1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

米国に関する論文

中国における米大学の挫折
―― 規制に屈した学問の自由

2016年9月号

ケント・ハリントン 元CIA(米中央情報局)アナリスト

中国に進出している外国の大学は20を超えるが、その半数以上がアメリカの大学と中国の大学のジョイントベンチャー(合弁大学)だ。中国の他の市場と同様に、中国の教育市場も大きなポテンシャルを秘めている。何十万もの中国人学生が外国の名門大学への留学を望んでいるだけでなく、南京のジョンズ・ホプキンス大学、上海のニューヨーク大学、昆山のデューク大学など、国内で受講できる米大学のプログラムへの参加を希望する学生も多い。だが、当局による言論の取り締まりが強化されており、米大学もその対象にされている。現地に進出した米大学側は、「中国キャンパスにおける言論活動はまったく自由だし、アメリカと同じ学問の自由が教授陣にも現地の学生にもあると主張している」。しかし、現実はそうではない。・・・

ドナルド・トランプの黙示録
―― アメリカ政治思想における終末思想

2016年9月号

アリソン・マックイーン スタンフォード大学准教授(政治学)

「もっとタフにスマートになり、早く行動を起こさなければ、この国は崩壊する」。トランプはこうした黙示録的メッセージを繰り返し、「自分なら、アメリカがハルマゲドンに向かっていくのを回避できるし、アメリカを再び偉大な国にできる」と主張してきた。意外にも、こうした終末論を口にするアメリカの政治家はトランプが初めてではない。リンカーンからジョージ・W・ブッシュまで、終末論的レトリックはアメリカの政治で何度も用いられてきた。実際、憂鬱な予測を示すことで、国難に市民を立ち向かわせようとした政治家は数多くいる。アメリカにおける黙示録的レトリックの伝統は、民衆を分断するのではなく、団結させることを意図してきた。トランプに特有なのは、黙示録的な予測に危険な誇大妄想をまとわせ、分断と排除を求めていることだ。

テロ情報の共有で変化する米欧関係
―― プライバシー保護とテロ対策の間

2016年9月号

ミシェル・フロノイ 元米国防次官(政策担当)
アダム・クレイン 米外交問題評議会国際関係フェロー

依然としてスノーデン事件の衝撃の余波が残るヨーロッパでも、アメリカのサーベイランス活動をどう受け止めるかについての政治ダイナミクスは変化し始めている。ドイツでは、自国の情報機関が外国の政府機関を諜報の対象にしていたことが明らかになったことで変化が生じた。ジハード主義者の攻撃に脅かされるベルギー、フランスその他のヨーロッパ諸国世論も、(プライバシー保護よりも)安全保障重視へと大きく傾斜し、情報活動への見方は変化している。すでにホワイトハウスは、ヨーロッパの同盟諸国の防衛と国境警備の強化のため、ヨーロッパの主要都市に対テロ専門家チームを派遣している。アメリカの次期政権は、ヨーロッパの情報活動に関する政治ダイナミクスの変化がもたらしている機会をうまく生かす必要がある。

追い込まれた中国にどう対応するか
―― 南シナ海の領有権問題

2016年9月号

ミラ・ラップ・ホッパー 新アメリカ安全保障センター(CNAS) シニアフェロー

仲裁裁判所は、南シナ海で中国が主張する領有権を全面的に退け、フィリピンの立場を支持した。しかしその結果、中国がこれまで以上に好戦的になれば、この勝利は多くの犠牲をもたらす割の合わないものになる。今後、南沙諸島に造成した人工島を中国が放棄したり、かつての状態に戻したりすることはあり得ない。北京は海域の実効支配を強めて、判断を無視する意向をもっと明確にしていくかもしれない。2013年に東シナ海に防空識別圏を設定したように、南シナ海についても同じ行動をみせるかもしれない。ワシントンとアジアのパートナー諸国が、危険な状況がさらに深刻化するのを回避するには、中国に対して判断に従うよう促しつつも、もはや身動きできないのではなく、そこに中国にとって建設的な選択肢が存在することを示す必要がある。・・・・

アメリカのイラン・ジレンマ
―― 和解と対立の間

2016年9月号

リュエル・マーク・ゲレチェット 民主主義防衛基金(FDD)シニアフェロー
レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)

ワシントンは、イランと和解することも対決することもできる。しかし、二兎を同時に追うことはできない。核合意を結び、しかも戦争疲れした米市民が中東から手を引きたいと考えている以上、対決路線をとるのはかなり難しい。一方、テヘランは依然としてイラク政府への影響力を行使している。イスラム国(ISIS)に対するイラクの戦略を指令し、イラク内のスンニ派に対する強硬策を促しているのは、イランの革命防衛隊だ。しかもシリアでは、依然としてバッシャール・アサドを支持している。ペルシア湾岸地域でもイランは策謀をめぐらしている。それでも核合意をめぐる譲歩のバランスをとるには、欧米はビジネス上の恩恵を確保する必要があると考えるのも無理はない。そして、核合意は崩壊したと判断しない限り、次期政権を含む今後の政権に経済制裁という選択肢はないも同然だ。・・・

