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米国に関する論文

2012年、 われわれは何を心配すべきか
――世界のマクロ政治・経済リスクを検証する

2012年2月号

デビッド・ゴードン  ユーラシアグループ・グローバルマクロ分析部門ディレクター

・ ヨーロッパがソブリン債務危機を克服することはあり得ないが、ユーロゾーンの崩壊も、ヨーロッパ主要国が2012年に信用危機に陥っていくこともない。だが、ギリシャは非常に深刻な事態に直面する。
・ アメリカ(とドル)が安全地帯とみなされる限りは、ワシントンは経済を前に進めることができる。
・ 中東地域では歴史的なスンニ派とシーア派の対立が再燃しつつある。シリア、イラク、そしてイランもこの宗派対立にとらわれている。
・ インドは今後大きな危険にさらされることになる。インドのことを南アジアにおける欧米の前哨基地とみなすテロ集団の標的にされる恐れがある。
・ 急速に北朝鮮が崩壊へと向かった場合に何が起きるか。米軍と韓国軍は核施設の安全を確保するために北へ向かい、一方で、中国軍も自国への難民流入を阻止するために、鴨緑江を越えて現地に入り、秩序を確立しようとするかもしれない。・・・

リベラルな民主主義の奇妙な勝利そして停滞

2012年2月号

シュロモ・アヴィネリ ヘブライ大学政治学教授

なぜ20世紀に民主主義が生き残り、ファシズムも共産主義も淘汰されてしまったのか。1930年代から21世紀初頭にいたるまで、ヨーロッパ全域が民主化すると考えるのは現実離れしていたし、リベラルな民主主義が勝利を収める必然性はどこにもなかった。なぜ、社会に提示できるものをもち、圧倒的な力をもっていたマルクス主義がリベラルな民主主義に敗れ去ったのか。そしていまや、多くの人が(民主主義を支える経済制度である)資本主義が経済利益を広く社会に行き渡らせる永続的な流れをもっているかどうか、疑問に感じ始めている。ヨーロッパとアメリカの昨今の現実をみると、民主的政府は危機に適切に対応できず、大衆の要望を満たす行動がとれなくなっている。現在、世界が直面する危機によって、市場原理主義、急激な民営化、新自由主義では、「近代的でグローバル化した経済秩序をどうすれば持続できるか」という問いの完全な答えにはなり得ないことがすでに明らかになりつつある。・・・

シビリアンパワーで米外交を刷新する

2011年2月号

ヒラリー・ロドハム・クリントン 米国務長官

アメリカのエンゲージメント政策は政府間関係を超えたものでなければならない。情報化時代にあっては、権威主義国家でも世論が大きな力を持ち、非国家アクターの影響力が大きくなっている。いまやアメリカの外交官は、駐在国の政府だけでなく、相手国との市民とも交流し関係を築いている。・・・対話集会やメディアとのインタビュー、地方の町や小さなコミュニティーでのイベント、交換留学生プログラム、そして人々と市民組織をつなぐバーチャルな関係を通じて市民とエンゲージメントしていくことを、すべての外交官の責務としてすでにわれわれは規定している。21世紀の外交官は、相手国政府の外交官だけでなく、地方の部族長老とも同じように対話することになるだろう。・・・アメリカはシビリアンパワーと軍事力の適切なバランスを取ることで、国益と価値を促進し、グローバルな問題を解決するために他の国々をリードするとともに、伝統的な同盟国や新興国との間でも外交と開発をめぐるパートナーシップを構築していくだろう。

