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― 迫り来る台湾危機に関する論文

中国軍粛正の意味合い
―― 習近平と台湾海峡リスク

2025年9月号

M・テイラー・フラベル マサチューセッツ工科大学 政治学教授

2023年秋以降、中国軍を指導する共産党の最高機関・中央軍事委員会の制服組委員6人のうち3人が解任されている。中国で進行中の粛清について、外部の専門家が詳細な情報を集めて分析するのは非常に難しい。だが、こうした軍高官の粛清は一部の近代化プログラムを遅らせ、指揮統制と意思決定を混乱させ、士気を低下させる可能性が高く、軍の短・中期的戦闘能力を低下させることになるだろう。だが、中国の過去の軍事作戦が、適切な条件が整うのを待って実施されたことなどほとんどないことも認識すべきだ。朝鮮戦争への介入、中印戦争、中越戦争は、軍事的にも政治的にも問題のあるタイミングで実施されている。台湾に対する危険を楽観してはならない。

台湾侵攻を阻む抑止力の強化を
―― 軍事・外交・経済の適切なバランスを

2025年7月号

オリアナ・スカイラー・マストロ スタンフォード大学国際問題研究所 センターフェロー
ブランドン・ヨーダー オーストラリア国立大学 上級講師

中国の台湾侵攻を阻む抑止力を最大化するには、米台の防衛力を強化し、北京を安心させ、経済デカップリングなどの経済圧力策の行使を控えて軍事・外交・経済の適切なバランスをとる必要がある。問題は、これら三つをどのようなバランスで組み合わせるのが最適なのかに関するコンセンサスがほとんどないことだ。こうして、軍事力の強化は道半ばとなり、台湾に関する「戦略的曖昧さ」路線の揺らぎが北京の不安を高めている。その行使を控えることで、危機の際に抑止力を強化できるはずの経済圧力が、すでに高度に利用されている。軍事的即応態勢と軍事能力の強化に投資し、慎重な発言を心がけ、経済的なレジリエンスと一定の相互依存関係の維持に努めることが、台湾の安全強化につながる。

東アジアと台湾を捉え直す
―― 中国のアジア覇権を阻むには

2025年5月号

ジェニファー・キャバナー ジョージタウン大学 安全保障研究センター教授
スティーブン・ワートハイム カーネギー国際平和財団 アメリカ政治プログラムシニアフェロー

台湾はアメリカにとって重要だが、中国との戦争を正当化するほどの価値はない。政治家は中国と戦争になればどのようなコストが生じるかを米市民に伝え、アメリカの生存と繁栄が台湾の政治的地位に左右されるという誤った考えを退けなければならない。米兵を戦闘に参加させずに、台湾の防衛を支援する新しい戦略を考案する必要があるし、アジアにおけるアメリカの利益を台湾の運命と切り離し、台湾が北京に支配されないようにすることの重要性を引き下げるべきだ。重要なのは、アジアの同盟国やパートナー諸国の自衛と防衛力強化を促し、中国が台湾侵攻を地域的覇権獲得につなげるのを阻むことだ。

反欧米ブロックへの強硬策を
―― 中露分断策の不毛

2025年1月号

オリアナ・スカイラー・マストロ スタンフォード大学国際問題研究所 センターフェロー

中国、ロシア、イラン、北朝鮮という枢軸メンバー間の相互関係の深さを推定したり、彼らを引き離そうと努力したりするのではなく、ワシントンは、これらを独裁国家のブロックとして扱い、同盟諸国にも同様の対応をとるように働きかけるべきだ。中国を枢軸のリーダーとして扱い、ある枢軸メンバーが好ましくない行動をすれば、(中国を含む)他の枢軸メンバーにもペナルティを課すようにすべきだ。ロシアの戦争努力を支援する中国企業だけに制裁を科すのではなく、アメリカは中国という国を対象に経済制裁を実施する必要がある。そして、ロシアが交渉テーブルに着くまで、制裁は継続すると北京に伝える。もはや代替策は存在しない。

台湾を守る曖昧戦略
―― いかに壊滅的事態を防ぐか

2024年12月号

ジェームズ・B・スタインバーグ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院 学院長

中台の衝突は不可避ではないが、あり得ないとも言い切れない。それを回避できるかは、米中台、三つの政府の慎重な政策の選択にかかっている。アメリカの台湾政策を批判する専門家が指摘するように、数十年にわたる「戦略的曖昧さ」路線が、米中台のいずれも完全に満足できる状況を生み出していないのは事実だろう。しかし、特定の当事者を完全に満足させる結果は、別の当事者には受け入れられないものだ。つまり、ワシントンが目指すべきは、すべての当事者が受け入れられる(複雑な)現状を特定することだ。高度なバランスを要するが、外交とはそういうものだ。

