1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

新・中東危機に関する論文

イランの戦略目的は何か
―― 戦闘ではなく、戦争に勝利する

2026年5月号

ナルゲス・バヨグリ ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院 准教授(中東研究)

イランは、アメリカとイスラエルの空爆を生き延びているだけではない。戦略レベルで、敵対国を深刻な経済的・政治的問題に直面させている。テヘランの最終的な戦略目的は、米軍が湾岸地域に駐留し続けることの政治的代償を、維持できないほど高くすることにある。イラン・イラク戦争の経験から、テヘランは攻撃を耐え、戦力を分散し、再編成する能力を強化してきた。多くの高官が殺害されたにもかかわらず、革命防衛隊が機能を維持できているのもこのためだ。すでに、湾岸諸国は対米連携の価値について真剣に疑問を抱き始めている。アメリカとイスラエルは「軍事的戦闘では勝利している」かもしれない。だが「戦争に勝利している」のはイランかもしれない。

イランが戦う二つの戦争
――アメリカとイスラエルの誤算

2026年5月号

モハンマド・アヤトッラヒ・タバール テキサスA&M大学 公共政策大学院准教授(国際関係学)

アメリカとイスラエルは、テヘランは弱く、(反撃にも)慎重だとかねて侮ってきた。こうして両国はテヘランが核協議に前向きだったにもかかわらず、繰り返しイランを攻撃した。テヘランも、今後の相手の攻撃にはより攻撃的な対応をとらなければならないと、戦略を劇的に転換した。ホルムズ海峡やバブ・エル・マンデブ海峡についても言及していた。それでもアメリカとイスラエルはテヘランを侮り、イラン攻撃を実施した。ラマダンの時期に決行されたイラン最高指導者の暗殺を前に、いまやイランは、あらゆるものを攻撃対象にできると考えている。重要なのは、テヘランは、「イランを攻撃すれば、重大な帰結に直面すること」を対外的に示すことを望んでいるだけではない。今回の戦争を、かつてのイラン・イラク戦争同様に、国内での体制基盤の強化につなげたいと考えている。

ホルムズ海峡とイランの優位
―― 米国にまともな選択肢はない

2026年4月号

ケイトリン・タルマッジ マサチューセッツ工科大学 政治学准教授

イランは、機雷、ミサイル、ドローン、小型潜水艦、ドローンボート、武装高速艇を組み合わせて、ホルムズ海峡のタンカー航行を脅かすことをかねて計画してきた。これらによって、イランによる集中攻撃にさらされる空間がホルムズ海峡で形成され、これを解体するのは容易ではない。アメリカはイランによる機雷敷設を阻止することに集中し、より大規模な戦争からの出口を探るべきだ。そうしない限り、ワシントンは、ホルムズ海峡における船舶航行に対する妨害行為が、イランがかねてより準備し、今まさに展開しようとしている数ある対応策のほんの一部に過ぎないことを思い知ることになる。

未曾有のエネルギー危機
―― イランとホルムズ海峡

2026年4月号

マイケル・フロマン 米外交問題評議会 会長
ダン・ポネマン 元エネルギー省副長官
ジェイソン・ボルドフ コロンビア大学 グローバル・エネルギー政策センター所長

(ホルムズ海峡を経由しない)サウジアラビアのパイプラインの価値は(積み出し港である)ヤンブー輸出ターミナルのキャパシティによって制約される。このターミナルは最大で1日あたり約450万バレルを輸出できるように設計されているが、実際にはそれよりはるかに低い能力しかない。さらに、その輸出ターミナルやそこで積み込み可能なタンカーは、フーシ派の攻撃にさらされる危険がある。(ダン・ポネマン)

現状は、中国の長期的なエネルギー安全保障戦略の正しさを裏付けている。中国は、経済の電力化を促進することで石油輸入を抑制し、石炭や再生可能エネルギーなどの国内資源からより多くの電力を生産すること、そして約14億バレルに達する巨大な戦略石油備蓄を強化することに重点を置いてきた。(ジェイソン・ボルドフ)

いかなる手段を用いても、湾岸地域から十分な量の石油を運び出すことはできない。パイプライン、備蓄放出、浮体式貯蔵施設からの放出を考慮に入れても、おそらく1日あたり1000万バレル以上の供給不足が生じると考えられる。(マイケル・フロマン)

トランプが開けたパンドラの箱
―― 目標もエスカレーション回避策もない(3/1/2026)

web exclusive

アリ・バエズ 国際危機グループ(ICG) イラン・プロジェクト ディレクター

今回の「壮絶な怒り」作戦は、パンドラの箱を開けてしまった。そこには、達成可能な明確な目標もなければ、エスカレーションを抑えるための道筋もない。空爆でインフラを破壊し、政府の能力を弱体化させ、指導層を排除できるかもしれないが、まとまりのある政治的代替策を準備することはできない。しかも、イランは革命防衛隊、情報機関、治安部隊といった組織を維持しているし、これらはまさにこのような事態に備えて整備されてきた。アメリカの賭けが「空爆で上からイラン政府を叩き、イラン民衆が地上で政府を倒す」ということなら、その賭けには先例とできるような明確な歴史モデルは存在しない。

