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米国に関する論文

「ディープフェイク」とポスト真実の時代
―― 偽情報に対処する方法はあるのか

2019年2月号

ロバート・チェズニー テキサス大学オースティン校 国際安全保障・法センター所長
ダニエル・シトロン メリーランド大学教授(法学)

民主社会は不快な真実を受け入れなくてはならない。ディープフェイクの脅威を克服するには、嘘と付き合う方法を学ぶ必要があるからだ。非常にリアルな出来栄えで、偽物を見破ることが難しいレベルにデジタル加工された音声や動画を意味する「ディープフェイク」の登場によって、自分が言ったことも、したこともないことを、そのようにみせかけることができる。改ざんされた音声や動画が、本物と見分けがつかずに、十分な説得力をもっていれば、そして、それが社会的・政治的にそして国際関係に悪用されればどうなるだろうか。十分な対策は存在しない。人々がプライベートなフィルターバブルに引きこもり、自分の考えに合うものだけを事実とみなす世界に転落しないようにしなければならない。民主社会はレジリエンス(打たれ強さと復元力)を身に付けるしかない状況へ向かっている。

自由貿易のパラドックス
―― 政治学と経済学の衝突

2019年2月号

アラン・ブラインダー プリンストン大学教授(経済学)

なぜ自由貿易のロジックは受け入れられないのか。たしかに、貿易の勝者が敗者の損失を埋め合わせても、それでも勝者の取り分は残される。しかし、歴代の米政権は、他国の政府同様に、この理屈に近づくようなことは何一つ試みてこなかった。利益と損失を合計すると、経済的には自由貿易を前向きに評価できるが、政治的にはそうではないことも理由の一つだろう。利益と損失はほぼ同じだが、経済的計算と政治的計算では重視するところが違うからだ。さらにエコノミストは人々が経済の何に価値を見いだしているかを、基本的に誤解しているかもしれない。消費者が安価な商品よりも実入りの良い雇用を望んでいるのなら、貿易に関する一般的理論で市民を説得することはできない。

リベラルな秩序・第4幕へ向けて
―― アメリカと国際主義の伝統

2019年2月号

ギデオン・ローズ フォーリン・アフェアーズ誌編集長

冷戦後、しばらくすると、欧米社会の多くの人が、秩序は自分にプラスに作用していないと反発し、「私腹を肥やすことに熱心なだけで、機能不全に陥っているエスタブリッシュメント」に舵取りを委ねる理由はないと考えるようになった。そこに協調よりも競争を、自由貿易よりも保護主義を、民主主義よりも権威主義を好ましいと考えるトランプが登場する。それでも、ウィルソンからFDR・トルーマン、そしてブッシュ・クリントンに受け継がれてきたリベラルな秩序は動いている。「自発的で、ルールに支配される国際協調が相互利益をもたらす可能性」についての認識は依然として存在する。秩序の第4局面を切り開くのは容易ではないが、そうできるし、問われているものが非常に大きいだけに、そうしなければならない。重要なのは、支配的影響力をもつ世界の大国が、勝利を目指すのではなく、世界を主導することに向けて誠実にコミットすることだ。

民主主義を救うには
―― 歪んだ米経済システムの是正と外交の再生を

2019年2月号

エリザベス・ウォーレン 米上院議員(マサチューセッツ州選出・民主党)

ワシントンはこの数十年で一握りのエリートにだけ恩恵をもたらす政策をとるようになった。これを批判し「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプの政策も、実際には「トランプファミリーファースト」で、中間層には最低限の配慮しかしていない。一方、中国では、習近平国家主席が権力基盤を固めて「偉大なる復興」を語り、国有企業が共産党幹部に巨万の富を与えている。ロシアのプーチン大統領のパワーも、彼に友好的なオリガークが運営する国営企業との複雑な関係によって支えられている。しかも、これがモデル化されて、トルコやハンガリーを含む各国へと拡散している。このままでは、アメリカを含む、民主社会も、政治腐敗と泥棒政治への道を歩み、民主主義とは名ばかりの国に転落していく恐れがある。流れを覆すには、一握りのエリートだけでなく、すべてのアメリカ人に恩恵をもたらす政策と外交が必要になる。

流れは米中二極体制へ
―― 不安定な平和の時代

2019年1月号

イェン・シュエトン(閻学通) 清華大学特別教授(国際関係論)

いまや問うべきは、米中二極体制の時代がやってくるのかどうかではなく、それがどのようなものになるかだ。米中二極体制によって、終末戦争の瀬戸際の世界が出現するわけではない。自由貿易を前提とするリベラルな経済秩序を重視しているだけに、今後の中国の外交政策は、積極性や攻撃性ではなく、慎重さを重視するようになるだろう。ほとんどの諸国は、問題ごとに米中どちらの超大国の側につくかを決める2トラックの外交政策を展開するようになり、これまでの多国間主義は終わりを迎える。欧米におけるナショナリスティクなポピュリズムと中国の国家主権へのこだわりが重なり合う環境では、リベラルな国際主義のシンボルだった政治的統合やグローバル統治の余地はほとんどなくなっていくはずだ。・・・

