1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

米国に関する論文

テロとの戦いの本当の意味は何か

2007年2月

トニー・ブレア/第73代英国首相

イスラム過激派は、イスラム国家の近代化など望んではいない。彼らは、中東地域にイスラム過激主義の弓状地域を形成し、イスラム世界の近代化を目指している穏健派による小さな流れをせき止め、イスラム世界が少数の宗教指導者が支配する、半ば封建的な世界へと回帰することを望んでいる。彼らが攻撃に用いる手段に対抗するだけではなく、こうした彼らの思想に挑まない限り、勝利は手にできない。人心を勝ち取り、人々を鼓舞し、われわれの価値が何を意味するかを示すことが戦いの本質である。力の領域においてだけでなく、価値をめぐる闘いで勝利を収めない限り、イスラム過激主義の台頭というグローバルな流れを抑え込むことはできない。

アフガニスタンを救うには

2007年2月

バーネット・R・ルービン/ニューヨーク大学国際協調センター研究部長

パキスタンとペルシャ湾岸諸国の援助をバックにタリバーンが再びアフガニスタンで台頭しつつある。パキスタン国内の部族地域に聖域を持っていることに加えて、タリバーンの統治システムが極めて効果的であり、一方、アフガニスタン政府が腐敗にまみれ、まともな統治が行われていないために、民衆の立場も揺らぎだしている。アフガニスタン軍と国際支援部隊が戦闘を通じてタリバーンをいくら打倒しても、パキスタン内にタリバーンが聖域を持ち、アフガニスタン政府が弱体で再建活動がうまく進んでいないために、それを本当の勝利に結びつけられない状況にある。アフガニスタンの内務省と司法制度を改革し、アメリカのパキスタンに対する路線を見直さないことには、対テロ戦争の最初の戦場へと再度引きずり戻されることになる。

CFRブリーフィング
米ロは衝突コースにあるのか?

2007年2月号

Lionel Beehner (Staff Writer, www.cfr.org)

プーチン大統領率いるロシアとアメリカは、これまでも協調と対立を繰り返す微妙な関係にあったが、ここにきて、双方は相手を明確に批判するようになった。アメリカの弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの離脱、北大西洋条約機構(NATO)の拡大、かつてロシアの勢力圏だった旧ソビエト諸国における民主化運動への欧米の支援などをめぐって、米ロはこれまでもことあるごとに対立してきたが、それでも大きな対立局面にいたることはなかった。だが、プーチンは、最近ドイツのミュンヘンで開かれた国際安全保障をめぐる国際会議で、「アメリカは単極世界の構築を試み、核の軍拡レースを復活させ、国際的紛争の解決に無節操に武力を用いている」とワシントンを痛烈に批判し、これに対してロバート・ゲーツ国防長官は、「ロシアの批判を聞くと、まるでわれわれが冷戦時代にあるかのような錯覚に陥る」とコメントしている。米ロはこのまま衝突コースを歩み、世界は再び米ロの対立を軸に切り分けられることになるのか。それとも……。

CFRインタビュー
なぜアメリカは北朝鮮に妥協したのか

2007年2月号

ゲリー・サモア 米外交問題評議会(CFR) 上席副会長・研究部長

「ホワイトハウスにしてみれば、6者協議における交渉が進展しなければ、北朝鮮が核実験を再度試みる危険があることを憂慮したと思われる。そのような事態になれば、中東、特にイラクで数多くの問題に直面するなか、東アジアでも危機が誘発され、対応を余儀なくされる」。2月の6者協議での合意の背景をこう分析するゲリー・サモアは、核兵器のことを国の存続を保証する切り札とみなす平壌には核を解体するつもりが全くない以上、外交で状況を安定化させ、東アジアで危機を誘発するのを回避するには、今回のような曖昧で、核心部分を先送りした合意で手を打つしかなかったとみる。サモアは、今回の合意を、「賢明な路線」とブッシュ政権を評価しつつも、妥協と見返りに関する連鎖の詳細が合意で定義されていない以上、今後、非常に難しい問題を交渉していかなければならなくなると語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

「ブッシュ政権は、平壌がそう望むのなら、北朝鮮を改革・開放化へと向かわせるような道筋を築き、そのうえで、朝鮮半島の安全保障問題、ひいては北東アジアでの大国間関係のための枠組みをつくろうと、中国、日本、韓国、ロシアの4カ国との協調路線を試みている」。2月の6者協議での合意は、「こうした壮大な計画の序章にすぎない」と語るロバート・ゼーリック前国務副長官は、北朝鮮が開放路線を選択するかどうかは、はっきりとしないとしながらも、今回アメリカが描いた道筋は「金正日が改革と経済開放路線を推進していけば、北朝鮮がさまざまな機会を手にできるように設計されており」、これに北朝鮮への安全の保証、和平条約の締結を組み合わせれば、「改革・開放路線をとれば、体制の崩壊につながる」とみる平壌の危機感を緩和させて、北朝鮮の核問題に対処していく広範な枠組みにできると指摘した。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

