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米国に関する論文

「リベラルな覇権」後の世界
―― 多元主義的混合型秩序へ

2017年1月号

マイケル・マザー ランド・コーポレーション 上席政治学者

リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

欧米の衰退と国際システムの未来
―― バッファーとしての「リベラルな国際経済秩序」

2017年1月号

ロビン・ニブレット 英王立国際問題研究所所長

これまで世界の民主主義空間を拡大させてきたリベラルな国際秩序が、政治的な勢いを取り戻せる見込みはあまりない。格差と失業に悩む現在の欧米諸国は弱体化し、もはやリベラルな政治経済システムの強さを示すシンボルではなくなっているからだ。それでも孤立主義に傾斜したり、代替秩序の封じ込めを試みたりするのは間違っている。そのようなことをすれば、リベラルな国際秩序の擁護派と、それに挑戦する勢力が公然と対立し、偶発的に大掛かりな紛争に発展する恐れもある。希望は、「リベラルな国際政治秩序」は衰退しても、「リベラルな国際経済秩序」が生き残ると考えられることだ。中国やロシアのような統制国家も国の豊かさと社会的安定・治安を確保するには、リベラルな国際経済秩序に依存するしかない。これによって短期的には、民主国家と非自由主義国家が共存する機会が提供され、長期的には、リベラルな民主主義は再び国際秩序における優位を取り戻せるかもしれない。但し、変化に適応できればという条件がつく。

ジョン・ケリー国務長官が回顧する
オバマ外交と米外交の課題

2017年1月号

ジョン・ケリー 第68代米国務長官

問題は貿易ではないことを、人々に理解させる必要がある。彼らが必要なものを手に入れ、まともな給料をもらい、ふさわしい社会保障を得られるようにしなければいけない。だが、生まれたての(TPPという)赤ん坊を、捨ててはいけない。(アメリカ製品の)買い手の95%は外国にいるのに、貿易を放棄してはいけない。政治システムに人々が失望していることが人々の不信感を高めている。それは私にも理解できる。しかしTPPを批准して、企業がトップを目指して競争するルール、世界中の人々の権利を強化するルール、環境を守り、労働基準を確立し、市場を開放するルールを作らなければ、アメリカは豊かになれない。アメリカが世界から手を引けば、その空白を埋めようと考えている国はたくさんある」。(聞き手 ジョナサン・テッパーマン フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)

アメリカ社会を分裂させた終末論
―― ドナルド・トランプに政治的に向き合うには

2017年1月号

アリソン・マックイーン スタンフォード大学准教授(政治学)

トランプがキャンペーンで用いてきた終末論にとらわれ続ければ、政治への参加を断念してもはや打つ手はないと諦念を抱くか、世界を善と悪で区別し、自分とは意見の違うものを中傷し、自らが信じる最終的な正義を暴力に訴えてでも実現しようとするようになる。こうしたビジョンがかつてヨーロッパで宗教戦争を引き起こし、現在はイスラム国(ISIS)を戦闘へ駆り立てている。これと似たレベルの二極化が今回の米大統領選挙キャンペーンによってアメリカ社会でも生じている。極右のスティーブン・バノンが首席戦略官・上級顧問に指名されたことで、アメリカ人は人種や宗教的な憎しみを公言するライセンスを得たと感じているかもしれない。われわれは心理枠組みを変えなければならない。トランプの勝利によって終末の世界に向かうと考えてはならない。トランプに反対する勢力は、現状を終末論ではなく、悲劇としてとらえ、マックス・ウェーバーが言うように「あらゆる希望が潰えたときにも、勇気を失わないしっかりとした心をもたなければならない」。・・・

行き場を失った道徳的怒りと米社会の分裂
―― 熾烈なネガティブキャンペーンの果てに

2017年1月号

サラ・エステス 詩人、エッセイスト
ジェシー・グラハム 南カリフォルニア大学准教授(心理学)

ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの対決はベトナム戦争以来かつてないほどの大きな分裂をアメリカ社会にもたらしている。「なぜ政治がかくも毒を帯びてしまったのか」。コメディアンのスティーブン・コルバートは大統領選の夜にこの問いに次のように答えている。「今年は特にみんながふらふらになっていた。毒気にあたりすぎた。少しばかり毒気にさらされても相手の嫌なところがみえる程度で、悪くはない。それでその感覚にはまって、相手を攻撃することで少しばかりハイになってしまった」。選挙戦でトランプが批判したイスラム教徒やメキシコ人たちに対して差別用語を使うことは、いまやトランプ・クリントン双方の支持者に受け入れられつつある。だがもう中傷合戦は止め、曖昧でつかみどころのない不平不満ではなく、具体的で現実に存在する問題に焦点をあわせるべきだ。バラバラになった市民をこれ以上分断させるのではなく、有益な政策を通して市民をまとめ、融和をはかる方向へ怒りの矛先を向かわせなければならない。

