「飢餓、貧困、絶望、カオスに抗して」
一九四七年ハーバード大学演説
1997年7月号

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1997年7月号
1997年7月号
朝鮮半島情勢を「民主主義対共産主義」という枠組みや、米韓同盟対北朝鮮という図式で捉えるのは大きな間違いである。韓国は完全な民主主義国家ではないし、米国と韓国が一枚岩というわけでもないからだ。カミングスの著作が指摘するとおり、冷戦期の「韓国の独裁的軍事政権と米軍の共謀関係」を忘れぬ韓国民衆の根強い「反米主義」がそこに存在するのを忘れてはならない。事実、「光州事件に関して米国が無実である」という米政府の公式見解を鵜呑みにする韓国人はほとんどいない。終戦以来の韓国の擁護者としての米国の自己イメージと、韓国での反米主義という乖離した現実の認識を怠り、歴史の重みを曖昧なままに放置すれば、たとえ統一が達成されても、米国への猜疑心をもつ朝鮮半島は、平和で民主的になるどころか、中国を中心とする東アジアの戦略ゲームに巻き込まれかねない。
1997年7月号
「正統的共産主義」がすでに崩壊・解体しているにもかかわらず、ロシアと中国はいまだに新たなシステムを構築できずにいる。そのため両国では、国内ではナショナリズムが幅を効かせ、対外的には自国の主権や地位に過度に敏感な外交路線が採用され、こうした環境を背景に、「ウクライナと台湾が、世界でもっとも危険なスポット」として浮上してきている。大切なのは、国際社会が現状の変革に反対していることを明確に伝え、彼らの現状変革の試みを今後も先送りし続けるように仕向け、すでに定着しつつあるポスト冷戦秩序のなかに、この二つの国家をゆっくりと組み込んで行くことである。いまわれわれに必要なのは、厄介で他の存在を脅かすようなロシアと中国の行動パターンが永続的ではないことを認識した上での、「忍耐強さ」である。
1997年1月号
通貨市場の混乱やそれが引き起こす高金利に象徴されるような不確実性は、投資にとって疫病神のような存在である。そして、これらの不確実性がもたらす失業を減らしたり、さらには財政拡大を通じて保護主義圧力を軽減したりという試みに素早く懲罰を加えるのも、(これらの諸問題を作り出した張本人である)通貨市場である。自由貿易を維持しつつ、この悪循環を断ちきり、なおかつ世界の成長を再び燃え立たせるには、「金融市場を規制してそのスピードと力を削減する必要がある」。低い実質金利、長期的視野に立った投資、投機の減少、そして、実質投資と成長の増大を目的に、ドル、円、マルクの価値を安定的に維持することを中軸とする新たなブレトンウッズ体制を構築し、金融市場を規制する新たな枠組みをただちに導入する必要がある。さもなければ、「外貨を稼ぐのが重要なら、さっさと輸入を制限しろ」という悪魔のささやきが再び世界を席巻してしまうだろう。
1999年5月号
アメリカは「リーダーシップ」という言葉をはき違えている。アメリカは、「俺のやっているようにではなく、俺の言うとおりにやれ」と言っているのと同じで、これではリーダー失格である。新興国が米国製品を買ったり、米市場に商品を供給することでアメリカのパワーが拡大するように、国際的なパワーを維持していくにはそれを拡散させる必要がある。強制、転覆工作、挑発は、リーダーのやることではない。相手の声を聞き、説得し、敬意を示すことなしに、だれも他国を導くことなどできない。リーダーはまず相手を理解しなければならず、彼らがより崇高な目的のために喜んで活動するようそのエネルギーを結集させるだけの力量を持つ必要がある。アメリカは現在、世界で最も強大な国家だが、そのようなパワーは他国の協調を引きだして初めて維持できる。
1995年2月号
原爆が戦争終結の時期を早めたという議論の根拠はとぼしく、「たとえ原子爆弾を投下していなくても、ソビエトの参戦によって、十一月前には日本は降伏していたかもしれない」。加えて、米国の指導者のなかで、一九四五年の春から夏の段階において、「五十万の米国人(将兵)の命を救うために」原爆を使用すべきだと考えていた者など一人としていなかった。広島や長崎への原爆投下を可能にしたのは、二十億ドルもの資金を投入したプロジェクトのもつ政治的・機構的勢い、そして、第二次大戦の熾烈な戦闘を通じて、(市民を戦闘行為に巻き込まないという)旧来の道徳観が崩れてしまっていたからにほかならない。この道徳観の衰退こそ、後における核兵器による恐怖の時代の背景を提供したのである。ドイツや日本の軍国主義者たちだけでなく、なぜ、米国を含む他の諸国の道徳観までもがかくも荒廃していたのか、この点にこそわれわれが歴史の教訓として学ぶべきテーマが存在する。
1994年9月号
1994年9月号
1994年9月号