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アジアに関する論文

大中国圏の形成と中国の海軍力増強
―― 中国は東半球での覇権を確立しつつある

2010年6月号

ロバート・カプラン アトランティック誌記者

陸上の国境線を安定化させ、画定しつつある中国は、いまや次第に外に目を向け始めている。中国を突き動かしているのは、民衆の生活レベルの持続的改善を支えていくのに必要な、エネルギー資源、金属、戦略的鉱物資源を確保することだ。だが、その結果、モンゴルや極東ロシアに始まり、東南アジア、朝鮮半島までもが中国の影響圏に組み込まれ、いまや大中国圏が形成され始めている。そして、影響圏形成の鍵を握っているのが中国の海軍力だ。北京は、米海軍が東シナ海その他の中国沿海に入るのを阻止するための非対称戦略を遂行するための能力を整備しようとしている。北京は海軍力を用いて、国益を擁護するのに軍事力を使用する必要がないほどに、圧倒的に有利なパワーバランスを作り出したいと考えているようだ。しかし、中国の影響圏の拡大は、インドやロシアとの境界、そして米軍の活動圏と不安定な形で接触するようになる。現状に対するバランスをとっていく上で、今後、「米海軍力の拠点としてのオセアニア」がますます重要になってくるだろう。

アジア諸国の指導者たちは、科学、産業、政府、市民社会へと送り込む優れた人材を育成する場として、世界でトップクラスの大学がもっとも適切な訓練機関であることをすでに理解している。そうした教育機関は、問題を解決し、技術革新を促し、社会をリードしていくのに必要な、思想的な奥行きと建設的・客観的な批判的思考(クリティカル・シンキング)を持つ人材を生み出すことができるからだ。これまでのように、専門知識を与えることばかりを重視し続ければ、広い視野を身につけさせぬまま学校から社会へと学生を送り出してしまう。伝統的な暗記中心の教育法では、社会的創造力を生徒たちに与えられないことをアジア諸国は明確に認識しだした。自分のために考え、議論を体系的に行い、新しい情報や正当な批判に直面した場合には、自分の立場を擁護するか、見直すことを学んでいかせなければならない。これが、21世紀の社会で成功していくための大学教育の基本であることをアジア諸国は強く認識し始めている。

核不拡散と原子力の平和利用を両立させる道はあるか

2010年3月号

チャールズ・ファーガソン 米科学者連盟会長

非核保有国が原子力発電用の原子炉を調達すれば、その分、核不拡散のリスクは高まっていく。原子力発電に切り替えるだけでは、有効な地球温暖化対策とはなり得ないが、原子力発電を新たに試みるに適した国が、厳格な安全基準、管理体制、核不拡散のガイドラインを受け入れるのであれば、核拡散のリスクを伴うとしても、原子力の平和利用を認めざるを得ない。また、核拡散を防ぐには、核能力を獲得することが自国の安全保障問題への解決策だと考えている国の安全保障上の不安を取り除き、核兵器を保有すれば国際関係において大国と同等の立場を手に入れられるとする間違った認識を正していく必要もある。この観点から、国連安保理の常任理事国に日本のような核を保有していない地域大国を迎え入れることも考えるべきだ。国際コミュニティは地域大国が抱く不安を取り除き、核を保有することで得られる過大な名声を剥ぎ取り、原子力エネルギーに非核保有国が抱く不合理な期待を引き下げていくように努力すべきだろう。そうすることで、核廃絶のビジョンを支えていくことができる。

2010年1月13日にハイチのポルトーフランスを直撃した大地震による犠牲者は10~20万人に達し、その災害の復旧には少なくとも100億ドルの資金と、数十年単位の時間が必要になると言われている。クリントン政権で米平和部隊のディレクターを務めたラテンアメリカとカリブ海地域の専門家、マーク・L・シュナイダーは、今回の地震災害を「西半球地域における史上最大の国家災害」と描写し、グローバル規模の支援活動が必要になると強調する。「最初に必要なのは、建物と家で、もう一度すべてをやり直さなれればならない」。ハイチの復興にはおそらく数十年はかかり、その支援にはばく大なコストがかかるが、復興の目的は過去のハイチを再現することではない。それは、新しい教育システム、公共サービス機能を持つ「新しいハイチ」を建設することでなければならない。聞き手は、バーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティングエディター)

