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ヨーロッパに関する論文

解体したヨーロッパ市民社会
―― 多文化主義と同化政策はなぜ
失敗したか

2015年4月号

ケナン・マリク
インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト

多文化主義と同化主義は、社会の分裂に対する二つの異なる政策処方箋だが、結局、どちらもヨーロッパの社会状況を悪化させてきた。英独は多文化主義政策を、フランスは同化政策を導入した、だが、イギリスではコミュニティ同士の衝突がおき、ドイツのトルコ人コミュニティは社会の主流派からさらに切り離され、フランスでは当局と北アフリカ系コミュニティの関係が険悪になった。しかし、社会が分裂し、マイノリティが疎外され、市民の怒りが高まっている点では各国は同じ状況にある。理想的な政策は「多文化主義の多様性を受容する側面と、同化主義の誰でも市民として扱う側面を結合させることだろう」。だが、ヨーロッパ諸国はその正反対のことをやってきた。多文化主義と称してコミュニティをそれぞれの箱に閉じ込めるか、同化主義と称してマイノリティを主流派から疎外してきた。この政策が分断を作り出してしまった。

欧州連合を崩壊から救うには
―― 緊縮財政から欧州版三本の矢へ

2015年3月号

マティアス・マティス ジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツスクール准教授、R・ダニエル・ケレメン ラトガース大学教授(政治学)

いまやヨーロッパ市民はヨーロッパ統合プロジェクトの成果を忘れ去り、EUのことを無能な指導者が率い、経済的痛みを市民に強いる組織だと考えている。かろうじて持ち堪えてはいるが、EUは勢いとソフトパワーを失っている。いまや大胆で奥深いアジェンダを掲げるときだ。先ず経済政策の焦点を緊縮財政から投資と成長へと見直していくべきだ。EUの指導者たちは日本の安倍晋三首相が試みている「3本の矢」に目を向け、量的緩和、景気刺激策、構造改革を組み合わせて実施する必要がある。安全保障と自由主義的価値の領域では、外にロシア、内にハンガリーという脅威を抱え、イギリスのEU脱退という問題にも直面している。だが危機を連帯の機会とみなすべきだ。EUの指導者たちは、経済、安全保障、民主主義をめぐって連帯すればヨーロッパはより強くなれるという自信を取り戻す必要がある。

ハンガリーの独裁者
―― ヴィクトル・オルバンの意図は何か

2015年3月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン ノースイースタン大学教授(政治学)、ピーター・クレコ 政治資本研究所 ディレクター、アティラ・ユハス 政治資本研究所 シニアアナリスト

ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、国内で民主的制度を傷つける政策をとり、対外的にも第一次世界大戦後に喪失した領土の回復を模索するかのような路線をとっている。「外国で暮らすハンガリー系住民にパスポートを発行し、投票権を与えること」を目的に一連の法律を成立させた彼は、周辺国の同胞たちに自治権を模索するように呼びかけている。モスクワがウクライナやアブハジアのロシア系住民にロシアの市民権を与えたことが、その後の侵略の布石だったことを思えば、オルバンの言動に専門家が戦慄を覚えたとしても不思議はない。だが、彼の意図は、ウラジーミル・プーチンのそれとは違うようだ。民族主義の視点から失われた領土を取り戻すことよりも、オルバンはむしろ選挙での政治的優位を確保することを重視している。問題は、これまでのところ彼の戦略が機能しているとはいえ、いずれそのデリケートなバランスが崩れるかもしれないことだ。

緊縮財政が民主主義を脅かす
―― ルビコン川を渡ったヨーロッパ

2015年3月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治経済学)、コーネル・バン ボストン大学大学院助教(政治学)

単一通貨を共有しつつも、財政政策を共有していなければ、危機に直面した国は緊縮財政を実施せざるを得なくなる。だがその結果、GDP(国内総生産)はさらに大幅に縮小し、それに応じて債務は増えていく。これがまさに、最近のヨーロッパで起きていることだ。問題はドイツが主導するヨーロッパ当局がデフレの政治学を債務国に強要し、債権国の資産価値を守るために、債務国の有権者が貧困の永続化を支持するのを期待していることだ。どう見ても無理がある。このような環境では、本来は安定している国でも急進左派と急進右派が、われわれが考えているよりも早い段階で急速に台頭してくる。ギリシャの「チプラス現象」がヨーロッパの他の国で再現されるのは、おそらく避けられない。ルビコン川を最初に渡ったのはギリシャだったかもしれない。しかしその経済規模ゆえにゲームチェンジャーになるのは、おそらくスペインだろう。・・・

スペインを席巻するポデモスの正体
―― 急進左派思想と現実主義の間

2015年3月号

オマー・G・エンカーナシオン バード・カレッジ教授(政治学)

反エスタブリッシュメント、反緊縮財政の立場をとるギリシャの急進左派連合と同じ主張をしているスペインの新党ポデモスが大きな注目を集めている。2014年11月の世論調査で、ポデモスが(これまでスペイン政治を支配してきた)保守派の国民党や中道左派の社会労働党を凌ぐ勢いをもっていることが明らかになったからだ。スペインがギリシャ経済の6倍、欧州連合内でも4番目に大きな経済をもっている以上、ポデモスはユーロ圏に対するさらに大きな脅威になると考える専門家もいる。たしかに、ポデモスはギリシャの急進左派連合だけでなく、ラテンアメリカで噴出した極左のポピュリスト運動、特にベネズエラのウゴ・チャベスが主導した「ボリバル革命」を想起させる。しかし、ポデモスが急進主義をとった時代は終わり、より現実主義的な組織に生まれ変わりつつある。幅広い階層からの支持を獲得できる包括政党を目指すにつれて、ポデモスは過激な主張を控え、現実主義路線へと向かっている。

