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年度別傑作選に関する論文

欧州における反移民感情の台頭

2014年11月号

ジェーン・パーク cfr.org Deputy Director

依然として経済的停滞から十分に立ち直れずにいるにも関わらず、ヨーロッパは、アフリカや中東から流入する移民、難民の急増という事態に直面している。欧州連合(EU)の対応は場当たり的で、「移民や難民の権利よりも国の安全保障を守ることを重視している」との批判も聞かれる。一方で、財政難に苦しむ多くのEU加盟国は、社会サービスを切り捨てざるを得ない状況に追い込まれ、反移民の立場をとる極右政党が急速に台頭している。いまや、人権の尊重、自由な人の移動というEUの中核理念が脅かされかねない状況にある。ほとんどのEU加盟国は難民対策として地中海の海上警備の強化・拡大や取り締まりめぐる情報共有には前向きだが、難民や移民の権利を守るための枠組み合意は形成されていない。移民排斥を唱える極右政党が今後も支持を集め、彼らが政治スキルを高めていけば、経済が回復しても、ヨーロッパに反移民感情が定着する恐れがある。・・・

解体する秩序
―― リーダーなき世界の漂流

2014年11月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

アメリカの覇権は廃れつつあるが、バトンを引き継ごうとする国はなく、今後、現在の国際システムはさらに雑然としたシステムと化していくだろう。国際ルールを守るのではなく、独自の利益を重視する非常に多くの国がパワーセンターにひしめき合い、アメリカの利益や優先課題が配慮されることもなくなる。これによって新しい問題が作り出され、現状の問題を解決するのもますます難しくなる。要するに、ポスト冷戦秩序は解体しつつある。秩序の崩壊はパワーと意思決定メカニズムが分散化していること同様に、アメリカがもはやまともに国際行動を起こさないと考えられていることに派生している。いまや問うべきは、世界秩序が今後も解体していくかどうかではない。いかに迅速に奥深く解体プロセスが進展するかだろう。

イスラム国を検証する
―― ルーツ、財源、アルカイダとの関係

2014年10月号

ザカリー・ローブ オンラインライター 、ジョナサン・マスターズ cfr.org副編集長

2013年4月イスラム国は、ヌスラ戦線との統合を宣言した。しかし、ビンラディンの後継者として「コア・アルカイダ」を率いるザワヒリは、この統合を認めず、「バグダディのイスラム国の活動はイラク国内に限定する」と表明した。だがバグダディはザワヒリの決定を受け入れることを拒絶する。2013年後半、それまでライバル関係にあったシリア内の他のスンニ派武装集団はムジャヒディーン軍として連帯し、イスラム国に対して「シリアでの支配地域は自分たちに委ねて、シリアから撤退するように」と迫った。だが、それ以降もイスラム国は支配地域を拡大し続け、「シリアとイラクの国境地帯に事実上の国家」を樹立した。イスラム国は、武装した兵士を配備しただけでなく、一部で行政サービスを提供するようになり、超保守的なイスラム主義を実践している。・・・

欧米の政治危機とポピュリズムの台頭
―― 生活レベルの停滞と国家アンデンティティ危機

2014年10月号

ヤシャ・モンク ニューアメリカン財団フェロー

多くの人は最近の欧米におけるポピュリスト政党の台頭は「2008年の金融危機とそれに続くリセッションの余波」として説明できると考えている。だが現実には、この現象は、市民の要請に応える政府の対応能力が低下していることに派生している。右派ポピュリストは移民問題と国家アイデンティティの危機を問題にし、左派ポピュリストは「政府と企業の腐敗、拡大する経済格差、低下する社会的流動性、停滞する生活レベル」を問題にしている。右派が脅威を誇張しているのに対して、左派の現状認識は間違っていない。問題は右派も左派もその解決策を間違っていることだ。民主政治体制の相対的安定を願うのなら、ポピュリストの不満に対処しつつも、彼らの処方箋では何も解決できないことを認識させる必要がある。

悪いのはロシアではなく欧米だ
―― プーチンを挑発した欧米のリベラルな幻想

2014年9月号

ジョン・ミアシャイマー シカゴ大学教授

ロシアの高官たちはワシントンに対してこれまで何度も、グルジアやウクライナを反ロシアの国に作り替えることも、NATOを東方へと拡大させるのも受け入れられないと伝えてきたし、ロシアが本気であることは2008年にロシア・グルジア戦争で立証されていた。結局のところ、米ロは異なるプレーブックを用いている。プーチンと彼の同胞たちがリアリストの分析に即して考え、行動しているのに対して、欧米の指導者たちは、国際政治に関するリベラルなビジョンを前提に考え、行動している。その結果、アメリカとその同盟諸国は無意識のうちに相手を挑発し、ウクライナにおける大きな危機を招き入れてしまった。状況を打開するには、アメリカと同盟諸国は先ず「グルジアとウクライナをNATO拡大策から除外する」と明言する必要がある。

キリスト教民主主義の衰退とヨーロッパ統合の未来

2014年9月号

ヤン・ベルナー・ミューラー
プリンストン大学教授(政治学)

