1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

中東に関する論文

イラン大統領選挙の政治地図
――ラフサンジャニ・ショックと次期大統領ポスト

2013年6月号

ファリデ・ファーヒ
ハワイ大学教授(非常勤)

保守派候補のなかでもっとも人気があるのはテヘラン市長のモハンマド・バゲル・ガリバフだと考えられている。保守系の候補者たちは、特定の段階になれば、もっとも人気のある候補を残して、他の二人は選挙戦から撤退することにすでに合意している。一方、かつて核問題の交渉を務めた中道派のハッサン・ロウハニも独立系候補として出馬している。ラフサンジャニが出馬を認められなかった以上、ロウハニは、自分を保守派候補に対する代替策として位置づけたいと考えている。だがロウハニはハタミ大統領の第1副大統領を務めたモハンマド・レザ・アレフとライバル関係にある。彼らは先ず候補者を、一人か二人に絞ってまとまることに合意できるかどうかを決める必要がある。・・・ハメネイが、保守派候補が好ましいと考えているのは明らかだが、最高指導者の意中の候補がはっきりしないために、誰が選挙で勝利するのか、ますます分からなくなっている。

CFR Interview
シリア和平への困難な道筋
――米ロの役割とイラン、ヒズボラの存在

2013年6月号

フレデリック・ホフ
大西洋評議会シニアフェロー

アメリカはシリアの反体制派を、ロシアはアサド政権を説得して、紛争の終結に向けた交渉テーブルに着かせようとしている。だが、交渉の目的が、「平和的でうまく管理された完全な体制移行を実現すること」だとすれば、国際会議が成功する見込みはほとんどない。・・・現状では、コミュニティ、都市、町ごとにさまざまな武装集団が存在し、これらのすべてが自由シリア軍を自称している。ワシントンは反体制派、自由シリア軍を一つにまとめようと試み、シリア最高軍事評議会に指揮系統を集中させ、支援とコンタクトの一元的な窓口にしたいと考えている。・・・一方、アサド政権を交渉テーブルにつくように説得するというロシアの任務の難易度は非常に高い。しかも、この数週間という単位でみると、アサド政権の部隊は、反体制派から一部の地域を奪回している。これはイランとヒズボラの戦士が戦術を考案し、攻撃を実施した上で、攻略した地域をシリア軍に明け渡したからだと報道されている。・・・・

追い込まれたエルドアン首相
―― もはやトルコ大統領への夢は潰えたか

2013年06月

ハリル・カラベリ
ジョンズホプキンス大学ポールニッツ・スクール附属
中央アジア・カフカス研究所シニアフェロー

多くの人が指摘するとおり、トルコ政府が発表したイスタンブール中心部の再開発計画をきっかけに起きた反政府デモをイスタンブールやその他の都市で主導しているのは世俗派リベラルの中間層だ。だが、この運動の背景にはエルドアンの強引な権威主義路線、イスラム化路線の高まりに対する反発がある。こうした路線に反発しているのはリベラル派だけではない。AKPの主要な支持基盤である宗教保守派も、中道右派も彼に反発している。最近、エルドアン政権は 飲酒やアルコール飲料の販売や宣伝に関する規制を新たに強化し、その後、今回のデモが起きている。憲法を修正し、大統領により大きな権限をもたせるというエルドアンの計画は、ほぼすべての権限を、彼が手に入れたいと考えている大統領ポストに集中させ、他の政治ポジションの力を去勢するのが狙いだった。だが、数多くの大統領選挙に関する世論調査をみても、すでにギュルがエルドアンをリードしている。タクシム広場の騒ぎのなかから、最終的な勝者として姿を現すのはギュル現大統領とおそらくは再生したAKPになるだろう。

Foreign Affairs Update
なぜトルコはイスラエルとの関係修復に踏み切ったか
―― 変化した安全保障認識とエネルギーの必要

2013年5月

マイケル・J・コプロー イスラエル研究所・プログラム・ディレクター

マヴィ・マルマラ号事件が2010年に起きて以降、トルコとイスラエルの関係は冷え込んできたが、2013年3月に両国政府は外交関係を正常化することに合意した。3年に及んだイスラエルとの対立状況は、アンカラにとって厄介な国内問題を切り抜ける便利な政治ツールでもあった。そのトルコがなぜイスラエルとの関係修復に応じたのだろうか。理由は二つある。シリア内戦とエネルギー安全保障という問題をめぐって、アンカラがイスラエルの協調を切実に必要とするようになったからだ。イスラエルはシリア情勢をめぐって優れた情報を持っているだけでなく、最近発見されたハイファ沖の天然ガス資源はトルコにとっても、非常に魅力的な資源だ。「イスラエルとの関係修復によって得られるトルコの経済・外交利益が、対立路線から得られる国内政治上のメリットを上回る」と判断できる環境が生まれていた。これで変化の多くを説明できる。

東地中海天然ガス資源と領有権論争

2013年5月号

ユーリ・M・ズーコフ
ハーバード大学ウエザーヘッドセンター・フェロー

東地中海の海洋資源開発に派生する論争が、かねて存在した地域的緊張をさらに深刻にしている。イスラエルのハイファ沖合にあるタマルとリバイアサンという二つのガス田には、合計26兆立方フィートの天然ガス資源が存在すると推定され、キプロスの沖合にあるアフロディーテ・ガス田にも7兆立方フィートの資源が存在すると言われる。しかし、イスラエルの資源海域にはレバノンが、キプロスの資源海域には北キプロスが同様に領有権を主張している。トルコもさまざまな思惑をもっている。この環境では、偶発事件が紛争へとエスカレートしていく危険がある。すでに交渉で地域合意を形成する機会は失われつつあり、おそらく、外的パワーの関与なしには、危機は制御できないだろう。問題は、その外的パワーがどの国になるかだ。

