
1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。
2008年11月号
民主国家が、今後の世界が多極化と政治的多様性に特徴づけられていくことを理解しないままに、民主国家連盟構想を実現しようと試みても、期待するような「歴史の終わり」という局面への道を切り開いていくことはできない。結局は行き止まりに遭遇するだけだ。新しいグローバルな秩序を誕生させるには、ワシントンとヨーロッパは、台頭する権威主義国家への認識を変えるとともに、北京とモスクワも欧米に歩み寄る必要がある。ワシントンは多様な政体から成る多極世界において、辛抱強く、しかも穏やかに行動していくことを学んでいかなければならない。そのためには、地域内の危機に対処できるように地域機構の能力を整備して強化し、世界の新たなパワーバランスを反映するように国連安保理を改革するとともに、また、主要経済国のフォーラムであるG8を、アメリカ、EU、日本、ロシア、中国、インドで構成されるG6とし、大国間協調の枠組みへと変化させていく必要がある。民主国家連盟構想では、解決策にならない。
パキスタンとアフガンをカオスから救い出すには、まずアメリカが対テロ戦争の目的を再定義しなければならない。イスラム主義運動をひとまとめにしてとらえるのではなく、「地域的、あるいは国家的な目的から活動しているイスラム主義運動」と「アメリカおよびその同盟国にテロ攻撃をしようと試みている国際的なテロ運動」を区別する必要がある。こうした区別を通じて、タリバーンから「アルカイダとは関わり合いを持たない」という言葉を引き出せれば、アルカイダに戦略レベルでの敗北を強いることができる。さらに、パキスタンの不安の緩和に努めつつも、破壊的な行動を放置するのをやめるようにはっきりとイスラマバードに伝えることで、アフガンの安定をめざす地域コンセンサスを構築していくための大胆な外交イニシアティブを模索していかなければならない。
2008年11月号
1971年以後の国際通貨レジームもすでに寿命を迎えつつあり、老朽化の弊害が兆候として表れている。不安定な為替レート、世界規模でのインフレ、対米債権国における中央銀行のバランスシートにドルが積み上げられていることがその証左だ。この20年間にわたって、健全だと考えられていた制度、合理的だと思われていた市場が幾度となく制御不能に陥ってきた。このままでは、世界規模での通貨・金融危機のリスクはますます高まっていく。持続性のある、優れた後継の国際通貨システムが必要だ。それは第二次世界大戦後に生まれた体制と同じく、固定為替相場と金が支える基軸通貨を中心としたシステムになるはずだ。
もうしばらく辛抱すれば、現在のイラクの安定が定着し、2010~2011年には大規模な米軍撤退を実施しても、イラクの安定が維持される現実的な見込みが出てきている。スンニ派武装勢力、シーア派武装勢力の力が弱まり、イラク・アルカイダの影響力が低下する一方で、イラク治安部隊が強化され、その結果、政治面でも新しいダイナミクスとインセンティブが作り出されているからだ。民族・宗派間抗争が激しかった過去数年間、イラクの政治勢力の影響力の基盤は、「保護を必要とする者を保護し、保護を必要としていない者を脅迫するための武装勢力を持っていた」ことにあった。しかし、これらの武装勢力は力を失ってきているし、その結果、政治勢力も歩み寄りを模索するようになってきている。この安定を維持し、定着させなければならない。少なくとも、2008年末と2009年末にそれぞれ予定されている地方、国政レベルでの選挙が終わるまでは、相当規模の米軍を維持する必要がある。ある程度の忍耐を持ち、現在のイラクにおける前向きな変化をうまく育んでいけば、永続的なイラクの安定という望みを捨てることなく、近いうちに米軍を撤退させられるようになるかもしれない。
ワシントンは、温室効果ガス排出権取引システムを導入し、そこから得た歳入をエネルギー使用効率やクリーンな電力生産領域での技術革新に利用していくことを目指す「キャップ・アンド・インベスト」戦略を実施すべきだ。キャップ・アンド・インベスト戦略が導入されれば、アメリカはごくわずかな経済コストでクリーンエネルギー経済へとシフトできるようになる。事実、コンサルティング企業のマッキンゼーの最近の報告は、政府がエネルギー使用効率改善と技術革新による可能性を最大限に促進すれば、2030年までにアメリカの温室効果ガス排出量を30%近く削減するのに必要なコストをほぼゼロへと圧縮できると指摘している。
2008年7・8月号
現在のアメリカの対中アプローチは、既存のグローバル経済秩序に参加するように中国を促すことに焦点を当て、一方の中国は、制度構築上の役割を担う余地のないシステムに組み込まれるという構図を不愉快に感じ、一部で制度に挑戦する動きをみせている。ワシントンは、短絡的に米中間の2国間問題にばかり焦点を当てるのではなく、北京とグローバル経済システムを共同で主導していくための真のパートナーシップを構築していくべきだ。グローバルな経済超大国、正当な制度設計者、国際経済秩序の擁護者としての中国の新たな役割に向けて環境を適正化できるのは、米中によるG2構想だけだ。米中間の紛争を制度的な管理の問題に置き換えて、解決を試みていくことは極めて効率的なやり方である。
2008年6月号
1980年代にアメリカは(シーア派の)イランを封じ込めようとアラブ諸国政府を動員したが、その結果、スンニ派の政治文化を急進化させ、ついにはアルカイダを誕生させてしまった。今回も、同様に忌まわしい結末に直面する危険がある。
イラン封じ込め戦略は、シーア派のイランに対抗する思想的な防波堤としてスンニ派過激主義思想を助長するだけに終わるかもしれない。これまでのように中東のパワーバランスを回復することを目指すのではなく、地域の統合を働きかけ、すべての関係勢力が現状を維持することに利益を見いだすような新たな枠組みをつくり上げることを目指すことこそ、ワシントンにとって賢明な選択のはずだ。
2008年6月号
「イリノイ大学の研究によれば、現在12億人が飲料水不足に苦しみ、26億人が不衛生な環境で生活しており、しかも、状況はますます悪化している。……地球が水で覆われているにもかかわらず、地球の飲料水資源は不足している」(P・カーン)
「原材料や資源確保への不安が日本を戦争の道へと駆り立てた。現在においても、重要な資源へのアクセスをめぐる不安が、戦争を誘発する危険はある」(L・ファース)
「資源争奪をめぐる紛争のリスクを心配するのであれば、人間の行動を規定する枠組みである統治制度を是正する必要がある。ダルフール危機を資源の側面からは解決できない。暴力を抑えるようにこの国の統治体制を見直すことが不可欠だ」(D・ビクター)
2008年5月号
現在の国際システムの基本的特徴は、国がパワーを独占する時代が終わり、特定の領域における優位を失いつつあることだ。国家は、上からは地域機構、グローバル機構のルールによって縛られ、下からは武装集団の挑戦を受け、さらには、非政府組織(NGO)や企業の活動によって脇を脅かされている。こうしてアメリカの一極支配体制は終わり、無極秩序の時代に世界は足を踏み入れつつある。そこでは、相手が同盟国なのか、敵なのかを見分けるのも難しくなる。特定の問題については協力しても、他の問題については反発し合う。協調で無極化という現象を覆せるわけではないが、それでも、是々非々の協調は状況を管理する助けになるし、国際システムがこれ以上悪化したり、解体したりしていくリスクを抑え込むことができる。