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中東に関する論文

シリア内戦と近隣諸国の立場
――バッシャール後のシリアは国の統合を維持できるか

2012年08月

マイケル・ヤング デイリースター紙 論説ページエディター

アサド体制の命運はすでに尽きている。いまや最大の疑問は、今後、どのような政府がシリアに登場するかだ。ポスト・アサドのシリアが統合を維持できなければ、イランが介入してくるのは避けられない。一方、イランとは違って、トルコもイラクも、シリアが解体していけば、自国社会、特にシリアとの国境を接する地域に大きな余波がおよぶことになると懸念している。トルコはアラウィ派の国家内国家が出現することを嫌がっている。イラクがもっとも警戒しているのは、シリアがイラク政府を攻撃するスンニ派過激勢力の拠点と化してしまうことだ。そして、イスラエルはシリアが保有する化学兵器のこと、特に、化学兵器をヒズボラが手に入れることを警戒している。・・・シリアのダイナミクスを規定しているのは、シリア人、トルコ、サウジ、カタール、そしておらくはイラクだ。アメリカの役割は周辺的なものでしかないし、ヨーロッパはアメリカの前に出て影響力を行使するつもりはない。

北朝鮮、中国、イランに対する毅然たる対応を
―― キューバミサイル危機の教訓

2012年8月号

グレアム・アリソン
ハーバード大学ケネディスクール教授

ケネディは、ソビエトがキューバに核ミサイルを配備しているという事実を前に、「長期的な戦争のリスクを低下させるには、短期的に戦争リスクを高める必要がある」と考えた。キューバ危機の教訓の一つは、戦争、そして核戦争のリスクでさえも引き受ける覚悟がなければ、巧妙な敵に対立局面において何度も裏をかかれてしまうということだ。イラン、中国、北朝鮮と相手が誰であれ、その一線を越えれば戦争も辞さないという「レッドライン」を設定しているのなら、その事実を敵対勢力に認識させ、実際に行動する決意をみせるべきだ。そうしない限り、警告は相手にされなくなる。

アジアシフト、アラブの春、北朝鮮とイラン
―― オバマ外交の功罪を検証する

2012年7月号

マーチン・インディク ブルッキングス研究所副会長 / ケニス・G・リーバーサル ブルッキングス研究所中国センターディレクター / マイケル・オハンロン ブルッキングス研究所外交政策研究ディレクター

オバマ政権が2011年末に表明したアジアシフト(リバランシング)戦略はアメリカのリーダーシップを変化させていくための試金石だ。アジアシフト戦略を成功させれば、貿易促進と投資の枠組みが形成されるだけでなく、現地の部隊と緊密に連携するより小規模で柔軟な戦力へと米軍を再編することもできる。だが、オバマがそのような新しい秩序への移行をうまく模索していけるかは、イランの核開発問題をうまく決着させられるかどうか、そして、アメリカの政治・経済力を再生できるかどうかに左右される。イラン問題が制御不能になり、再び中東の安全保障がアメリカ外交の最優先課題にされるような事態になれば、他の重要な問題が再び後回しにされてしまう。また、アメリカの経済基盤がこのまま劣化していけば、長期的な国力、そして賢明な外交政策は維持できなくなる。国内的衰退を食い止めなければ、現状を大きく上回る厄介な事態にアメリカと世界は直面することになる。

なぜイランは核兵器を保有すべきか
―― 核の均衡と戦略環境の安定

2012年7月号

ケネス・N・ウォルツ
カリフォルニア大学名誉教授

現在のイラン危機の多くは、テヘランが核開発を試みているからではなく、イスラエルが核を保有していることに派生している。イスラエルの核保有のケースがきわめて特有なのは、核武装から長い時間が経過しているにも関わらず、依然として中東で戦略的な対抗バランスが形成されていないことだ。イスラエルは核開発を試みて戦略バランスを形成しようとするイラクやシリアを空爆し、これらの行動ゆえに、長期的には持続不可能な戦略的不均衡が維持されている。現在の緊張の高まりは、イランの核危機の初期段階というよりは、軍事バランスが回復されることによってのみ決着する、数十年におよぶ中東における核危機の最終段階とみなすことができる。現実には、イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオだ。この場合、中東の軍事バランスが回復され、戦略的均衡を実現できる見込みが最大限に高まる。

CFR Interview
イラン・シリア問題に揺れるロシア外交
――なぜプーチンは中東を歴訪したか

2012年7月号

スティーブン・セスタノビッチ 米外交問題評議会シニアフェロー

(シリア問題をめぐって)「欧米とアラブ世界が連帯し、その一方にロシアとイランがいる」という構図ができあがってしまっている。これまでシリアのバッシャール・アサドを支持してきたために、ロシアは非常に厄介な状況に追い込まれている。プーチンが最近中東を歴訪したのは、まさしく、ロシアの中東外交が手詰まり状況にあるからだ。彼はロシアの立場を中東の指導者に説明する必要があったし、なぜ中東諸国の批判に耳を貸そうとしないかについて弁明を試みる必要があった。いまや、シリアへの路線ゆえに、中東におけるロシアのイメージは大きく失墜し、アラブ諸国は「ロシア政府は経済的、地政学的思惑絡みでアサド政権を支持しており、中東地域の政府と民衆が気に懸けている人道問題を無視している」と批判している。

