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米国に関する論文

監視資本主義と暗黒の未来
―― ビッグテックとサーベイランスビジネス

2020年1月号

ポール・スター プリンストン大学 教授(社会学・公共政策)

「監視資本主義=サーベイランス・キャピタリズム」が台頭している。フェイスブックとグーグルが主導するこの産業は、バーチャル世界から現実世界へとサーベイランスの範囲を拡大し、個人の生活の内側に入り込んでいる。ユーザーデータの収集・分析から、ユーザーが「今かすぐ後、あるいはしばらく後にとる行動」を予測することへ流れは移行しつつある。しかも、予測を的中させるもっとも効率的な手法は、予測されている行動をとるように仕向けることだ。すでにフェイスブックは前例のない行動誘導の手法を確立している。中国の「社会信用システム」はインスツルメンタリアンパワー(技術的操作能力)と(政治的画一性を実現したい)国家の組み合わせだが、米企業はインスツルメンタルパワーと市場を抱き合わせるつもりかもしれない。

資本主義の衝突
―― 「民衆の資本主義」か「金権エリート資本主義」か

2020年1月号

ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学大学院 ストーンセンター シニアスカラー

グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力主義的資本主義」と「政治的資本主義」間の競争だろう。リベラルな資本主義が「民衆の資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処しない限り、欧米のシステムは、社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治的になっていくだろう。格差を是正し、民衆の資本主義への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。そうしない限り、政治的資本主義同様に、排他的な少数で構成される特権階級の家庭が、将来に向けて永遠にエリートを再生産していくようになる。

中東における全面戦争のリスク
―― 何が起きても不思議はない

2020年1月号

ロバート・マレー 国際危機グループ(ICG) プレジデント

中東のいかなる地域における衝突も中東全体を紛争に巻き込む引き金になる恐れがある。一つの危機をどうにか封じ込めても、それが無駄な努力になる危険が高まっているのはこのためだ。しかも、国家構造が弱く、非国家アクターが大きな力をもち、数多くの大きな変化が同時多発的に進行している。イスラエルと敵対勢力、イランとサウジ、そしてスンニ派の内部分裂が存在し、これらが交差するだけでなく、ローカルな対立と絡み合っている。「サウジに味方をすることは、(イエメンの)フーシに反対するということであり、それはイランを敵に回すことを意味する」。こうしたリンケージが入り乱れている。ワシントンが中東から撤退するという戦略的選択をしようがしまいが、結局、アメリカはほぼ確実に紛争に巻き込まれていく。

グローバル外交の新しい見取り図
―― アメリカの後退と中国の前進

2020年1月号

ボニー・ブレー
豪ローウィー研究所 リサーチフェロー

かつて鄧小平が諭した「韜光養晦(才能を隠して、力を蓄える)」への関心を失ったかのように、北京はグローバルパワーの行使に前向きになるにつれて、外交への投資に力を入れるようになった。一方、ワシントンは内向きになっている。中国の外交ネットワークは広がりだけでなく、奥行きも深くなっている。北京とワシントンは、大使館の数ではほぼ同等だが、領事館の数でみると、アメリカが88なのに対して、中国のそれは96に達している。大使館が政治力を反映するのに対して、領事館の数は経済力を映し出す。中国に限らず、ブレグジットに揺れるアイルランドであれ、地域環境の変化に対応しようとする日本であれ、ある国がどこに外交ネットワークを拡大するかの選択は明確な意図に導かれている。

温暖化への適応か国の消滅か
―― 気候変動が引き起こす大災害の衝撃に備えよ

2020年1月号

アリス・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(気候変動政策担当)
レオナルド・マルティネス=ディアス 世界資源研究所持続可能な金融センターの グローバルディレクター

アメリカの場合、社会・経済インフラは歴史的水準の異常気象に耐えられるように設計されているが、いかに手を尽くしても、今後の気候変動と災害の衝撃が過去のそれを上回るようになるのは避けられない。川や海に近く、住宅地として人気があるとしても、危険地帯での住宅建設を止めさせ、コミュニティ全体の移住にも備えるべきだろう。災害後の復興策もこれまでのやり方では財政がもたない。生き残るには、これまでのインフラ、データシステム、そして災害予算政策を抜本的に刷新する必要がある。復旧コストのほとんどを借入金で賄うやり方は、自然災害の頻度と破壊度が増している以上、深刻な状況にある財政をさらに悪化させる。災害に対するレジリエンス強化に向けた投資が必要だし、気候変動リスクをわれわれはもっと正面から捉えなければならない。

もう逃げ場がない
―― サバイバル移民とラテンアメリカの悪夢

2019年12月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(国際関係論)