いまこそイランを軍事攻撃するタイミングだ
―― 封じ込めは最悪の事態を出現させる

2012年2月号

マシュー・クローニッグ
前米国防長官室ストラテジスト

アフガンとイラクでの戦争がやっと幕引きへと向かい始め、米財政が苦しい状況に追い込まれるなか、アメリカ人はさらなる紛争など望んではない。しかし、イランの核開発が成功した場合に何が起きるかを考えれば、状況を傍観することは許されない。イランの核施設に対する慎重に管理された空爆作戦をいま実施した方が、核武装したイランを数十年にわたって封じ込めるよりも、はるかにリスクは小さくて済む。実際、現状を放置して核武装を許し、核を持つイランを封じ込めていくのは最悪の選択肢だ。イランが核開発に向けた進展を遂げている以上、「通常兵器による攻撃か、将来における核戦争の可能性か」のいずれかを選ばざるを得ない状況にある。ワシントンは、イランの核施設に対する空爆を実施し、イランの報復攻撃を受け止めた後、危機を安定化へと向かわせる戦略をとるべきだ。現在、危機に正面から対処すれば、将来においてはるかに危険な事態に直面するのを回避できるだろう。

歴史の未来
―― 中間層を支える思想・イデオロギーの構築を

2012年2月号

フランシス・フクヤマ
スタンフォード大学シニアフェロー

社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。問題は、社会民主主義モデルがすでに破綻しているにも関わらず、左派が新たな思想を打ち出せずにいることだ。先進国社会が高齢化しているために、富を再分配するための福祉国家モデルはもはや財政的に維持できない。古い社会主義がいまも健在であるかのように状況を誤認して、資本主義批判をしても進化は期待できない。問われているのは、資本主義の形態であり、社会が変化に適応していくのを政府がどの程度助けるかという点にある。

思索の人、ジョージ・F・ケナンの遺産
―― 決して満足しない精神

2012年1月号

ニコラス・トンプソン ニューヨーカー誌エディター

ジョージ・ケナンは非常に重要な時期に、トルーマン政権の国務省で政策企画部長を務め、第二次世界大戦後の世界を再設計する仕事をした。だが、その後、彼はワシントンのやり方に苛立ちを感じ始め、ワシントンも彼を厄介な存在とみなすようになる。ケナンは聡明であるがゆえに苛立ち、遠大なビジョンの持ち主であるがゆえに不満を抱いた。彼はこの間ずっと、厳格な自己批判、自虐的な考えを自分のメモとして書き残している。「自分がひ弱で、幼稚で、役に立たないだめな人間に思えることがある」。彼の聡明さと自己卑下はつねに表裏一体をなしていた。現状に満足することに不快感を覚え、「われわれ」は「この現状」よりもよくなれると確信していた。「われわれ」が誰で、「この現状」が何であるかは問題ではなかった。ケナンとは、決して満足しない精神そのものだった。

ソビエト対外行動の源泉(X論文)

2012年1月号

ジョージ・ケナン

 冷戦の理論的支柱を提供した文書としては、ポール・ニッツが中心となってまとめた1950年の「NSC68」、トルーマン政権の大統領特別顧問クラーク・クリフォードによる1946年の「クリフォード・メモランダム」、そして、ジョージ・ケナンの「ソビエト対外行動の源泉」が有名である。前者二つが政府文書であるのに対し、「ソビエト対外行動の源泉」は「フォーリン・アフェアーズ」誌の1947年7月号に名を伏せて「X論文」として掲載された。

 この論文の著者、ジョージ・ケナン(1904-2005)は、1925年に国務省に入省し、ジュネーブやプラハなどヨーロッパ各地を転任した後、1933年モスクワに駐在し、以来ソ連通としてキャリアを重ねていく。1947年に新設された国務省政策企画部の初代部長、1952年から1953年にかけて駐ソ大使を務めるなど、アメリカ冷戦外交の重責を担う。その後1961年にはユーゴスラビア大使となり、1963年に国務省から退く。その後、プリンストン高等研究所で歴史の研究に従事した。

 この論文の原形は、ケナンが1946年にモスクワから打電した「モスクワからの長文の電報」である。電文で示されたケナンの対ソ認識に感銘したジェームズ・フォレスタル海軍長官の推薦で、ケナンは1947年1月に外交問題評議会の研究会でソビエト分析についての報告を行う。講演内容を興味深く感じた「フォーリン・アフェアーズ」誌の編集長ハミルトン・フィッシュ・アームストロングが、「政府の一役人にすぎないから」としり込みするケナンを説得し、「X」という名で「フォーリン・アフェアーズ」に発表させたのがこの論文である。掲載された論文はわずか17ページだったが、以後半世紀にわたってアメリカの対外政策を方向付け、「封じ込め」という語は政治用語のひとつにさえなった。

