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米国に関する論文

絶望死という疫病?
―― アメリカ特有の現象か、グローバル化するか

2020年3月号

アン・ケース プリンストン大学名誉教授(経済学) アンガス・ディートン プリンストン大学名誉教授(経済学)

アメリカの平均寿命が低下し始めた大きな理由は、25歳から64歳の中年の死亡率が上昇しているからだ。ドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)やアルコール性の肝臓疾患による死亡、そして自殺が増えている。これらの3タイプの絶望死のなかでオーバードーズがもっとも多く、2017年に7万人が犠牲になり、2000年以降の累計では犠牲者数は70万を超えている。厄介なのは、他の諸国もこのアメリカのトレンドの後追いをすることになるかもしれないことだ。他の富裕国の労働者階級もグローバル化、アウトソーシング、オートメーションが引き起こす経済的帰結に直面している。エリートが繁栄を手にし、教育レベルの低い人々が取り残されるという、アメリカの絶望死危機を深刻にしているダイナミクスが、他の富裕国でも壊滅的な結果をもたらす恐れがある。

デジタル独裁国家の夜明け
―― 民主化ではなく、独裁制を支えるテクノロジー

2020年3月号

アンドレア・ケンドル=テイラー 新アメリカ安全保障センター シニアフェロー  エリカ・フランツ ミシガン州立大学助教(政治学)   ジョセフ・ライト ペンシルベニア州立大学教授(政治学)

AIをはじめとする技術革新は日常生活を改善する素晴らしい未来を約束する一方で、権威主義体制の締め付け強化に利用されてきた。デジタル抑圧の強化は、国家の統制が拡大し続け、個人の自由は縮小し続ける荒涼たる未来を想起させる。楽観論者たちが21世紀の幕開けに展望したのとは逆に、権威主義国はインターネットをはじめとする新テクノロジーの犠牲にされるどころか、それから恩恵を引き出している。事実、巨大な治安組織を必要とする警察国家を築かなくても、新テクノロジーを購入して、その使い方を、(輸入元である)中国のような外国の力を借りて一握りの役人に教えれば、それだけでデジタル権威主義国家の準備は整う。民主国家も21世紀の技術的ポテンシャルが呪いとならないように、新しいアイデア、アプローチ、リーダーシップを育んでいく必要がある。

新しい勢力圏と大国間競争
―― 同盟関係の再編と中ロとの関係

2020年3月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

中国とロシアは自国の利益や価値のために、欧米の利益を無視して、公然とパワーを行使するようになり、ワシントンも、地政学が「大国間競争」によって規定されていることを認識している。今後、アメリカの役割は変化するだけでなく、小さくなっていく。同盟関係へのコミットメントそして同盟関係そのものを大きく下方修正しなければならない。すでに世界には複数の勢力圏が存在することをリアリティとして受け入れ、「実現不可能な野望」は放棄し、勢力圏が地政学を規定する中核要因であり続けると言う事実を受け入れる必要がある。

アメリカのリーダーシップと同盟関係
―― トランプ後の米外交に向けて

2020年3月号

ジョセフ・バイデン  前米副大統領

気候変動にはじまり、大規模な人の移動、テクノロジーが引き起こす混乱から感染症にいたるまで、アメリカが直面するグローバルな課題はさらに複雑化し、より切実な対応を要する問題と化している。しかし、権威主義、ナショナリズム、非自由主義の台頭によって、これらの課題にわれわれが結束して対処していく能力は損なわれている。地に落ちたアメリカの名声とリーダーシップへの信頼を再建し、新しい課題に迅速に対処していくために同盟諸国を動員しなければならない。アメリカの民主主義と同盟関係を刷新し、アメリカの経済的未来を守り、もう一度、アメリカが主導する世界を再現する必要がある。恐れにとらわれるのではなく、いまはわれわれの強さと大胆さを発揮すべきタイミングだ。

さらなる中東紛争を回避するには
―― 安定化には何が必要か

2020年2月号

ケリー・マグサメン アメリカ進歩センター 副会長(国家安全保障、国際政策担当)

「不必要な戦争」にこだわると大統領としての歴史的評価にどのような影響がでるか、トランプはジョージ・W・ブッシュに話を聞くべきだろうし、泥沼からいかに足を抜くかについては、オバマに電話をすべきだろう。イランにさらにペナルティを課すことを求める有志連合は存在せず、最大限の圧力も望ましい結果につながっていない。しかも、(思うままに行動してきた)トランプは国際コミュニティの潤沢な善意をうまく利用できるような立場にはない。多くの諸国は、トランプ政権のイラン政策を、イラン核合意からの離脱以降の一連のプロセスに派生する「身からでたさび」とみなしている。