中東の安定とシーア派の未来
―― シーア派の国家への統合を

2026年3月号

マリア・ファンタッピー イタリア国際問題研究所 アソシエートフェロー
バリ・ナスル ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院 教授(国際問題・中東研究)

軍事的には、抵抗の枢軸はいまや粉砕されている。この枢軸を設計したイランの戦略家たちは高齢化し、アラブ世界のパートナーの多くは、イスラエルの攻撃で殺害されている。だが、抵抗の枢軸を支えてきたイラク、レバノン、シリアに残されたシーア派コミュニティに、それぞれの国で政治的未来、つまり、国境を越えたイデオロギーに代わる国内での役割と経済的機会を提供しない限り、中東の安定は再び脅かされる。生き残るためにシーア派が国境を越えた宗派的な共同体政治を模索すれば、広範な地域が不安定化する。シーア派が新しい中東秩序に利害をみいだせなければ、イラン封じ込めも難しくなる。

体制変革と歴史の教訓
―― イラン、ベネズエラ、ガザ

2026年2月号

リチャード・ハース 外交問題評議会 名誉会長

アフガニスタン、イラク、リビアでの惨憺たる失敗から考えれば、ベネズエラやイランなど、ここにきて体制変革論が突然、復活していることには驚かされる。少なくとも、政権打倒後の計画がなければ、壊滅的な事態に直面することは、歴史の教訓としてわかっている。だが、おそらくもっとも重要なのは、「対応を必要とする現象としての体制変革」と「特定の結末を得るための意図的な政策としての体制変革」をワシントンが区別することだ。ベネズエラ、ガザ、そしておそらくはキューバへのアプローチを考える上で重要なのは、他国におけるトランスフォーマティブな変化を作り出すのではなく、出現した機会を前にそれに対応し、支援することに焦点を合わせることだ。

トルコ帝国の幻想
―― 大いなる野望、ぜい弱なパワー

2026年2月号

アスリ・アイディンタスバス ブルッキングス研究所 フェロー

エルドアンは、オスマン帝国のような歴史的役割をトルコは回復できると考えているのかもしれない。だが、彼が思い描く「トルコ主導の地域秩序」という野望は現在のトルコには実現できない。シリアの復興を含めて、そのような秩序構想を支える経済力はないし、イスラエルとの対立も抱え込んでいる。トランプの支持もあてにはできず、湾岸諸国もトルコの野心を警戒している。エルドアンはオスマン帝国のスルタンになる夢を抱いているのかもしれないが、中東全域をカバーする唯一の支配勢力であった時代へと時計の針を戻す試みは、幻想に終わるだろう。

イスラエルの覇権幻想
―― 破壊では平和は築けない

2025年12月号

マーク・リンチ ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学、国際政治)

中東の地域的リーダーシップは軍事的優位だけでは得られない。他の地域大国の一定の合意や協力が必要になることをイスラエルは理解すべきだ。現実には、中東でイスラエルのリーダーシップを望む者など誰もいない。むしろ、地域諸国はイスラエルの暴走するパワーを警戒し、脅威とみなし始めている。民衆蜂起の再燃を恐れる湾岸の指導者たちは、アラブ民衆のイスラエルに対する怒りを十分に感じとり、それを政策に織り込んでいる。これまで中東における軍事的拡張主義やガザを破壊する行動をとっても、大きな代価を支払わずに済んできたために、イスラエルは今後も問題にはならないという感覚をもっているが、それは大きな間違いだ。

イスラム国の復活
―― シリアの内戦化を阻むには

2025年12月号

キャロライン・ローズ ニュー・ラインズ研究所ディレクター
コリン・P・クラーク ソウファン・グループ 研究ディレクター

2024年のアサド政権崩壊以降、シリアでは、イスラム武装組織が台頭し、国内の宗派対立が激化している。一方で、イスラエルはシリア空爆を続け、シリアの新政権内の対立も激化している。しかも、かつてシリア国土の3分の1を支配したイスラム国勢力(ISIS)が再台頭している。シリアの治安部隊がISISや他のテロ組織に対抗できる態勢を確立すれば、米軍は撤退できるが、いまはまだその時ではない。このように不安定な時期にアメリカが時期尚早に撤退すれば、ISISを勢いづかせ、米軍がシリアに派遣された本来の目的を損なうことになりかねない。

Page Top