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ヨーロッパに関する論文

ドイツ政治の漂流
―― 既成政党に挽回のチャンスはあるのか

2018年1月号

スーダ・デビッド=ウィルプ 米ジャーマン・マーシャル・ファンド ベルリンオフィス 副所長

中道政党が長く統治を担ってきたドイツの政治構造に変化が生じている。右派・ポピュリスト政党の「ドイツのための選択肢」は9月の選挙の結果、連邦議会で94議席を手に入れた。連立協議が崩壊した後、メルケルは社会民主党との大連立に向けた協議を模索しているが、解散総選挙というシナリオも依然として取り沙汰されている。ヨーロッパが、欧州の防衛、ユーロゾーンの改革、ブレグジットのような困難な問題へドイツがどのような対応を示すかを心待ちにしているタイミングにあるというのに、ヨーロッパ最大の経済国家として大陸の安定した中核を狙うべき国が地図のない海域で漂流している。

カタルーニャのナショナリズム
―― 分離独立危機の歴史的ルーツ

2017年12月号

セバスチャン・バルフォア
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 名誉教授(現代スペイン研究)

スペインで最初に近代化を果たしたのは、他の地域とは言語・文化・アイデンティティが大きく異なるバスクとカタルーニャだった。フランスとは違って、国の力が弱かったスペインでは、中央が全国レベルでの正統性を得ることも、国を束ねるような社会的凝集力が生まれることもなかった。マドリードの支配者たちが権力を行使するには、国内周辺地域のエリートとの同盟に依存せざるを得なかった。だが、この中央と地方のパートナーシップも、米西戦争に敗れ、もっとも重要な植民地をアメリカに奪われた後に崩壊し始めた。20世紀に入ると、フランコの独裁政権はカタルーニャのアイデンティティとかかわってくる制度や組織を解体し、その言語を公的な場から一掃した。この時期にスペインのファシスト政権が民主化運動と抗議デモを弾圧したことが、今もカタルーニャ・ナショナリズムの原点とされている。・・・

ロシアの軍事的復活と地政学的野望
―― 偶発戦争を回避するには

2017年12月号

アイボ・H・ダールダー 元米NATO大使

軍備を増強し、軍事態勢を刷新したモスクワは「ロシアは再び重要な国となり、国際社会が無視できない存在になった」と、新たに自信をもち始めている。プーチンは「今後もロシア人と、外国で暮らすロシア系住民の権利を積極的に守り続ける」と主張し、「私が対象としているのは、自分を幅広いロシア・コミュニティーの一員と考えている人々だ」とさえ語っている。この発言を前に、1930年代のドイツの声明を想起した人は多いはずだ。プーチンは、近隣諸国を脅かし、北大西洋条約機構(NATO)を弱体化させようと、ロシア軍の近代化を大がかりに実施し、公然と軍事力を使って既成事実を作り上げつつある。しかも、この行動はヨーロッパとの境界線に留まるものではない。北は北極海から、南は地中海までの広い地域へロシアは軍事的影響力を拡大している。

民主国家に浸透する権威主義
―― 蝕まれるリベラルな民主主義

2017年11月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所  ディレクター

欧米諸国による批判や敵意を前にすると国内が不安定化する傾向があるロシアなどの権威主義国家は、民主国家による民主化促進策、反体制派支援、経済制裁などを阻止するための盾を持ちたいと考えてきた。こうして、欧米の政治に介入したり、プロパガンダ戦略をとったりするだけでなく、資金援助をしている欧米の政党や非政府組織、ビジネス関係にある企業との関係を通じて、民主社会への影響力を行使するようになった。権威主義国家の最終的な目的は、自分たちの影響力を阻止できないほどに欧米の政府を弱体化させることにある。問題は、民主社会が外国の資金や思想の受け入れに開放的で、欧米のビジネスエリートが権威主義国のクライエントたちからも利益を上げようとしていること、しかも民主体制が弱体化しているために、彼らがつけ込みやすい政治環境にあることだ。・・・

カタルーニャ危機とマドリードの誤算
――スペイン政府の正統性危機

2017年11月号

R・ジョセフ・ハドルストン 南カリフォルニア大学  博士候補生(政治学)

カタルーニャ独立の是非を問う、住民投票当日、(中央政府が派遣した警察との衝突で)900人近くが負傷する事態となった。ラホイ首相は、これを「スペインの民主主義を守るためのリベラルな行動」として正当化したが、彼は合意にもとづく平和ではなく、圧倒的な警察力によるプレゼンスで平和を手に入れようとしている。このために、スペイン政府の正統性そのものが失墜し、それまで独立には関心のなかったカタルーニャ市民、そして国際社会でこの問題を見守るますます多くの人々が、普遍的な支持など集めていたわけではなかった独立運動の立場をカタルーニャの声として受け止めだしている。いまや問われているのはカタルーニャの独立だけではない。スペイン政府の政治的正統性そのものが問われている。

