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アジアに関する論文

北朝鮮のもう一つの脅威
―― 日韓の原発施設に対する攻撃に備えよ

2017年10月号

ベネット・ランバーグ 元国務省分析官

北朝鮮が日韓の原子力施設を攻撃すれば、何が起きるか。両国の政府はそれに備え、態勢を整えておかなければならない。これは想定外のシナリオではない。中東では建設中の原子炉をターゲットとする攻撃が起きているし、ボスニア紛争でも、インド・パキスタンの対立状況のなかでも、原子炉攻撃のリスクは意識されていた。原子力施設に対する北朝鮮のミサイル攻撃の帰結よりも、数十万人が犠牲になるかもしれない(人口密集地帯への)通常ミサイル攻撃による脅威の方が深刻だと考える者もいるだろう。しかし、原子炉が攻撃され、炉心や使用済み核燃料のプールにダメージが及べば、原子炉は、殺戮兵器ではないにしても、実質的にテロ攻撃や大量破壊兵器と同じ作用をする。日韓はアメリカとともに防衛計画をまとめていく上で、原子力発電施設の脆弱性を無視してはならない。・・・

金正恩のもう一つの顔
――北朝鮮CEOとしての金正恩の成功

2017年9月号

デビッド・カン 南カリフォルニア大学教授(国際関係論)

金正恩は道化師ではないし、そのような見方にとらわれれば、北朝鮮とその指導者が突きつけている脅威を誤解することになる。特に、平壌とワシントンの緊張が高まりをみせているだけに、深刻な間違いを犯すことになりかねない。道化師の独裁者としてではなく、むしろ、金正恩を「北朝鮮株式会社を引き継いだ新しい最高経営責任者(CEO)」と考えるべきだろう。金正恩はすでに組織(国家)を束ねるビジョンを示し、組織の手続きを再確立し、人材編成も見直している。実際、彼はすでに権力基盤を固めているようだし、外からの圧力に動じる気配もない。欧米では、金正恩は権力にしがみついているだけの弱い独裁者で、その体制は崩壊の瀬戸際にあるとみなす憶測が絶えない。しかし、CEOとしてみれば、彼も彼の政府も脅かされてはいない。むしろ、安定度を高めている。・・・

1965年の独立以降、リー・クアンユーが中心となって組織した人民行動党政権は中央集権的な国家運営を行ってきた。その権力に対する監視体制も厳格ではなく、野党、市民社会、メディアは概しておとなしい。実際、この中央集権体制が効率的な統治を実現していると考える者は多く、シンガポール市民の大半は、「経済成長と引き換えに市民的・政治的自由が制限される」という暗黙の社会契約を長く受け入れてきた。だが、それも変化しつつある。すでに、シンガポールのさらなる発展にはさまざまな制約を緩和する必要があると考える改革派の要求とこれまでの中央集権型の枠組みを両立させるのは難しくなっている。近代国家シンガポールの原点を象徴するリー・クアンユーのオクスリー・ロードにある家の扱いをめぐるお家騒動は、まさに、この国の未来に関する二つのコースを描き出している。

中国の覇権確立を阻止するには
―― 南シナ海とアメリカの対中抑止策

2017年8月号

イーライ・ラトナー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国研究)

南シナ海における米中衝突を回避しようとするあまり、ワシントンは、中国による国際法を無視した南シナ海における行動を前にしても、緊張緩和措置をとり、結果的に、中国がじわじわと既成事実を作り上げるのを許してしまった。アメリカの軍事力と同盟関係には、米中の軍事衝突を抑止する効果はあっても、中国の勢力圏拡大を抑止する作用は期待できない。このために、中国による覇権確立がアメリカのアジアにおける最大の脅威シナリオとして浮上してきている。「中国が人工島の建設を続け、あるいはすでに建設した人工島に長距離ミサイルや戦闘機など強力な軍事資産を配置し続けるようなら、アメリカは中立を捨てて、領有権を主張する他の諸国が中国に対抗する能力を獲得することを支援する」と表明すべきだ。外交を抑止策で支え、「中国が覇権を握ることは容認できない」と、ワシントンは態度を明らかにすべきだろう。

ミンダナオ島危機とイスラム国
―― 共通の敵で変化した米比関係

2017年8月号

リチャード・ジャバッド・ヘイダリアン デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

貧困や失業に苦しみ、イスラム教徒が社会の周辺に追いやられているミンダナオ島では、イスラム主義者や共産主義者などの反政府勢力がフィリピン軍と衝突する流血の惨事が数十年にわたって繰り返されてきた。そこには、イスラム主義のイデオロギーやテロ集団を許容する社会的素地が存在した。しかも、中東で軍事的に追い込まれたイスラム国(ISIS)勢力はアジアへ軸足を移そうと試みている。イスラム教徒が多数派で、イスラム国勢力のシンパが多いマレーシアやインドネシアとミンダナオ島との国境線が監視の難しい海洋上にあることも事態を複雑にしている。一方、テロ勢力という共通の敵が現れたことでアメリカとの関係は雪解けの時を迎えている。マニラが共通の敵に対するワシントンの軍事支援を受け入れるにつれて、両国政府の立場の違いはゆっくりとだが、着実に埋められつつある。・・・

