1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

ヨーロッパに関する論文

イギリスの選択

1999年10月号

デヴィッド・フロムキン  ボストン大学教授

「大陸ヨーロッパ」と「アメリカ」のいずれをパートナーに選ぶかという、古くからの命題にイギリスはどのような答えを出しつつあるのだろうか。「イギリスは欧州共同体、英連邦および大英帝国、そしてアメリカ(英米関係)という三つの輪の中で中心的役割を果たすべきである」。このチャーチルの遠大な戦後ビジョンは、半世紀の歴史を経て、どのような現実に遭遇しているのだろうか。ブレアの登場とともにイギリスは純然たるヨーロッパの一部になってしまうのか、それとも大陸ヨーロッパの統合運動に参加しつつ、英米関係を温存していくのだろうか。

オランダの麻薬対策の挫折

1999年10月号

ラリー・コリンズ  ジャーナリスト

麻薬問題は多くの国にとって悩みの種だが、麻薬を合法化しているオランダの現実も理想からはほど遠く、到底成功とは見なし得ない。オランダ議会は二十三年前、マリフアナやハシシュなどの「ソフト」ドラッグの「コーヒーショップ」での販売をあえて許可した。これによって社会の表舞台へと「ソフト」ドラッグを引きずりだし、ヘロイン、コカインなどの「ハード」ドラッグの利用へと中毒者がエスカレートしないようにと試みたのだ。これがオランダの「麻薬による害を減らす」アプローチである。だが、「ソフト」ドラッグが実質的に「ハード」ドラッグ化しているし、「ソフト」ドラッグの合法化が「ハード」ドラッグ使用の抑制に効果をあげたわけでもない。しかも、いまやオランダは海外において「西ヨーロッパの麻薬の中心地」、ドラッグディーラーの巣窟というありがたくない評判を得ている。オランダの政府高官自身、自国の麻薬政策が意図した効果を発揮していないことを認めているが、有効な対策を見いだしていないという点ではアメリカやイギリスも同じである。われわれは、オランダの経験からどのような教訓を引き出すべきなのだろうか。

完全な失敗としてのコソボ

1999年9月号

マイケル・マンデルバーム  外交問題評議会フェロー

コソボ紛争は奇妙な戦争であったし、戦争を周到な政策の延長とみれば、これは完全な失敗だった。コソボのアルバニア系住民は、「民族自決権」に基づく独立を求めて戦った。一方、セルビア人は「既存の国境線の不可侵」という原則を盾にコソボをユーゴスラビアの一部に留め置こうと戦ってきた。かたやNATOといえば、コソボには自治権が認められるべきだという立場をとりつつも、それでもコソボはユーゴの一部にとどまるべきだと主張した。当然、戦争が終わったときも、主権にまつわる中核的な政治問題は未解決のままだった。NATOは介入して紛争勢力の一方を打破しつつも、戦争目的をめぐっては、うち負かした側が掲げていた大義を共有していたからである。つまりコソボはNATOの軍事的成功ではあっても政治的には大失策だったのだ。

バルカンのナショナリズムは消えない

1999年8月号

ウィリアム・W・ハーゲン  カリフォルニア大学歴史学教授

バルカンにおける民族間の対立は古代からのものではなく、近年のスロボダン・ミロシェビッチによる権力の掌握をきっかけとしたものでもない。それはオスマン・トルコ帝国が解体した後のこの地域でのナショナリズムの高揚にそもそも端を発するものだ。バルカンの独裁制、共産主義体制が「血の報復という価値観」を伴うナショナリズムと不可分の形で結びついていたため、オスマン・トルコ崩壊以後の政治体制のなかでも民族主義は生き残り、旧ユーゴの解体に伴う国境線の変更を契機に、これが一気に表舞台へと噴出した。こう考えると、ポスト・チトーのユーゴでリベラリズムが支配的となる余地はそもそもないに等しかった。欧米の基準では考えられぬような残忍な行為が行われたのは、こうした「血の報復」という集団的な価値観が背景に存在したためである。したがって、ミロシェビッチをヒトラーにたとえるような個人に問題を帰する見方よりも、紛争後のコソボ問題を戦後の連合国によるドイツ占領と比較する社会改革的視点のほうが有益だろう。リベラルで民主的な市民社会運動がより深く根を張れるようにならない限り、この地域に平和と安定がもたらされることはあり得ないのだから。

