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ヨーロッパに関する論文

ウクライナ危機とロシアの立場

2014年4月号

ジェフリー・サックス
コロンビア大学教授(経済学)

欧米はウクライナの領土保全回復を目的に掲げるだけでなく、ロシアの利益と懸念にも応分の正当性があることを認める必要がある。ウクライナの安定は、ロシアの協力なしでは達成できないし、そうした協力が実現するとすれば、欧米がロシアに対して和解的な危機管理策をとった場合だけだ。ウクライナはヨーロッパとロシアの双方と分かちがたく結びついている。巨大なコスト負担を覚悟しない限り、どちらか一つとの関係を遮断できない場所に位置している。欧米は、ウクライナをロシアの軌道から引き離そうとするのではなく、むしろ、ロシアとウクライナが、先を見据えて、互恵的関係を模索するように働きかけ、EU、ロシア双方との経済的つながりを拡大することを目的に据えるべきだ。

ウクライナ危機とパイプライン
―― ヨーロッパの本当のエネルギーリスクとは  

2014年4月号

ブレンダ・シャッファー
ジョージタウン大学客員研究員

ウクライナ危機を前にしたヨーロッパ人の脳裏をよぎったのは、2009年の天然ガス供給の混乱だった。この年、ロシアがウクライナへの天然ガスの供給を停止したために、ヨーロッパ諸国への供給も混乱し、真冬に暖をとれない事態に陥った。すでにウクライナ危機からヨーロッパを守るために、アメリカからの液化天然ガス(LNG)輸出を急ぐべきだという声も耳にする。たしかに、短期的に供給が混乱する危険もあるが、長期的にみてより厄介なのは、ハブプライシングシステムの導入など、ヨーロッパのエネルギー政策が方向を違えており、しかも(天然ガス価格が高いために)石炭の消費が拡大していることだ。仮にアメリカからLNGを輸出しても、その価格は、ロシアの天然ガス価格の少なくとも2倍になる。ワシントンは、ヨーロッパへLNGを供給することの利益が明確になるまで、拙速にエネルギー輸出の決定を下すのは自重すべきだろう。

クリミアは手始めにすぎない
――プーチンが欧米世界に突きつけた
果たし状

2014年4月号

アイバン・クラステフ
(ブルガリア)リベラル戦略センター 理事長

プーチンが軍事力に訴えたのは、他に選択肢がなかったからではなく、欧米のゲームルールを変えたいと考えたからだ。実際、キエフに圧力をかけることが目的なら、他にも多くのやり方が存在した。最近の行動からみれば、プーチンの戦略目的は、クリミアを他のウクライナ地域から切り離すことではない。ロシアとの統合を高めたウクライナ東部を内包する連合国家へとウクライナを変貌させることが狙いだ。クリミアでの行動を通じて、彼は法的な規範と冷戦後のヨーロッパ秩序構造を疑問に感じていることをはっきりと示した。プーチンは今回の行動を通じて欧米世界に果たし状を突きつけたことになる。彼は欧米の近代的価値を拒絶し、ロシアとヨーロッパ世界との間に明確な境界線を引こうとしている。プーチンにとって、クリミアはその手始めにすぎない。

流れは独ロが規定する新ヨーロッパへ
―― ウクライナ危機と独ロの特別な関係

2014年4月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン
ノースイースタン大学教授(政治学)

ヨーロッパでの紛争を回避するために戦後ドイツがフランスとともに西側の枠組みに参加したように、冷戦後のドイツは東ヨーロッパにおける平和的な秩序を支えようと、クレムリンとの強固なパートナーシップの構築を試みた。そしてウクライナ危機が起きた。ヨーロッパとの明確な境界線を引きたいロシアにとっては、クリミアの支配という現状を維持し、ウクライナを不安定化させようと試みるのが合理的なのかもしれない。一方、ドイツは、ロシアとウクライナを直接交渉させる道筋へと向かわせたいと考えている。ロシアに対する制裁には及び腰で、むしろ緊張緩和に努めているとしても、ドイツはウクライナをヨーロッパの経済的軌道に組み込むことを決意しているようだ。クリミアの混迷は膠着状態から抜け出せないかもしれないが、いずれドイツとロシアは協調し、いまはまだ共有していない新しいヨーロッパのビジョンに向けて動き出すかもしれない。

