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中東に関する論文

イランへの軍事攻撃か、 核武装と核戦争のリスクを受け入れるか

2011年12月号

エリック・S・エデルマン 元米国防次官
アンドリュー・F・クレピネビッチ 米戦略予算分析センター会長
エヴァン・ブラデン・モントゴメリー 米戦略予算分析センター リサーチフェ

核分裂の連鎖を引き起こす中性子発生装置など、核兵器生産に必要な、さまざまなパーツの生産をイランが試みていたことが今回のIAEAリポートで明らかになった。すでにテヘランはウラン濃縮を進め、兵器級ウランを生産できる低濃縮ウランの備蓄を増やしている。つまり、IAEAの分析が正しいとすれば、イランは数カ月で核兵器を生産できるようになる。仮にイランが核武装して中東が核時代に突入すれば、そこに出現する核秩序は非常に不安定なものになる。(イランが数発の核弾頭を獲得しても、イスラエルは100―200の核弾頭をすでに保有しており)こうした核戦力の規模の違いゆえに、何らかの危機が起きれば、双方は相手に先制攻撃をかける大きなインセンティブをもつようになるからだ。・・・アメリカは程なく、イランの核武装化を阻むために軍事力を行使すべきか、それとも、核武装したイランと地域的核戦争というリスクを受け入れるかという困難な選択に直面することになる。

アラブ世界では、中東和平プロセスへのヨーロッパの介入を求める声が高まっており、ヨーロッパも和平プロセスへの介入に前向きだ。問題はEU(欧州連合)にもメンバー国にもその役割を果たす力がないことだ。中東和平に関する限り、ヨーロッパは常にアメリカの脇役に甘んじるしかない。和平調停をめぐってアメリカと競い合うことへのこだわりを捨て、むしろ、ヨーロッパにふさわしい役割に特化すべきだろう。それは、パレスチナの国家建設を支援し、イスラエルとパレスチナの起業家を交流させる既存のプロジェクトを支援することに他ならない。EUは新興国に対して、パレスチナ国家支援の道筋を示すモデル国家の役割を果たすこともできる。また、和平交渉プロセスではなく国家建設支援に焦点を絞れば、ヨーロッパはアメリカとの間で緊張が生じるリスクを排除できるだけでなく、EU内部の駆け引きに煩わされることもなくなる。もっとも重要なのは、このアプローチによってEUがイスラエル、パレスチナとの関係の再定義を実現できることだ。

エジプトの政治と外交を変えるムスリム同胞団の正体
―― その圧倒的存在感の秘密

2011年11月号

エリック・トラガー ワシントン近東政策研究所フェロー

ムスリム同胞団ほど、忠実な支援者ネットワークをもつ組織はエジプト内に存在しない。同胞団はエジプトでもっとも規律ある政治運動であり、支持者を動員するという点では圧倒的な統率力をもっている。秋に選挙を控えるエジプトにとってこれは何を意味するだろうか。ムバラク体制の打倒を目指してタハリール広場に集結した若者たちは、すでにほとんど見分けがつかない12前後の政治集団へと分裂している。旧体制の政権与党だった国民民主党(NDP)もすでに非合法とされている。つまり、2011年秋の選挙で、同胞団が議席の多くを独占する可能性は非常に高く、しかも、同胞団は組織的支援を提供することを条件に、独立系の特定候補の出馬を促し、取り込みを図っている。いずれ権力を手にするであろう同胞団はアメリカの宿敵であるイランとの関係を改善し、アメリカ外交の大きな成果であるエジプト・イスラエル間の和平合意(キャンプデービット合意)を葬り去りたいと考えている。その対策を考えるには、先ず同胞団の本質を理解する必要がある。

エジプトはどこへ向かっているのか

2011年10月号

フランク・G・ウィズナー   AIG 渉外担当副会長

エジプト軍は政治から一定の距離をとり、選挙を経て組織される議会が支える代議政府にバトンを渡し、憲法の起草を委ねたいと考えている。「今後も行政上の権限を維持したいとは軍は考えていない」と私は確信している。もちろん、国家安全保障領域については、軍の意見が尊重されることを望んでいるはずだ。・・・私は、エジプトでの論争がどのように展開し、選挙プロセス、移行期のリーダーシップがどのようになろうとも、エジプトは独自の判断を下し、時間はかかるとしても再び安定すると考えている。もちろん、それがどのような安定になるかは今後をみなければわからない。だが、エジプトは本質的に安定した国家であり、数千年におよぶ社会の安定という歴史的な支えを持っている。

カダフィ後のリビア
―― 選挙を急げば再び内戦になる

2011年10月号

ダウン・ブランカティ   ワシントン大学セントルイス校助教授(政治学)
ジャック・スナイダー   コロンビア大学教授(国際関係論)

リビア国民評議会(NTC)のムスタファ・アブドルジャリル議長は、18カ月以内に新憲法を制定し、選挙を実施すべきだと表明している。だが、近代的国家制度の存在しないリビアでかくも早い段階で選挙を実施するのはどうみても無理がある。早期に選挙に踏み切れば、内戦へと時計の針を逆戻しにする可能性が大きい。国際社会が平和維持軍を現地に送り込み、武装勢力の動員・武装解除を進め、信頼できる権力分有合意と近代的な政治制度の構築を支援するのなら、早期の選挙実施に伴うリスクを大きく抑え込めるかもしれない。だが、国際社会が積極的に現地に介入するとは考えにくいし、制度が整備されておらず、武装勢力が数多く存在し、政治腐敗が蔓延するリビアでこの条件を満たすのは容易ではない。

