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中東に関する論文

CFRブリーフィング
イラクを自治地域に分けて統合を保て  
――米上院外交委員会での証言から

2007年1月号

レスリー・H・ゲルブ 米外交問題評議会(CFR)名誉会長

イラク内の各勢力間の相互不信感は強く、ともに利益を共有しているという認識は存在しない。当然、特定の集団が大きな力を持つ中央政府が「イラク全土」を安定的に支配できるようになることはあり得ない。とすれば、イラクが必要としているのは中央集権システムではなく、(各地域が踏み込んだ自治権を持つ)分権システムということになる。各地域の政府が立法、行政、治安の責任を負い、中央政府の役割は外交、国境防衛、通貨の管理、そして石油や天然ガスからの歳入の管理などに限定する。重要なポイントは、各地域の指導者が、自分たちの地域は自分たちで守るという意識を持ち、地域内の民衆の面倒をみるようになることだ。ここにおける最大の課題は、スンニ派の対総人口比に応じて石油からの歳入の20%を、今後、そして将来にわたって与えるという点での合意をいかに他の集団から取り付けるかだ。

イラクにおける宗派間抗争を沈静化させられるか。それは、民族・宗教的に多様なイラク社会をうまく統治できる国民和解政府の形成が進むかどうかに左右される。だが、専門家の多くは、各民族・宗派の利益をバランスよく促進する国民和解政府が近いうちにイラクに誕生する可能性は低いとみている。本来、国民和解の象徴とすることが意図されていたサダム・フセインの裁判と処刑が、逆に宗派間対立を煽りたててしまっているし、イラクの政治勢力は依然として石油の歳入、連邦制などの懸案をめぐって対立を打開できずにおり、スンニ派は、マリキ政権は「シーア派武装集団の言いなりで、結局のところ、テヘランの傀儡政権に過ぎない」とみている。国民和解を試み、スンニ派をイラクの権力分有合意に参加させない限り、今後も宗派間紛争による社会暴力は続くとみる専門家は多い。

イランとの選択的パートナーシップを
――新しい中東の現実をふまえた問題管理策を

2007年1月号

ゲーリー・シック コロンビア大学ガルフ2000プロジェクト エグゼクティブ・ディレクター

アメリカとイランは、石油資源を持つペルシャ湾地域における重要なプレーヤーであり、両国の関係がどのようになるかでこの地域の命運が左右される。イランの台頭と強大化、出口の見えないイラクの混迷、そして姿を現しつつあるシーア派の三日月地帯に特徴づけられる新しい中東に対処していくにはどうすればよいのか。重要なのは、イラン問題は当面解決できず、管理していくしかないことを認識することだとレイ・タキーは言う。変化し続けるさまざまな問題をめぐって、アメリカは、イランとの選択的パートナーシップを構築する必要があるし、イランを世界経済と地域安全保障の枠組みに参加させれば、アメリカは共通の懸念についてイランと協力していく基盤を築くことができる、と同氏は指摘している。

いまこそ、包括的中東和平を試みよ

2007年1月号

エドワード・P・ジェレジアン 元駐イスラエル米大使

アラブ・イスラエル紛争に始まり、イラクの混迷、イラン問題、中東地域全域での政治・経済改革の必要性、過激主義、そしてテロリズムにいたるまでの、中東における主要な問題のすべては、不可分に結びついている。一部の問題の管理を試みても、この地域が抱える一連の問題を解決することはできない。アラブ・イスラエル紛争の平和的な解決と、中東全域での政治・経済改革を促してイスラム世界の穏健派を助けることをアメリカの政策目標に据え、包括的交渉戦略をとる以外に手はない。いま求められているのは、中東の平和構築に関与していくという政治的意志である。

感情の衝突
―― 恐れ、屈辱、希望の文化と新世界秩序

2007年1月号

ドミニク・モイジ フランス国際関係研究所上席顧問

西洋世界は「恐れの文化」に揺れ、アラブ・イスラム世界は「屈辱の文化」にとらわれ、アジア地域の多くは「希望の文化」で覆われている。アメリカとヨーロッパは、イスラム過激派テロを前に恐れの文化を共有しながらも分裂し、一方、イスラム世界の屈辱の文化は、イスラム過激派の思想を中心に西洋に対する「憎しみの文化」へと姿を変えつつある。かたや、さまざまな問題を抱えているとはいえ、中国、インドを中心とするアジア地域の指導者と民衆は、西洋とイスラムの「感情の衝突」をよそに、今後に向けた期待を持っており、経済成長が続く限り、アジアでは希望の文化が維持されるだろう。恐れの文化、屈辱の文化、そして希望の文化のダイナミクスと相互作用が、今後長期的に世界を形づくっていくことになるだろう。

