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米国に関する論文

伝統的な対中政策への回帰を
―― トランプと中国

2017年3月号

スーザン・シャーク カリフォルニア大学サンディエゴ校 21世紀中国センター議長

国内の不安定化を心配し始めた習近平は、(不満の矛先が政府ではなく、外に向かうように)国内のナショナリズムを鼓舞するような対外強硬路線をとり、一方で、国内における反政府運動の兆候があると、直ちにこれを粉砕している。この状況でトランプ政権が北京を挑発する路線をとれば、民衆に弱腰だとみなされることを警戒する北京は、台湾とアメリカに痛みを伴う経済懲罰策をとり、台湾海峡あるいは南シナ海で挑発的な軍事行動に出る恐れがある。しかも、中国を敵として扱えば、気候変動、感染症、核拡散などの重要なグローバルアジェンダをめぐって、両国が協議するのは不可能になる。いまやホワイトハウスの主となったトランプは、ニクソン政権以降の歴代の米政権がとってきた慎重な対中アプローチへと立ち返る必要がある。これまでのアプローチを完全に覆すのではなく、トランプはうまく機能してきたものは温存し、そうでないものだけを変化させるべきだ。

ロシアとの和解という虚構
――トランプとロシア

2017年3月号

ユージン・ルマー カーネギー国際平和財団シニアフェロー
リチャード・ソコルスキー 同財団シニアフェロー
アンドリュー・S・ワイス 同財団バイスプレジデント

アメリカとロシアの対立の根は深い。ドナルド・トランプはキャンペーン中も大統領選で勝利した後も、「なぜロシアとうまくやれないのか」と問いかけてきたが、うまくやれないのは、双方が国益の基礎をなすと考える中核問題をめぐって双方の立場の隔たりが大きいからだ。ロシアによる勢力圏の主張はワシントンには受け入れられないし、「欧米によるロシア勢力圏の侵食」とモスクワがみなす動きへの反発も障害となる。貿易で関係を安定させるのも難しい。実際、米ロが中核問題をめぐって歩み寄るのは今後も難しいままだろう。トランプ政権の課題は、モスクワとの緊張を緩和することではなく、むしろ、それをうまく管理して、さらなる悪化を防ぐことだ。ロシアと突然和解すれば、アメリカとヨーロッパの関係、ヨーロッパの安全保障、そしてすでに不安定化している国際秩序が永続的なダメージを受ける。

トランプが寄り添うジャクソニアンの思想
―― 反コスモポリタニズムの反乱

2017年3月号

ウォルター・ラッセル・ミード バードカレッジ教授(外交)

「不満を表明する手段として(非自由主義的なイデオロギーや感情に訴えているのは)苦々しい思いを抱くルーザーたち、つまり、銃の所有や(相手の)宗教にこだわり、自分たちとは違う人々を毛嫌いする人たちだけだ」。アメリカのエリートたちはこう考えるようになっていた。(国や民族に囚われない)コスモポリタン的感情をもつアメリカ人の多くは、道義的、倫理的にみて、人類全般の生活の改善に取り組むことが重要だと考えていた。一方、ジャクソニアンはコスモポリタン・エリートのことを、「アメリカやその市民を第1に考えることを道徳的に疑問視する、国に反逆的な連中」とみている。ジャクソニアンがアメリカのグローバル関与路線を敵視しているのは特定の代替策を望んでいるからではない。むしろ、外交エリートに不信感をもっているからだ。そして彼らは、「トランプは間違いなく自分たちの側にある」と考えている。

トランプとアメリカの同盟関係
―― 同盟国に防衛責任を委ねよ

2017年3月号

ダグ・バンドウ ケイトー研究所シニアフェロー

トランプが同盟国から米軍を撤退させる可能性は低そうだが、かといって現状を受け入れるのも間違っている。同盟国が軍事支出を少しばかり増やすことで満足するのではなく、ワシントンは自国を守る責任を引き受けるように同盟国に求めるべきだ。・・・それによってアメリカの安全保障が強化されるケースなら同盟国を防衛すべきだが、同盟国の安全だけを強化するような行動はとるべきではない。例えばモンテネグロ、バルト三国、そしてウクライナの問題は、アメリカの安全保障には関わってこない。朝鮮半島で戦争が起きても、アメリカの安全保障を直接脅かすわけではない。新大統領は、同盟国に自国を防衛する責任を引き受けさせることに力を注ぐべきだし、そのためには同盟諸国は戦争を抑止し、戦争になればそれに勝利できる通常戦力を構築すべきだろう。

原油供給とアメリカの軍事戦略
―― ペルシャ湾岸からの米軍撤退を

2017年2月号

チャールズ・L・グレーザー ジョージ・ワシントン大学教授(政治学)
ローズマリー・A・ケラニック ウィリアムズ・カレッジ准教授(政治学)

湾岸石油の供給混乱を阻止するために必要なコストは、いまや軍事関与によって得られる恩恵を上回りつつある。冷戦期には国家安全保障と経済的繁栄の二つがペルシャ湾岸に関与する目的だったが、いまや重視されているのは経済的繁栄だけだ。しかもほとんどのアメリカ人が経済利益のために米軍をリスクにさらすことに否定的になり、ペルシャ湾岸への軍事介入の敷居は高くなっている。むしろ、湾岸石油の大規模な供給混乱の衝撃を緩和する非軍事的クッションに投資して、軍事コミットメントをやめるための選択肢を作り出すべきではないか。実際、戦略備蓄を増大させれば、アメリカは(ホルムズ海峡)封鎖その他で市場に供給されなくなった原油を(当面は)代替できる。消費を抑える燃費基準の引き上げも、ガソリン税の引き上げも、供給の乱れの衝撃を小さくする助けになる。短期的にはともかく、最終的には湾岸への軍事関与を打ち切るための措置をとる必要がある。

