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アジアに関する論文

中国の未来と韓国の現在
―― なぜ政治的自由化が必然なのか

2018年9月号

ハーム・チャイボン 韓国・峨山政策研究院 会長

中国は政治的自由化をせずに、経済成長を持続し、社会を満足させられるだろうか。韓国の経験はそうはならないことを示している。戦後における韓国経済の成長を上から主導した朴正煕は、輸出主導型成長モデルをとる一方、欧米の価値が伝統的社会に入り込むのを阻止しようと孝行、忠誠、権威の尊重を重視する儒教復興策をとった。ここまでは完全に中国の今と重なり合う。だが、上からの産業政策ゆえに、韓国は1970年代末までに過剰生産能力を抱え込むようになり、企業倒産や労働争議が続き、大規模なストが起きた。結局、労働者と学生が連帯した社会騒乱のなかで、朴は側近の手で暗殺され、その後、韓国は民主化された。朴の韓国流民主主義は独裁主義だったし、「中国的特質をもつ社会主義」も同様だ。朴が最終的に直面したように、経済を自由化すれば、権威主義の指導者でさえ押さえ込めないような流れが作り出される。

人的資本投資と経済成長
―― 教育・医療への投資がなぜ必要か

2018年8月号

ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁

教育と医療への人的資本投資を怠れば、労働生産性と国の競争力は大きく損なわれる。学校教育を1年多く受けると、平均して約10%収入が増加する。教育の質も関係してくる。例えば、アメリカでは、小学校のクラス担任を質の低い教員から平均的教員に替えると、生徒たちの生涯収入の合計は25万ドル増加する。重要なのは客観的基準をもつことだ。現状を客観的に測定する人的投資の指標を世界銀行が提供すれば、必要とされる改革が何であるかについての思いを共有できるようになる。優先順位もはっきりしてくるし、様々な政策に関する有益な議論が起き、透明性も強化される。人的資本に適切に投資できなければ、人類の進化と連帯にとって、あまりにも大きなコストが生じることになる。

都市外交の台頭
―― グローバルな課題に対処する新アクター

2018年8月号

アリッサ・アイレス 米外交問題評議会シニアフェロー(南アジア担当)

各国の都市がグローバルレベルで直接交流するケースが増えている。都市の指導者たちは、他国の都市と連携し、災害からの復旧やリスク緩和について意見交換し、持続可能な開発、インフラ、治安、気候変動などの問題に取り組んでいる。まるで国際機関のようなネットワークを通じた都市の協調ネットワークもある。都市多国間主義(city multilaterals)と呼べるこのネットワークを通じて、都市が自分たちにとって無縁ではない地球規模の切実な課題に協調して取り組むようになり、国際社会で都市がリーダーシップを発揮する機会が作り出されている。国際条約に署名するのは今も国家の役割だが、都市は迅速に行動できるし、集積された知識を行動に生かし、グローバルな問題に協調して取り組むことができる。

ワーミング・ワールド
―― 気候変動というシステミック・リスク

2018年8月号

ジョシュア・バズビー テキサス大学オースティン校 准教授(公共政策)

気候変動とは、地球温暖化だけではない。世界は、気候科学者のキャサリン・ヘイホーが、「グローバル・ウィアーディング(地球環境の異様な変化)」と呼ぶ時代に突入しつつある。考えられない気象パターンがあらゆる場所で起きている。気温が上昇すると、気候変動が引き起こす現象が変化する。かつて100年に1度だった大洪水が、50年あるいは20年おきに起きるようになる。想定外のテールリスクもますます極端になる。気候変動がひどく忌まわしいのは、地政学への影響をもつことだ。新しい気象パターンは、社会的にも経済的にも大混乱を引き起こす。海面が上昇し、農地が枯れ、より猛烈な嵐や洪水が起きるようになり、居住できなくなる国も出てくる。こうした変化は、国際システムに前代未聞の試練を与えることになる。

リアリスト・ワールド
―― 米中の覇権競争が左右する世界

2018年7月号

スティーブン・コトキン プリンストン大学教授(歴史学)

この1世紀で非常に深遠な変化が起きたとはいえ、現在の地政学構造は、一つの重要な例外を別にすれば、1970年代、あるいは1920年代のそれと比べて、それほど変わらない。それは、アジアのパワーバランスの鍵を握るプレイヤーとして、中国が日本に取って代わったことだ。中国が力をつけているのに対して、アメリカとその他の先進民主国家は政治が機能不全に陥り、将来に向けてパワーを維持できるかどうか、はっきりしなくなっている。もちろん、現状から直線を引いて今後を予測するのは危険だが、中国の台頭を予見した19世紀初頭の予測は、間違っていたのではなく、時期尚早なだけだったのかもしれない。すでに中国の勢力圏は拡大を続けており、現在問われているのは、中国が他国を手荒く扱ってでもルールを設定・強制しようするか、あるいはアメリカがグローバルなリーダーシップを中国と共有していくかどうかだろう。