機会のはしごが社会と経済を救う
―― 教訓と訓練の「機会」と経済的開放性

2019年1月号

ケネス・F・シーブ スタンフォード大学教授(政治学)
マシュー・J・スローター ダートマス大学経営大学院教授(国際ビジネス)

グローバル化の反動に対処するには、すべてのアメリカ人が変化のなかで失った安定感と目的意識を取り戻すために必要なツールを提供する必要がある。そのためには、すべての市民がグローバル化の波に適応するための人的資本を得られるような、生涯にわたる「機会のはしご」を構築すべきだ。誕生から幼稚園までの間のさまざまな早期幼児教育に始まり、高校を卒業後に4年制大学に進学しなかった人たち全員に、その学費を政府が負担して2年間のコミュニティカレッジでの教育をオファーすべきだ。さらに、すでに社会に出ている高卒の労働者に職業訓練の生涯教育を与える必要もある。国境に壁を巡らしても解決策にはならない。アメリカは人々に機会を提供し、移民に開放的な国であり続けなければならない。

次の金融危機に備えよ
―― なぜ危機は繰り返されるのか

2019年1月号

カーメン・ラインハート ハーバード大学ケネディ・スクール 教授(国際金融システム)
ヴィンセント・ラインハート スタンディッシュ チーフ・エコノミスト

一般的に金融危機は特定の資産価値が暴落し始め、それに引きずられて他の資産の価値が下落することで始まる。広く経済で大きな役割を占めている限り、いかなる資産の暴落も危機のきっかけを作り出す。2007年の危機は、金融危機が「普通のリセッションよりもはるかに大きなダメージを引き起こし、ダメージからの回復にもより長い時間がかかること」をわれわれに改めて認識させただけでなく、「政府が迅速かつ決意に満ちた対応をみせれば非常に大きな違いをもたらせること」も示した。結局、金融メルトダウンがもたらす災難の背後には、貪欲、恐怖、歴史を忘れがちであるという重要な人的要因が存在する。あれほど衝撃的だった直近の金融危機が最後の金融危機にならない理由はここにある。

ポピュリズムとカトリック教会の分裂
―― リベラルな教皇フランシスコへの反発

2019年1月号

R・R・レノ ファースト・シングズ誌編集長

カトリック教会はいまや世俗政治の泥沼に引きずり込まれている。欧米諸国の政治を揺るがしている「エスタブリッシュメントに対するポピュリストの反乱」がカトリック教会にも影響を与えている。実際、教皇フランシスコは、カトリック教会を、「開放性」を支持する欧米の文化や政治エスタブリッシュメントの立場と一体化させている。結婚に関する教会のルール見直し、移民について教皇が示してきた見解は、どちらも欧米のアッパーミドルクラスのエリートの考え方と一致する。これに対する反動が教会内で起きている。欧米諸国の政治文化を揺るがしているポピュリズムが、いまや、カトリック教会も揺るがしている。

戦後秩序は衰退から終焉へ
―― 壊滅的シナリオを回避するには

2019年1月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

保護主義、ナショナリズム、ポピュリズムがさらに勢いをもち、民主主義は廃れていく。内戦や国家間紛争が頻発して常態化し、大国間のライバル関係も激化する。グローバルな課題に向けた国際協調も不可能になっていく。この描写に違和感を覚えないとすれば、現在の世界がこの方向に向かっているためだろう。但し、戦後秩序をもはや再生できないとしても、世界がシステミックリスクの瀬戸際にあるわけではない。それだけに、米中関係の破綻、ロシアとの衝突、中東での戦争、あるいは気候変動と、何がきっかけになるにせよ、それがシステミックな危機にならないようにしなければならない。世界が壊滅的な事態に遭遇するというシナリオが不可避でないことはグッドニュースだ。バッドニュースは、そうならないという確証が存在しないことだ。

対北朝鮮外交の破綻に備えよ
―― 「最大限の圧力」を復活させるには

2019年1月号

エリック・ブルーアー 新アメリカ安全保障センター 客員フェロー

「核・ミサイル実験の結果に十分に満足しており、今後は核兵器とミサイルの量産に焦点を合わせていく」。金正恩のこの発言が彼の真意なのかもしれない。しかし、すでに韓国と中国は経済制裁措置を緩め、トランプ自身、「北朝鮮の核問題は解決された」と発言している。つまり、外交路線が破綻した場合に、北朝鮮を締め上げるための国際的試みを復活させるのは非常に難しい環境にある。現状での平壌の外交が、経済制裁を緩和させ、自国の核の兵器庫を受け入れさせるための、いつも通りの策略に過ぎないのなら、経済制裁履行のスローダウンは金の思惑通りということになる。「北朝鮮を完全に破壊する」とトランプが恫喝策をとった時代、軍事攻撃の危険があった時代へ回帰していくのを懸念するのなら、適切なタイミングで、より大きな国際的圧力をかける路線へ移行していくことを今から考えておく必要がある。

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