ヨーロッパのキリスト教民主主義者は、本質的に超国家主義的なカトリック教会同様に、国際主義志向が強く、国民国家を重視しなかった。欧州連合(EU)に象徴される戦後ヨーロッパでの超国家主義構造の形成を主導し、統合を目指すヨーロッパ政治におけるキープレイヤーとして活動したのも、こうした理由からだ。だが、ここにきて、キリスト教民主主義は力を失ってしまったようだ。その理由はヨーロッパ社会の世俗化が進んでいるからだけではない。イデオロギー的にキリスト教民主主義の最大の敵の一つであるナショナリズムが台頭し、その中核的な支持基盤である中間層と農村部の有権者が縮小していることも衰退を説明する要因だろう。欧州統合というヨーロッパの大プロジェクトが新たな危機に直面しているというのに、キリスト教民主主義は、その擁護者としての役目をもう果たせないかもしれない。

レバノン化する中東
―― 重なり合う宗派主義と地政学の脅威

2014年9月号

バッサル・F・サルーク レバノン・アメリカ大学准教授(政治学)

2014年は中東におけるリアリストの地政学抗争に感情的な宗派対立が重なり合う新しい地域秩序が誕生した時代としていずれ記憶されることになるかもしれない。宗派対立へと中東の流れを変化させるきっかけを作り出したのは、2003年のアメリカのイラク戦争だった。その後、地政学抗争と宗派アイデンティティの重なり合いはシリア内戦によってさらに固定化され、これが紛争の破壊性と衝撃を高めている。最近のイラクにおける「イスラム国」(ISIS)の軍事攻勢と勝利も、「排他的で視野の狭い宗派、民族、宗教、部族主義の政治化」という2003年以降のトレンドを映し出している。いまや中東全域がレバノン化しつつある。

不満と反発が規定する世界

2014年8月号

マイケル・マザー 米国防大学教授

いまや世界の主要な安全保障リスクは、怒りや反発に支配された国や社会、あるいは、社会に疎外され、取り残されて不満を募らせる集団によって作り出されている。今後、安全保障上の脅威は、傷つけられたと感じ屈辱を抱く人々が、それを克服し、自分の価値を取り戻そうと試みるプロセスのなかで出現するようになるだろう。イラク、シリア、パキスタン、そしてヨーロッパ東部における最近の展開には、このトレンドが共通して認められる。ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナにおけるパワープレイも、これまでロシアを軽くあしらってきた欧米に対する積年の恨みを映し出している。中国も例外ではない。不満や反発が中国社会に充満していることは、メディアの報道や大衆文化、さらには教科書の記述やラディカルなネチズンによる過激な書き込みからも明らかだ。さらに日本やインド、そして西ヨーロッパでもナショナリズムが台頭している・・・

欧米の偽善とロシアの立場
―― ユーラシア連合と思想の衝突

2014年7月号

アレクサンドル・ルーキン ロシア外務省外交アカデミー副学長

冷戦が終わると、欧米の指導者たちは「ロシアは欧米と内政・外交上の目的を共有している」と考えるようになり、何度対立局面に陥っても「ロシアが欧米の影響下にある期間がまだ短いせいだ」と状況を楽観してきた。だが、ウクライナ危機がこの幻想を打ち砕いた。クリミアをロシアに編入することでモスクワは欧米のルールをはっきりと拒絶した、しかし、現状を招き入れたのは欧米の指導者たちだ。北大西洋条約機構(NATO)を東方に拡大しないと約束していながら、欧米はNATOそして欧州連合を東方へと拡大した。ロシアが、欧米の囲い込み戦略に対する対抗策をとるのは時間の問題だった。もはやウクライナを「フィンランド化」する以外、問題を解決する方法はないだろう。ウクライナに中立の立場を認め、親ロシア派の保護に関して国際的な保証を提供しない限り、ウクライナは分裂し、ロシアと欧米は長期的な対立の時代を迎えることになるだろう。

CFR Meeting
イラクと中東の宗派間紛争
―― イラク分裂の意味合い

2014年7月号

◎スピーカー
  スティーブン・ビドル ジョージワシントン大学教授
マックス・ブート 米外交問題シニアフェロー(国家安全保障担当)
ミーガン・オサリバン ハーバード大学教授
◎プレサイダー
リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

イラクの混乱は中東におけるより大きな危機の一部であり、最終的にはこれによって中東の地図が書き換えられることになるかもしれない。(R・ハース)

(イラクにおける)過酷な民族・宗派間紛争は数週間、数カ月という単位ではなく、数年という長期的なスパンで続くだろう。その途上で人道危機も起きるだろうし、この環境のなかでテロが起きる危険もある。だがもっとも厄介なのは、イラクの長期的な内戦が地域的に拡散していく危険が非常に高いことだ。(S・ビドル)

イラクの統一を保つことがわれわれの目的だと言い続けるだけで、その一方でイラクの分裂をいかに管理するかを考えないとすれば、政策決定者としての責任を放棄することになる。(M・オサリバン)

すでに事実上の分裂は始まっている。イランの革命防衛隊(IRGC)がその傘下組織を使って南部のシーア派地域を支配し、ISISと旧バース党メンバーがスンニ派地域を支配している。・・・クルド地域はうまく統治されるとしても、他のイラク地域は紛争に覆われつくすことになりかねない。(M・ブート)

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