1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

ヨーロッパに関する論文

CFR Briefing
欧州における反移民感情の台頭

2014年7月号

ジェーン・パーク cfr.org Deputy Director

依然として経済的停滞から十分に立ち直れずにいるにも関わらず、ヨーロッパは、アフリカや中東から流入する移民、難民の急増という事態に直面している。欧州連合(EU)の対応は場当たり的で、「移民や難民の権利よりも国の安全保障を守ることを重視している」との批判も聞かれる。一方で、財政難に苦しむ多くのEU加盟国は、社会サービスを切り捨てざるを得ない状況に追い込まれ、反移民の立場をとる極右政党が急速に台頭している。いまや、人権の尊重、自由な人の移動というEUの中核理念が脅かされかねない状況にある。ほとんどのEU加盟国は難民対策として地中海の海上警備の強化・拡大や取り締まりめぐる情報共有には前向きだが、難民や移民の権利を守るための枠組み合意は形成されていない。移民排斥を唱える極右政党が今後も支持を集め、彼らが政治スキルを高めていけば、経済が回復しても、ヨーロッパに反移民感情が定着する恐れがある。・・・

欧州が対ロ制裁へ踏み込めない理由
―― ロシアとの経済関係か欧州安全保障か

2014年6月号

トム・キーティング 金融・安全保障アナリスト

最終的に、ロシアに対する欧米の経済制裁は十分なものにはならないだろう。厄介なのは、ヨーロッパの指導者たちが直面しているのがロシアからのエネルギー供給の問題だけではないことだ。この20年にわたってロシアとの関係に多くを投資してきたヨーロッパの企業は、ロシアとの経済的つながりを失うことを心配している。政治指導者たちも、経済制裁を通じてプーチンの対外路線を変化させる必要があると感じつつも、「制裁によって自国が経済的やけどを負うのではないか」と心配している。こうして、ヨーロッパはロシアに対する経済制裁をめぐって分裂し、結局は消極的な態度に終始している。他に選択肢がない状況に陥らない限り、ヨーロッパの政治家たちは自国の企業と産業を守ることを優先するだろう。

プーチンの戦略とヨーロッパの分裂

2014年6月号

マイケル・ブラウン ジョージワシントン大学エリオットスクール学院長

NATOの東方拡大路線がロシアを刺激することはない。この欧米の認識は希望的観測にすぎなかった。欧米との明確な対立路線を選択したプーチンのロシア国内での支持率は高まっており、当面、状況は変化しないだろう。一方、ヨーロッパの安全保障は機能不全に陥っている。しかも、ヨーロッパはロシアからのエネルギー供給に依存している。このため、ロシアにどう対処するかをめぐってヨーロッパ諸国の足並みは乱れている。プーチンは「近い外国」におけるロシア系住民地域をロシアに編入してロシアの勢力圏を確立し、国内の政治的立場を支えるためにも欧米との対決状況を維持していくつもりだ。プーチンの野望、そして脅威の本質を過小評価するのは間違っている。欧米の指導者たちは、プーチンの最終的な戦略目的を見極めて、それに応じた行動をとる必要がある。

ウクライナ危機とロシアの立場

2014年4月号

ジェフリー・サックス
コロンビア大学教授(経済学)

欧米はウクライナの領土保全回復を目的に掲げるだけでなく、ロシアの利益と懸念にも応分の正当性があることを認める必要がある。ウクライナの安定は、ロシアの協力なしでは達成できないし、そうした協力が実現するとすれば、欧米がロシアに対して和解的な危機管理策をとった場合だけだ。ウクライナはヨーロッパとロシアの双方と分かちがたく結びついている。巨大なコスト負担を覚悟しない限り、どちらか一つとの関係を遮断できない場所に位置している。欧米は、ウクライナをロシアの軌道から引き離そうとするのではなく、むしろ、ロシアとウクライナが、先を見据えて、互恵的関係を模索するように働きかけ、EU、ロシア双方との経済的つながりを拡大することを目的に据えるべきだ。

ウクライナ危機とパイプライン
―― ヨーロッパの本当のエネルギーリスクとは  

2014年4月号

ブレンダ・シャッファー
ジョージタウン大学客員研究員

ウクライナ危機を前にしたヨーロッパ人の脳裏をよぎったのは、2009年の天然ガス供給の混乱だった。この年、ロシアがウクライナへの天然ガスの供給を停止したために、ヨーロッパ諸国への供給も混乱し、真冬に暖をとれない事態に陥った。すでにウクライナ危機からヨーロッパを守るために、アメリカからの液化天然ガス(LNG)輸出を急ぐべきだという声も耳にする。たしかに、短期的に供給が混乱する危険もあるが、長期的にみてより厄介なのは、ハブプライシングシステムの導入など、ヨーロッパのエネルギー政策が方向を違えており、しかも(天然ガス価格が高いために)石炭の消費が拡大していることだ。仮にアメリカからLNGを輸出しても、その価格は、ロシアの天然ガス価格の少なくとも2倍になる。ワシントンは、ヨーロッパへLNGを供給することの利益が明確になるまで、拙速にエネルギー輸出の決定を下すのは自重すべきだろう。