パキスタン軍と最高裁と政治
―― 軍事クーデターからソフトクーデターへ

2013年5月号

C・クリスティーン・フェアー
ジョージタウン大学講師

パキスタンにおけるクーデターはいつも同じ筋書きになっている。軍が権力を奪取する場合、先ず社会的支持を確保するために、政治危機を喧伝し、軍の政治介入(クーデター)に正統性があるかのような演出をする。クーデターに成功すると、陸軍参謀総長が大統領に就任し、戒厳令を敷いて法の執行を停止し、議会を解散する。この段階で、最高裁の判事たちは、新大統領としての陸軍参謀総長への忠誠を誓う。忠誠を誓うのを拒んだまともな判事たちは、引退するか、退職させられ、このポストは軍に忠誠な人物に委ねられる。・・・だがここにきてパキスタン軍も、軍事クーデターを民衆がもはや支持しないことに気づき始めたようだ。しかし、軍と裁判所が対立したチョードリー事件以降も、依然として軍と裁判所は手を組んでいる。そしていまや軍は自分たちの名代として私人を使った「ソフトクーデター」という手法を取り始めている。

なぜイスラエルは外交で地域環境を整備できないのか。最大の要因は、イスラエル軍が政策決定に非常に大きな影響力をもち、そして市民も依然として軍を頼みとしているからだ。国家安全保障領域での内閣の権限は弱い。「まともなスタッフの支援も期待できず、結局は安全保障政策の立案を軍部に頼らざるを得ない」からだ。この領域での政策を実行するには、必然的に軍部、とくに事実上の国のシンクタンクとみなされる軍参謀本部を関与させざるを得ない。こうして「イスラエルの政治指導者には、国家の必要性の全てを見据えた選択肢ではなく、軍による限られた選択肢しか提示されなくなる」。しかも、軍の政治的、社会的影響力が、近い将来弱まっていくとは考えにくい。イスラエル政府が政策を正当化するには軍の威信が必要だし、国論をわける論争の場合には、軍の威信がますます重要になるからだ。

CFR Interview
なぜアメリカは
イラク戦争の判断を間違えたか

2013年4月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

(イラクとの戦争判断をめぐっては)憶測がワシントンを支配していた。・・・憶測も情報も間違っていた。戦争は迅速かつ簡単に終わると考えられていた。イラク人はアメリカ人を解放者として歓迎する。解放されたイラクを、アラブ語に翻訳された『ザ・フェデラリスト』を読み込んだ現地の民主主義勢力に委ね、米軍が安全にイラクを離れるまで、そう長い時間はかからない、と考えられていた。・・・イラク戦争は戦う価値があったのか、戦争をめぐって一連の優れた決定が下されたとみなせるか、うまく遂行されたか。これらの問いに対する答は完全にノーだ。イラク戦争はアメリカ政府が(必要に駆られて遂行した戦争ではなく)自ら選んだ戦争だった。だが、それは間違った選択だったし、うまく遂行されることもなかった。・・・イラク戦争の教訓とは、憶測を基に政策を組み立てることがいかに危険かという点にある。疑問や厄介な問題を憶測だけで片付けてしまえば、いかなるものでも説得力があるように思え、自分で納得してしまう。それが、現実に起きてしまった。

シリア政府が倒れない理由

2013年3月号

エド・フサイン
米外交問題評議会シニア・フェロー(中東担当)

交渉を通じたいかなる仲裁も、シリア紛争の停戦に向けた信頼できる枠組みを形成できるとは考えにくい。仮に合意が成立しても、国内には、最後まで戦い抜くことを決意している戦士たちが数多くいるからだ。最終的にバッシャール・アサド体制が倒れるのは避けられないが、当面は、アサドは体制を維持していくだろう。シリア政府はロシア、イラン、ヒズボラだけでなく、イラクからもある程度の支援を取り付けている。そして、われわれにとってはいかに不快な人物だとしても、(アラウィ派を中心とする)シリアの都市住民の多くは、まだ完全にはバッシャール・アサドに背を向けていない。その理由は、現体制が倒れれば、宗派間抗争が起きて、少数派である自分たちは殺戮されることになると考えているからだ。・・・

CFR Interview
シリア、イランのヒズボラ・コネクション

2013年3月号

マシュー・レビット
ワシントン近東政策研究所 シニアフェロー

シリアでアサド政権が追い込まれていくにつれて、ヒズボラは、シリアにある自分たちの兵器を、レバノン山岳地帯の洞窟に設けた兵器庫など、安全な場所に移したいと考えている。イスラエルが空爆で攻撃したのは、そうした兵器を積んでレバノンに運びだそうとしていたトラック車列だった。スンニ派の過激派、シーア派の過激派は、アサド体制の崩壊に備えて、それぞれ自分たちに忠実な武装勢力の組織化を進めている。われわれが目にしているのは、紛争の第2局面に向けた兵器の備蓄・調達に他ならない。さらに、イランがヒズボラへの武器提供をシリア経由で行うことが多いことも、今回の空爆の構図に関係している。現状ではヒズボラとイランは非常に緊密な関係にあり、アメリカの情報コミュニティは、両者の関係を「戦略的パートナーシップ」と描写している。

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