ウクライナを救うには
―― 武器支援ではなく、経済援助を

2015年3月号

ラジャン・メノン ニューヨーク市立大学教授(政治学)、キンバリー・マルテン バーナード・カレッジ教授(政治学)

ウクライナ紛争をめぐる今回の停戦合意も、前回同様に破綻するかもしれない。そうなれば、オバマ政権はウクライナへの武器供与を求める、これまで以上に大きな圧力にさらされるだろう。すでに米政府高官の一部は、ウクライナへの武器支援を主張し始めている。だが、武器を提供すれば、ウクライナ東部の紛争は長期化し、アメリカの兵器が他の勢力へと流れる恐れもある。紛争の長期化でロシアを経済的にさらに追い込めると主張する人々もいる。だが、ウクライナ経済はロシア経済以上に深刻な状態にあり、破綻の瀬戸際にある。紛争の長期化が、経済崩壊に直面するウクライナを助けるだろうか。ロシアに懲罰を与えようと、武器を提供して紛争を長期化させ、結果的にウクライナを苦しめるとすれば、プーチンの仕事を彼に成り代わってするようなものだ。アメリカが武器を提供すれば、ウクライナを助けるのではなく、傷つけることになる。

ドイツの極右運動ペギーダが動員するデモ隊は「重税、犯罪、治安問題という社会的病巣を作り出しているのはイスラム教徒やその他の外国人移民だ」と批判している。「ドイツはいまやイスラム教徒たちに乗っ取られつつある」と言う彼らは、「2035年までには、生粋のドイツ人よりもイスラム教徒の数の方が多くなる」と主張している。実際には、この主張は現実とはほど遠い。それでもドイツ人の57%が「イスラム教徒を脅威とみなしている」と答え、24%が「イスラム系移民を禁止すべきだ」と考えている。「ドイツのための選択肢」を例外とするあらゆるドイツの政党は、ペギーダを批判し、彼らの要求を検討することさえ拒絶している。だが今後、右派政党「ドイツのための選択肢」の支持が高まっていけば、ペギーダ運動が政治に影響を与えるようになる危険もある。

フランスのアルジェリア人
―― フランス紙銃撃テロの教訓

2015年2月号

ロビン・シムコックス  ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ リサーチフェロー

17人が犠牲になった2015年1月のフランス紙銃撃テロは、イスラム過激派がフランスを対象に実施した初めてのテロではない。実際には、1995年以降、フランスで起きたイスラム過激派のテロによって12人を超える人が犠牲になり、数百人が負傷している。しかも、これはフランスに留まる話ではない。最近の歴史から明らかなのは、ジハーディストが攻撃を正当化する大義をつねに見いだすということだ。2011年のフランスによるリビア介入でなければ、2013年のマリへの介入が大義に持ち出される。外交政策でなければ国内政策が、ヘッドスカーフ(ヒジャーブ)の公共空間での禁止でなければ、侮辱的な風刺画を描いたことが攻撃の大義にされる。この理由ゆえに、今回のテロ攻撃から教訓を学ぼうとしても、それを政策として結実させるのは難しい。テロリストは攻撃を常に正当化しようとする。・・・

ヨーロッパのイスラム教徒
―― アイデンティティ危機とイスラム
原理主義

2015年2月号

ファラ・パンディッシュ(スピーカー)ジョナサン・マスターズ(プレサイダー) 前国務省特別代表(イスラム社会担当)www.cfr.org 副編集長

ヨーロッパで暮らすイスラム教徒の若者たち、特にミレニアム世代の若者たちは、アイデンティティ危機に直面している。自分が誰なのかを自問し、両親もその答をもっていない自画像の問題に思い悩んでいる。こうして、インターネットで情報を探したり、答を示してくれる人物がいそうな場所に出入りしたりするようになる。パリのテロ事件にも、明らかにこのメカニズムが作用している。次の段階に進もうとアイデンティティを模索するヨーロッパのイスラム教徒の若者たちが、イスラム過激派・原理主義勢力が示すストーリーに魅了されるのは不思議ではない。問題は、イスラム過激派がイスラム教徒はどのようにあるべきか、どのように暮らすべきかだけでなく、彼らを取り巻く環境がどのようなものでなければならないかについて、極端に厳格でイデオロギー的で、教条主義的な立場をとっていることだ。彼らは他者への寛容という概念を明確に拒絶し、「われわれ対彼ら」という精神構造をもっている。これを解体しなければならない。・・・だが、イスラム過激派のイデオロギーに対抗できるのは、同じイスラム社会内部の信頼できる人物によるメッセージだけだろう。

欧米に背を向けたドイツ
―― 中ロとの関係強化を模索する理由

2015年1月号

ハンス・クンナニ 欧州外交問題評議会 リサーチディレクター

ドイツは欧米同盟に留まることが経済的、軍事的に不可欠だとはもはや考えていない。ベルリンの壁崩壊とEUの拡大は、アメリカに軍事的に依存する必要性からドイツを解放し、しかも、ドイツの輸出主導型経済は、ロシアや中国市場への依存を強めている。これは、アメリカ主導の対ロ制裁への参加を決定する際に、メルケル首相が制裁に反対する経済界からの大きな圧力に直面したことからも明らかだろう。・・・ドイツは中国との経済関係の強化も模索している。「アジア版クリミア編入」が起きて、アメリカが中国との深刻な対立局面に陥った場合、ドイツはどう動くだろうか。おそらく中立を選ぶはずだ。・・・EUにおける大きな影響力をもっているだけに、中ロとの関係強化を模索するドイツ外交の変化は、ヨーロッパ外交にも大きな影響を与えずにはおかないだろう。・・・・

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