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2008年9月号 アメリカの論調から日米と日中を考える  

2009-09-10

米民主、共和両党の主要な大統領候補たちが、フォーリン・アフェアーズ誌上で外交論文を発表しだしたのは2007年夏。最初がバラク・オバマ、秋にはジョン・マケインが外交公約を発表した。2008年に入ると、両党の本命候補と目されていたヒラリー・クリントンとルドルフ・ジュリアーニがともに選挙戦から撤退し、その後、ライス国務長官がブッシュ外交の回顧と展望に関する分析を示し、その前後には、リチャード・ハース、フレッド・バーグステンという政策通がともにシステム論に関する刺激的な分析を発表している。そして今月号には、オバマ、マケインの実質的な外交顧問とみなされているリチャード・ホルブルック、ロバート・ケーガンだけでなく、ヘンリー・ポールソン財務長官が登場している。この一連の論文の流れからだけでも、さまざまなアメリカの政治と外交思想の流れを深読みできるかもしれない。

だが、日本についてこれらの論文で言及されることはほとんどなく、逆に、ヒラリー・クリントンが論文で米中関係を「もっとも重要な2国間関係」と描写したことが、日本軽視論として日本国内では大きく取り上げられた。当時、H・クリントンの外交顧問を務めていたホルブルックが「日本はアメリカにとって不可欠の同盟国」と釈明する一幕さえあったが、同氏は、今回の「次期大統領が直面する遠大な課題」でも、地球温暖化問題をめぐる中国との協調を深めていけば「世界でもっとも重要な2国間関係」に新たな協調の機会をもたらせると指摘している。

マイク・マンスフィールド米駐日大使が日米関係を「世界でもっとも重要な2国間関係」と描写したのは1980年代。当時の日本はバブル景気に沸き返っていた。冷戦はまだ終わっていなかったし、グローバル化も9・11もアメリカの一極支配とそれに続く相対的衰退もまだ起きていなかった。

現在のアメリカにとってなぜ中国との関係が「世界でもっとも重要な2国間関係」なのか。それは、北朝鮮問題、イラン問題、対ロシア関係、資源問題、地球環境問題、アメリカ経済、グローバル経済、世界システムを含む、すべての世界的なアジェンダをめぐって中国がグローバルな対応の鍵を握っているからだ。ポイントは対中協調そのものよりも、いかにアジェンダに取り組んでいくかにあり、この点は、R・ハース、F・バーグステン、H・ポールソンの論文で見事に分析されている。

ポールソンの「米中戦略経済対話の継続を」を読むと、1980年代末から1990年にかけての日米構造協議を思い出す人もいるだろう。だが、米中戦略経済対話とかつての日米経済交渉はその規模、ビジョンの次元が違う。中国と交渉しつつも、実際には、グローバル・アジェンダが争点とされている。ポールソン自身、問題は、中国がアメリカに取って代わることではなく、「中国経済が大きなトラブルに見舞われれば、アメリカとグローバル経済の安定が脅かされてしまうことにある」と指摘している。米中戦略経済対話は、実質的に、「ホスト国の首脳も参加する」グローバル・アジェンダに関する米中閣僚会議であり、バーグステンが提唱する米中によるG2の枠組みに近い。

世界環境はすでに大きく変化し、すでに、国や特定地域との関係よりも、グローバル・アジェンダや一国だけでは解決できないグローバル・イシューを軸に国際関係がとらえられる時代に入っている。必然的に、特定の国家間関係や同盟関係の価値は薄れ、地球温暖化、資源エネルギー問題、テロ(および西洋とイスラム世界)、原油価格高騰と富の移転(政府系ファンド)、新興感染症、貿易保護主義、中国とインドの台頭、アフリカの経済開発問題などのグローバルなアジェンダやイシューが今後ますます重視されていくことになる。実際、国務省ではなく、グローバル金融の専門家であるヘンリー・ポールソンが対中関係を取り仕切り、成功を収めたことに時代の変化は象徴されている。こう考えると、「日本はアメリカにとって不可欠の同盟国」とホルブルックが釈明せざるを得なくなった日本の反発は、あまりに大人げなかった。ポールソンが指摘するとおり、自国の利益が何であるかを把握し、相手国の懸念と優先課題に配慮して共有基盤をさぐり、変化と協調を引き出していくことが、最終的には国益を促進することになる。●

KT
(C) Foreign Affairs, Japan

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