クリミアは手始めにすぎない
――プーチンが欧米世界に突きつけた
果たし状

2014年4月号

アイバン・クラステフ
(ブルガリア)リベラル戦略センター 理事長

プーチンが軍事力に訴えたのは、他に選択肢がなかったからではなく、欧米のゲームルールを変えたいと考えたからだ。実際、キエフに圧力をかけることが目的なら、他にも多くのやり方が存在した。最近の行動からみれば、プーチンの戦略目的は、クリミアを他のウクライナ地域から切り離すことではない。ロシアとの統合を高めたウクライナ東部を内包する連合国家へとウクライナを変貌させることが狙いだ。クリミアでの行動を通じて、彼は法的な規範と冷戦後のヨーロッパ秩序構造を疑問に感じていることをはっきりと示した。プーチンは今回の行動を通じて欧米世界に果たし状を突きつけたことになる。彼は欧米の近代的価値を拒絶し、ロシアとヨーロッパ世界との間に明確な境界線を引こうとしている。プーチンにとって、クリミアはその手始めにすぎない。

流れは独ロが規定する新ヨーロッパへ
―― ウクライナ危機と独ロの特別な関係

2014年4月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン
ノースイースタン大学教授(政治学)

ヨーロッパでの紛争を回避するために戦後ドイツがフランスとともに西側の枠組みに参加したように、冷戦後のドイツは東ヨーロッパにおける平和的な秩序を支えようと、クレムリンとの強固なパートナーシップの構築を試みた。そしてウクライナ危機が起きた。ヨーロッパとの明確な境界線を引きたいロシアにとっては、クリミアの支配という現状を維持し、ウクライナを不安定化させようと試みるのが合理的なのかもしれない。一方、ドイツは、ロシアとウクライナを直接交渉させる道筋へと向かわせたいと考えている。ロシアに対する制裁には及び腰で、むしろ緊張緩和に努めているとしても、ドイツはウクライナをヨーロッパの経済的軌道に組み込むことを決意しているようだ。クリミアの混迷は膠着状態から抜け出せないかもしれないが、いずれドイツとロシアは協調し、いまはまだ共有していない新しいヨーロッパのビジョンに向けて動き出すかもしれない。

ヨーロッパかロシアか、それが問題だ
―― ウクライナのナショナリズム

2014年4月号

オーランド・フィゲス
ロンドン大学バークベックカレッジ教授(歴史学)

ウクライナが現在直面している苦悩の中枢には、ロシアとの「戦略的パートナーシップ」に対する抵抗感と、「腐敗した政府からウクライナを政治的・経済的に救えるのはヨーロッパだ」という認識の間の葛藤がある。短期的には、ウクライナはロシアと仲違いするわけにはいかない。ロシアはウクライナのエネルギー供給を支配している上に、債務の大半を所有している。両国は産業面でも深く結びついている。だが長期的には、ウクライナにとって最大の期待はヨーロッパだ。街頭で抗議を行っている人々が求めた改革を実現するにはヨーロッパに目を向けるしかない。ただし、ウクライナのナショナリストたちは、ヨーロッパへの期待も幻想に過ぎないかもしれないことを忘れてはならない。「ヨーロッパかロシアか」という選択をめぐってウクライナ人が深く分裂していること、そしてウクライナを手放したくないロシアの思いが、ウクライナを受け入れたいというEUの思いよりずっと強いことを考えると、ウクライナは東欧諸国の先例にならって国の運命を国民投票で決めるべきなのかもしれない。

CFR Meeting
ウクライナ危機とロシア
―― プーチンはどう動くか

2014年3月号

◎スピーカー
スティーブ・セスタノビッチ
米外交問題評議会ロシア担当シニアフェロー
アレクサンダー・モティル
米ラトガース大学教授
◎モデレーター
ロバート・マクマホン
エディター CFR・ORG

東部のルハーンシク、ヤヌコビッチの地元のドネツィク、そしてクリミアは、全般的には親ロシアの政治が今後も続くこと望んでいると考えることもできる。だが、ルハーンシク、ドネツィクでもっとも大きな影響力をもつ人物は富豪のリナ・アクメトフ。彼は欧米とのつながりに大きな利益を有している。つまり、この二つの地域の人口の一部は分離独立を望んでいるが、経済エリートたちは分離独立には反対している。・・・クリミアも一般に言われるほど親ロシア的ではない。・・・ウクライナの分裂は起きないだろう。(A・モティル)

ウクライナ経済は昨年の11月の時点ですでに危機的な状態にあったし、その後、3カ月に及んでいる革命が、この国の国債の格付けとGDP(国内総生産)にプラスに作用しているはずはない(すでにS&Pはウクライナのディフォルトリスクを警告している)。政治的打開策だけでなく、経済的解決策を考案する必要がある。(S・セスタノビッチ)

勝者なきウクライナ革命
―― キエフからの報告

2014年3月号

アナブル・チャップマン
ジャーナリスト

ヤヌコビッチはウクライナの政治から退場したかもしれないが、これをウクライナ政治の夜明けと考えるのは間違っている。確かに、オレンジ革命期の政治家ティモシェンコが釈放 され、多くの人はこれを歓迎しているかもしれない。だが、彼女の政界復帰はこれまで抗議運動を主導してきた3人の野党指導者間の不安定なバランスを覆すかもしれないし、そもそも、ティモシェンコはヤヌコビッチと同世代の政治家とみなされている。独立広場に集まった人々にとってティモシェンコが刑務所から釈放されたことと、彼女が政界に復帰することはまったく別の話なのだ。結局のところ、人々は「説明責任を果たし、法の支配を尊重し、政治腐敗と戦う」政治家の出現を待ち望んでいる。この思いが満たされるには、今回の革命以上に長い時間がかかるだろう。

Page Top