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

インドネシアを切り裂く民族・宗教政治
―― 脅かされる多元主義と社会的調和

2017年7月号

シドニー・ジョーンズ 紛争政治分析研究所 ディレクター

多元主義や民主主義をめぐる世界の模範と言われたインドネシアで、いまやこの国の寛容さ、多元主義、民主主義のすべてが試練にさらされている。現職の知事としてジャカルタ州知事選に出馬したキリスト教徒の中国系インドネシア人、バスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)は、(イスラム教を冒涜したと)イスラム主義強硬派に攻撃され、選挙に敗れただけでなく、5月初旬に宗教冒涜罪で起訴され、投獄される事態となった。2016年9月、アホックが遊説の中で、良心に従って投票をするようにと促し、コーランの一節を引いて、「非イスラム教徒の人物がイスラム教徒を統治することはできないと示唆するような人物に惑わされてはなからない」と発言したことが事の発端だった。2019年の大統領選に向けて、イスラム主義者たちは今回よりもさらに大規模な反動を巻き起こそうと、反中感情、反共産主義感情、そして格差に対する不満のすべてを利用しようと試みるだろう。

北朝鮮に原子力の平和利用を認めよ
―― 平和と原子力のバーターを

2017年7月号

リチャード・ローズ ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト、マイケル・シェレンバーガー エンバイロンメンタルプログレス 会長

平壌が本当に望んでいるのは、攻撃されないという保証、そして、経済開発のための電力生産能力を手に入れることだ。この意味では、核問題の軍事的解決策を望むタカ派だけでなく、原子力エネルギーに反対するハト派も間違っている。衛星写真をみると、電力の3分の1が原子力発電所によって供給されている韓国が明るく輝いているのに対して、北朝鮮はほぼ全域が暗闇に覆われている。核・ミサイル開発への制限を受け入れることを条件に、原子力による電力生産へのアクセスを認めれば、平壌は近隣諸国を脅かすのを止め、ミサイルその他の軍事物資の密輸を止める経済的インセンティブをもつようになるはずだ。われわれは北朝鮮において、アイゼンハワー大統領が1953年に国連で提唱した「平和のための原子力」構想を実現する機会を手にしている。

蔡英文総統の対中ジレンマ
―― 「一つの中国」と92年コンセンサス

2017年6月号

チャールズ・I・チェン ロンドン大学台湾研究センター リサーチアソシエート

台湾の国際会議への参加は、通例オブザーバー資格での参加だが、それでも台湾にとって大きな意味をもつ。なんらかの形で台湾という領域の国際的認知につながるからだ。特に2009年から毎年続く世界保健機関(WHO)総会への出席は、そうした国際的認知の強化につながるだけでなく、中台関係の前進とみなされてきた。だが、今年は様相が違う。2017年にWHOからの招待状を受けとれるとしても、ふたたび国連決議・WHO総会決議の順守、つまり、「一つの中国」へのコミットメントを求められることになるだろう。一方、「一つの中国」を受け入れないと主張してきた蔡英文総統にとってこれは大きなジレンマとなる。もちろん、中国政府の圧力しだいでは招待そのものの中止もあり得るが、それではあまりに強硬姿勢とみなされ、台湾海峡の軍事的緊張につながる可能性もある。そうなれば蔡英文は、支持者をなだめるために中国に厳しい態度で臨まねばならなくなる。・・・

対北朝鮮政策における韓国ファクター
―― 韓国政治の流動化と対北朝鮮戦略

2017年6月号

サン=ヨン・リー タフト大学フレッチャースクール教授(朝鮮半島研究)

北朝鮮が好戦性を高める一方で、国内政治の流動化によって韓国の危機対応能力が損なわれている。この現状が続けば、金正恩の攻撃性に対処し、北朝鮮の抑圧状況を緩和するように圧力をかける主な役割をアメリカが担わなければならなくなる。ワシントンが強制的な措置と外交・抑止政策、さらには、北朝鮮社会に外の世界の情報を拡散するキャンペーンを組み合わせれば、韓国の新大統領が対北朝鮮圧力を緩和するのを牽制することにもなる。韓国政府が北朝鮮宥和策に傾斜した場合に生じる「空白」をワシントンが埋めなければ、平壌の抑圧政権はさらに基盤を固め、すでに長く困難な状況におかれている北朝鮮民衆をさらに苦しめることになる。

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