アラブの春の進展を阻む石油の呪縛

2011年10月号

マイケル・L・ロス カリフォルニア大学ロサンゼルス校 政治学教授

石油資源の国有化によって産油国政府は資金力を持つようになり、かつてなく強大なパワーを手に入れた。圧倒的な資産と経済パワーが政治家の手に移り、中東地域の支配者たちは公共サービスを向上させ、民衆をなだめるための社会プログラムのために石油資産の一部を使用するとともに、その多くを自らの富と権力のために用いた。リビアのカダフィはその具体例だ。仮に豊富な石油資源を持つ中東の独裁者が選挙で選出された指導者に置き換えられたとしても、権威主義が復活する不安はぬぐいきれない。中東諸国の独裁者と王族は石油マネーを利用して体制の支援者だけでなく、潜在的な反体制派もカバーする巨大なパトロンネットワークを形成しているからだ。その結果、独立系の市民社会集団が社会に根を張るのが構造的に難しくなっている。

リビアの安定を 左右する原油生産の再開

2011年10月号

エドワード・モース シティグループ グローバルコモディティ研究担当マネージングディレクター、 エリック・G・リー シティグループ リサーチ・アナリスト

カダフィ時代のリビアでは、原油輸出からの歳入が輸出利益のほぼすべてだったし、金額でみればGDPの4分の1にも達していた。つまり、国際社会がリビアの外国資産の凍結を解除しても、石油の歳入がなければ、新政府は社会サービスを提供することも、傷ついたインフラを再建することも思うに任せないはずだ。そして、いつ原油生産を再開できるかは、カダフィ後の政治が安定するかどうかに左右される。全般的にみれば、考えられているよりも早く、生産は再開されるだろう。だが、紛争前と同じレベルの原油を生産できるようになるには12-18カ月はかかる。すべては、NTC(国民評議会)が石油からの収益を適切に管理し、正統性を確立できるかどうかに左右される。

CFRインタビュー
なぜ、パレスチナは国連に活路を求めたのか

2011年9月号

エドワード・デレジアン ジェームズベーカー公共政策研究所ディレクター

パレスチナは国連安保理、あるいは総会において国家として承認を取り付けることで、イスラエルと同じ交渉上の立場を手に入れたいと考えているようだ。これによって(エルサレムの帰属、パレスチナ難民の帰還権、ユダヤ人入植地、国境画定など)最終地位問題を前倒しして交渉できるようになる。・・・パレスチナが今回のような行動に出たのは、イスラエルの入植地問題(住宅建設)が(イスラエルとパレスチナ間だけでなく、アメリカとイスラエル間の)大きな対立の争点となったことで、ワシントンの路線が行き詰まってしまい、交渉の進展が望めなくなったためだ。・・・・

ドローン兵器と実体なき戦争

2011年8月号

ピーター・ベルゲン
ニューアメリカン・ファウンデーション ディレクター
キャサリン・タイデマン
ニューアメリカン・ファウンデーション リサーチフェロー

ワシントンの政治・軍事指導者たちは、ドローン(無人飛行機による)攻撃プログラムは対ゲリラ戦略において大きな成功を収めていると考えており、攻撃の巻き添えになって死亡した民間人も2008年5月からの2年間で30人程度だと主張している。だが、パキスタン人の多くは、ドローン攻撃によって多くの民間人が犠牲になっていると考えている。パキスタンの部族地域で暮らす人々の75%が「アメリカの軍事ターゲットに対する自爆テロは正当化される」と考えているのも、こうした現地での認識と無関係ではないだろう。一方、パキスタン政府は、ドローン攻撃によって自分たちの敵であるパキスタン・タリバーンの指導者も殺害されているために、アメリカによる攻撃を黙認している。この複雑な現状の透明性を高める必要がある。部族地域の武装勢力に対するドローン攻撃がアメリカとパキスタン双方の利益であることをアピールし、ドローン攻撃をめぐるパキスタン軍の役割を増大させるべきだ。パキスタンの空で戦争を始めたのはワシントンだったかもしれないが、イスラマバードの協力なしでは、この作戦を完了することはできないのだから。

原油価格大変動の時代へ
――生産調整能力を失ったサウジアラビア

2011年7月号

ロバート・マクナリー 元国家安全保障会議国際エネルギー担当 シニアディレクター
マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー担当 シニア・フェロー

今後、原油価格のボラティリティ(乱高下)は当面続き、その悪影響から逃れる方法はほとんど存在しない。すでにサウジの生産調整能力は消失しており、それが回復する見込みもないからだ。新興市場の原油需要が急増する一方で非OPEC産油国の生産が伸びなかったために、他の産油国同様に市場の需要を満たすか、価格調整のために原油備蓄をするかの決断を迫られたサウジは、前者の道を選び、結局、備蓄を使い切り、生産調整能力を失ってしまった。こうしてサウジは「原油市場の中央銀行」の役割を失い、世界は、2007年以降の原油価格の乱高下を経験することになる。サウジの生産調整能力が回復する見込みは乏しく、不安定な現状が当面続くと考えられるだけに、各国の企業、中央銀行、そして外交担当者は、地図のない世界での舵取りを強いられることになる。しかも、原油市場には非常に大きな経済的、地政学的帰結を伴いかねない、嵐が吹き荒れている。投資が不足しているし、産油国とシーレーンの不安定化に市場と経済が敏感に反応するようになり、リセッションのリスクも再び高まっている。

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