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中東に関する論文

CFR Meeting
サウジはアラブの春とイラン問題をどうとらえているか

2012年3月号

グレゴリー・ゴース/ バーモント大学教授

国内の反体制派がイデオロギー、宗派、民族などの社会集団の垣根を越えて、体制を倒すという目的にむけて連帯を組織できたかどうか。これが、アラブの春によって中東で体制が倒された国とそうでない国を分けた重要なポイントだ。サウジはどの集団をどの皇太子が担当するかを決めることで、ビジネスコミュニティ、部族社会その他とのネットワークを巧みに築き、これらの集団を政治的に去勢してきた。これが、サウジが嵐を乗り切れた理由だろう。一方、中東での宗派対立が高まれば、アルカイダのような、スンニ派の過激勢力が勢いづくだけで、サウジのためにもならない。だが、すでに宗派対立の構図で中東政治が動きだし、アラブ対ペルシャの対立図式が描かれつつある。イランが明確に核兵器の開発に乗り出すのなら、サウジも核を獲得すべきだという立場がすでにリヤドでは主流になっている。・・・

CFR Interview
シリア内戦はもう避けられない
――シリアの混迷とアラブ諸国の思惑

2012年3月号

アンドリュー・タブラー 近東政策ワシントン研究所次世代フェロー

地域諸国が(宗派その他の思惑から)それぞれシリアの国内勢力に関与し、現地で代理戦争が展開されかねない事態へと陥りつつある。いまや事態はこの方向へと急速に向かいつつある。シリア社会は分裂している。自由シリア軍を中心に反政府運動が拡大する一方で、政権が倒れた後に何が起きるかわからないために、一部には、現状に不満を感じつつも、少なくとも表向きはアサド政権の立場を支持する人々もいる。そして(スンニ派)アラブ諸国は、民衆を殺害する手法をアサド政権が際限なく続け、流血の事態を積み重ねていることに対する怒りだけでなく、イランを中核とするシーア派三日月地帯、イラン枢軸を切り崩すには、(アラウィ派ながらも、イランとの緊密な同盟関係にある)アサド政権を倒すのが最善であると判断し、シリアの政権が倒れることを願っている。

Foreign Affairs Update
シリアを擁護するロシアの立場
――宗派間抗争と中東の地政学

2012年3月号

ドミトリ・トレーニン カーネギー・モスクワセンター所長

ロシア政府の高官や政府に近い専門家の多くは、昨今における欧米の行動を非常にシニカルにみている。「ワシントンは、エジプトでの影響力を確保しようと古くからの同盟パートナーであるムバラクを見限り、石油契約を維持するためにリビアとの戦争に関与し、アメリカの第五艦隊の基地が存在するという理由でバーレーンへのサウジ介入に見て見ぬふりをした。そしていまや、イランからアラブ世界における唯一の同盟国をとりあげようと、シリアのアサド政権を倒そうとしている」。ロシアはこれらの戦争に直接的な利害は持っていない。だが少なくとも、危険で根拠を失いつつあるかにみえるアメリカの地域戦略の尻馬に乗りたいとは考えていない。・・・モスクワのシリアへの態度は、最近におけるリビアの運命、シリアの反体制派に対する不信、そして、アメリカの意図に対する懸念によって規定されている。

パキスタンに対する強硬路線を
―― 懐柔策ではもはや協調は引き出せない

2012年2月号

スティーブン・D・クラズナー  元国務省政策企画部長

パキスタンは対米協調を装いながらも、それが対インド戦略に抵触する領域についてはアメリカの利益を公然と無視し、それに反する行動をとってきた。それにも関わらず、ワシントンはパキスタンを切り捨てるのを躊躇している。「対テロ作戦へのパキスタンの協調を得られなくなれば、アメリカのアフガンでの作戦は失敗する」と決めつけ、「外からの支援がなければ、パキスタンは破綻国家と化し、その結果、イスラム過激派が国を制圧し、悪くすると、インドとの核戦争が起きかねない」と心配しているからだ。だが、別のアングルから問題をとらえるべきだ。アメリカが対パキスタン援助と関与によって得た利益よりも、パキスタンによる核拡散やイスラム過激派支援路線がもたらすダメージのほうがはるかに大きい。パキスタンが具体的に行動を起こさなければ、パキスタンを孤立させる政策をとると、はっきりとイスラマバードに伝えるべきだ。いまや、パキスタン強硬路線へと舵を切り、パキスタンを敵国として扱ったほうが、アメリカも、パキスタンを含む地域諸国もより大きな恩恵を手にできるようになるだろう。