トランプがすでに表明している外交路線の見直しを受け入れない限り、ロシア、シリア、イランの独裁政権が強化され、(関税引上げで中国を激怒させ)貿易戦争が起きる(それによって中国とアメリカの同盟諸国の関係も不安定化する)。(アメリカの資金と戦力の貢献を削減することで)北大西洋条約機構(NATO)にダメージを与え、NATO条約第5条の集団防衛へのアメリカの関与は揺らぎ、(シリアがさらに混乱することで)難民流入の新たな波でヨーロッパはさらに大きな圧力にさらされる。要するに、トランプ・ドクトリンは、アメリカの安全保障上の核心的利益を大きく傷つける。嘆かわしいことに、国際関係にトランプのアメリカ第1主義が適用され、それが新たなアメリカの外交政策の象徴とされれば、すでに歴史的な分水嶺に立たされているアメリカと世界はさらに困難な状況に直面することになる。

TPP離脱ではなく、留保して再検証を
―― アジアの世紀にアメリカがエンゲージするには

2017年1月号

ダニエル・アイケンソン ケイトー研究所・貿易政策研究センター所長

アメリカは21世紀も国際秩序に非常に大きな影響力を持ち続けるだろう。ただし、それには「アメリカが内向きにならなければ」という条件がつく。TPPからの離脱は、そうした致命的な方向転換のシンボルとみなされてしまう。新大統領は、TPPに背を向けるのではなく、態度を保留して、将来、戦略地政学的な必要性が明らかになったときに批准を再考できるようにしておくべきだろう。世界経済の中心が欧米からアジアに移るなかで、TPPがなければ、不透明で差別的なルールがアジアの標準にされ、既存の秩序が覆され、アメリカの通商利益が傷つけられることになる。アメリカがこの自由貿易合意から離脱すれば、TPP交渉に参加しなかった国だけでなく、合意に参加した国も北京との関係強化に乗り出さざるを得なくなるだろう。

軍事ドローン革命のイメージと現実
―― その軍事的価値には限界がある

2016年12月号

ローレンス・フリードマン キングス・カレッジ・ロンドン名誉教授(戦略研究)

軍事ドローンを手に入れた政府は敵の政治指導者や活動家を比較的簡単に殺害できる。今後、事前のプログラミングさえ行えば、その後は誰を監視し、殺害するかを自律的に判断するドローンシステムさえ登場するかもしれない。とはいえ、少なくとも現段階では、ドローンは新たな兵器の一つに過ぎない。ドローンの最大の軍事的価値は、偵察というもっと一般的な側面にある。重要なポイントの上空から画像情報を送信し、疑わしい人間や車両の動きを追跡することだ。近いうちに、小型化によってカメラを搭載した昆虫より小さなドローンが、敵のすぐそばを飛びかうようになるかもしれない。それでも、戦争で勝利を収めるには、領域のコントロール・支配が必要になる。そして領域のコントロールは、ドローン、ヘリコプター、ジェット機を問わず、空からの攻撃だけでは達成できない。ドローンは重要なイノベーションだが、革命的なイノベーションではない。

サウジの歴史的選択
―― 王国は社会・経済改革という嵐に耐えられるか

2016年12月号

ニコラス・クローリー フロントライン・アドバイザリー創設者
ルーク・ベンシー セキュリティ・マネジメント・インターナショナル マネジング・ディレクター

リヤドを経済・社会変革に駆り立てているのは、原油安ではなく、むしろ、ユースバルジに象徴される人口増大問題だ。たとえ原油価格が上昇しても、今後の人口増を考慮すれば、家計収入の80%が公的部門の給与とさまざまな補助金に依存している現在の経済モデルは維持できなくなる。だからこそ、リヤドは行動計画「ビジョン2030」を実行しようと試みている。これは、改革が引き起こす政治・経済・社会的大混乱のなかで、かつてない規模の若者たちが成人していくことを意味する。経済改革の設計者(政府)と社会的安定の擁護者(治安当局)は、緊密に連携しながら、この国の文化的アイデンティティの中核部分を慎重に再調整していかなければならない。激しい抵抗に直面するのは避けられないが、改革に失敗すれば、サウジは、現在のいかなる脅威よりもはるかに危険な、国内の全面的な不安定化という事態に直面することになる。

自由貿易は安全保障と平和を強化する
―― TPPを捉え直し、実現するには

2016年12月号

ヘザー・ハールバート ニューアメリカ プロジェクトディレクター

アメリカは歴史的に自由貿易と平和を結びつけ、貿易障壁と戦争を結びつけてきた。大恐慌(とその後の長期不況)そしてヨーロッパにおけるファシズムの成功は、1930年代の関税引き上げと保護主義が大きな要因だったと考えられてきたし、冷戦終結後も、貿易は相手国の社会を変貌させ(市場経済と民主主義を定着させるので)国際的平和の基盤を提供すると考えられてきた。しかし、いまや中国を中心とする貿易枠組みが、欧米の貿易枠組みに取って代わっていくとみなされているというのに、アメリカ人は、貿易のことを、国内の雇用保障、民主的な統治、そして世界の労働者の権利、公衆衛生や環境の保全を脅かす脅威と考えている。経済安全保障と国家安全保障が不可分の形で結びついているというコンセンサスを再構築する必要があるし、安全保障面からも貿易を促進する必要があるという議論を、現在の懸念に配慮したものへと刷新する必要がある。

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