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アフリカに関する論文

ナイル川の水争奪戦と中東地政学
―― 地域を超えた重層的課題にどう対処するか

2018年10月号

マイケル・ワヒッド・ハンナ センチュリー財団 シニアフェロー
ダニエル・ベナイム アメリカ進歩センター シニアフェロー

グランド・エチオピア・ルネサンス・ダムは多層的な課題を抱えている。ダムが完成すればエチオピアは近隣諸国に相当規模の電力を輸出できる電力生産ができるようになる。隣国スーダンも、ダムが自国の農業に恩恵をもたらすことを期待している。一方、水資源に乏しいエジプトは、上流でのダム稼働によって深刻な事態に直面する恐れがある。しかも、中東での影響力の確立を求めて競い合うトルコ、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)はアフリカ北東部に陸海軍の基地を確保し、耕作可能な土地を手に入れているだけでなく、ライバルに圧力をかけようと現地で傀儡勢力を育成しているようだ。このハイブリッド化した多層的な課題に取り組んでいくには、縦割りの官僚組織に囚われず、問題を横断的に捉える必要がある。地域問題、政治・軍事問題の専門家だけでなく、水文学や工学の専門家の知識も動員しなければならない。

人的資本投資と経済成長
―― 教育・医療への投資がなぜ必要か

2018年8月号

ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁

教育と医療への人的資本投資を怠れば、労働生産性と国の競争力は大きく損なわれる。学校教育を1年多く受けると、平均して約10%収入が増加する。教育の質も関係してくる。例えば、アメリカでは、小学校のクラス担任を質の低い教員から平均的教員に替えると、生徒たちの生涯収入の合計は25万ドル増加する。重要なのは客観的基準をもつことだ。現状を客観的に測定する人的投資の指標を世界銀行が提供すれば、必要とされる改革が何であるかについての思いを共有できるようになる。優先順位もはっきりしてくるし、様々な政策に関する有益な議論が起き、透明性も強化される。人的資本に適切に投資できなければ、人類の進化と連帯にとって、あまりにも大きなコストが生じることになる。

ワーミング・ワールド
―― 気候変動というシステミック・リスク

2018年8月号

ジョシュア・バズビー テキサス大学オースティン校 准教授(公共政策)

気候変動とは、地球温暖化だけではない。世界は、気候科学者のキャサリン・ヘイホーが、「グローバル・ウィアーディング(地球環境の異様な変化)」と呼ぶ時代に突入しつつある。考えられない気象パターンがあらゆる場所で起きている。気温が上昇すると、気候変動が引き起こす現象が変化する。かつて100年に1度だった大洪水が、50年あるいは20年おきに起きるようになる。想定外のテールリスクもますます極端になる。気候変動がひどく忌まわしいのは、地政学への影響をもつことだ。新しい気象パターンは、社会的にも経済的にも大混乱を引き起こす。海面が上昇し、農地が枯れ、より猛烈な嵐や洪水が起きるようになり、居住できなくなる国も出てくる。こうした変化は、国際システムに前代未聞の試練を与えることになる。

エジプトにおけるキリスト教徒の未来
―― ISISによるコプト教徒の民族浄化

2017年8月号

ニナ・シーア ハドソン研究所・宗教的自由研究センター ディレクター

イスラム過激派が、イラクのキリスト教徒やヤジディ教徒コミュニティ同様に、エジプトのコプト教徒コミュニティの組織的破壊を進めるのを放置すれば、中東の宗教地図は大きく塗り替えられる。特に、約900万人に達するエジプトのコプト教徒は、中東地域における最大のキリスト教集団、最大の非ムスリム集団だ。イスラム国は、シナイ半島北部の小規模なキリスト教コミュニティをすでに粉砕している。今後彼らが、他のエジプト地域で自爆テロなどの攻撃を通じて、数百万のコプト教徒たちを恐怖に陥れれば、大規模な難民がイスラエルやヨルダン、そして地中海を経てヨーロッパを目指すようになるかもしれず、この場合、エジプトとその近隣諸国はこの先数十年にわたって不安定化することになる。

依存人口比率と経済成長
―― 流れは中国からインド、アフリカへ

2017年4月号

サミ・J・カラム  Populyst.net エディター

「人口の配当」として知られる現象は経済に大きな影響を与える。この現象は合計特殊出生率が低下し、その後、女性が労働力に参加して人口に占める労働力の規模が拡大し(依存人口比率が低下することで)、経済成長が刺激されることを言う。本質的に、人口の配当が生じるのは、生産年齢人口が増大する一方で、依存人口比率が減少したときだ。実際、出生率の低下と労働力規模の拡大、そして依存人口比率の減少というトレンドが重なり合ったことで、1983年から2007年までのアメリカの経済ブーム、そして中国の経済ブームの多くを説明できる。問題は、先進国だけでなく、これまでグローバル経済を牽引してきた中国における人口動態上の追い風が、逆風へと変わりつつあることだ。人口動態トレンドからみれば、今後におけるグローバル経済のエンジンの役目を果たすのはインド、そしてサハラ砂漠以南のアフリカになるだろう。

