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2011年9月号(1)金融覇権の交代か、それとも第二次グローバル金融危機か

2011-09-15

金融覇権の交代か、それとも第二次グローバル金融危機か
――Gゼロの世界における欧米経済危機と中国の思惑
2011.9 .15公開

ゼーリック世銀総裁は「世界経済は新たな危険水域に入った」と表明し、日米欧の先進国が早急にそれぞれの課題を克服しなければ、世界経済はさらに深刻な危機に陥っていくと警告した。日本もアメリカも巨大な債務と財政赤字という時限爆弾を抱え、かたやヨーロッパはギリシャのソブリン危機によってユーロ圏全体がクレジットクランチに陥る瀬戸際にある。そして、中国の温家宝首相は「中国は欧州を支援する」と表明したと報道されている。だが、問題は、本当に支援するかどうかだ。
<イギリスからアメリカへ>

仮に中国がイタリアやギリシャを含むヨーロッパの周辺国の国債を大量に引き受ければ、それは、アメリカから中国への金融覇権の移動に向けた非常に大きなステップになる。だが、この役割を中国が引き受けるかどうか定かではない。

20世紀にも似たようなことが起きている。イギリスは20世紀初頭まで世界の主要な債権国だった。だが、第一次世界大戦によってその経済は破綻し、アメリカに資金を依存するようになった。戦争が終わるまでには、世界の主要な債権国の役割は事実上、イギリスからアメリカへと移動していた。

だが、アメリカは、自由貿易を促進し、資金を用いて需要を喚起するどころか、1930年代に関税を引き上げて巨大な貿易障壁を巡らした。要するに、イギリスは金融覇権を失ったが、アメリカはその役割を引き継がなかった。その結果、保護主義が高まり、世界は第二次世界大戦へのコースを歩み始めたと考える歴史家もいる。

この時の反省を基に、アメリカは戦後ブレトンウッズ体制を構築した。だが、いまやグローバル経済の安定を支えてきた金融覇権は形骸化しつつある。現在問われているのは、世界にバランスよく資本を振り分け、グローバル経済を刺激するような内需を作り出す役割を中国が引き受けるかどうかだ。世界は1930年代初頭とよく似た環境に追い込まれつつある。

<政治問題が合理的解決策を阻む>

中国は欧州周辺国の国債を引きうけるだろうか。マーク・ブリスが言うとおり、「仮に中国が発行済みギリシャ国債の半分を買い上げれば、ユーロゾーンのソブリン危機を解決できるだけでなく、中国の名声は高まり、ドル建て債券を手放して自国の外貨準備の多様化を図ることもできる」。だが、「いくら追加支援をしても、EUはヨーロッパのソブリン危機を解決できない」とみているためか、中国はおそらく様子見を決め込むとブリスは予測する。

ジャック・アタリは、「連邦予算、ユーロ共通債、各国の予算についての厳格な調整に向けて、今後12ヶ月間に進展がなければ、ユーロは消失するだろうし、ドイツもユーロから離脱することになるだろう」と今後を予測している。つまり、ヨーロッパが独自に問題を解決できるかどうかは「連邦予算、ユーロ共通債」についての「政治合意」を迅速にまとめられるかどうかに左右される、だが、これが非常に難しいプロセスになるのは避けられない。

一方、現状のまま、独仏がギリシャへの追加支援策をとり、周辺国に緊縮財政路線を取るように求めても、問題は解決しない可能性が高い。

民主体制下では、有権者は緊縮財政に強く反発し、むしろコストを債券保有者― 今回の欧州危機の場合、独仏の銀行―に押しつけようとするからだ。「緊縮財政の政治学では、市民が改革に反発し、国内が不安定化し、政府は最終的に債券保有者との衝突コース、つまり、ディフォルトを宣言せざるを得なくなる」とブリスは言う。

<中国は何を手に入れたいと考えているか>

中国が動き始めるのは、この段階になってからだと彼はみる。何としても手に入れたいヨーロッパの軍事技術、宇宙工学、金融資産を、中国は破格の値段で手にいれることになる、と。

奇妙にも、次号掲載予定のサブラマニアンの論文も、似たような近未来を描いている。「いずれ、アメリカはデフォルトに陥り、IMFからの融資を求めざるを得なくなる。すでにIMFで大きな権限を確立している中国は、融資を認める条件として、西太平洋からの米海軍の撤退を求めてくる。これが、アメリカから中国への覇権移動の決定的な瞬間になると、サブラマニアンは予測している。

第二の金融危機が起き世界は保護主義へと陥っていくのか、それとも、金融覇権が移動するのか。非常に大きな嵐が、ノリエル・ルービニの言う「Gゼロの世界」を襲いつつある。(FAJ編集部)

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