ヨーロッパかロシアか、それが問題だ
―― ウクライナのナショナリズム

2014年4月号

オーランド・フィゲス
ロンドン大学バークベックカレッジ教授(歴史学)

ウクライナが現在直面している苦悩の中枢には、ロシアとの「戦略的パートナーシップ」に対する抵抗感と、「腐敗した政府からウクライナを政治的・経済的に救えるのはヨーロッパだ」という認識の間の葛藤がある。短期的には、ウクライナはロシアと仲違いするわけにはいかない。ロシアはウクライナのエネルギー供給を支配している上に、債務の大半を所有している。両国は産業面でも深く結びついている。だが長期的には、ウクライナにとって最大の期待はヨーロッパだ。街頭で抗議を行っている人々が求めた改革を実現するにはヨーロッパに目を向けるしかない。ただし、ウクライナのナショナリストたちは、ヨーロッパへの期待も幻想に過ぎないかもしれないことを忘れてはならない。「ヨーロッパかロシアか」という選択をめぐってウクライナ人が深く分裂していること、そしてウクライナを手放したくないロシアの思いが、ウクライナを受け入れたいというEUの思いよりずっと強いことを考えると、ウクライナは東欧諸国の先例にならって国の運命を国民投票で決めるべきなのかもしれない。

CFR Meeting
ウクライナ危機とロシア
―― プーチンはどう動くか

2014年3月号

◎スピーカー
スティーブ・セスタノビッチ
米外交問題評議会ロシア担当シニアフェロー
アレクサンダー・モティル
米ラトガース大学教授
◎モデレーター
ロバート・マクマホン
エディター CFR・ORG

東部のルハーンシク、ヤヌコビッチの地元のドネツィク、そしてクリミアは、全般的には親ロシアの政治が今後も続くこと望んでいると考えることもできる。だが、ルハーンシク、ドネツィクでもっとも大きな影響力をもつ人物は富豪のリナ・アクメトフ。彼は欧米とのつながりに大きな利益を有している。つまり、この二つの地域の人口の一部は分離独立を望んでいるが、経済エリートたちは分離独立には反対している。・・・クリミアも一般に言われるほど親ロシア的ではない。・・・ウクライナの分裂は起きないだろう。(A・モティル)

ウクライナ経済は昨年の11月の時点ですでに危機的な状態にあったし、その後、3カ月に及んでいる革命が、この国の国債の格付けとGDP(国内総生産)にプラスに作用しているはずはない(すでにS&Pはウクライナのディフォルトリスクを警告している)。政治的打開策だけでなく、経済的解決策を考案する必要がある。(S・セスタノビッチ)

勝者なきウクライナ革命
―― キエフからの報告

2014年3月号

アナブル・チャップマン
ジャーナリスト

ヤヌコビッチはウクライナの政治から退場したかもしれないが、これをウクライナ政治の夜明けと考えるのは間違っている。確かに、オレンジ革命期の政治家ティモシェンコが釈放 され、多くの人はこれを歓迎しているかもしれない。だが、彼女の政界復帰はこれまで抗議運動を主導してきた3人の野党指導者間の不安定なバランスを覆すかもしれないし、そもそも、ティモシェンコはヤヌコビッチと同世代の政治家とみなされている。独立広場に集まった人々にとってティモシェンコが刑務所から釈放されたことと、彼女が政界に復帰することはまったく別の話なのだ。結局のところ、人々は「説明責任を果たし、法の支配を尊重し、政治腐敗と戦う」政治家の出現を待ち望んでいる。この思いが満たされるには、今回の革命以上に長い時間がかかるだろう。

