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スマートパワー的アプローチとは何か

2009-01-29

2009.01.29公開

米上院での国務長官承認をめぐる公聴会で、ヒラリー・クリントンはオバマ政権の外交を説明するのに「スマートパワー」という言葉を10回以上用い、これが、今後の国務省でのウォッチワード(合い言葉)になる可能性もあると言われる。

スマートパワーという言葉を最初に用いたのはスザンヌ・ノッセル。現在、ヒューマン・ライツ・ウォッチの最高執行責任者で、民主党系の論客として知られるノッセルは、2004年にフォーリン・アフェアーズ誌でずばり「スマートパワー」(邦訳 「真にリベラルな国際主義ビジョンを」)というタイトルの論文を発表している。

リチャード・ホルブルックが米国連大使だった時代に彼の補佐官を務めたノッセルは、スマートパワーを「堅固な同盟関係、国際機関を基盤とする国際ルールに基づいて、アメリカのパワーを賢明に(スマートに)用いて、国益を最大化する外交路線」と表現している。彼女が強調したのは、ブッシュ政権一期目の軍事偏重路線・単独行動主義路線に対するアンチテーゼとしての同盟国との国際協調路線だった。

もちろん、ソフトパワーのゴッドファーザーで、駐日大使への就任が内定したと報道されているジョセフ・ナイもこの表現を用いている。

リチャード・アーミテージと共同議長を務めた2007年の戦略国際問題研究所(CSIS)の研究プログラムのリポートで、両氏はアメリカのハードパワーに軍事力だけでなく、経済力も加え、これを、他を魅了するソフトパワーと組み合わせることで、「グローバルな課題に取り組んでいく枠組みを構築していくこと」をスマートパワーの定義にしている。

一方、アメリカのNATO大使を務めたロバート・ハンターは、最近のCFRインタビュー「欧州にもアフガンへの「非軍事的貢献」を求めよ」(フォーリン・アフェアーズ日本語版2009年2月号)でスマートパワーをより具体的に説明している。

ヨーロッパにアフガンへの軍事貢献の強化を求めても、欧州各国の世論の動向からみて、それが実現する可能性は低いとみるハンターは、軍事領域でのリーダーシップはアメリカが取り、統治体制の強化、復興、開発をヨーロッパにゆだねるという棲み分けを提言し、これを「スマートパワー的なアプローチ」と呼んでいる。もちろん、日本にもアフガニスタンでの責任分担が求められている。スーザン・ライス米国連大使は、「経済、社会の各分野で互いに補完しながら復興支援を進めるべきだと」と日本側に語ったと報道されている。

こう考えると、現状におけるスマートパワーの定義とは、軍事力偏重路線を脱し、同盟関係を重視し、国際主義路線に徹してグローバルなアジェンダに対処していくために、アメリカのソフトパワーとハードパワーを組み合わせるとともに、問題解決に向けて同盟国、パートナー国間で活動の棲み分けを規定すること、と表現できるかもしれない。

アメリカのスマートパワー路線が同盟国にとっての責任分担の拡大を意味するとすれば、同盟国側はアフガン問題に限らず、グローバルな懸案の多くに関してどのような国益認識を持っているかをはっきりとさせておくべきだし、どの活動をいかに担うのかという構想力も問われることになる。●

By Koki Takeshita

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