「イラン対イスラエル」へと変化した中東紛争の構図

2006年12月号

ゼーブ・シーフ ハーレツ紙記者

ヒズボラが2000年以降、イスラエルの都市センターを脅かす恐れのあるロケットを備蓄していることを察知しながらも、イスラエルはこれまで攻撃を慎んできた。そのイスラエルが、なぜ今回ヒズボラとの紛争の道を選んだのか。それは、ヒズボラとハマスの連帯、イランとヒズボラの連帯を早急に切り崩す必要があると判断したからだ。シリアがロケットをヒズボラに提供し続けていたにもかかわらず、「ダマスカスがイスラエルの攻撃によって危機にさらされることはない」とイスラエルが表明したのも、シリアとの戦端を同時に開くことを避け、シリアを助けるという口実でイランが介入してくるのを阻止したかったからだ。いまや中東紛争の構図は「イランVS.イスラエル」へとシフトしている。イスラエルは、パレスチナ問題をめぐる政治的妥協を試み、来るべきイランとの衝突に備えた政治環境の整備に努める必要がある。

CFRブリーフィング
北朝鮮経済制裁とイランの核問題の行方

2006年11月号

ライオネル・ビーナー  CFR スタッフライター 

今後、北朝鮮に対する厳格な制裁措置が間違いなく履行されていけば、イランも考えを改めるかもしれないが、現実にそうなるとは思えないし、中国とロシアが、イランに対して強硬な路線へとシフトするとも考えにくい。むしろイランの交渉上の立場は今後強まっていくと考える専門家は多い。北朝鮮は核不拡散条約(NPT)から離脱し、公然と核開発の意図を表明し、プルトニウムの再処理を通じた核分裂物質の生産を試みていたが、イランの場合、ウラン濃縮による核分裂物質の生産を試みているとはいえ、今もNPTに加盟しており、核兵器の開発ではなく、核の平和利用を目指していると繰り返し表明している。ブッシュ政権の高官のなかには、イランのような核開発の初期段階にある相手には、外交的に対処したほうが成果を期待できると考える者もいる。

新しい中東
――アメリカの時代の終わりとイランの台頭

2006年11月号

リチャード・N・ハース 米外交問題評議会(CFR)会長

第1次湾岸戦争が中東におけるアメリカの時代を開いたのに対して、ワシントンが自ら戦争の道を選択した第2次湾岸戦争は、中東におけるアメリカの時代を唐突に終わりへと向かわせた。次なる中東秩序では、外部勢力の影響力は穏当なレベルにとどまり、現地の勢力、つまりイランが大きな力を持つことになる。イラクに対してだけでなく、ハマスとヒズボラに対しても大きな影響力を持つイランは、自らのイメージ通りに中東をつくり替えようとする野心と、その目的を実現するだけの力を持っている。「平和で繁栄し、民主的なヨーロッパのような地域へと中東を生まれ変わらせる」というビジョンが実現されることはもうあり得ない。より可能性が高いのは、アメリカと世界、そして自分の地域を大いに苦しめるような「新しい中東」が誕生することだ。

核拡散後の世界

2006年10月号

スティーブン・ピーター・ローゼン ハーバード大学・ジョン・オリン戦略研究所所長

イランが弾道ミサイルで中東全域を射程に収め、アメリカやヨーロッパに対しても(船舶その他の方法で)核攻撃を行う力を得る。サウジアラビアとトルコも、恐怖、あるいはライバル意識に突き動かされて、核武装する。アジアでも、中国、インド、北朝鮮、パキスタン、ロシアという核保有国に加えて、日本と台湾がアジアの核保有国の仲間入りをする可能性もある。仮に現実がこのように推移するとしたら、この新しい世界における戦略的な流れはどのようなものになるだろうか。核大国の一方で、数多くの核小国が共存するようになれば、冷戦期の抑止理論、軍備管理論は陳腐化する。

イスラエルの新戦略とは何か
――占領地撤退戦略の真意

2006年8月

バリー・ルービン/学際研究所・国際関係グローバルリサーチセンター所長

占領地からの撤退に反対し、占領地はいずれ取引材料になるという議論に対して、シャロンは「取引相手がいないのに、取引材料を持っている価値がどこにあるのか」と反論した。占領地からの撤退と防護壁に即した防衛ラインの強化というイスラエルの新路線について、シャロンの後継を担うオルメルトは次のように述べている。分離壁の外側にある入植地は最終的には解体され、これら入植地の住民は「イスラエルの支配下にある入植地ブロックにまとめられる。……それ以外の占領地にイスラエルのプレゼンスはなく、これらの地域が将来のパレスチナ国家の領土となる」。イスラエルは、1967年以前の境界線に極めて近い境界線を引こうとしている。

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