「エネルギー貧困」を克服するには
―― 農業の近代化、工業化、都市化が鍵を握る

2016年11月号

テッド・ノードハウス ブレイクスルー研究所 共同設立者
シャイヤラ・デビ 同研究所アナリスト
アレックス・トレンバス 同研究所コミュニケーション・ディレクター

世界の20億人が依然として電力や天然ガスなどのエネルギー資源へのアクセスをもたない「エネルギー貧困」の状態に置かれている、しかも、近代的エネルギーへのアクセス拡大に向けた努力の多くは、(ソーラーなど)送電網から離れた小型の分散型エネルギーの供給に集中している。(孤立したソーラー発電でも)エネルギーアクセスを強化することにはなる。しかし、「エネルギー貧困」をなくすには、この問題が構造的な側面をもっていることに目を向ける必要がある。工業化、農業の近代化、都市化そして所得の上昇とエネルギー消費の拡大には明確な相関関係がある。だが、マイクロファイナンス、マイクロ企業のためのマイクロエネルギーでは、工業やインフラ、中央管理型電力網の代わりはできない。「エネルギー貧困」を克服するには、途上国と多国間組織は、「生産的で大規模な経済活動を支えるエネルギーインフラの開発」を優先する必要がある。問題は、ここで環境問題とのトレードオフが生じることだ。・・・

なぜ国際社会は海賊を退治できないのか
―― ウィリアム・キッドからソマリアの海賊まで

2009年8月号

マックス・ブート
米外交問題評議会国家安全保障担当シニア・フェロー

1650年から1850年までの2世紀にわたって続いた海賊との戦いをめぐって、世界は様々な対策を講じてきた。政府は海賊ハンターを雇い、海賊と共謀する役人を一掃し、人々に正義の概念を徹底しようと試みた。自発的に降伏してくる海賊には恩赦を認め、対海賊作戦に従事する軍艦の数を増やし、他国と協力し、海賊が拠点とする港を封鎖して攻撃し、海だけでなく陸においても海賊を追い詰め、ついには、海賊の巣窟を占領して解体する作戦をとった。だが憂鬱なことに、今日においてこうした歴史的な海賊対策はほとんど実施されていない。最終的な解決策は、海賊が巣食っている国に法の支配を持ち込むしかないが、現在の世界では、そう簡単に問題国家を占領するわけにもいかない。・・・一つの選択肢は、国際刑事裁判所(ICC)、国連の特別法廷などをつうじて、海賊とテロリストに法の裁きをうけさせることを認めるような国際合意をまとめることだろう。

地球を覆うエアロゾルを削減せよ
―― エアロゾルの拡散と水資源の減少

2016年5月号

ベラガダン・ロマナサン カリフォルニア大学サンジェゴ校 海洋学研究所教授(大気・気候科学)
ジェシカ・セダン インド工科大学マドラス校・科学技術・政策研究所ディレクター
デビッド・G・ビクター カリフォルニア大学サンジェゴ校・グローバル政策・戦略大学院教授

発電所で利用される石炭、自動車のディーゼル燃料、料理用の薪の燃焼など、温室効果ガスを排出する人間の活動は、一方でエアロゾルと呼ばれる微粒子も排出する。エアロゾルは、広い範囲に靄(もや)がかかる現象をもたらし、太陽光を遮ったり散乱させたりする。その結果、地表に届く太陽光エネルギーが減少し、いつ、どこに、どれくらいの雨が降るかを左右する水分の蒸発が減少して水循環を混乱させる。2050年までに世界人口の40%が苛酷な水不足に直面するとの予測もすでに出ている。各国政府が理解し始めているように、水不足は経済的、人道的な課題であるだけではなく、地政学的な問題も絡んでくる。エアロゾル汚染への対策は温室効果ガス削減のキャンペーンに比べて市民の大きな関心を集めないが、その対策を、気候変動を抑える地球規模の行動における重要な柱とすべき理由は十分にある。

グローバル化したイスラム国
―― 増殖する関連組織の脅威

2016年4月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

欧米諸国が、国内の若者たちがイラクやシリアへ向かうことを心配していればよかった時代はすでに終わっている。ジハード主義者たちが、中東だけでなく、中東を越えたイスラム国のさまざまな「プロビンス」を往き来するようになる事態を警戒せざるを得ない状況になりつつある。「プロビンス」を形づくる関連組織の存在は、イスラム国の活動範囲を広げる一方で、地域紛争における関連組織の脅威をさらに高めており、いずれ関連集団による対欧米テロが起きる恐れもある。だが、われわれは「コア・イスラム国」の指導者と、遠く離れた地域で活動するプロビンスの間で生じる緊張をうまく利用できる。適切な政策をとれば、アメリカとその同盟国は「プロビンス」と「コア・イスラム国」に大きなダメージを与え、相互利益に基づく彼らの関係を破壊的な関係へと変化させることができるだろう。

原油安が好ましいとは限らない。例えば、原油価格が今後10年にわたって50ドル前後で推移した場合、中東産油国へのわれわれの依存度は高まっていく。北米、ブラジル、アフリカなどの原油は生産コストが高いために、生産量は削減され、生産コストの安い一部の中東産油国の石油への需要と依存が高まっていく。一方、中東は、誰もが知るとおり、大きな混乱のなかにある。つまり、石油安全保障の観点からみれば、長期的に原油が低価格で推移するのは、かなりのリスクがある。・・・さらに原油安によって、やっと勢いづいた再生可能エネルギーへの支援策を政府が見直す危険もある。だがそうならなければ、石炭から再生可能エネルギーへの大きなシフトが起きる。電力生産部門での石炭のシェアは低下し、近い将来、再生可能エネルギーが石炭を抑えて最大のシェアをもつようになる。例えば、3人のうち2人が電力へのアクセスをもっていないアフリカのサハラ砂漠以南の地域が、化石燃料ではなく、再生可能エネルギーで経済成長を遂げる最初の大陸になると考えることもできる。彼らは再生可能エネルギー資源に恵まれているし、再生可能エネルギーによる電力生産コストは大幅に減少している。・・・・

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