イスラムのモデル国家はトルコかイランか

2012年7月号

ムスタファ・アキョル
ネーバル・ポストグラジュエートスクール教授

「アラブの春」をきっかけにトルコとイラン間の緊張が高まり、いまや「アメリカやイスラエルから攻撃を受ければ、トルコを攻撃する」とテヘランが表明するほどに両国の関係は悪化している。根底には、イスラム原理主義を重視する「イランモデル」と、民主主義とプラグマティズムを重視する「トルコモデル」のせめぎ合いがある。だが、「欧米支配に立ち向かうイスラム世界のヒーロー」としてのイランの影響力も、現在のトルコの地域的影響力を前にすれば影が薄い。「より平和で民主的、しかも自由な中東の未来」を夢みる人々が取り入れたいと考えているのは、イランモデルではなく、リベラルなトルコモデルだからだ。すでにアラブ人の多くが、イスラム国家ながらも、民主的で開放的な社会を持ち、繁栄を手にしているトルコのことを自分たちの「モデル国家」とみなし始めている。イランはイラクのシーア派の、サウジはスンニ派のパトロンを自認しているが、トルコは、キリスト教徒や世俗派に加えて、シーア派、スンニ派の双方に関わっている。トルコは、イスラムと「民主主義、市場経済、近代性」との統合が必要だと考えている。

Foreign Affairs Update
アサド体制を支えるアラウィ派のジレンマ

2012年6月号

レオン・ゴールドスミス オタゴ大学リサーチャー(中東研究)

シリアでの紛争が長期化するにつれて、一部のアラウィ派が政府に背を向け始めている兆候もある。だが、彼らのほとんどは依然としてアサド体制を守ろうと戦いを続けている。現体制によるこれまで、そして現在の残虐行為の報復として、いずれスンニ派の報復がバッシャール・アサドだけでなく、アラウィ派にも向けられることを恐れているからだ。こうした危機感に根ざすアラウィ派の体制への忠誠は歴史的なルーツをもっている。アラウィ派コミュニティは、歴史的にスンニ派による差別と殺りくの対象にされてきた。だが、バッシャール・アサド現大統領の父でアラウィ派のハフェズ・アサドが1970年に権力を掌握したことで流れは変化する。権力者であるハフェズはスンニ派の反乱を抑えるために過酷な弾圧策をとった。この段階でアラウィ派は犠牲者から加害者になった。・・・そして今、アラウィ派は実存的ジレンマに直面している。バッシャール・アサド政権が崩壊すれば、アラウィ派はかくも長期にわたって体制を支えてきたことの責任を問われる。一方でアサド体制に固執すれば、容赦のないスンニ派による報復のリスクを高めてしまう。・・・

CFR Interview
ムハンマド・モルシとエジプト軍は協調できるのか
――軍と同胞団とタハリール広場

2012年6月号

ロバート・ダニン
米外交問題評議会
中東・アフリカ担当シニア・フェロー

ムスリム同胞団の物質面での力は限られている。戦車を保有しているわけでもなければ、政治機構を掌握しているわけでもない。だが、同胞団は一定の政治的正統性(民衆の支持)を持っている。対照的に軍は大きな力を持っているが、民衆が、軍が文民政府に権力を委ねることを求めていることも理解している。つまり、双方がカードを持っている。おそらく、対立ではなく、協調したほうが、互いのためになるという了解を共有している。だが今後、困難な局面に直面するのは避けられないだろう。平和な状況を維持し、最終的に、正統性のある政府機関を形作っていくプロセスがうまくいかなければ、いまやディフォルトの政治機構である「タハリール広場」が動き出すだろう。軍とムスリム同胞団がうまくバランスをとって状況を前に進めていかなければ、再び「タハリール広場」が政治を動かすことになる。

CFR Interview
シリア紛争の憂鬱な現実
―― 出口のない対立と極度の混乱

2012年6月号

ピーター・ハーリング
国際危機グループディレクター
(イラク、レバノン、シリア担当)

「シリアは攻撃されており、われわれは反撃を試みている」とダマスカスの高官たちは言う。この理屈を用いて、行き過ぎた武力行使に始まり、政治的イニシアティブの欠落、そして経済運営の失敗までのさまざまな問題を「自分たちではない誰か」のせいにし、行動のすべてを国家救済のためと、正当化している。

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