世界を変える四つの人口メガトレンズ
―― 先進国の衰退と途上国の台頭をどう管理するか

2010年1月号

ジャック・A・ゴールドストーン ジョージ・メイソン大学公共政策大学院政治学教授

21世紀の新しい現実は、世界のどの地域で人口が減少し、どこで増大するのか、どのような国で高齢者が多くなり、どのような国で若者が多くなるか、世界の人口動態の変化が国境を越えた人の移動にどのような影響を与えるかで左右される。欧米を中心とする先進国は人口面でも経済面でも衰退し、世界経済の拡大はブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、トルコ等の新興途上国の経済成長によって刺激される。しかも、若者の多い途上国から労働力不足の先進国へと大きな人の流れが必然的に起きるし、一方で、経済基盤の脆弱な途上国の若年人口が世界で大きな混乱を作り出す恐れもある。必要なのは、こうした21世紀の新しい現実に備えたグローバル構造の構築を今から始めることだ。

東南アジアの貧困と教育への支援を
―― イスラム教徒の人心を勝ち取るには

2009年12月号

クリストファー・S・ボンド 共和党上院議員
ルイス・M・サイモンズ ジャーナリスト

いまや東南アジアでもイスラム過激派が台頭している。その原因は何か。どこにテロの根っこがあるかを知りたいのなら、東南アジアのイスラム教徒たちが暮らす荒廃した村を見て回り、悪臭たちこめる大都市の裏通りに足を踏み入れる必要がある。そこに広がるのは、陰うつで絶望的な景色だ。玄関先や街角にたむろし、たばこをまわし吸いし、遠くを見つめるだけの若者たちがいる。アメリカが原理主義の宗教指導者に先駆けて説得すべきは、こうした未来に希望を持てない若者たちだ。テロの背景にある貧困や腐敗に目を向けないかぎり、軍事作戦を遂行するだけでは、東南アジアにおけるイスラム教徒の人心を勝ち取ることはできない。

CFRミーティング
核のない世界は幻想か?

2009年12月号

スピーカー モハメド・エルバラダイ 前IAEA事務局長
司会 リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

残念なことだが、核を保有するか、核兵器を開発する能力を持っていればパワーと名声、そして保険策を手にできると多くの国が依然として考えている。・・・彼らが考えているのは軍備管理ではない。「核兵器を開発する必要があるか」という命題だ。・・・より状況を複雑にしているのは、・・・ウラン濃縮技術や再処理能力など、(核兵器そのものではなく)核開発に必要な能力を獲得するだけで十分だと各国が考えだしていることだ。・・・核廃絶を唱えるのは簡単だ。重要なのは、それに必要なシステムやレジームを考え、整備していくことだ。

交渉学からみた
敵と交渉することの問題点と可能性

2009年11月号

ディーパック・モルホトラ  ハーバード・ビジネススクール准教授

敵対勢力との交渉に入ることに条件をつけたいという欲求の方が、相手との間に抱える懸案についての合理的な分析をし、微妙な論争を試みようとするインセンティブよりも大きい。このため、とかく政治的ご都合主義や単純な分析から交渉に入る条件が付けられてしまう。だが、このやり方は全くの逆効果で、実際には、交渉に入るための条件をまったくつけない方が、昨今におけるやり方、特にアメリカやイスラエルのやり方よりも外交交渉はうまく機能する。交渉を重視する賢明な外交政策も、交渉上の障害を可能な限り事前に取り除こうするあまり、逆に間違いを犯すことがある。安易に考案された交渉に入るための前提条件こそ、交渉による平和を勝ち取るための最大の障害となることが多い。

CFRインタビュー
IMFのグローバル経済への
影響力は高まるのか?

2009年11月号

エドウィン・トルーマン ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー

IMFが各国のグローバル経済再生に向けた対策の監視と評価をするとしても、すべてはトリッキーだ。なにせ相手は主権国家だ。しかも、内需と外需のバランスに焦点をあて、為替レートにさえ口出しするとなると、スムーズにいくはずはない。大きな問題は、例えば、IMFが中国に対して「貴国の経常黒字が急速に増大している以上、より迅速に為替を適正なレベルへと向かせるべきだ」と言えるかどうか、そうして、アドバイスを受けた国がそれを聞き入れるかどうかだ。・・・これから半年後に監視と評価をめぐってIMFに何か言われたからといって、アメリカの大統領や財務長官が「わかった。IMFの言うとおりだ。早速予算を見直そう」と言うはずはない。

CFRブリーフィング
グローバル・インバランスがなくならない理由

2009年11月号

マーク・レビンソン 外交問題評議会国際ビジネス担当シニア・フェロー

「グローバル・インバランスを是正していくための具体的措置を支持するような政治基盤はいかなる国にも存在しない。・・・日本の鳩山由紀夫首相にとっても、グローバル・インバランスの是正とは、外国市場の需要の落ち込みで日本の製造業が苦しんでいるときに、さらに輸出の伸びを抑えなければならないことを意味する。・・・・世界の指導者はよりバランスのとれた世界経済の構造をつくりたいと願っているかもしれない。だが、その実現に向けて早急に措置を講じることはないだろう」。

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