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ヨーロッパに関する論文

ヨーロッパの自立と新米欧関係
―― 依存と支配からの独立

2019年8月号

アリーナ・ポリャコバ ブルッキングズ研究所フェロー ベンジャミン・ハダッド アトランティック・カウンシル ヨーロッパの未来イニシアティブ ディレクター

ヨーロッパはアメリカの防衛の傘に入れてもらう代わりに、従順な立場をとり、一方、歴代の米指導者たちも、ヨーロッパが大混乱に陥るよりも、防衛にただ乗りされる方がましだと考えてきた。だが、その後の国際環境の変化を前に安全保障の優先順位を見直したアメリカは、ヨーロッパを危険な環境に放置するようになった。対米協調を国際関係におけるパワーバランスに置き換えがちだったヨーロッパにとって、「パワー」という概念を受け入れることが不可欠だ。一方、アメリカは、ヨーロッパが軍事力を強化しても、アメリカのリードに従うと期待するのは幻想であることを理解しなければならない。防衛支出を増やしたヨーロッパが、政治的に受身であり続けると期待するのは間違っている。いまや大西洋関係は大きな分岐点にさしかかっている。

人口動態と未来の地政学
―― 同盟国の衰退と新パートナーの模索

2019年7月号

ニコラス・エバースタット アメリカンエンタープライズ研究所 政治経済担当議長

大国への台頭を遂げたものの、深刻な人口動態問題を抱え込みつつある中国、人口動態上の優位をもちながらも、さまざまな問題に足をとられるアメリカ。そして、人口動態上の大きな衰退途上にある日本とヨーロッパ。ここからどのような地政学の未来が導き出されるだろうか。ヨーロッパと日本の出生率は人口置換水準を下回り、生産年齢人口はかなり前から減少し始めている。ヨーロッパと東アジアにおけるアメリカの同盟国は今後数十年で自国の防衛コストを負担する意思も能力も失っていくだろう。一方、その多くがアメリカの同盟国やパートナーになるポテンシャルとポジティブな人口トレンドをもつインドネシア、フィリピン、そしてインドが台頭しつつある。国際秩序の未来が、若く、成長する途上世界における民主国家の立場に左右されることを認識し、ワシントンはグローバル戦略を見直す必要がある。・・・

ウクライナ大統領になったコメディアン
―― なぜ勝利し、何が待ち受けているか

2019年6月号

ピーター・ディッキンソン アトランティックカウンシル 非常勤フェロー

選挙を経て、ロシアとの戦争のただ中にある、広大で変化の激しい国の最高責任者となったコメディアンは、今後、世界におけるウクライナの地位を再定義していかなければならない。ウォロディミル・ゼレンスキーが政治腐敗に反対してきたことは誰もが知っている。だが、そのためには、政府機関の人材を全面的に刷新し、政治階級に認められている刑事免責を廃止しなければならない。彼のクレデンシャルを試す最大の試金石は、彼の政治的パトロンとみられるコロイモスキーとの関係をどうするかだろう。彼が大統領選挙に出馬した目的は、コロイモスキーのためにポロシェンコに報復することにあると批判する者もいる。いずれにせよ、この国の課題に直面し始めれば、彼は、台本通りにこなせばよかったTVスター時代を懐かしむことになるだろう。

ポストメルケルで流動化するドイツ政治
―― クランプカレンバウアーの課題

2019年6月号

ソーステン・ベナー グローバル公共政策研究所(GPPi) ディレクター

「2021年まで首相は続投するが、CDUの党首ポストは辞任する」。2018年にメルケルがこう表明して以降、ドイツ政治は漂流している。2015年、難民を受け入れるとメルケルが表明したことをきっかけに、反移民政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がCDU右派を脅かす主要な政治勢力として台頭し、移民を受け入れるか受け入れないかという新たな対立軸が、ドイツ政治を支配するようになった。後任の党首に選ばれたのはCDU幹事長でザールラント州首相を務めたアンネグレート・クランプカレンバウアー。彼女のリーダーシップで世論の関心を移民から「将来のドイツの経済的成功に向けた基礎作り」へと向かわせられるかどうかが今後の鍵を握る。・・・

イギリス政治の再編か
―― ブレグジットと伝統的政党の凋落?

2019年6月号

アナンド・メノン  キングス・カレッジ・ロンドン 教授(ヨーロッパ政治) アラン・ウェージャー キングス・カレッジ・ロンドン リサーチ・アソシエーツ

二大政党の牙城に第三政党がどこまで食い込み、政治を再編できるか。すでに、労働党はこれ以上の離党者を出さぬように、2019年3月に立ち上げられた新党、チェンジUKの立場を取り入れ、国民投票の再実施を支持している。だが、そのチェンジUKも(地方選挙で大きな躍進を遂げた)自由民主党と選挙協力をしない限り、中道派の票を奪い合うことになり、保守党の基盤に切り込めない。(一方、ナイジェル・ファラージが4月に旗揚げした「ブレグジット党」が支持を集めていると報道されている)。今後、国民投票をめぐって作り出された分裂が永続化するような、より抜本的な再編が起きるかどうか、これによって今後のイギリス政治は左右される。

