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ヨーロッパに関する論文

貿易の停滞と海運産業の再編
―― 停止した国際貿易の成長

2016年11月号

マーク・レビンソン
米ジャーナリスト

貿易が大きく拡大する時期には貨物運賃が上昇するため、海運会社はより大きく、より高価な船舶を発注する。しかし3―4年経って船が完成するころには経済状況が様変わりしていることも多く、過剰な積載容量を抱え込んで運賃が低下し、拡大路線をすすめた海運会社が破綻することも多い。現在起きているのはこうした海運業界につきものの景気の波だが、そこに新たな要素が加わっている。2008―2009年に西半球・ヨーロッパならびに一部アジア地域をおそった金融危機の影響で、第二次世界大戦以降初めて、国際貿易の成長がとまってしまったことだ。巨額の損失を計上して経営破綻し、買収・合併され、合弁事業化されるケースが相次いでいる。2015年には、コンテナ取引量はオークランドで5%近く、東京で6%、シンガポール、ハンブルク、香港では約9%と各港で落ち込んだ。コンテナ海運業界の波乱は短期間では終わらないだろう。

なぜプーチンは米大統領選挙に干渉したか
―― トランプ支援とロシアの国内政治

2016年11月号(掲載予定)

グレゴリー・フェイファー 米ジャーナリスト

ドナルド・トランプが(「自分はロシアのプーチン大統領を尊敬している」と語ったことで)、プーチンが見逃すはずもない絶好のチャンスが作り出された。互いに相手を気に入っている2人は、「アメリカの政治エスタブリッシュメントを切り崩したい」と考えている点でも立場を共有している。ロシアが外国をターゲットにしたサイバー攻撃を政治的武器として使い始めたのは少なくとも10年ほど前からだが、大統領選挙のさなかに特定の大統領候補を支援しようとアメリカにサイバー攻撃を試みたのは、今回が初めてだ。しかし、プーチンの目的はロシア国内にある。自分が作り上げた統治システムと80%以上の高い支持率を維持していく上で、間違いなく効き目があるのはアメリカに挑戦していることを国内でアピールすることだからだ。これほど確かな得点稼ぎの方法はそう多くない。プーチンにとって、選挙キャンペーンが展開されるアメリカで、自分が話題にされるだけで十分なのだ。

北欧福祉国家モデルの幻想
―― なぜ誤解が生じているのか

2016年10月号

ニマ・サナンダジ
スウェーデンの作家・研究者

北欧諸国は繁栄を遂げつつも、富を平等に分配し、優れた社会を実現しているようにみえるかもしれない。だが、そうしたイメージは誇張されている。北欧諸国の経済は民主社会主義(スカンジナビアモデル)に移行して以降よりも、それに先立つ市場経済時代の方が急速な成長を遂げていた。所得格差にしても、福祉国家が定着する前の段階でスウェーデンの所得格差は減少し始めていた。要するに、スカンジナビアにおける福祉国家の成功をテーマとするアメリカ人の研究は、福祉国家体制を確立する前のスカンジナビアの歴史、この地域の人々の社会的特性にまったく関心を寄せておらず、歴史的視点、社会・文化的視点が欠落している。「経済成長を損なうことなく、大規模な社会保障システムを導入できる」と考えるのは間違っている。北欧諸国の実験から得られる教訓とは、「福祉国家システムは社会保障への依存という文化を作り出してしまう」ことに他ならない。

EUの衰退と欧州における
国民国家の復活

2016年10月号

ヤコブ・グリジェル 欧州政策分析センター シニアフェロー

いまやヨーロッパ市民の多くは、EU(欧州連合)の拡大と進化、開放的な国境線、国家主権の段階的なEUへの委譲を求めてきた政治家たちに幻滅し、(超国家組織に対する)国民国家の優位を再確立したいという強い願いをもっている。ブレグジットを求めたイギリス市民の多くも、数多くの法律がイギリス議会ではなく、ブリュッセルで決められることに苛立っていた。昨今におけるドイツの影響力拡大を前に、ギリシャやイタリアなどの小国はすでにEUから遠ざかりつつある。一方、EU支持派の多くは、この超国家組織がなくなれば、ヨーロッパ大陸は無秩序に覆い尽くされると主張している。だが現実には、自己主張を強めた国民国家で構成されるヨーロッパのほうが、分裂して効率を失い、人気のない現在のEUよりも好ましいだろう。アメリカの指導者とヨーロッパの政治階級は、ヨーロッパにおける国民国家の復活が必ずしも悲劇に終わるとは限らないことを理解する必要がある。

ヨーロッパをテロから守るには

2016年10月10日

デヴィッド・オマンド
キングス・カレッジ・ロンドン 客員教授

アメリカのアルカイダに対する対応が緩慢だったように、ヨーロッパもイスラム国の台頭に迅速に対処せず、これによって深刻な事態が引き起こされている。ヨーロッパの情報当局は内外の情報を統合することを怠り、国内における警察と治安・情報当局、軍の間の連携もうまくいっていない。しかも、あまりに長期にわたって、域内の国境線を事実上取り払ったシェンゲン協定が伴うリスクを無視してきた。テロ対策に必要なのは「敵を知り」、民主的価値を損なわないアプローチをとり、柔軟性を保ち、情報をめぐる国際協調をもっと進化させることだ。重要なのは平和な日常を維持し、それが乱された場合には速やかに平穏を取り戻せる態勢を強化していくことだ。

