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迫りくる中国の激震

ニール・C・ヒューズ  前世界銀行シニア・オペレーションズ・オフィサー

Smashing the Iron Rice Bowl

Neil C. Hughes 一九九二年から九七年まで世界銀行のシニア・オペレーションズ・オフィサーを務め、現在は都市問題、工業開発を専門とするコンサルタント。現在、中国の近代化に関する著作を執筆中。

1998年9月号掲載論文

国有企業は単なる「職場」ではなく、労働者やその家族に各種サービスを提供するコミュニティーである。しかし、今や国有企業はひどく非効率となり、これが生き長らえているのは、ひとえに政府の補助金政策のおかげである。経済改革を成就するには、「鉄飯碗」として知られるこのコミュニティーを崩す必要があるが、それは同時に改革プログラムを政治的に支えている社会的安定基盤も揺るがしてしまう。だが現実には、政府は国有企業の多くを閉鎖せざるを得ず、その場合には千五百万人もの労働者が失業し、その多くが抗議行動に繰り出すことになるだろう。社会的、政治的激震を回避するには、企業、労働者、中央政府、地方政府が負担義務を分かち合う、国による社会保障システムの構築、さらには労働者のための職業再訓練プログラム、公共事業の準備が不可欠であり、その準備のために中国政府に残された時間は少ない。

  • 千五百万人の失業者 <一部公開>
  • 改革のジレンマ
  • 国有企業と郷鎮企業
  • コミュニティーとしての国有企業
  • 確立されない透明性
  • 準備はできたか

<千五百万人の失業者>

新聞の見出しを飾るアジアの金融危機に、(世界中の)数多くの投資家たちが関心を寄せている。インドネシア、タイ、韓国における危機の本質は、政府、銀行、民間企業間のなれあい的な体質にあったが、中国の金融部門もまた、もがき苦しみつつある近隣諸国と似たような状態にある。だが、中国はこの二十年にわたって経済改革を実施し、急速な成長を遂げ、交換可能通貨による(外貨)準備高を増やし、健全なマクロ経済パフォーマンスを示してきた。こうした実績を基に、中国の指導者たちは、さらに改革を推し進めれば災難を回避できると考えている。彼らは「社会主義市場経済」の成就をめざしており、それが成功するかどうかは国有企業の改革の行方しだいである。だが、北京政府が生半可な一時しのぎの解決手法をとっていること自体、社会主義が資本主義と融合する際に生じる矛盾を克服する能力が中国にないことを物語っていると言えよう。

中国社会にとってシンボルとスローガンはつねに重要であり、これらは今も共産党のイデオロギー上の目的と成果をたたえる呪文のような存在だ。コメは数千年来、中国の主食だが、中国共産党の経済政策の最も重要なシンボルも、コメに由来する「アイアン・ライスボウル(鉄飯碗)」である。これは、揺らぐことのない終身雇用制度、具体的にはすべての市民に「揺りかごから墓場まで」の社会保障が提供されることを意味する。鄧小平が一九七八年、中央統制経済からより市場経済的な経済に向けた改革を開始した時、支持者たちは、中国を近代化するつもりならこの鉄飯碗を粉砕しなければならないと主張したものだ。

しかし、この鉄飯碗(盤石の社会保障システム)を壊せば、改革プログラムを(政治的に)支えている社会的安定基盤が揺るがされてしまう。これこそが中国のジレンマである。とはいえ、補助金が減らされるにつれて、国有企業はますます迷走しつつある。政府は国有企業の買い手を躍起になって探しているが、状況は思うにまかせない。かつては国有企業を支え、「鉄飯碗」を不動のものとしていた予算も、企業の近代化に必要な資本の飛躍的な増大や歳入の激減という状況の下、今や枯渇している。一部には今でも補助金が与えられているが、近いうちに政府は国有企業の多くを閉鎖せざるを得なくなるだろう。そうなれば、千五百万人もの労働者が失業し、そのうちの数千人が市中へと抗議行動に繰りだすことになる。北京政府に残された時間はそう多くない。

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