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米国に関する論文

デジタル時代の外交
―― 大使館は依然として必要か

2016年5月号

アレックス・オリヴァー / 豪ローウィー国際政策研究所 プログラム・ディレクター

かつては政府にとって外国情報収集の要だった大使館も、リアルタイムのメディア報道やリスク管理会社による綿密な外国分析レポートに後れを取るようになった。しかも、本国の政府はいまや外国政府と直接やりとりできるし、インドのナレンドラ・モディ首相のように、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムを駆使するトップリーダーも現れている。だが、大使館はメディアとは違って、国益の促進という視点から、それまでの経験と知識を生かして特定の出来事を文脈に位置づけ、分析できる。大使館がなくなれば、現地の情勢や鍵を握る人物が誰であるかを知る外交官も、自国の市民が外国で窮地に陥ったときに手を差し伸べる領事館の職員もいなくなる。だがそれでも今後、大使館の運命は「より機敏に状況に対応できるようになれるか、流動化するグローバル情勢により適応に対応できるようになれるか」に左右される。だが、数世紀にわたって存在する伝統的な組織にとって、そうした変貌を遂げるのは決して容易ではないだろう。

米大学生への留学の薦め
―― 国際問題と外国への感性を高めるには

2016年4月号

サンフォード・J・アンガー ガウチャー大学名誉学長

アメリカ人には、外国に関する知識や理解がほぼ例外なく欠落している。しかも外交予算は削られ、メディアも国際報道を減らしている。いまや大統領選挙の論争においてさえ、外交問題について十分な情報に基づく議論を聞くことはない。このために、アメリカの価値を反映し、大衆も支持するような、冷静で一貫性のある外交政策の策定と実施が妨げられている。必要なのは、大学のカリキュラムの一環として外国に留学し、貴重な知見を得てアメリカに帰ってくる大学生を大幅に増やすことだ。アメリカの現在そして過去のリーダーの多くは、若くて感受性が強いときに、外国に留学し、外国でさまざまな活動に従事した経験を持っている。この事実は、企業、政府、科学、教育、非営利組織、芸術など分野を問わない。留学生の増加をアメリカの社会と外交政策の改善につなげていくには、留学プログラムへの参加者の数と多様性を大幅に拡大する必要がある。

ローマ史はわれわれに何を問いかける
―― 近代政治への教訓

2016年4月号

マイケル・フォンテーヌ コーネル大学准教授(古典)

ローマ人はすでに5世紀末までに、その後、19世紀半ばまで西洋世界が実現できなかった高度な生活レベルを享受していた。そこには水洗トイレ、大理石のキッチンカウンター、屋内暖房、美容歯科まであった。ローマはこのライフスタイルを「元老院とローマの市民」(SPQR)として知られる、市民と選挙で選ばれる指導者との関係を通じて保障していた。そうした古代ローマの歴史には近代政治の教訓とできるエピソードが数多くある。移民問題、予防攻撃、ポリティカル・コレクトネス、宗教集団への対応、マイノリティの扱いなどだ。紀元前146年にローマがカルタゴ相手に最終的に勝利を収めて以降の歴史は、新たな一極世界における覇権が伴う問題が何であるかもわれわれに教えている。その後、ローマでは対外的な敵の消失によって、内的な権力抗争が展開されるようになり、小さな脅威でさえも帝国の存続を脅かす脅威とみなされるようになった。・・・

イノベーションと 「70対20対10ルール」
――ルース・ポラットとの対話

2016年4月号

ルース・ポラット アルファベット CFO(最高財務責任者)

ルース・ポラットは、テクノロジー企業のエグゼクティブとしては異例のキャリアの持ち主だ。2015年5月にグーグル、その数カ月後にグーグルの持ち株会社アルファベットの最高財務責任者(CFO)に就任するまで、彼女は米金融大手モルガン・スタンレーのCFOだった。2008年の金融危機では、経営不振に陥った米保険最大手AIGの処理について連邦準備制度理事会(FRB)と、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の処理について米財務省と協力した経験をもっている。オバマ政権下の2013年には、財務副長官候補に名前が上がったこともある。政治サイト「ポリティコ」はポラットのことを「ウォール街でもっともパワフルな女性」と呼んだが、今は「シリコンバレーでもっともパワフルな女性の1人」だ。(聞き手はジョナサン・テッパーマン、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)

踏み込むべきか、後退すべきか
―― 中東におけるアメリカの選択

2016年4月号

ケニス・M・ポラック ブルッキングス研究所シニアフェロー

13世紀のモンゴルによる侵略以降、中東がかくも深刻なカオスに陥ったことはない。イラク、リビア、シリア、イエメンが全面的な内戦に陥り、エジプト、南スーダン、トルコも内戦へと向かう危険がある。すでに内戦の余波が、アルジェリア、ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、チュニジアを脅かしている。内戦を終結へ向かわせるのは難しく、決意に満ちた外部からの介入がなければ、内戦は数十年にわたって続く。アメリカの次期大統領は中東政策をめぐって非常に大きな選択に直面する。安定化のためにもっと踏み込んで関与するか、あるいは、さらに距離をとって離れていくかの決定を迫られる。より踏み込んだ関与をすれば、専門家が想定する以上の資源、エネルギー、関心そして政治資源を投入しなければならない。一方、現状の管理能力を手放し、より多くのコミットメントを放棄しても、中東から後退を求める勢力が考える以上の大きなリスクを引き受けなければならなくなる。・・・