テリーザ・メイのブレグジット戦略
―― 交渉パートナーとの妥協点をいかに見出すか

2016年10月号

ティム・キュレン オックスフォード大学ビジネススクール アソシエートフェロー

テリーザ・メイはすでに、イギリスの全般的離脱アプローチをまとめるまでは、リスボン条約の50条を発動して離脱をEUに通知することはないと明言し、今後の交渉を踏まえて、イギリスにいるヨーロッパ人が離脱後もイギリスで暮らせるかどうかについても確約を与えるのを避けている。一方、当初は強硬だったメルケルやオランドを始めとするヨーロッパの指導者たちも、自国の政治状況に配慮して、交渉時期の先送り容認に向けて態度を軟化させている。しかし、困難なタスクが待ち受けていることに変わりはない。交渉を担当できる人材が不足しているだけでなく、スコットランドなどの分離独立問題も抱えている。重要なポイントは交渉相手となる諸国が、「ヨーロッパ・プロジェクト」へのコミットメントよりも、自国の政治利益を重視していることだ。そこから交渉の見取り図を描かなければならない。

ギュレン派とエルドアンとトルコ軍
―― 軍事クーデターとその後

2016年9月号

ジョン・バトラー トルコ分析者
ドブ・フリードマン トルコ・クルド問題専門家

依然としてトルコでのクーデター計画の全貌、そして誰が計画に関与したのか、首謀者が誰だったのかについての詳細ははっきりしない。但し、AKPとギュレン運動が(クーデター前から)権力抗争を続けていたことは明らかだ。(2013年に)ギュレン派はAKPの指導層を標的に政治腐敗の調査に着手し、エルドアンはギュレン派を官僚、メディア、ビジネスからパージすることでこれに報復した。クーデターが起きた7月15日の時点でも、パージは続いていた。そして、ギュレン派の動機と能力を警戒した軍高官たちは、ギュレン派のシンパとみられる将校たちのリストを作成していた。重要なのは、このリストが、ギュレン派が今回のクーデターを企てたとする主張を支える証拠とされていることだ。このリストには、ムハレム・コセだけでなく、クーデターの首謀者とみられる人物の名前、そしてクーデターを支援した部隊駐屯地を指揮した人物、さらには、アカル参謀長の誘拐を助けた人物、同僚の高官を逮捕した人物、トルコの都市に戒厳令を出した人物の名前があった。・・・

難民そしてギリシャの悲劇
―― EUに放置されたギリシャと
難民たち

2016年9月号

ソニア・シャー 調査ジャーナリスト

欧州連合(EU)の難民対策は、難民を保護し、彼らの人権を守るためではなく、難民危機を前にヨーロッパで台頭する排外主義や極右勢力への対策として考案されている。当然、「できるものなら見て見ぬふりをしたいとEUが考える難民」の権利を支えることにギリシャ政府が政治的インセンティブを見出すはずはない。しかも、ギリシャは2009年に財政危機に陥って以降、厳格な緊縮財政を強いられ、ギリシャ市民そのものが非常に困難な生活を強いられている。一方、難民たちは祖国で経験した恐怖やトラウマに加えて、「(避難先のギリシャでも)自分たちは見捨てられている」と絶望している。実際、難民の自殺や急性の精神疾患が急増している。しかも、ギリシャにいる難民が健康を維持できるかは、低賃金で、ただでさえオーバーワーク気味のギリシャの医師たちが、言葉も通じない患者に時間を費やしてボランティアで治療をするかどうかにかかっている。

テロ情報の共有で変化する米欧関係
―― プライバシー保護とテロ対策の間

2016年9月号

ミシェル・フロノイ 元米国防次官(政策担当)
アダム・クレイン 米外交問題評議会国際関係フェロー

依然としてスノーデン事件の衝撃の余波が残るヨーロッパでも、アメリカのサーベイランス活動をどう受け止めるかについての政治ダイナミクスは変化し始めている。ドイツでは、自国の情報機関が外国の政府機関を諜報の対象にしていたことが明らかになったことで変化が生じた。ジハード主義者の攻撃に脅かされるベルギー、フランスその他のヨーロッパ諸国世論も、(プライバシー保護よりも)安全保障重視へと大きく傾斜し、情報活動への見方は変化している。すでにホワイトハウスは、ヨーロッパの同盟諸国の防衛と国境警備の強化のため、ヨーロッパの主要都市に対テロ専門家チームを派遣している。アメリカの次期政権は、ヨーロッパの情報活動に関する政治ダイナミクスの変化がもたらしている機会をうまく生かす必要がある。

欧州のシルバー民主主義と年金危機
―― その弊害をいかに緩和するか

2016年9月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

ヨーロッパの若年層が「自分たちも親世代と同じように寛大な年金を受けとれる」と考えていたのはそう昔の話ではない。だが、現実にはヨーロッパ全域で、未来の世代に重荷が押しつけられ、高齢者の立場が「政治的に」優遇されている。年金危機対策にしても、結局は、「将来の年金受給者」を対象とする見直しが行われただけで、引退世代の社会保障は温存されている。イギリス、イタリア、スペイン、フランスなどで実施された一連の制度改革は、いずれも現在の年金受給者には何の影響も与えない。しかも実際には、ヨーロッパの退職者の所得の中央値は現役労働者の所得の中央値と等しく、退職者の方が高い国さえある。年金制度の破綻を防ぐには、財政の持続可能性、世代間の連帯、世代間の公正という三つの原則間のバランスをとる必要がある。

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