ウクライナのジレンマ

2014年3月号

エイドリアン・カラトニッキー
アトランティックカウンシル シニアフェロー

プーチンは、ヤヌコビッチ大統領に経済的支援を与えることで、EU(欧州連合)との連合協定の調印を見送らせ、ウクライナにおけるロシアの影響力を取り戻そうとした。だが、プーチンの意向に応じたヤヌコビッチにウクライナ市民は強く反発し、これが大規模な反政府運動へとつながっていった。いまやウクライナは「内戦に陥りかねない危機的な状況にある」。・・・ウクライナが直面しているのは、オレンジ革命時のように、政権崩壊後の権力の空白を野党勢力が埋めるといった簡単な流れではない。ヤヌコビッチを支持してきた現在の既得権益層には有力な財界指導者も含まれている。(訳注 2014年2月22日、デモ隊がキエフを掌握し、議会はヤヌコビッチ大統領の解任と大統領選挙を5月25日に行うことを決議した)  (聞き手はロバート・マクマホン Editor@cfr.org)

CFR Meeting
ウクライナ危機の外交・経済・軍事的衝撃を検証する

2014年3月号

◎スピーカー
チャールズ・クプチャン/ヨーロッパ担当シニアフェロー
ロバート・カーン/国際経済担当シニアフェロー
ジャニン・デビッドソン/国家安全保障担当シニアフェロー
◎モデレーター
アニヤ・シュメマン/アメリカン大学国際関係大学院/アシスタント・ディーン

ロシアのナショナリストたちは、スラブ民族と東方(ロシア)正教系諸国の連帯を求めるユーラシア連合を通じてロシアを再建したいと考えている。・・・だが、ウクライナはヤヌコビッチ政権を倒すことで「われわれにはスラブ民族、東方正教会のつながりを基盤するユーラシアブロックに入るつもりはなく、ヨーロッパの一部になりたい」というメッセージをプーチンに送ったことになる。今回の事態は、これに対するプーチンのウクライナへのメッセージとみなせる(C・クプチャン)

IMFによる融資をまとめるには時間がかかるし、ウクライナの暫定政権はIMFが求めるような改革を遂行していく政治的基盤をもっていない。「当面の措置として、第2ステージに進むためのつなぎ融資を多くの条件をつけずに提供する必要がある」(R・カーン)

プーチンが大きな野心を露わにしてクリミアだけでなく、他のウクライナ地域に侵攻すれば、制圧地域を維持する一方で、親欧米派の激しい抵抗に直面する。彼が制圧しようとする地域で、抵抗運動だけでなく、ゲリラ戦が起きる。(J・デビッドソン)

カスピ海資源をめぐるロシアとの攻防
―― シャーデニス・ガス田の地政学

2014年2月号

ブレンダ・シャファー
ジョージタウン大学ユーラシア大陸・ロシア・東ヨーロッパセンター(CERES)客員研究員

EU(欧州連合)とウクライナの連合協定の締結はロシアの圧力によって先送りされたが、その直後に、EUは、シャーデニス・ガス田からヨーロッパへと天然ガスを輸送するパイプライン敷設に関する協定をアゼルバイジャン政府と締結している。ロシアは旧ソビエト諸国がヨーロッパとの貿易関係を拡大するのを阻止したいと考えているだけに、EUとアゼルバイジャンが締結した合意の政治的意味合いは深い。ロシア、イラン、トルコに囲まれた小国のアゼルバイジャンは、その独立を守るために、おそらくウクライナ以上に欧米を必要としている。そして、ヨーロッパは2012年に起きたような、需要のピーク時に深刻な天然ガス供給不足に陥るといった事態を回避するためにも、新たな天然ガスの供給を確保したいと考えている。アメリカの中央アジアへの関心が希薄になっているとしても、ヨーロッパは旧ソビエト圏での影響力を形作ることを諦めるべきではない。

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