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年度別傑作選に関する論文

歴史の未来
―― 中間層を支える思想・イデオロギーの構築を

2012年2月号

フランシス・フクヤマ
スタンフォード大学シニアフェロー

社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。問題は、社会民主主義モデルがすでに破綻しているにも関わらず、左派が新たな思想を打ち出せずにいることだ。先進国社会が高齢化しているために、富を再分配するための福祉国家モデルはもはや財政的に維持できない。古い社会主義がいまも健在であるかのように状況を誤認して、資本主義批判をしても進化は期待できない。問われているのは、資本主義の形態であり、社会が変化に適応していくのを政府がどの程度助けるかという点にある。

国際通貨システムの未来
―― 再現されるのは1930年代か1970年代か

2012年2月号

バリー・エイケングリーン
カリフォルニア大学経済学教授

米欧経済がともに深刻な危機に直面しているために、ドルとユーロへの信任が揺らぎ始め、国際通貨システムそのものが動揺し始めている。1930年代の国際通貨システムの崩壊は、経済活動を抑え込み、政治的過激主義を台頭させて、世界を壊滅的な事態へと導いた。対象的に1970年代のブレトンウッズ体制の崩壊はグローバル経済にダメージを強いたが、致命傷を与えることはなかった。金、小国の通貨、人民元、SDRと、現状におけるドルやユーロの代替策はどれも問題があり、結局、現在の国際取引を支えられるのはドルとユーロだけだ。しかし、この二つの通貨の安定に対する懸念がさらに高まり、各国の中央銀行が保有するドルとユーロを手放していけばどうなるだろうか。1930年代に外貨準備を清算したときと同様に、資本規制策をとって資本の流れを制限するしかなくなる。1930年代、1970年代、われわれは今後どちらのシナリオを目にすることになるのか。グローバル経済の運命は生死の縁をさまよっている。

気がつけば世界経済の運転席に誰もいない。2008-2009年の金融危機以降、様々な国際問題が噴出し、経済不安が高まっているにも関わらず、各国の政策担当者は自国の経済と雇用問題に対応するので手一杯で、いまやグローバル経済はゼロサム化しつつある。しかも、巨大な債務と財政赤字を抱える先進民主主義国家では、市場を意識した合理的で長期的な経済政策への政治的支持が得られなくなっている。根底にあるのは、グローバル化が「有権者が政府に対して望むものと」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、日本を含む先進民主国家政府が人々の要望に応えられなくなっていることだ。2012年の世界は1930年代のような通貨切り下げ競争と保護主義の台頭に覆い尽くされるのか。欧米経済が衰退するなか、中国が世界経済の牽引役を担い、経済覇権の交代がおきるのか、それとも・・・・

漂流する先進民主国家
―― なぜ日米欧は危機と問題に対応できなくなったか

2012年1月号

チャールズ・クプチャン
米外交問題評議会シニア・フェロー

グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に応えられなくなっている。これこそ、アメリカ、日本、ヨーロッパという先進民主世界が現在直面しているもっとも深刻な問題だ。先進民主諸国が統治危機に直面する一方で、台頭する「その他」の諸国が新たな政治力を発揮しているのは偶然ではない。グローバル化した世界への統合を進めていくにつれて、先進民主国家が問題への対応・管理手段の喪失という事態に直面しているのに対して、中国のような非自由主義国家の政府は、一元化された中央の政策決定、メディアに対する検閲、国家管理型の経済を通じて、社会の掌握度を高めている。必要とされているのは、民主主義、資本主義、グローバル化の相互作用が作り出している大きな緊張をいかに解決するかという設問に対する21世紀型の力強い答えを示すことだ。政府の行動を、グローバル市場の現実、恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させるとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必要がある。

なぜユーロプロジェクトは失敗したか
―― ギリシャのユーロ離脱は何を引き起こすか

2012年1月号

マーティン・フェルドシュタイン ハーバード大学教授

共通通貨を導入さえしなければ生じたはずのない緊張と対立をユーロはヨーロッパにもたらした。これは、経済的に多様な国家集団に単一通貨を強要したことの必然的な結末だ。調和に満ちたヨーロッパを形作るという政治目標にもユーロは貢献できず、そこには政治的対立と反発が渦巻いている。もはやギリシャにはユーロ離脱という選択しか残されていない。ユーロを離脱し、新ドラクマを導入すれば、通貨の切り下げができるようになるし、ディフォルトに陥っても、ユーロ圏にとどまった場合よりも痛みは軽くて済む。問題は、ギリシャのユーロからの離脱がどのような連鎖を引き起こすかだ。ギリシャが離脱し、通貨の切り下げに踏み切れば、グローバル資本市場は、他のユーロ加盟国はどう反応するだろうか。・・・

ユーロゾーンの将来を左右する ヨーロッパの政治
――ECBは最後の貸し手になれるか

2011年12月号

トーマス・フィリポン  ニューヨーク大学ビジネススクール准教授
ベン・ステイル  米経済問題評議会国際経済ディレクター

自己資本比率を9%に引き上げるように求められた銀行は、結局、資本を増強するよりも、資産を減らしているようだ。これによって、イタリア国債が犠牲になっている。・・・・最終的には、欧州中央銀行(ECB)の資本が間違いなく再構築されると市場が考えるようにならない限り、ユーロ離れは加速し、ユーロは崩壊することになる。問題は、投資家がドイツ政府と有権者がECBを最終的に支えるとは考えていないことだ。(B・ステイル)

