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ドナルド・トランプに関する論文

トランプ主義のグローバルなルーツ
―― ネオリベラリズムからネオナショナリズムへ

2016年12月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治経済学)

約30年前に欧米ではネオリベラリズム政策が導入され、経済政策の目標はそれまでの完全雇用から物価の安定へと見直された。生産性は上昇したが、収益はすべて資本側へと流れ込むようになった。労働組合は粉砕され、労働者が賃金引き上げを求める力も、それを抑え込む法律と生産のグローバル化によって抑えこまれた。だが、かつて完全雇用をターゲットにしてインフレが起きたように、物価の安定を政策ターゲットに据えたことで、今度はデフレがニューノーマルになってしまった。低金利の融資が提供された結果、危機を経たアメリカの家計債務は12兆2500億ドルにも達した。反インフレの秩序を設計した伝統的な中道左派と右派の政党は政治的に糾弾され、反債権者・親債務者連合が組織された。これを反乱的な左派・右派の政党が取り込んだ。これが現実に起きたことだ。・・・

エリートを拒絶した英米の有権者たち
―― ブレグジットからトランプの勝利まで

2016年12月号

ダグラス・マレー  英ヘンリー・ジャクソン協会  アソシエート・ディレクター

キャメロンとクリントンは、これまでの経済政策が多くを犠牲にして一部の人に有利な状況を作りだしていることに対して満足のいく解決策を示せなかった。仮にクリントンが大統領に選ばれていても、大衆の不満が聞き入れられただろうか。そうはならなかったはずだ。大衆の懸念に軽く同意することはあっても、大統領になれば、この問題への対応を試みることは、ほとんど、あるいは全くなかっただろう。「エリートが自分たちの懸念に耳を傾けることはない」と考えられている環境で、緊急ボタンを押すのは正当な行動だし、おそらくは有権者として唯一の責任ある行動だったかもしれない。イギリスの大衆にとってのエリート主義のシンボルは欧州委員会だったが、アメリカの大衆が選挙でターゲットにしたエリートはヒラリー・クリントンだった。

トランプ大統領の課題
―― 問われる問題への対応能力

2016年12月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学シニアフェロー

アメリカの政治システムの衰退を覆せるとすれば、現在の均衡を揺るがし、本当の改革を実現できるような環境を作り出す、パワフルな外からのショックが必要だ。トランプの勝利はそうしたショックに違いないが、残念なことに、彼が示す解決策は伝統的なポピュリストの権威主義者のそれでしかない。「私がうまくやるから、カリスマ指導者である私を信じて欲しい」。イタリアの政治を揺るがしたシルビオ・ベルルスコーニのケースからも明らかなように、本当の悲劇は、真の改革の機会が無為に費やされてしまうことだ。

トランプ後もポピュリズムは続く
―― なぜ欧米でポピュリズムが台頭したのか

2016年11月

ファリード・ザカリア 「ファリード・ザカリアGPS」 (CNN)のホスト

欧米世界ではポピュリズムが着実かつ力強く台頭している。先進国が直面する低成長や移民流入が作り出す問題に慎重に対処していくには、一連の対策を通じて、全般的に少しずつ状況を改善させていくしかない。しかし、有権者はより抜本的な解決策とそれを実施できる大胆で決意に満ちた指導者を求めている。このために多くの人が、いまや大差ない政策しか打ち出せない伝統的な政党に幻滅し、ポピュリズム政党やポピュリストの指導者を支持している。バーニー・サンダースからトランプ、ギリシャの急進左派連合から、フランスの右派政党・国民戦線はその具体例だ。アメリカ人の多くは、トランプ現象は特有のもので、より大きくて永続的なアジェンダを映し出しているわけではないと考えているが、それとは逆が真実であることを示す証拠が出揃いつつある。・・・

見捨てられた白人貧困層とポピュリズム

2016年12月号

ジェファーソン・カーウィー バンダービルト大学教授(歴史学)

テクノロジーと金融経済の進化は、東海岸や西海岸における都市の経済的・社会的バイタリティーを高めたが、製造業に支えられてきた南部と中西部にはみるべき恩恵はなかった。南部と中西部の経済が衰退して市民生活の空洞化が進んでいるのに、政治的関心がこの問題に向けられなかったために、これらの地域の「成長から取り残された」多くの人々がドラッグで憂さを晴らすようになり、なかには白人ナショナリズムに傾倒する者もいた。トランプはまさにこの空白に切り込み、支持を集めた。トランプは、政治舞台から姿を消すかもしれないが、彼が言うように、「実質的な賃金上昇がなく、怒れる人々のための政党」が出現する可能性はある。民主党か共和党のどちらか(または両方)が、貧しい白人労働者階級が直面する問題に対処する方法を見つけるまで、トランプ現象は続くだろう。

アメリカにおけるポピュリズムの歴史
―― ポピュリズムと政治的進化

2016年11月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

トランプはアメリカの無数の白人労働者階級と中間層が心の底に抱える不満と怒りに訴えることに成功したが、そのスローガンが「アメリカを再び偉大な国に」ではなく、「アメリカを再び憎み合う国に」であっても何の違和感もないほどに、否定的なメッセージを撒き散らした。ポピュリズムを台頭させたのは、金持ちを優遇する経済システム、移民に雇用を奪われる不安、大多数の幸福よりも自分の出世を重視する政治家に対する怒りだ。ポピュリストの訴求力を低下させるには、こうした不安や怒りに真剣に対処するしかない。つまり、うまく利用すれば、ポピュリズムを、民主主義を危険にさらすのではなく、民主主義を強化するきっかけにできる。実際、アメリカ人が機会の平等や民主的統治といった理念の実現を政治的エリートに求める上でポピュリズムに勝るパワフルな手段はない。そして二大政党のいずれかが、こうした人々の不安や懸念に対処していかない限り、ポピュリズムは今後も続くだろう。

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