経済格差と政治的自由
―― 自由と平等をいかに両立させるか

2016年3月号

ダニエル・アレン ハーバード大学教授(政治学、教育学)

アメリカの建国の父たちの多くは、政治的自由を実現するには、ある程度の経済的平等が必要であることを理解していた。実際、アメリカで政治的平等と自由がうまく保障されたのは、(土地の分配を通じた)白人社会における経済的平等に依るところが大きかった。だが、19世紀末になると、思想家ウイリアム・グラハム・サムナーは「選択肢は、自由と不平等と適者生存、あるいは、不自由と平等と不適者生存でしかない」と主張した。・・・経済的平等(と格差)が注目されるようになったのはごく最近になってからだ。建国の父たちが信じたように、自由と平等は互いに補完し合える関係となりうる。しかしそれを実現していくには、まず政治的平等を実現する必要がある。そのうえで、政治的平等を社会的、経済的領域における平等を実現するために利用し、またそれらを通じて政治的平等が維持されるように利用していく必要がある。・・・

近代化と格差を考える
―― 再び格差問題を政治課題の中枢に据えるには

2016年3月号

ロナルド・イングルハート ミシガン大学教授(政治学)

19世紀末から20世紀初頭にかけての産業革命期に、左派政党は労働者階級を動員して、累進課税制度、社会保険、福祉国家システムなど、様々な再分配政策を成立させた。しかし脱工業化社会の到来とともに、社会の争点は、経済格差ではなく、環境保護、男女平等、移民などの非経済領域の問題へと変化していった。環境保護主義が富裕層有権者の一部を左派へ、文化(や社会価値)に派生する問題が労働者階級の多くを右派へ向かわせた。そしてグローバル化と脱工業化が労働組合の力を弱め、情報革命が「勝者がすべてをとる経済」の確立を後押しした。こうして再分配政策の政治的支持基盤は形骸化し、経済的格差が再び拡大し始めた。いまや対立の構図は労働者階級と中産階級ではない。「一握りの超エリート層とその他」の対立だ。

対ロシア経済制裁の失敗を認めよ

2016年3月号

エマ・アシュフォード ケイトー研究所客員研究員

「ロシアに政策変更を強いる」という、経済制裁の最大の目的に照らせば、制裁は完全に失敗に終わっている。モスクワはウクライナから手を引いていないし、近く手を引くとも思えない。むしろ制裁は、ヨーロッパの経済利益を傷つけ、アメリカの経済利益や地政学的利益にもダメージを与えている。ターゲットを絞った制裁策も、結局は、ロシアのエリート層よりも、民衆を追い込んでいる。このために、「自分たちの暮らしが大変になったのは欧米諸国のせいだ」と考える市民たちは、プーチンを支持し、社会的連帯を強めている。ウクライナ危機を解決し、ロシアの無謀な行動を抑止したいのなら、欧米の指導者たちは、効果のない制裁中心のアプローチを捨てて、むしろウクライナ経済の支援や、ロシア軍の近代化阻止、ヨーロッパのロシアエネルギーへの依存率を低下させるための措置をとるべきだろう。

長期停滞にどう向き合うか
―― 金融政策の限界と財政政策の役割

2016年3月号

ローレンス・サマーズ 元米財務長官

今後10年にわたって、先進国のインフレ率は1%程度で、実質金利はゼロに近い状態が続くと市場は読んでいる。アメリカ経済についても同様だ。回復基調に転じて7年が経つとはいえ、市場は、経済がノーマルな復活を遂げるとは考えていない。この見方を理解するには、エコノミストのアルヴィン・ハンセンが1930年に示した長期停滞論に目を向ける必要がある。長期停滞論の見方に従えば、先進国経済は、貯蓄性向が増大し、投資性向が低下していることに派生する不均衡に苦しんでいる。その結果、過剰な貯蓄が需要を抑え込み、経済成長率とインフレ率を低下させ、貯蓄と投資のインバランスが実質金利を抑え込んでいる。この数年にわたって先進国を悩ませている、こうした日本型の経済停滞が、今後、当面続くことになるかもしれない。だが、打開策はある。・・・

平等と格差の社会思想史
―― 労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへ

2016年2月号

ピエール・ロザンヴァロン コレージュ・ド・フランス教授(政治史)

多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。だが、冷戦が終わり、平和の時代が続くと、市民の国家コミュニティへの帰属意識も薄れ、福祉国家は深刻な危機の時代を迎えた。財政的理由からだけでなく、個人の責任が社会生活を規定する要因として復活し、ドラッカーから再びシュンペーターの時代へと移行するなかで、社会的危機という概念そのものが形骸化している。・・・

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