サルマン副皇太子とサウジの未来
―― 改革への長く険しい道のり

2017年2月号

ビラル・Y・サーブ アトランティック・カウンシル 国際安全保障センター

現在のサウジの経済システムが持続不可能であることは、サウジ政府内で堅固なコンセンサスがある。それでも(大きな権限を託された)サルマン副皇太子が経済、文化領域であまりに急速な変革を進めているために、「旧秩序が覆され、サウジの社会契約が揺るがされている」と懸念されている。しかしこのリスクは、サウジが直面する社会・経済的課題の大きさゆえのことだ。サウジが先に進むには大変革が必要だし、そうした変革は必然的にある程度の不安定化を伴う。人々が今後に不安を感じているのは無理もないが、本気で変革を試みる以外に道はない。石油経済からの離脱と経済の多様化に向けて経済を再建するだけでない。サルマンは、内に不安を募らせる大衆と批判派を抱え、イエメンでコストのかかる紛争を戦い、イランの地域的台頭に目配りし、ますます暴力的になっている近隣地域に対処しつつ、経済改革に取り組まなければならない。

政治的サイバー攻撃の次なるターゲット
―― 「コンプロマート」からヨーロッパを守るには

2017年2月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所 共同設立者
ミルコ・ホーマン 同研究所プロジェクトマネジャー

2016年の米大統領選挙へのロシアの介入は、明らかにドナルド・トランプを利することを目的にしていた。2017年、ともに選挙を控えている独仏は、アメリカのケースを検証し、周到な対策をとってロシアのデジタル攻撃に備えるべきだ。現状ではフランスもドイツもそうした攻撃への備えができていない。ロシアの「コンプロマート(不名誉な情報)」オペレーションは必ずしも特定候補に有利な環境を作り出すことが目的ではない。むしろ、選挙プロセスを混乱させ、民主的政府の名声を汚すことで、民主的な規範や制度への信頼を失墜させ、(欧米が批判してきた)ロシアの道徳的基準と欧米のそれが大差ないことを示すことが狙いだ。欧米は長期にわたってロシアを包囲し、その基盤を揺るがそうとしてきたとモスクワは考えており、彼らにしてみれば、欧米の民主的制度に対する攻撃はその報復なのだ。・・・

中国とアジアの新しい現実
―― アジアを求めるアジア

2017年2月号

エバン・A・ファイゲンバーム シカゴ大学ポールソン研究所副所長

世界でもっとも急速に成長している国々を取り込まなければ、国際システムは機能しない。中国やインドといった新興国をきちんと仲間に入れなければ、これらの国はよそに目を向けるだけだ。逆に言えば、今後ほとんどの国際機関で、新興国の発言力が強化されるにつれて、自由主義的な価値をもつヨーロッパ諸国の発言力は低下していく。但し、中国に現在の国際システムを全面的に覆すつもりはない。むしろ、現在のシステムの不備を補完しようと試みている。AIIB(アジア・インフラ投資銀行)はその具体例だ。ワシントンはAIIBや一帯一路構想を、アメリカの試みにダメージを与える策略とみなすべきではない。むしろこの構想は、アジア諸国が投資や経済協力に関して、欧米に頼るのではなく、お互いを頼り始めた証拠だろう。その結果、アジアは2030年までに、アメリカが台頭する前に存在した統合された大陸、つまり「アジア太平洋」ではなく「アジア」になっていく可能性が高い。

トランプの保護主義路線に中国が報復すれば
―― 勝者なき重商主義と貿易戦争

2017年2月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

「中国を為替操作国のリストに入れ、世界貿易機関(WTO)に提訴し、中国製品の輸入関税を引き上げる」とトランプはこれまで何度も繰り返してきた。彼は中国からの輸入を抑えることで公正な競争基盤を取り戻せば、アメリカ国内の製造業は復活すると主張しているが、それは妄想にすぎない。アメリカの製造業雇用はかつてなく減少しているが、一方で工業生産量が歴史的な高水準に達していることの意味合いを考える必要がある。アメリカのブルーカラー雇用の減少は、生産性を高めるテクノロジーの進歩によるものだ。しかも大統領の貿易上の権限は150日間にわたって上限15%の関税を課すことだけで、それ以上を望むのなら、議会の承認を得なければならない。しかも、議会の同意を確保しても、彼のやり方はWTOルールに抵触するだろう。結局、アメリカの労働者階級の雇用の改善はほとんど見込めないばかりか、世界経済に取り返しのつかないダメージを与える恐れがある。

グローバリズム・イデオロギーの終焉
―― 米中は何処へ向かうのか

2017年2月号

エリック・X・リ 上海在住ベンチャーキャピタリスト、政治学者

世界をグローバルスタンダードで統一しようとする「グローバリズム」のビジョンは、アメリカの中間層の多くにダメージを与えた。冷戦の勝利からわずか一世代のうちにアメリカの工業基盤は空洞化し、インフラは荒廃し、教育制度は崩壊し、社会契約は引き裂かれた。トランプ大統領の誕生は偶然ではない。これは、エリートたちが長期にわたって無視してきた米社会内部の構造的な変化が蓄積されてきたことの帰結に他ならない。中国の指導者たちはこの現実を適切にとらえ、対応する必要がある。対応を誤れば、貿易戦争、地政学的な対立、軍事衝突さえ起きるかもしれない。幸い、中国の考えは、主権国家を重視し、多国間ルールよりも二国間合意を重視するトランプのビジョンに基本的にうまく重なり合う。協調できるだけの叡知とプラグマティズムを米中がもっていれば、おそらくいまよりも安定した世界を保証するグローバル統治に関する新しいコンセンサスを形作れるはずだ。

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