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米国に関する論文

ミンダナオ島危機とイスラム国
―― 共通の敵で変化した米比関係

2017年8月号

リチャード・ジャバッド・ヘイダリアン デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

貧困や失業に苦しみ、イスラム教徒が社会の周辺に追いやられているミンダナオ島では、イスラム主義者や共産主義者などの反政府勢力がフィリピン軍と衝突する流血の惨事が数十年にわたって繰り返されてきた。そこには、イスラム主義のイデオロギーやテロ集団を許容する社会的素地が存在した。しかも、中東で軍事的に追い込まれたイスラム国(ISIS)勢力はアジアへ軸足を移そうと試みている。イスラム教徒が多数派で、イスラム国勢力のシンパが多いマレーシアやインドネシアとミンダナオ島との国境線が監視の難しい海洋上にあることも事態を複雑にしている。一方、テロ勢力という共通の敵が現れたことでアメリカとの関係は雪解けの時を迎えている。マニラが共通の敵に対するワシントンの軍事支援を受け入れるにつれて、両国政府の立場の違いはゆっくりとだが、着実に埋められつつある。・・・

政治分裂を修復するには
―― 政治的分裂を民主主義の再生につなげるには

2017年7月号

スザンヌ・メトラー コーネル大学教授(政治学)

現代アメリカの激しい政治的分断状況のなかでは、党派的ながらも正常な政治行動と、民主主義の基盤を脅かす行動を見分けることが極めて重要だ。たとえば、トランプが保守派のニール・ゴーサッチ判事を連邦最高裁判事に指名したことは、保守的支持基盤を満足させる正常な政治的判断だ。彼の閣僚人事にも同じことが言える。他方、トランプが事実を無視したり、主流メディアの役割を否定したり、判事を非難したり、政治的反対意見を無視したりすることは、民主的規範を傷つける。市民は一般的な党派主義的行動と独裁への傾斜を思わせる行動を区別して、トランプの行動を判断する必要がある。そしてわれわれはアメリカの民主主義を守ってきた制度、そしてリーダーシップ、交渉、妥協というツールを学び直し、意見の対立は弱さではなく、奥深い強さの源であることを認識する必要がある。

グローバル化の失速と世界経済の未来
―― グローバル経済をポピュリズムから救い出すには

2017年7月号

フレッド・フー プリマベーラ・キャピタル 設立者
マイケル・スペンス ニューヨーク大学ビジネススクール教授

グローバル化は大きな繁栄をもたらす一方で、格差を増大させ、いまや多くの人がグローバル化を特徴づけてきたヒト、モノ、情報の拡散に懐疑的な立場をとるようになった。こうして、反グローバル化とナショナリズムが趨勢となり、イギリスは欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決め、トランプ大統領は「アメリカファースト」ドクトリンに固執している。しかも一方で、雇用懸念を高めるオートメーション化が進んでいる。グローバル化が失速し、急速な技術変化が混乱を引き起こす時代にあって、世界の政治家と政策決定者はこれまでの成果を守るための改革を進め、手遅れになる前に、その欠陥を是正していかなければならない。そうしない限り、保護主義とナショナリズムによって世界の平和と繁栄が脅かされることになる。

スマート化するエネルギー・電力産業
―― 技術革新がもたらす機会とリスク

2017年7月号

デビッド・ビクター カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 カッシア・ヤノセック マッキンゼー&カンパニー アソシエートパートナー

水圧破砕、水平掘削という技術革新によってシェール資源の開発が可能になったことは広く知られているし、これらのテクノロジーが、2008年7月の1バレル145ドルというかつてない高値から、いまやその約3分の1へと原油価格を引き下げることに一役買ったのは間違いない。だが、これは始まりに過ぎなかった。現在では、「複雑なシステムのよりスマートな管理」や「データ分析」、そして「オートメーション」によってエネルギー産業は再び変貌し始め、エネルギー企業の生産性と柔軟性はさらに高まっている。しかもこれらの変化は資源開発企業だけでなく、電力を生産・供給するセクターも変貌させ始めている。より分権化され、消費者にフレンドリーで、さまざまな資源で生産した電力をきわめて信頼性の高い送電ネットワークに統合する力をもつ、新しい電力産業が誕生しつつある。・・・

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

北朝鮮に原子力の平和利用を認めよ
―― 平和と原子力のバーターを

2017年7月号

リチャード・ローズ ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト、マイケル・シェレンバーガー エンバイロンメンタルプログレス 会長

