示す明確なシグナルとみなせるはずだ。グローバル化を嫌悪するトランプのアプローチによって、多くの人々が考える以上の早いペースで世界経済はポストアメリカの時代に向かいつつある。

Page Top