CFR Interview
追い詰められたギリシャ
2012年5月号

ギリシャの有権者が緊縮財政よりも成長を重視する政党を選び、それでもEUとIMFから支援を確保するつもりなら、相手にもっと柔軟な態度を取ることを受け入れさせなければならない。これは、言ってみれば肝試しのようなものだ。
1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。
2012年5月号
ギリシャの有権者が緊縮財政よりも成長を重視する政党を選び、それでもEUとIMFから支援を確保するつもりなら、相手にもっと柔軟な態度を取ることを受け入れさせなければならない。これは、言ってみれば肝試しのようなものだ。
2012年5月号
反グローバル化は形を変えつつも、フランスでは今も昔も大きなアジェンダだ。反グローバル化がすでに政治的主流派のアジェンダに組みこまれているために、大きく取り上げられないだけの話だ。多くのフランス人はグローバル経済からの恩恵を受けていないと考え、保護主義的措置の導入を求めている。そもそも、労働組合の組織率が低く、政治家の多くが民間での経験がないフランスでは、企業が悪いイメージでとらえられている。有権者はEUも否定的にとらえられ始めている。問題は、現実にはフランスが大きな恩恵をグローバル化から引き出していることだ。指導者たちは、フランスの経済成長にはグローバル化が不可欠であることを理解しているが、悲観主義に陥っている大衆をなだめつつ、貿易と投資の自由な流れを水面下で着実に促進していかなければならない状況に追い込まれている。グローバル化の犠牲になっているというイメージと、フランスの国際的な影響力の維持という二つをいかに和解させるかが、今後問われることになる。
2012年3月号
人々は忽然と姿を消した。この14年間、ワイマール共和国の政府要人、あるいはビジネスの指導者として世界が見聞きしてきた人々は忽然と表舞台から姿を消した。例外はあるが、この波は大きなうねりとともに社会を飲み込み、連日のように、一人ずつ、昔日の指導者や仲間たちがナチスという暗黒の海にさらわれていく。
あまりにワイマール共和国の面影がなくなってしまったために、ナチス党員には、ここにかつて共和国が存在したことさえ信じられないかもしれない。このうねりは、命令を下す叫び声や行進の足音で途切れた悪夢よりも、めまぐるしいペースで社会を飲み込んでいる。・・・
・ ヨーロッパがソブリン債務危機を克服することはあり得ないが、ユーロゾーンの崩壊も、ヨーロッパ主要国が2012年に信用危機に陥っていくこともない。だが、ギリシャは非常に深刻な事態に直面する。
・ アメリカ(とドル)が安全地帯とみなされる限りは、ワシントンは経済を前に進めることができる。
・ 中東地域では歴史的なスンニ派とシーア派の対立が再燃しつつある。シリア、イラク、そしてイランもこの宗派対立にとらわれている。
・ インドは今後大きな危険にさらされることになる。インドのことを南アジアにおける欧米の前哨基地とみなすテロ集団の標的にされる恐れがある。
・ 急速に北朝鮮が崩壊へと向かった場合に何が起きるか。米軍と韓国軍は核施設の安全を確保するために北へ向かい、一方で、中国軍も自国への難民流入を阻止するために、鴨緑江を越えて現地に入り、秩序を確立しようとするかもしれない。・・・
2012年2月号
なぜ20世紀に民主主義が生き残り、ファシズムも共産主義も淘汰されてしまったのか。1930年代から21世紀初頭にいたるまで、ヨーロッパ全域が民主化すると考えるのは現実離れしていたし、リベラルな民主主義が勝利を収める必然性はどこにもなかった。なぜ、社会に提示できるものをもち、圧倒的な力をもっていたマルクス主義がリベラルな民主主義に敗れ去ったのか。そしていまや、多くの人が(民主主義を支える経済制度である)資本主義が経済利益を広く社会に行き渡らせる永続的な流れをもっているかどうか、疑問に感じ始めている。ヨーロッパとアメリカの昨今の現実をみると、民主的政府は危機に適切に対応できず、大衆の要望を満たす行動がとれなくなっている。現在、世界が直面する危機によって、市場原理主義、急激な民営化、新自由主義では、「近代的でグローバル化した経済秩序をどうすれば持続できるか」という問いの完全な答えにはなり得ないことがすでに明らかになりつつある。・・・