貿易叩きという歴史的な間違い
―― なぜ真実が見えなくなって
しまったか

2016年9月号

ダグラス・アーウィン ダートマス大学経済学部教授

ドナルド・トランプは、「愚かな」交渉人がまとめたひどい貿易合意のせいで、中国、日本、メキシコがアメリカを貿易面で追い込んでいると訴えている。ヒラリー・クリントンでさえ、反対派に歩調を合わせざるを得なくなり、いまやTPPに反対であると明言している。現実には、貿易はアメリカに大きな利益をもたらしている。雇用喪失の85%以上はオートメーション化による生産性の向上が原因で、貿易が原因による雇用喪失は13%にすぎない。それでも、大統領候補たちは貿易を激しく批判し、それが歴史的な間違いであるにも関わらず、議会によるTPP批准まで危険にさらされている。現実にはアメリカは貿易上の問題には直面していない。問題は、かつて非熟練労働者が中間層の仲間入りを果たすことに道を開いた経済的なはしごが壊れてしまったことだ。

次期米大統領のための新国防戦略
―― 形骸化した軍事的優位を
再確立するには

2016年9月号

マック・ソーンベリー 米下院議員
アンドリュー・F・クレピネビッチ 米戦略評価センター会長

西太平洋、湾岸地域、ヨーロッパというアメリカが重要な利益をもつ地域で支配的な力をもつ覇権国が登場するのを阻止するというアメリカの戦略目的は今も変化していない。だが、これらの地域には中国、イラン、ロシアというリビジョニスト国家が存在するために、地域的覇権国出現の阻止、グローバルコモンズの擁護という二つの課題をクリアーしていくのは容易ではない。リビジョニスト国家は、長距離精密誘導兵器、対衛星兵器システム、サイバー兵器などを利用して接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を高め、すでにアメリカの優位を脅かしているからだ。グローバルコモンズも同様だ。海や空、宇宙空間だけでなく、サイバー空間も経済戦争やテロの舞台へと変化し、海中・海底の経済インフラが攻撃ターゲットにされるのも時間の問題だろう。

日韓の核開発をアメリカは容認すべきか
―― 核の傘から
「フレンドリーな拡散」へ

2016年9月号

ダグ・バンドウ ケイトー研究所シニアフェロー

日本や韓国が核武装を考えているとすれば、なぜワシントンが彼らの防衛と安全を保証しなければならないのかという考えが浮上してもおかしくない。一方で、ワシントンが日韓への防衛コミットメントを続けるかどうか迷い始めれば、両国を核武装へと向かわせるかもしれない。日本と韓国が中国や北朝鮮に対抗していくために、(核開発を通じて)独自の抑止力を構築することを望むのなら、ワシントンはそれを許容することも考えるべきだろう。日韓が核抑止力を手に入れれば、仮に紛争が起きても、アメリカが自動的に戦争に巻き込まれることもなくなり、ワシントンは自国の防衛に向けて戦力を再編できる。アメリカのグローバルな防衛上のコミットメントに必要とされるコストは、コミットメントから得られる利益を上回っている。ソウルと東京が北朝鮮に対抗する兵器を開発するのを決意するのであれば、それを許容することをワシントンが検討しないのは愚かだろう。

アメリカ後の中東における
イスラエルの立場
―― 紛争の中枢から安定の柱へ

2016年8月号

マーチン・クレーマー シャレム・カレッジ 学長

中東には巨大なパワーの空白が生じている。憶測を間違えた一連の行動をとった挙げ句、アメリカは中東から遠ざかろうとしている。オバマは同盟国へのコミットメントを減らす一方で、敵対勢力をなだめ、穏健化させることを通じて中東秩序の均衡を図ろうと考えていた。だが、伝統的な中東の同盟国がこの突然の戦略シフトを全面的に信用し、受け入れることはなかった。一方で、イランに対するアラブ諸国の懸念が、曖昧で決め手に欠ける和平プロセス以上に、中東におけるイスラエルとの存在を正常化する作用をし始めている。この流れが続けば、かつては紛争の中枢にあったイスラエルが地域的安定の柱とみなされるようになる可能性もある。

漂流する米・サウジ関係

2016年8月号

F・グレゴリー・ゴース テキサスA&M大学 行政大学院教授(国際関係)

戦後のアメリカとサウジの関係を支えてきた複数の支柱に亀裂が入り始めている。両国を「反ソ」で結束させた冷戦はとうの昔に終わっている。イラクのサダム・フセインが打倒されたことでペルシャ湾岸諸国への軍事的脅威も消失した。しかも、米国内のシェールオイルの増産によって、(中東石油への関心は相対的に薄れ) エネルギー自給という夢が再び取りざたされている。一方サウジは中東全域からイランの影響力を排除することを最優先課題に据え、中東政治で起きることすべてを、イランの勢力拡大というレンズで捉えている。当然、アメリカが重視するイスラム国対策にも力を入れようとしない。すでに「サウジとの同盟関係に価値はあるのか」という声もワシントンでは聞かれる。しかし中東が近い将来、安定化する見込みがない以上、リヤドとの緊密な関係を維持することで得られる恩恵を無視するのは愚かというしかない。・・・

Page Top