2012年、 われわれは何を心配すべきか
――世界のマクロ政治・経済リスクを検証する

2012年2月号

デビッド・ゴードン  ユーラシアグループ・グローバルマクロ分析部門ディレクター

・ ヨーロッパがソブリン債務危機を克服することはあり得ないが、ユーロゾーンの崩壊も、ヨーロッパ主要国が2012年に信用危機に陥っていくこともない。だが、ギリシャは非常に深刻な事態に直面する。
・ アメリカ(とドル)が安全地帯とみなされる限りは、ワシントンは経済を前に進めることができる。
・ 中東地域では歴史的なスンニ派とシーア派の対立が再燃しつつある。シリア、イラク、そしてイランもこの宗派対立にとらわれている。
・ インドは今後大きな危険にさらされることになる。インドのことを南アジアにおける欧米の前哨基地とみなすテロ集団の標的にされる恐れがある。
・ 急速に北朝鮮が崩壊へと向かった場合に何が起きるか。米軍と韓国軍は核施設の安全を確保するために北へ向かい、一方で、中国軍も自国への難民流入を阻止するために、鴨緑江を越えて現地に入り、秩序を確立しようとするかもしれない。・・・

イスラエルは「イランが手を出せない状況=zone of immunity」をつくることを許さないと表明している。もちろん、イスラエルもアメリカの利害、立場にも配慮すると思う。しかし、何が国益を守る上で不可欠かについての結論を出せば、イスラエルの指導者が、アメリカの立場を拒否権として受け入れることはなく(自分の判断で行動するだろう)。だが、私は、イランとの交渉を試みるべきだと考えている。制裁やその他のオプションの代替策としてではなく、(あらゆる選択肢を排除しない)包括的なアプローチの一環として外交交渉を試みるべきだ。・・・軍事攻撃の準備をしつつ、制裁を強化し、その一方で交渉上の立場を示すべきだ。交渉を制裁強化策や軍事攻撃の代替策としてではなく、これらを補完するものとして位置づけるべきだ。

いまこそイランを軍事攻撃するタイミングだ
―― 封じ込めは最悪の事態を出現させる

2012年2月号

マシュー・クローニッグ
前米国防長官室ストラテジスト

アフガンとイラクでの戦争がやっと幕引きへと向かい始め、米財政が苦しい状況に追い込まれるなか、アメリカ人はさらなる紛争など望んではない。しかし、イランの核開発が成功した場合に何が起きるかを考えれば、状況を傍観することは許されない。イランの核施設に対する慎重に管理された空爆作戦をいま実施した方が、核武装したイランを数十年にわたって封じ込めるよりも、はるかにリスクは小さくて済む。実際、現状を放置して核武装を許し、核を持つイランを封じ込めていくのは最悪の選択肢だ。イランが核開発に向けた進展を遂げている以上、「通常兵器による攻撃か、将来における核戦争の可能性か」のいずれかを選ばざるを得ない状況にある。ワシントンは、イランの核施設に対する空爆を実施し、イランの報復攻撃を受け止めた後、危機を安定化へと向かわせる戦略をとるべきだ。現在、危機に正面から対処すれば、将来においてはるかに危険な事態に直面するのを回避できるだろう。

イスラム主義者とエジプトの未来
――ムスリム同胞団の台頭を前に過激化する世俗派集団

2012年1月号

エド・フサイン/米外交問題評議会 中東担当シニア・フェロー

エジプトの暫定統治にあたっている軍最高評議会(SCAF)は、現在の暫定内閣が2012年7月の大統領選挙までその責務を全うしていくと表明している。だが1月に内閣を作るための議会選挙の結果がでるにもかかわらず、暫定内閣が7月まで政治を運営するというのではつじつまが合わない。・・・もちろん、選挙で大きな勝利を収めつつあるムスリム同胞団と軍の関係が今後どのように変化していくかは重要なポイントだ。だが、イスラム政権の誕生を望まない世俗派や旧体制のメンバー、タハリール広場に集結している世俗的過激派の動向にも注意が必要だ。これらの勢力は、イスラム主義者に権力を委ねるくらいなら、旧体制を復活させるか、軍事支配が続くほうがましだと考え、選挙結果をキャンセルするか、延期すべきだと主張している。仮にこれらの勢力が結集して選挙結果が反故にされるような事態になれば、エジプトは再び極端な混乱に陥っていくことになる。

CFRインタビュー
イランはすでに核弾頭を搭載できるミサイルを保有している

2012年1月号

マイケル・エルマン 英国際戦略研究所シニアフェロー

イランは、アメリカ(やイスラエル)と湾岸諸国に対して、自国が攻撃されれば相手に大きなダメージを強いる能力を持っていることをアピールしたいと考えている。これが、ホルムズ海峡封鎖の警告を含む、最近におけるイランの一連の行動と過激な発言の真意だと思う。2003年以降もイランが核兵器の開発を試みているか?その動かぬ証拠を公的文書に見いだすことはできないが、イランが湾岸地域の都市やイスラエルを脅かせる弾道ミサイル領域でかなりの進展を遂げているのは間違いない。そうしたミサイルには、これまでイランが独自に開発に取り組んできた2段式固体燃料型のセッジール2ミサイルも含まれ、このミサイルはいまや配備できる状態にある。セッジール・ミサイルを設計した当時からイランが核弾頭の搭載を想定していたかどうかはわからない。だが、状況からみれば、セッジール・ミサイルの開発は核兵器の獲得を前提に進められたと考えてもおかしくはない。

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