2012年2月号
社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。問題は、社会民主主義モデルがすでに破綻しているにも関わらず、左派が新たな思想を打ち出せずにいることだ。先進国社会が高齢化しているために、富を再分配するための福祉国家モデルはもはや財政的に維持できない。古い社会主義がいまも健在であるかのように状況を誤認して、資本主義批判をしても進化は期待できない。問われているのは、資本主義の形態であり、社会が変化に適応していくのを政府がどの程度助けるかという点にある。
2012年1月号
無策、無能で、政治腐敗にまみれ、権威主義的。こうした形容詞で語られるウクライナのヤヌコビッチ政権は、市民の支持を失っている。2011年半ば、追い詰められたヤヌコビッチ大統領は、もっとも痛みが少なさそうな安易な打開策を選んだ。ヨーロッパの価値を無視したまま、EUに接近する策をとったのだ。しかも、プーチンが標榜する関税同盟への参加を拒否しておきながら、ロシアとも良好な関係を維持しようと究極の二股をかけている。だが国内情勢からみると、こうした打開策はすでにタイミングを失している。ヤヌコビッチの最大の成果とは、世論を反ヤヌコビッチでまとめあげたことくらいで、市民の怒りはどうみても行き場を失っている。このままでは政府機能が麻痺し、社会不満が拡大し、2012年のどこかの段階で市民の怒りが大きな形で爆発する危険がある。
2012年1月号
ドイツは欧州中央銀行(ECB)が(周辺国の国債を買い入れるなど)大規模な資金を提供すれば、インフレがおきるのではないかと警戒するとともに、危機に直面している国が改革を実行しなくなることを恐れている。・・・「何をすべきなのかは誰もが分かっているが、それを実行して、再選されるかどうか誰も確信が持てずにいる」。だがドイツの場合、どうすべきかについてのコンセンサスもない。(A・ナゴルスキー)
イタリア、フランス、スペインは、ECBが、アメリカの連邦準備制度のように、より積極的な介入策をとることを望んでいる。だが、ドイツは立場を明確にしない。(M・モリナーリ)
共通通貨を導入さえしなければ生じたはずのない緊張と対立をユーロはヨーロッパにもたらした。これは、経済的に多様な国家集団に単一通貨を強要したことの必然的な結末だ。調和に満ちたヨーロッパを形作るという政治目標にもユーロは貢献できず、そこには政治的対立と反発が渦巻いている。もはやギリシャにはユーロ離脱という選択しか残されていない。ユーロを離脱し、新ドラクマを導入すれば、通貨の切り下げができるようになるし、ディフォルトに陥っても、ユーロ圏にとどまった場合よりも痛みは軽くて済む。問題は、ギリシャのユーロからの離脱がどのような連鎖を引き起こすかだ。ギリシャが離脱し、通貨の切り下げに踏み切れば、グローバル資本市場は、他のユーロ加盟国はどう反応するだろうか。・・・
2012年1月号
グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に応えられなくなっている。これこそ、アメリカ、日本、ヨーロッパという先進民主世界が現在直面しているもっとも深刻な問題だ。先進民主諸国が統治危機に直面する一方で、台頭する「その他」の諸国が新たな政治力を発揮しているのは偶然ではない。グローバル化した世界への統合を進めていくにつれて、先進民主国家が問題への対応・管理手段の喪失という事態に直面しているのに対して、中国のような非自由主義国家の政府は、一元化された中央の政策決定、メディアに対する検閲、国家管理型の経済を通じて、社会の掌握度を高めている。必要とされているのは、民主主義、資本主義、グローバル化の相互作用が作り出している大きな緊張をいかに解決するかという設問に対する21世紀型の力強い答えを示すことだ。政府の行動を、グローバル市場の現実、恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させるとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必要がある。