欧米・トルコ関係の分水嶺
――懐柔策ではなく、強硬策を

2017年11月号

ニック・ダンフォ―ス 超党派政策センター シニア・ポリシーアナリスト、イルケ・トイグール マドリード・カルロス3世大学准教授

トルコは、中東の難題に対処する上での頼りにならない協力者から、難題そのものへ変わりつつある。エルドアンが外交面で非協力的な強硬策をとり、内政面でも権威主義的なやり方を続けるのなら、いずれ欧米諸国との軍事協力も経済協力も不可能な状態に陥っていく。成り行きにまかせてそのような事態に直面するのは賢明ではない。米欧は協力して、「トルコとの前向きな関係を維持していくには、エルドアンは非自由主義的で反欧米的な路線を控える必要がある」と明確に伝える必要がある。欧米にとって、エルドアンの権威主義的やり方に目をつぶっていても、安定も協力も得られない。欧米は、トルコとの関係におけるレッドラインを設定し、度を超えた欧米批判、外国の市民を人質として逮捕するやり方を常習化させてはならないとアンカラに伝える必要がある。

トランプとヨーロッパと米英関係
―― 劇場化する米欧関係

2017年11月号

デービッド・グッドハート 英ポリシー・エクスチェンジ 人口動態・移民・統合部長

現在の米欧間の不和には劇場的な要素がある。すべてのプレイヤーたちが、危機を利用して、みずからのアジェンダや主張を推進しようとしている。ヨーロッパの「自立」を求める勢力は、「トランプの登場によってアメリカを永遠に頼りにできないことが明らかになった」という認識が浮上したことを歓迎している。トランプも、ヨーロッパの反発を、米国内における支持基盤の動員には役に立つと考えている。トランプがポピュリストの愛国主義者のふりをし、ヨーロッパのエリートたちが取り乱したふりをしているのはこのためだ。しかしどちらも実際には、本気で米欧同盟を破壊したいとは、これまでのところ考えていない。

スターリンとヒトラー
―― 二十世紀を分けた独裁者の思想と地政学戦略

2017年11月号

スティーブン・コトキン プリンストン大学教授(歴史学)

人種偏見をもち、ソーシャル・ダーウィニズムを信じ、地政学をゼロサムで捉えていたヒトラーが、ドイツの民族的優位を立証するには、(ヨーロッパ支配に加えて)ソビエトとイギリスの双方を粉砕する必要があった。スターリンとの不可侵条約をさらに深化させて、大英帝国のすべてを手に入れる作戦に乗り出すべきか、それとも、ターゲットをソビエトに据え、大英帝国の攻略を後回しにすべきか。一方、スターリンは、大規模な軍備増強路線で戦争に備えつつも、ドイツとの戦争を避け、ドイツがイギリスとの対決へと向かうような環境を作り出そうとしていた。彼はドイツ軍が物資不足に苦しんでいることを理解していた。ソビエトからのさらなる物資供給を必要としているドイツが、その供給を途絶えさせるソビエトとの戦争を開始するのは自滅的だと読んでいた。・・・

米天然ガス輸出が変える欧州の地政学
―― ロシア対アメリカ

2017年10月号

アグニア・グリガス アトランティック・カウンシル  シニアフェロー

2014年末にLNG輸入インフラを建設するまで、リトアニアはロシアからパイプラインで供給される天然ガス資源に完全に依存してきた。ロシアは、この状況につけ込み、政治的緊張が高まると、東中欧諸国向けの天然ガス価格を引き上げ、資源を政治ツールとして用いてきた。だが、いまやアメリカのLNGがヨーロッパ市場に流れ込み始めた。8月に実現したテキサス州からリトアニアへのLNG輸出は、アメリカが天然ガスをめぐるパワフルなグローバルサプライヤーとなりつつあることを示しているし、米企業はガスプロムの伝統的市場でも市場競争を積極的に展開していくつもりだ。これによって、米ロ間の地政学に新たな変数が持ち込まれる。ロシアというサプライヤーへ依存し続けることを長く心配してきたヨーロッパの資源輸入国は、その不安から解放されることになるだろう。

メルケルのトランプジレンマ
―― 自立への道をいかに切り開くか

2017年10月号

ステファン・ティール ハンデルスブラット・グローバルマガジン エグゼクティブ・エディター

ユーロゾーンの救済策だけでなく、難民の流入ペースの緩和に向けたトルコとの合意をまとめるなど、ここにきて、より積極的な行動をとるようになったものの、ドイツは基本的に世界でリーダーシップをとるのを嫌がってきた。しかしいまや、繁栄の基盤であるリベラルな秩序の維持を望むのなら、行動を起こす以外に道はない。ドイツは、自由貿易体制を支えるためにより多くを試み、自国の安全保障へのより大きな責任を引き受け、ヨーロッパがより踏み込んだ経済改革を行うようにリーダーシップを発揮しなければならない。メルケルは、反トランプ感情が支配的なドイツで、アメリカとの実務的関係を維持しつつ、この難題をこなしていかなければならない。

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