平壌が本当に望んでいるのは、攻撃されないという保証、そして、経済開発のための電力生産能力を手に入れることだ。この意味では、核問題の軍事的解決策を望むタカ派だけでなく、原子力エネルギーに反対するハト派も間違っている。衛星写真をみると、電力の3分の1が原子力発電所によって供給されている韓国が明るく輝いているのに対して、北朝鮮はほぼ全域が暗闇に覆われている。核・ミサイル開発への制限を受け入れることを条件に、原子力による電力生産へのアクセスを認めれば、平壌は近隣諸国を脅かすのを止め、ミサイルその他の軍事物資の密輸を止める経済的インセンティブをもつようになるはずだ。われわれは北朝鮮において、アイゼンハワー大統領が1953年に国連で提唱した「平和のための原子力」構想を実現する機会を手にしている。

シリア東部をめぐる米ロ・イランの攻防
―― シリアにおける政治ゲームの始まり

2017年7月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所  シニアフェロー

イラクと国境を接するシリア東部をめぐる攻防戦が始まっている。すでにアメリカは4月にアサド政権をミサイル攻撃しただけでなく、5月には親アサド勢力を空爆し、シリアのクルド人勢力への軍事援助の強化を発表している。ロシアとイランも、シリア東部におけるイスラム国勢力の崩壊によってシリア政府が失地を回復するチャンスがもたらされると考え、アサド軍支援を強化している。特にテヘランはイランからイラク、シリア、そしてヒズボラが支配するレバノンをつなぐシーア派の回廊を形成することを狙っている。当然、米ロの安全に関する覚書が、今後シリアにおいて試されることになるし、控えめにみても偶発事故が起きる危険は高まっている。いまやアメリカとその同盟国諸国の部隊が、アサドの部隊だけでなく、アサドを支えるロシアやイランの部隊と直接的軍事衝突に巻き込まれる恐れが出てきている。

情報機関と米大統領
―― 相互信頼の再確立を

2017年7月号

ジャミ・ミシック 前CIA副長官

進行中の作戦や外交交渉がどのような状態にあるかを知らなければ、情報コミュニティが提供する情報が高官たちの必要性を満たすことはなく、無意味だと切り捨てられる。しかも、高官たちが情報を必要とするタイミングも限られている。何かに対する警告を発しても、時期尚早なら相手にされず、タイミングを逃せば情報機関の失態として批判される。もっとも大切なのは、危機に直面する前から、大統領を含む政府高官と情報コミュニティ間のスムーズに機能する実務的関係を築き、信頼を育んでおくことだ。政策決定者が情報プロフェッショナルを誤解していれば、国家安全保障が脅かされる。一つの真実を追い求める情報プロフェッショナルたちの仕事へのより奥深い理解と評価をもつことで、大統領と政府高官たちはその関係の絶妙のバランスを取り戻す必要がある。

同性愛に対するグローバルな反動
―― 同性愛を拒絶する宗教・政治的ルーツ

2017年6月号

オマー・エンカーナシオン バードカレッジ(政治学教授)

南北アメリカから、ロシアその他の旧共産主義諸国、そして中東からアフリカに至るまでの世界各地で、同性愛者の権利擁護に対する激しい反発と反動が生じている。この反動には社会・宗教・政治的要因が複雑に関わっている。主要宗教のなかで同性愛に対する許容度がもっとも低いのがイスラム教。これにプロテスタント系福音派、カトリック、そして主流派プロテスタントが続く。そして世界の独裁政権の多くが、同性愛者というマイノリティをかつてのユダヤ人や民族的少数派などの少数派集団同様に政治的スケープゴートにしている。そうすることで民衆の政治的支持を高めて権力基盤を固め、保守的な政策を正当化し、市民の関心が真に重要な問題に向かうリスクを低下させられるからだ。・・・

オートメーション時代の失業と社会保障

2017年6月号

ジョディ・グリーンストーン・ミラー ビジネス・タレントグループCEO
エデュアルド・ポーター ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト
ハイジ・シアーホルズ 前米労働省 チーフエコノミスト プレサイダー
スーザン・ルンド マッキンゼー・グローバル・インスティチュート パートナー

ロボットの導入による失業が現実に起きれば、その一方で、膨大な富が作り出され、それがかつてなく一部へ富を集中させることはすでに分かっている。雇用喪失の一方で、巨大な富が集積されていくことのバランスをどうとるか、広く富を共有していくにはどうすればよいかを考えなければならない。(J・ミラー)

今後10年間でより多くの雇用を創出する産業は何かに関する予測のトップ10のうちの四つは看護・介護に関係した職業で、介護、看護師、在宅介護、看護師補助(ヘルパー)などだ。問題はこれらの雇用の質(と賃金)がとても低いことだ。(E・ポーター)

私はオートメーションによって大量失業時代が引きおこされるとは考えていないが、経済的に困難な状況に直面する個人が出てくるのは避けられないだろう。これは対処すべきとても重要な問題だ。だが(その対応策としては)、普遍的な最低所得保障ではなく、雇用保障の方がよいと思う。この場合、政府がすべての人の「最後の雇用主」ということになる。(H・シアーホルズ)

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