「新社会主義運動」の幻想と脅威
―― 富は問題ではない

2020年2月号

ジェリー・Z・ミュラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義には強さと弱さがある。実際、自由市場を基盤とする資本主義が18世紀に定着して以降、このシステムは長く批判にさらされてきた。一連の改革運動が刺激され、これが19世紀型のレッセフェール(夜警)国家を今日の先進民主国家が導入する混合経済・福祉国家(mixed welfare States)へ変貌させた。かつて「社会民主主義」と呼ばれたシステムを現状で模索する左派勢力も、おおむね似たものを追いかけている。だが、「新社会主義運動」はこれらとは違う。そのルーツは社会民主主義ではない。資本主義を改革するのではなく、むしろそれを終わらせようとする民主社会主義にある。彼らは、金の卵を産むガチョウの健康など気にかけていない。これを当然視した上で、不公正な状況を超富裕層の資産の突出を削り取るという簡単かつ直接的な方法でなくそうとしている。

鎖につながれたグローバル化
―― サプライチェーン、ネットワークと経済制裁

2020年2月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学) アブラハム・L・ニューマン  ジョージタウン大学 教授(政治学)

デジタルネットワーク、金融フロー、サプライチェーンが世界中に拡大し、アメリカを中心とする各国は、これを、他国を捕獲する蜘蛛の巣とみなすようになった。米国家安全保障局はあらゆる種類のコミュニケーションを傍受し、米財務省は国際金融ネットワークを利用して、無法な国家と金融機関に制裁を課している。一方、ファーウェイが5Gをグローバルレベルで支配すれば、北京もファーウェイをゲートウェイにして世界の通信に侵入し、これまでアメリカが中国に対して試みてきたことを、アメリカに対して実施できるようになる。日本も重要な産業用化学製品の流通を制限することで、韓国のエレクトロニクス産業を狙い撃ちにした。鎖につながれたグローバル化の現実を受け入れ、理解することが、これらのリスクを抑えるために必要不可欠な最初のステップになる。

大国間競争の時代へ
―― アジアとヨーロッパにおける連合の形成を

2020年2月号

エルブリッジ・A・コルビー 前米国防次官補代理 (ヨーロッパおよびユーラシア担当) A・ウェス・ミッチェル 前米国務次官補 (ヨーロッパおよびユーラシア担当)

未来の歴史家は、21世紀初めにワシントンが超大国間の競争に焦点を合わせるようになったことを、もっとも重要な帰結を伴ったストーリーとして解釈することになるはずだ。大国間競争のロジック、それに応じた軍事、経済、外交行動の再編は大きな流れを作り出しており、このトレンドが、今後のアメリカの外交政策を形作っていくことになる。ライバルは台頭する中国そして復讐心に燃えるロシアだ。かつて同様に、アメリカが安全保障を確保し、自由社会としての繁栄を実現していくには、アジアとヨーロッパというもっとも重要な地域で好ましいパワーバランスを確保し、アメリカの社会と経済そして同盟国を、パワフルなライバルとの長期的競争に備えさせる必要がある。

ヒズボラが対米報復策を主導する?
―― ソレイマニ殺害とレバノン

2020年2月号 

ブライアン・カッツ 戦略国際問題研究所  フェロー(国際安全保障プログラム)

イラクの米軍基地に対するミサイル攻撃は、ソレイマニ殺害に対してテヘランが最初に示したシンボリックかつ公然たる報復攻撃だったが、今後、数カ月、数年にわたって報復は続くだろうし、そこで大きな役割を果たすのはレバノンのヒズボラになるはずだ。アメリカとの直接対決を回避しつつ、コッズ部隊とそのパートナーであるヒズボラは、中東における、あるいは中東を越えた地域での米軍を対象とする非対称攻撃の連携を試みるかもしれない。その目的は、「アメリカが中東でプレゼンスをもつことのコストは恩恵を上回る」と感じるほどに、その活動を混乱させ、脅かし、制限することに据えられるはずだ。

アメリカの危険な対中コンセンサス
―― チャイナスケアを回避せよ

2020年1月号

ファリード・ザカリア CNNファリード・ザカリアGPSホスト

「経済的にも戦略的にも、中国はアメリカの存続にかかわってくる脅威であり、これまでの対中政策はすでに破綻している。ワシントンは中国を封じ込めるためのよりタフな新戦略を必要としている」。これが、民主・共和両党、軍事エスタブリッシュメント、主要メディアをカバーしている新対中コンセンサスだ。しかし、このコンセンサスでは脅威が誇張されている。ソビエトの脅威を誇張したことの帰結がいかに大きかったことを思い出すべきだ。中国が突きつける課題を現状で適切に判断しないことの帰結はさらに大きなものになる。40年にわたる中国へのエンゲージメントを通じてやっと獲得したものを浪費し、中国に対決的政策をとらせ、世界の二大経済大国を経験したことのない規模と範囲の危険な紛争へ向かわせる。この場合、われわれは数十年にわたる不安定化と不安の時代に向き合うことになる。・・・

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