イギリスの混乱は長期化する
―― 断ち切れぬヨーロッパとの絆

2019年6月号

アマンダ・スロート  ブルッキングス研究所米欧センター  シニアフェロー

デービッド・キャメロンが、ブレグジットの国民投票に踏み切ったのは、保守党内部で長く続けられていた「ヨーロッパにおけるイギリスの立場」に関する論争に終止符を打ちたいと考えたからだった。だが、国民投票の結果、論争はさらに深刻化した。そして「EUの単一市場と関税同盟を離脱しつつ、(北アイルランドと)アイルランド間にはっきりとした国境が出現するのを回避し、イギリス全体としてのブレグジットの実現」を目指したテリーザ・メイのアプローチが、これまでのところ解決不能なトリレンマを作り出している。しかも、北アイルランドの立場も分裂している。結局、英議会の分裂は国が分裂していることを意味する。・・・

対中強硬策に転じたヨーロッパ
―― アメリカとの対中共闘路線は実現するか

2019年5月号

アンドリュー・スモール 米ジャーマン・マーシャル・ファンド  シニアフェロー(大西洋関係)

かつて中国に強硬路線をとることを選択肢から外していたヨーロッパも、いまや、より対決的な対中路線をとり始めている。習近平体制の権威主義体制の強化、ヨーロッパへの政治的影響力を拡大しようとする北京の試みなど、ヨーロッパの政治、安全保障上の懸念がこの変化の背景にある。しかし、最大の懸念は経済領域にあるようだ。「いずれ中国も経済システムを改革し、その市場へのより大きなアクセスを認めるようになる」とこれまでのように期待できなくなった。しかも、ヨーロッパがその経済的未来にとって重要と考える産業部門で、国が支援し、補助金を提供している中国の国有企業のプレゼンスが高まっている。これが対中警戒論を浮上させている。

新「ドイツ問題」とヨーロッパの分裂
―― 旧ドイツ問題を封じ込めた秩序の解体

2019年5月号

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所 シニアフェロー

アメリカの安全保障コミットメント、国際的な自由貿易体制、民主化への流れ、ナショナリズムの封じ込めというリベラルな戦後秩序の四つの要因によって、ドイツ問題は地中深くに葬り去られた。問題は、ドイツ問題を封じ込めてきたこれら戦後秩序の要因が、いまやすべて曖昧化していることだ。ヨーロッパ全域でナショナリズムが台頭し、民主主義はあらゆる地域で逆風にさらされている。国際的な自由貿易体制もトランプ政権に攻撃され、アメリカのヨーロッパへの安全保障コミットメントもいまや疑問視されている。ヨーロッパそしてドイツの歴史からみて、このように変化する環境が、ドイツ人を含むヨーロッパ人の行動パターンを変えないと言い切れるだろうか。アメリカと世界が現在のコースを歩み続ければ、穏やかな時代があとどれくらい持ち堪えられるのかについて、考えざるを得なくなるはずだ。

大気中から二酸化炭素を吸収する
―― ネガティブエミッション技術のポテンシャル

2019年5月号

フレッド・クルップ 環境防衛基金会長
ナサニエル・コへイン 環境防衛基金上席副会長(気候担当)
エリック・プーリー 環境防衛基金上席副会長(戦略・広報担当)

気候変動に派生するわずかな気温上昇でも深刻な帰結を伴うと考えられている。例えば、気温が1・5度から2度へと0・5度上昇しただけで、水不足に直面する人は倍増し、海面上昇のリスクにさらされる人口は1000万人増える。主要作物の収穫量が減り、途上国の多くが飢餓状態に陥る。しかも温暖化レベルを左右する大気中の二酸化炭素濃度は、いまや過去300万年で最悪のレベルにある。もはや二酸化炭素排出量の削減だけでは十分ではない。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの大気中濃度を安定化させるには、排出量削減だけでなく、すでに大気中にある二酸化炭素を除去しなければならない。幸い、昔ながらの森林再生から、大気中の二酸化炭素を吸収して地中に貯留するハイテク装置までの幅広い方法がある。・・・

ブレクジットプロセスの破綻
―― 北アイルランドというジレンマ

2019年5月号

ブレンダン・オリリー ペンシルベニア大学教授(政治学)

2017年、欧州連合(EU)と英政府は、北アイルランドがEUの関税同盟と単一市場に残る一方で、イギリスが関税同盟と単一市場から離脱できるようなルールを考案した。悪くない妥協だった。EU残留を望む北アイルランドの民意も尊重される。だが、閣外協力でメイ政権を支えている、北アイルランドの民主統一党(DUP)がこの妥協に難色を示した。このために、北アイルランドだけでなく、イギリスもEUとの関税同盟に留まるという方策「バックストップ」が持ち出され、これが、現在の窮地につながっている。「バックストップ」が適用されれば、イギリス全体がEUとの関税同盟に留まらざるを得なくなり、アメリカなどとの自由貿易協定を締結できなくなる。一方、「バックストップ」を回避する方法の一つは「合意なき離脱」でしかない。・・・

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