イタリアが債務を返済できるかどうかは、新政府が構造改革を実施できるかどうかがポイントになる。・・・短期的、つまり、今後2―3年については重要になるのは政治だ。経済的解決策そのものはきわめてシンプルだ。ECBが行動を起こせば、イタリアの債務危機は簡単に解決できる。だが、ECBが動けるかどうかを左右するのが、ドイツの政治とイタリアの政治だ。(T・フィリポン)

Foreign Affairs Update
ヨーロッパの新しいドイツ問題
―― 指導国なきヨーロッパ経済の苦悩

2011年12月号

マティアス・マタイス アメリカン大学准教授
マーク・ブリス ブラウン大学教授

20世紀の多くの時期を通じて、「ドイツ問題」がヨーロッパのエリートたちを苦しめてきた。他のヨーロッパ諸国と比べて、ドイツが余りに強靱で、その経済パワーが大きすぎたからだ。こうして、NATOと欧州統合の枠組みのなかにドイツを取り込んでそのパワーを抑えていくことが戦後ヨーロッパの解決策とされた。だが、現在のドイツ問題とはドイツの弱さに派生している。ユーロ危機を引き起こしている要因は多岐にわたるが、実際には一つのルーツを共有している。それは、ドイツがヨーロッパにおける責任ある経済覇権国としての役割を果たさなかったことだ。かつてアメリカの歴史家C・キンドルバーガーは「1933年の世界経済会議ではさまざまな案が出されたが、リーダーシップを発揮できる立場にあった国の指導者が、国内の懸念に配慮するあまり、状況への傍観を決め込んでしまった」と当時の経済覇権国の姿勢を批判したが、これは、現在のドイツにそのままあてはまる。求められているのは、ルールメーカーではなく、指導者としての役目を果たすことだ。

CFRミーティング
政府債務の増大とユーロ危機

2011年12月号

アラン・グリーンスパン
前連邦準備制度理事会議長

ベアー・スターンズが救済されて以降、金融セクター全体が政府によって保証されているとみなされるようになった。・・・いまや官民の債務を明確に区別するのが難しくなってしまっている。かつては純然たる政府債務だったものと民間の債務の境界が曖昧になってしまった。・・・・ユーロシステムが今後どうなるかについては、私も楽観してはいない。・・・問題はヨーロッパの安定成長協定(SGP)が事実上崩壊していることにある。財政赤字をGDPの3%以内に、政府債務残高をGDPの60%以内に抑えるというヨーロッパのルールが無視されている。これを最初に破ったのはフランスとドイツだが、ペナルティは発動されず、協定は静かに葬り去られた。・・・ユーロ圏北部がギリシャ、ポルトガル、スペインその他に資金を注ぎ込んでいることそのものが問題だ。その資金はどのように計上されるか。ユーロ圏の債務として計上される。・・北部の国でこれが政治問題化している。

CFR Interview
アメリカは変化するアジアの戦略環境にどう関わるか
――経済と安全保障のバランス

2011年12月号

エヴァン・フェイゲンバーム  米外交問題評議会アジア担当シニア・フェロー

アジア諸国の経済利益と安全保障利益が次第に衝突しつつある。安全保障領域ではアメリカが依然として重要な役割を果たしているが、経済領域ではいまや中国が地域的中枢を担い始めている。アジアの経済と安全保障の間に生じているこの不均衡が、これまでとは異なる戦略環境を作り出し、これがアメリカとアジア諸国の双方に大きな課題を作り出している。問題は、中国が愚かにもこれらの諸国を往々にして不安にさせる行動をとっていることだ。このために、アジア諸国は、経済的には中国に多くを依存しつつも、安全保障領域ではアメリカへの依存を高め、経済と安全保障のバランスをいかにとっていくかに苦慮している。一方、アメリカにとっての課題は、安全保障の後見役を果たしつつも、アジアにおける経済のゲームの中枢にいかにして身を置くかだ。交渉が続けられている環太平洋パートナーシップ(TPP)のような地域的貿易合意が重視されているのは、まさにこの理由からだ。・・・重要なポイントは、アジアの安全保障が安定していなければ、アメリカがそこから経済利益を引き出すこともできなくなり、そして、アメリカ抜きでは、アジアの安全保障が成立しないことだ。

CFRミーティング
依然として安定化にはほど遠いユーロゾーン危機
――債務減免措置、自己資本比率強化、EFSFの拡充で
危機は本当に収束するか

2011年11月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会地政学研究センターディレクター
ベン・ステイル 米外交問題評議国際経済担当ディレクター

合意では債務減免が債権者(銀行)の「自発的意志に委ねられる」とされている。現実には、銀行が減免に合意しない可能性もある。・・・新聞のヘッドラインにある通り、50%の債務減免が実現するとすれば、むしろ、私にとっては驚きだ。・・・さらにヨーロッパの指導者は、2012年までに銀行の自己資本不足問題を解決したいと考えている。これは逆に言えば、今後8カ月間で市場がパニックに陥れば、それに対応する力はないと認めたのも同然だ。(S・マラビー)

指導者たちは、EFSF(欧州安定化基金)を増強したいと考えている。だが、これをどのように実現するかの具体策は示されていない。もっとも可能性が高いのは、EFSFがCDO(債務担保証券)に置き換えられていくことだ。だが、これは、CDOが不良資産化した、2008年のサブプライムローン危機をわれわれに想起させる。(B・ステイル)

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