2015年にヨーロッパが経験し、現在ラテンアメリカで起きている危機は、政治難民や経済難民の流出によるものではない。人々は「生き残るための移住(survival migration)」を試みている。ほとんどの人は、政治的迫害そのものではなく、ハイパーインフレーション、略奪行為、食糧不足などの「劣悪な政治状況がもたらした経済的帰結」から逃れることを目的に移動している。問題は、1951年の国連による難民の定義、つまり、ソビエトの反体制活動家を念頭に置いてまとめられた定義では、この現状に対処できないことだ。国が破綻したか脆弱なために、生活が耐え難いものになってきたがゆえに彼らは母国を後にしている。統治の破綻、社会暴力、経済的窮乏などが大きな理由なのだ。これまでの難民や移民の定義を見直して、これまで難民にしか与えられなかった支援の一部を、「サバイバル移民」にも提供できるようにしなければならない。

粉砕されたクルド人の夢
―― エルドアンとトランプの誤算

2019年12月号

アンリ・J・バーキー リーハイ大学教授(国際関係論)

トランプは(米軍のシリアからの撤退という)クルド人に対する裏切り行為への米社会の反発を過小評価し、エルドアンは、トルコの残忍な侵攻作戦に対する国際社会の反発を軽くみていたようだ。アメリカの議会、軍、官僚、メディアは「(イスラム国との戦いの中枢を担った)同盟勢力であるシリアのクルド人をなぜあっさりと見限ったのか」と困惑した。しかも、クルド人が支配してきた地域に収容されている1万2000人のイスラム国戦闘員と4万人の家族が収容施設から外へ出る恐れもある。カリフ国家を打倒するという数年に及んだ困難な試みの成果を、(米軍を撤退させ、トルコのシリア侵攻を認めたことで)トランプはあっさりと台無しにしたのかもしれない。いまやトルコと欧米の関係だけでなく、トルコの国内政治も、トルコと中東におけるクルド人との関係も不安定化している。

失われた株式市場のバランス
―― なぜ市場操作と不正行為がまかり通っているか

2019年12月号

フェリクス・サルモン AXIOS チーフ・フィナンシャルコレスポンデント

株式市場は「権力関係によって支配される政治的制度」であり、その構造とルールを好ましいとみなすかどうかは、プレイヤー毎に違う。しかし、金融機関が並外れた強大な権力と影響力をもっていれば、市場構造は彼らの有利なものへと歪められる。これがグローバル株式市場で起きていることだ。巨大銀行と証券会社が彼らの目的に沿うように市場を翻弄している。その最たるものが超高速取引(HFT)だろう。数十億ドルを株式市場から出し入れすることを望む大口の投資家にとって、大規模な資金を、彼らにとって不利な方向に株価を変動させることなく、動かすのは難しい。こうして、有利な価格のままで取引を実施するために超高速取引が駆使される。「株式市場は操作され、不正がはびこっている」と言われても仕方のない状態にある。実質的な監督が絶対的に不足している。不正行為が実際に行われていることは誰の目にも明らかだ。

貿易戦争の本当の目的
―― プラスサムへの思考転換を

2019年11月号

ウェイジャン・シャン PAG最高経営責任者

米経済が力を失ったときに、貿易戦争はターニングポイントを迎えるかもしれないが、基本的に米中競争はトランプの時代を超えて続く。この衝突はシステミックだからだ。米通商代表は関税政策の目的は「ビジネスの仕方を中国が見直すのを促すことにある」と語っている。米戦略の中枢には「政府の民間経済への関与という中国のシステムはアメリカにとって脅威である」という認識が存在する。だが、中国モデルなど存在しない。問題は、むしろ、中国政府が管理する(公的経済)部門の優遇策にある。アメリカの交渉者は、中国側に国有経済部門をもっとそぎ落とすように求めるべきだ。さらに、ゼロサム志向から離れ、貿易戦争によって米中経済が切り離されるリスクを回避することが、両国にとっての最善の利益になる。米中経済を切り離そうとするいかなる試みも、米中双方そして世界にとって壊滅的な結果をもたらすことになる。

国際政治と指導者のキャラクター
―― 政治的潮流に占める指導者の役割

2019年11月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授
ケネス・M・ポラック アメリカンエンタープライズ研究所 レジデントスカラー

いまやわれわれの世界を(テクノロジーなどの)非人間的な力が変化させ、再定義しつつあるかにみえるだけに、国際政治の流れにおける指導者(の役割)を軽くみる(構造的現実主義の)見方も正当化できるのかもしれない。構造的な要因と技術的な変化が各国の行動を変化させているのは間違いない。しかし、現在でも、指導者たちは、国際政治の潮流に乗るか、その方向を制御するか、流れに抵抗するかを判断できる。そして、その判断は、個々の指導者のキャラクターを理解しない限り、わからない。政治と外交における指導者個人の役割にもっと配慮すれば、国際関係の単純なモデルで想定されるよりも政治がはるかに不確実で制約が多いことがわかるはずだ。

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