非核化と体制保証の間
―― 交渉で何が起きるか分からない理由

WEB限定

ジョセフ・ユン 前米北朝鮮政策特別代表

トランプは「カードを握っているのは自分だ」と考えている。「最大限の圧力」によってひどく追い込まれているために、「金正恩は核兵器の放棄に応じるだろう」とトランプは考えている。韓国の文在寅大統領は「金正恩は非核化を真剣に考慮している」と頑なに主張しているが、現実には「核保有を実質的に立証した国の指導者として、金正恩が交渉を有利に進められると考えていることは明らかだ」。金正恩にとって、父と祖父が望みながらも、果たせなかった夢を実現し、有利な立場で交渉すること以外、米大統領と一対一で交渉する理由などないはずだ。トランプはすでに段階的な非核化への理解を示している。しかし、米朝双方が完全に異なる立場から交渉をスタートし、全く別の結末を望み、しかも、相手の交渉力へのイメージにも食い違いがあるだけに、交渉は容易ではない。・・・

トランプ政権は、経済制裁の緩和や外交的承認を認める前に、平壌に非核化を受け入れさせ、北朝鮮の核開発プログラムの全貌を明らかにした上で、高度に踏み込んだ査察手続きを認めさせるのが好ましいと考えてきた。これが6月12日のサミットが中止された理由だったかもしれない。交渉に臨んでいれば、それは「壊滅的な失敗」に終わり、軍事的解決策が再浮上していたはずだ。一方で、少しばかりの妥協に多くの見返りを与えれば、合意をまとめるのは簡単になるとしても、その結末はいわば「壊滅的な成功」となる。中核的課題は、トランプ政権が北朝鮮へのアプローチを見直す準備ができているのか、「問題を解決するのではなく、安定化させるような戦略を模索するつもりかどうか」にある。

欧米経済の衰退と民主的世紀の終わり
―― 拡大する「権威主義的民主主義」の富とパワー

2018年6月号

ヤシャ・モンク  ハーバード大学講師(行政学)
ロベルト・ステファン・フォア メルボルン大学講師(政治学)

北米、西ヨーロッパ、オーストラリア、そして日本という、第二次世界大戦後にソビエトに対抗して西側同盟を形成した民主国家は、19世紀末以降、世界の所得の大半を占有する地域だった。しかしいまや、この1世紀で初めて、これらの国が世界の国内総生産(GDP)に占める割合は半分を割り込んでいる。国際通貨基金(IMF)は、今後10年もすれば、その比率はかつての3分の1へ落ち込むと予測している。今後を見通す上で現実的なシナリオは二つしかない。一つは中国を含む、世界でもっともパワフルな独裁国家の一部がリベラルな民主国家に移行すること。もう一つは、民主主義の支配的優位の時代が、敵対する政治体制との闘争という新時代が到来するまでの幕間の出来事に過ぎなかったことが立証されることだ。いずれの場合も、欧米民主主義の時代が終わりを迎えるのは避けられない。

北東アジアの地政学と北朝鮮問題
―― 米朝二国間と多国間ゲームの間

2018年6月号

マイケル・グリーン 戦略国際問題研究所  シニア・バイスプレジデント(アジア担当)

金正恩の真意は、「非核化に応じた場合に得られる特権」を何の譲歩をすることもなく引き出すことにあるのかもしれない。平壌が今回の首脳会談で望んでいるのは、核保有国として受け入れられること、そして、経済制裁を緩和させることだろう。結局、金正恩は非核化を口にしつつも、交渉を通じて妥協と見返りを段階的に繰り返し、再びエスカレーション策をとれるようになるまで時間稼ぎをするつもりかもしれない。さらに重要なのは、中国の立場だ。習近平は、外交交渉を通じて、北朝鮮の脅威が実質的に低下するかどうかよりも、朝鮮半島からの米軍撤退のような、アメリカの同盟関係を機能不全に追い込むような外交プロセスを開始することが好ましいと考えている。北朝鮮問題の一方で、北東アジアの今後の地政学をめぐるゲームが展開されることを忘れてはならない。

米朝間の立場の違いと韓国の立場
―― 非核化に向けた今後の課題

2018年6月号

文正仁 韓国大統領特別補佐官 (統一外交安保担当)

アメリカは「非核化が先で見返りは後」という立場なのに対し、北朝鮮は非核化の(部分的)履行と見返りを繰り返す段階的なアプローチを求めている。一方、韓国は折衷型のアプローチを提言している。懐疑派は、金正恩は、自分の行動一つ一つに対してアメリカが見返りをもって応じる段階的な非核化、つまり、「サラミ戦術」に訴えるつもりだと主張している。さらに、北朝鮮軍が完全な非核化合意を受け入れない恐れもある。しかし、北朝鮮が非核化を履行しなければ取引全体が崩壊し、新たな危機や軍事行動の可能性、さらには朝鮮半島での全面戦争にまでつながっていく危険がある。トランプ政権は金正恩と非核化の詳細を詰める必要があり、そのためにはワシントンにとって望ましい包括的な即時解決と、平壌が主張する段階的なアプローチとの間での歩み寄りが必要になるだろう。

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