コソボ危機が変える米欧関係の今後

1999年7月号

ピーター・ロッドマン ニクソン・センター国家安全保障問題ディレクター

コソボ問題を契機に、ヨーロッパ、アメリカの双方とも、お互いの存在なしにはヨーロッパでの重要な目標を実現するのは不可能だということを再認識したようだ。しかし、もしコソボで失敗すれば、ヨーロッパ各国の指導者は、「嫌いなアメリカ」に依存しつつも意に沿わない結果に甘んじたという国内での批判にさらされるだろう。事実、アメリカとの協力体制が、ヨーロッパ各国の極左政治勢力からの非難にさらされたため、各国の指導者は「人道的見地」からのNATOの結束を強く訴えてきた。だが、ミロシェビッチとのあいまいな妥協によってコソボ危機に終止符が打たれるとすれば、人道主義を訴えてきただけにヨーロッパ人の幻滅感は強く、政治的な余波も大きいだろう。その場合、ヨーロッパの国内政治力学とアメリカの覇権に対する反発を欧州の指導者たちは抑えこめるだろうか。コソボが問いかけているのは、たんに人道主義介入の是非と課題だけでなく、NATOを中心とするアメリカとヨーロッパの関係そのものなのだ。

国連憲章と新介入主義の行方

1999年7月号

マイケル・J・グレノン  前・米上院外交委員会法律顧問

国家間紛争を前提とする「時代遅れの国連憲章」による厳格な介入規定に縛られ、国内紛争がつくり出す悲劇に見て見ぬふりをするのは、もはや合理的でも賢明でもない。世界の平和と安定に対する切実な脅威は、いまや国家間紛争ではなく、国内紛争から派生しているからである。NATOによるコソボへの空爆は、正義を重視する新介入主義理念の発露ともとらえられる。事実、この新レジームの下では、大量虐殺のように、「介入しないことによる人道的損失があまりに大きい場合」は介入することが適切であると見なされている。だが、国連憲章が完全に死文化したわけではなく、コソボをめぐっては、(介入という)正義の理念と(内政不干渉を唱える)国連憲章が衝突している。だが、新介入主義の支持者たちは、法に挑戦することと「法の支配」に挑戦することとはまったく意味が異なり、(NATOが国連憲章に対して行ったような)不適切な法に対する挑戦は、法レジームをむしろ強化できることを肝に銘じるべきだろう。新システムの課題は、この新レジームならびに、それを基盤とする軍事行動が人々に正当なものと受け止められるかどうかにある。この点からも、正義を貫くことこそ法的な裏付けを得る最善の方法であることを忘れてはならない。正義を実現しさえすれば、正義を反映できるような法システムの確立にも自ずと道が開けてくるからだ。

コソボ紛争は分離独立でしか決着しない 

1999年6月号

クリス・ヘッジ ニューヨーク・タイムズ  前バルカン支局長

一九九五年のデイトン合意は、自治や独立を求めるコソボのアルバニア人にとっては,死亡宣告に等しかった。まずコソボ問題を解決すべきだとそれまで主張していた欧州連合(EU)が、まるで手のひらを返したように新ユーゴを承認したからである。一度火がついた以上、もはやコソボ紛争が短期で解決することはありえない。セルビア人のナショナリズム、そしてユーゴ紛争の犠牲者が本当は自分たちであるとみなす厄介な自己認識は、欧米が攻撃を加えればますます高まっていく。一方、穏健派指導者のルゴバが支持を失った後、アルバニア民衆の支持を集めているコソボ解放軍(KLA)といえば、大規模な義勇兵の予備軍を擁しているだけでなく、アルバニアとの国境線が開放的であることを利用して、兵器の供給や新規の兵士リクルートのラインを確保している。しかも、セルビア人とコソボのアルバニア人の双方とも、武力行使こそ袋小路を打開する手だてであると確信しており、対立の溝が深いことを考えると、交渉による妥結はほぼあり得ない。とすれば、国際コミュニティーが長期的にコソボに平和維持部隊を置いたところで、撤退後に双方が再び銃をとる可能性は高い。「KLA率いるコソボが、交渉によってであれ、暴力によってであれ、セルビアから分離独立する」。これが最も可能性の大きいシナリオなのだ。

金融政策の民主的管理を提唱する

1999年6月号

シェリ・バーマン プリンストン大学助教授   キャサリン・R・マクナマラ プリンストン大学助教授

政治的に高度な独立性を備えた中央銀行に、金融政策の決定権を委ねるというのが昨今の流行である。金融政策を成功へと導くには秩序立った長期的視野が必要なため、短期的で政治的になりがちな政策決定プロセスに委ねることはできない、というのがその理屈だ。だが、はたして高度な独立性を持つ中央銀行による決定が、経済を豊かにしていると言えるのか。それは、民主的統治というわれわれのシステムの基本からの逸脱を認められるほどに大切なのか。その答えはノーと言って差し支えないだろう。「ドイツ連邦銀行のインフレ・ファイターとしての役目は、この組織に法による独立性が認められていることによってではなく、むしろインフレ対策を経済政策の主要な目的とすることを市民が広く受け入れているという事実に根ざしているのだ」。中央銀行、とくに欧州中央銀行の独立性を支持する人々は、民主主義の本質はそれがつくりだす結末ではなく、その結末に至るプロセス、それが正統性を備えていくプロセスにあることを、再認識すべきではないか。

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