 政府部内の冷戦コンセンサスの形成には、先のクリフォード・メモ、「モスクワからの長文の電報」、「NSC68」が大きな役割を果たしたのに対し、政策決定サークルを超えた「良識ある大衆」への啓蒙を諮ったのが、X論文だった。ソ連との協調という甘い期待を抱くのではなく、ソ連の拡張主義を封じ込めていく必要があるという主張は、「フォーリン・アフェアーズ」誌に掲載されたことで、広くアメリカの知識人層に影響を与えていく。歴史家のロバート・シュルジンガーは、「X論文」を、「現代史上、もっとも引用され、影響力があり、そして誤解された論文の中のひとつ」と述べている*。(FAJ)

*Robert D. Schulzinger, The Wise Men of Foreign Affairs, p.123 (Columbia University Press, New York), 1984

漂流する先進民主国家
―― なぜ日米欧は危機と問題に対応できなくなったか

2012年1月号

チャールズ・クプチャン
米外交問題評議会シニア・フェロー

グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に応えられなくなっている。これこそ、アメリカ、日本、ヨーロッパという先進民主世界が現在直面しているもっとも深刻な問題だ。先進民主諸国が統治危機に直面する一方で、台頭する「その他」の諸国が新たな政治力を発揮しているのは偶然ではない。グローバル化した世界への統合を進めていくにつれて、先進民主国家が問題への対応・管理手段の喪失という事態に直面しているのに対して、中国のような非自由主義国家の政府は、一元化された中央の政策決定、メディアに対する検閲、国家管理型の経済を通じて、社会の掌握度を高めている。必要とされているのは、民主主義、資本主義、グローバル化の相互作用が作り出している大きな緊張をいかに解決するかという設問に対する21世紀型の力強い答えを示すことだ。政府の行動を、グローバル市場の現実、恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させるとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必要がある。

イランへの軍事攻撃か、 核武装と核戦争のリスクを受け入れるか

2011年12月号

エリック・S・エデルマン 元米国防次官
アンドリュー・F・クレピネビッチ 米戦略予算分析センター会長
エヴァン・ブラデン・モントゴメリー 米戦略予算分析センター リサーチフェ

核分裂の連鎖を引き起こす中性子発生装置など、核兵器生産に必要な、さまざまなパーツの生産をイランが試みていたことが今回のIAEAリポートで明らかになった。すでにテヘランはウラン濃縮を進め、兵器級ウランを生産できる低濃縮ウランの備蓄を増やしている。つまり、IAEAの分析が正しいとすれば、イランは数カ月で核兵器を生産できるようになる。仮にイランが核武装して中東が核時代に突入すれば、そこに出現する核秩序は非常に不安定なものになる。(イランが数発の核弾頭を獲得しても、イスラエルは100―200の核弾頭をすでに保有しており)こうした核戦力の規模の違いゆえに、何らかの危機が起きれば、双方は相手に先制攻撃をかける大きなインセンティブをもつようになるからだ。・・・アメリカは程なく、イランの核武装化を阻むために軍事力を行使すべきか、それとも、核武装したイランと地域的核戦争というリスクを受け入れるかという困難な選択に直面することになる。

米軍事予算の削減と沖縄
――「海兵隊の機能は日本の政治を 不安定化させることでしかない」

2011年12月号

バーニー・フランク  米下院議員(民主党 マサチューセッツ州選出)

われわれは沖縄から海兵隊を撤退させることができる。沖縄の海兵隊の機能は、いまや日本の政治を不安定化させることでしかない。実際、保守政権に代わって日本で民主党政権が誕生して以降、(海兵隊のプレゼンスは)日本の政治を混乱させ続けている。・・・沖縄の海兵隊を配備する戦略目標は中国を封じ込めることだと私は聞かされてきた。だが、すこしやり過ぎではないか。中国が近海のシーレーンを封鎖して、経済的自殺をするとは思わない。

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