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地球を覆うエアロゾルを削減せよ
―― エアロゾルの拡散と水資源の減少

ベラガダン・ロマナサン カリフォルニア大学サンジェゴ校 海洋学研究所教授(大気・気候科学)
ジェシカ・セダン インド工科大学マドラス校・科学技術・政策研究所ディレクター
デビッド・G・ビクター カリフォルニア大学サンジェゴ校・グローバル政策・戦略大学院教授

The Next Front on Climate Change

Veerabhadran Romanathan
カリフォルニア大学サンジェゴ校海洋学研究所教授(大気・気候科学)。
Jessica Seddon
インド工科大学マドラス校・科学技術・政策研究所ディレクター。
David G. Victor
カリフォルニア大学・サンジェゴ校グローバル政策・戦略研究大学院 (教授) 。 最近の著作にGlobal Warming Gridlock: Creating More Effective Strategies for Protecting the Planet

2016年5月号掲載論文

発電所で利用される石炭、自動車のディーゼル燃料、料理用の薪の燃焼など、温室効果ガスを排出する人間の活動は、一方でエアロゾルと呼ばれる微粒子も排出する。エアロゾルは、広い範囲に靄(もや)がかかる現象をもたらし、太陽光を遮ったり散乱させたりする。その結果、地表に届く太陽光エネルギーが減少し、いつ、どこに、どれくらいの雨が降るかを左右する水分の蒸発が減少して水循環を混乱させる。2050年までに世界人口の40%が苛酷な水不足に直面するとの予測もすでに出ている。各国政府が理解し始めているように、水不足は経済的、人道的な課題であるだけではなく、地政学的な問題も絡んでくる。エアロゾル汚染への対策は温室効果ガス削減のキャンペーンに比べて市民の大きな関心を集めないが、その対策を、気候変動を抑える地球規模の行動における重要な柱とすべき理由は十分にある。

  • エアロゾルとは何か
  • 暗く汚れた大気
  • 三つの部門での対策を
  • 速やかに行動を起こせ

<エアロゾルとは何か>

数十年にわたって回り道をしながらも、各国政府はようやく地球規模の気候変動問題と真剣に向き合う気になったようだ。2015年末にパリで開かれた国連気候変動会議(気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、参加国は地球温暖化を緩和するための重要な新合意を採択し、温室効果ガスの排出量削減へのコミットメント強化に向けたプロセスを始動させた。専門家の多くは、パリでの約束は内容が不十分なだけでなく、合意も遅きに失したとみている。排出量はすでにかなりのレベルに達しており、しかも増加し続けているために、仮に各国が排出量削減の約束を守ったとしても、今後気候は大きく変動していくと考えられるからだ。それでも、パリ以前に各国が気候変動サミットで合意をまとめられたのは18年も前で、今回、パリで何とか一致できたことで対地球温暖化外交への信頼が強化されていくと期待できる。

各国政府はこれまで、地球温暖化をもたらす温室効果ガス排出量の削減だけでなく、温暖化が引き起こす海面の上昇、より猛烈な嵐などの厄介な現象に焦点をあててきた。しかし、気候変動には気温の上昇以外にも重大な問題を伴う。電力生産所で利用される石炭、自動車のディーゼル燃料、料理用の薪の燃焼など、温室効果ガスを排出する人間の活動の多くは、エアロゾルと呼ばれる微粒子も排出する。エアロゾルは、広い範囲を靄(もや)で覆う現象を引き起こし、太陽光を遮ったり散乱させたりする。その結果、地表面に届く太陽光エネルギーが減少し、いつ、どこに、どれくらいの雨が降るかを左右する水分の蒸発が減少し、水循環も混乱させる。

何年にもわたって気候科学者たちは、温暖化した世界では湿気が高まると考えてきた。温度が上がるとより多くの水が蒸発するようになり、降雨量が増大すると考えていたからだ。こうした気温上昇(による蒸発効果)を計算に入れても、エアロゾルによって減光された世界の多くでは実際には乾燥が進む。

例えば、サハラ砂漠南縁部で東西に広がる半乾燥地帯サヘルやサハラ砂漠以南のアフリカでは乾燥が進みそうだ。ここは、雨水に頼ってぎりぎりの農業を強いられ、干ばつに苦しんできた地域だ。アメリカ大気研究センターやプリンストン大学・地球流体力学研究所など、信頼できる研究機関の複数の予測モデルによると、中国や北米、南アジアでもエアロゾルのせいで干ばつが起きる頻度が高まり、しかもより深刻化する危険がある。現実に世界各地において、エアロゾルが引き起こす減光と乾燥化が、汚染がもたらす危険のなかでもっとも差し迫った危険となっている。

朗報は、直ちにエアロゾル対策をとることは可能であり、それも高い効果が期待できることだ。エアロゾル排出を早急に減らしていくのに必要なツールの多くがすでに利用可能であり、ヨーロッパやアメリカ、東アジアを中心とする世界の政策立案者たちは、このツールをどう利用すればよいかをすでに実証している。

大気中のエアロゾルの寿命は比較的短く、排出量削減による気候への効果は、おそらく20―30年以内に現れるだろう。より迅速なエアロゾル排出の削減を試みれば、地球規模で保健上の恩恵がもたらされる。

現在、毎年約700万人が、微粒子の汚染関連とみられる疾患で死亡しているだけに、エアロゾルの削減によって犠牲者数を大きく抑え込むことができる。こうした潜在的な恩恵を考えると、各国政府はエアロゾル対策を環境アジェンダの中枢に位置づけるべきだろう。

電力生産、交通、家庭での料理、暖房、照明などに、より環境にやさしい技術を開発して普及させる手立てを促進していくべきだ。エアロゾル汚染への対策は温室効果ガス抑制のキャンペーンに比べて市民の大きな関心を集めないが、エアロゾル汚染への対策を、気候変動を抑える地球規模の行動の重要な柱に位置づける必要がある。

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