アジアとトランプの脅威
―― 不安定化リスクにどう備えるか

2024年8月号

ビクター・チャ ジョージタウン大学教授(政治学)

オーストラリア、日本、韓国という緊密な同盟国を含む、インド太平洋におけるすべての米同盟国は、トランプ二期目が新たな問題を突きつけてくる事態にもっと危機感をもつべきだ。トランプは、バイデン政権とアジア諸国がまとめた防衛、経済・貿易構想の再交渉を求めるか、解体を試みるかもしれない。同盟国をこれまで以上に貿易上の敵対国とみなし、アメリカの軍事プレゼンスの削減を試みるだろう。独裁的指導者たちと親交を深め、アジアの核不拡散環境を揺るがし、朝鮮半島の核武装化を刺激する恐れさえある。

南シナ海に迫る危機
―― 中国との危機を機会に変えるには

2024年3月号

マイケル・J・マザー ランド研究所 上席政治学者

習近平国家主席は、停滞する中国経済の再生と国内での政治的管理体制の強化に躍起になっているし、アメリカとの緊張緩和への期待も示している。しかし、南シナ海での衝突や挑発行為がより頻繁に発生するようになれば、それが危機につながっていくのは避けられないし、そのような事態に直面すれば、アメリカの対中戦略は大きな転換点を迎える。北京の能力と影響力を抑える障壁を積み上げることであれ、抑止力の強化であれ、中国の力と野心に対抗するだけでは、今後10年にわたって存続できる戦略関係を形作ることはできない。むしろアメリカは中国に対抗しつつも、一方で、北京との安定した関係を築き、いつかは相互に尊重できる共存へと移行できるような基盤を築いていくべきだろう。

米中戦争と台湾・第一列島線
―― 戦争の長期化・広域化と多領域化に備えよ

2024年2月号

アンドリュー・F・クレピネビッチ ハドソン研究所 シニアフェロー

アメリカとその同盟国は、核兵器によるエスカレーションの可能性は小さいとしても、何カ月も何年も続き、経済、インフラ、市民生活に莫大なコストを強いる中国との大国間戦争が何を意味するかを考え始めるべき段階にある。中国と米主導の連合軍との通常戦争は長期化し、地理的に広域化するだけでなく、その対立は、世界経済、宇宙、サイバースペース等の多くの領域に飛び火する危険がある。しかも、中国が第一列島線に沿った主要な島嶼を占領した場合、アメリカとその同盟国が許容範囲に近いコストでそれらの島々を奪還するのは非常に難しい。どちらの側にとっても決定的な軍事的勝利の見込みがない以上、この戦争は数年以上にわたって続く危険がある。・・・

本当の対中抑止力とは
―― 米台が中国を安心させるべき理由

2024年1月号

ボニー・S・グレーザー 米ジャーマン・マーシャル財団 マネージングディレクター
ジェシカ・チェン・ワイス コーネル大学 教授(中国・アジア太平洋研究)
トーマス・J・クリステンセン コロンビア大学教授(国際関係論)

「あと一歩踏み込んだら撃つぞ」という警告が抑止のための威嚇になるのは、「踏み込まなければ、撃つことはない」という暗黙の了解が一方に存在するからだ。潜在的な敵を思いとどまらせるには、「保証」を示して、相手を安心させる必要もある。ワシントンと台北は抑止力の強化に努めながらも、武力行使を控えれば、懲罰の対象にはされないと北京を安心させなければならない。一部の米政府高官たちが主張するように、台湾を主権国家として承認し、台湾防衛のための明確な同盟コミットメントを示せば、北京の安心感は損なわれ、抑止力も低下する。この場合、ワシントンが地域的な軍事力強化にいくら力を注いでも、戦争を防ぐことはできなくなるかもしれない。

台湾海峡で中国を抑止するには
―― アメリカの能力と決意を示せ

2023年11月号

デビッド・サックス 米外交問題評議会フェロー
イヴァン・カナパシー 元国家安全保障会議 ディレクター

いまや、外交は綻びをみせ、抑止力は形骸化している。しかも、中国のリスク許容レベルは高まり、台湾海峡における不安定化要因は増える一方だ。ワシントンは、対中抑止力が低下していることを認識した上で、武力行使が破滅的な結果を招くことを習近平に理解させるために、さらなる措置を講じなければならない。そのためには、北京との摩擦が大きくなることを受け入れ、台湾の戦闘能力を高め、台湾軍の訓練や米軍アドバイザーの派遣を含めて、台湾のために軍事介入するアメリカの能力と決意を示さなければならない。アメリカとパートナーは、武力行使が解決策にはならないことを中国に認識させる必要がある。

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