CFRインタビュー
ブッシュ政権のイラク新路線と
二つのギャンブル

2007年1月号

リチャード・N・ハース 米外交問題評議会(CFR)会長

ブッシュ政権は、「イラクへの米軍増派という賭け」に打って出ただけでなく、「イラクのマリキ政権が大きな変貌を遂げ、シーア派主導の政府よりも、国民和解政府の実現を試みていくこと」に賭けている。イラク政府が国民和解を実現できるかどうかが今回のギャンブルを左右するもっとも重要なポイントとみなすリチャード・ハースは、「ブッシュ政権の賭けが実を結ぶように期待したいが、マリキ首相や彼の側近が、特定の宗派ではなく、イラク国家の指導者としてのアイデンティティーを意識しているようには思えない」と語る。米軍の増派でアメリカがイラクで成功する見込みを高められると大統領は考えているのかもしれないが、イラクからの撤退を検討せざるを得ない状況に陥るリスクも高めてしまったとみるハースは、有り体に言えば、米軍の増派決定など戦略とは呼び得ないし、米軍の増派を中心とする政策路線で、状況を改善できるとは考えられないと語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

アメリカ、イラク、 そして対テロ戦争

2007年1月号

リー・クアンユー シンガポール政府顧問相

イラク政策をめぐっては、シンガポール政府はブッシュ政権を手堅く支持してきたが、米軍がイラク軍、警察組織を解体し、すべてのバース党員をイラク政府から追放するに及び、私はアメリカのやり方に違和感を覚え始めた。これによって、政治的、社会的な空白がつくりだされるのではないかと懸念したからだ。自己統治という歴史も伝統もない国にあっては、自由で公正な選挙を実施することが、民主主義確立のための最初のステップになるわけではない。混乱のなかにあるとはいえ、イラク問題の解決に向けて決意をもって対応していけば、現在のイラク戦争へのネガティブな一般通念もいずれ覆されるかもしれない。ベトナム戦争同様に、それがそのまま歴史的評価につながるとは限らない。必要なのは、アメリカが広範な同盟関係をまとめて適切な姿勢を保つことだ。

CFRブリーフィング
イラクを自治地域に分けて統合を保て  
――米上院外交委員会での証言から

2007年1月号

レスリー・H・ゲルブ 米外交問題評議会(CFR)名誉会長

イラク内の各勢力間の相互不信感は強く、ともに利益を共有しているという認識は存在しない。当然、特定の集団が大きな力を持つ中央政府が「イラク全土」を安定的に支配できるようになることはあり得ない。とすれば、イラクが必要としているのは中央集権システムではなく、(各地域が踏み込んだ自治権を持つ)分権システムということになる。各地域の政府が立法、行政、治安の責任を負い、中央政府の役割は外交、国境防衛、通貨の管理、そして石油や天然ガスからの歳入の管理などに限定する。重要なポイントは、各地域の指導者が、自分たちの地域は自分たちで守るという意識を持ち、地域内の民衆の面倒をみるようになることだ。ここにおける最大の課題は、スンニ派の対総人口比に応じて石油からの歳入の20%を、今後、そして将来にわたって与えるという点での合意をいかに他の集団から取り付けるかだ。

イラクにおける宗派間抗争を沈静化させられるか。それは、民族・宗教的に多様なイラク社会をうまく統治できる国民和解政府の形成が進むかどうかに左右される。だが、専門家の多くは、各民族・宗派の利益をバランスよく促進する国民和解政府が近いうちにイラクに誕生する可能性は低いとみている。本来、国民和解の象徴とすることが意図されていたサダム・フセインの裁判と処刑が、逆に宗派間対立を煽りたててしまっているし、イラクの政治勢力は依然として石油の歳入、連邦制などの懸案をめぐって対立を打開できずにおり、スンニ派は、マリキ政権は「シーア派武装集団の言いなりで、結局のところ、テヘランの傀儡政権に過ぎない」とみている。国民和解を試み、スンニ派をイラクの権力分有合意に参加させない限り、今後も宗派間紛争による社会暴力は続くとみる専門家は多い。

議会の多数派となった民主党が、2国間貿易協定の批准を拒絶し、保護貿易路線を強化していくのではないかとの懸念が浮上している。事実、民主党議員のなかには、自由貿易合意に否定的な公約を掲げて当選した者もいるし、アメリカの労働者を守るために、途上国との自由貿易合意に労働基準、環境基準を盛り込むように圧力をかけることを示唆する有力者もいる。過小評価されたままの人民元レートをバックに、中国がアメリカに対する貿易上の優位を高めつつあるとみなす危機感も米議会では高まっている。山積する貿易問題に民主党議会はどう対処していくのか。

Page Top