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米国に関する論文

ウクライナとアメリカ
―― 問われる米欧の絆

2025年4月号

ヴォルフガング・イッシンガー 元駐米ドイツ大使

トランプ米大統領は、プーチン露大統領を懐柔して、中国の習近平国家主席との「結婚」を断念させ、アメリカとの祝福されない同盟に応じさせる「逆キッシンジャー」戦略を狙っているのか。重要なのは、ウクライナを分断し、手っ取り早く停戦を実現することではない。永続的で確実な和平枠組みを確立することだ。ウクライナを(和平プロセスに)参加させなければならないし、その結果は公正で、ウクライナを売り渡すものであってはならない。ヨーロッパは、ウクライナでの戦争を永続的に終わらせるために、アメリカを必要としている。そして、アメリカも、その任務をうまく達成するには、ヨーロッパを必要としている。

勢力圏の復活
―― 停戦交渉は第2のヤルタなのか

2025年4月号

モニカ・ダフィー・トフト タフツ大学 教授(国際関係)

パワーポリティクスの復活をけん引する米中ロが、いずれも「わが国を再び偉大な国に」というストーリーを掲げる指導者に率いられているのは偶然ではないだろう。かつての偉大さを取り戻すには、中国にとっては、台湾だけでは十分ではなく、ロシアにとっても、ウクライナだけでは、プーチンのビジョンを満たすことはできない。アメリカもカナダ併合を視野に入れ始めている。現在の諸大国は、1945年のヤルタ会談で連合国首脳が世界地図を書き換えたように、新しい世界秩序を形作ろうとしている。中ロが手を組むのか、米ロが手を組んで中国と対抗する一方で、ヨーロッパ、日本、韓国は自立路線を強めていくのか。

トランプと競争的権威主義の台頭
―― 米民主主義は崩壊するのか

2025年4月号

スティーブン・レヴィツキー ハーバード大学 政治学教授
ルーカン・A・ウェイ トロント大学 政治学部特別教授

アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。政党は選挙で競い合うが、政府の権力乱用によって野党に不利なシステムが形作られていく。政治家、ビジネス、メディア、大学、市民団体も権威主義政権の大きな権限と圧力を恐れて、立場を見直して声を潜める。競争的権威主義の台頭は、アメリカだけでなく、世界の民主主義にとって重大で永続的な帰結をもたらすことになるだろう。

変化するアメリカと同盟国の関係
―― 関税と国防負担要請

2025年3月号

ジョナサン・バークシャー・ミラー マクドナルド・ローリエ研究所 ディレクター

長年の同盟国に対して関税という懲罰策を用いていることは、ワシントンの同盟戦略に根本的な変化が生じていることを意味する。カナダやメキシコだけではない。今後ヨーロッパやアジアの同盟諸国にも圧力路線が行使されるだろう。一方、同盟国に安全保障領域での責任分担強化を求めるトランプの批判には一理ある。だが、トランプ政権の行動を前に、同盟諸国は、ワシントンの集団安全保障や経済協力へのコミットメントは、短期的な取引主義の利益に左右されるのではないかと警戒し始めている。ワシントンが無差別な経済的圧力によって同盟国との信頼関係を損なえば、強固で統一された同盟関係を維持することがかつてなく重要なタイミングで、アメリカは孤立するリスクを高めることになるだろう。

政府効率化省と外交リスク
―― 米外交インフラを揺るがしたE・マスク

2025年3月号

ジェームズ・ゴールドガイアー アメリカン大学国際関係学部教授
エリザベス・N・サンダース コロンビア大学政治学教授

選挙で選ばれたわけでもない人物(E・マスク)のために働くチームに、大統領が、米政府を動かす基本システム(データ)への広範なアクセスを認める事態を、アメリカの同盟国や敵対国の情報機関はどうみているだろうか。マスク率いる政府効率化省のチームが、政府の機密保護システムを損なう行動をとれば、「機密情報を共有できる」という同盟国のアメリカへの信頼は揺るがされる。こうした信頼は、米外交の目にみえないインフラの一部であり、それが損なわれれば、同盟国はアメリカとの機密情報の共有をためらうようになるだろう。トランプとマスクの行動は、国家安全保障の中枢に手榴弾を投げ込んだようなものだ。

米中衝突と世界経済戦争
―― その経済・貿易リスクを低下させるには

2025年3月号

アイク・フレイマン スタンフォード大学フーバーフェロー
ヒューゴ・ブロムリー ケンブリッジ大学地政学センター リサーチフェロー(応用歴史学)

中国が東アジアの米軍基地を攻撃するという深刻な危機シナリオが現実になっても、中国経済との全面的なデカップリングを直ちに試みるのは、世界経済戦争を誘発しかねない危険なギャンブルだ。むしろ、重要な製品や物資のサプライチェーンを中国から国内や友好国へリショアリング(移転)しつつも、それほど重要でないサプライチェーンは危機に直面しても(短期的には維持し)長期的に切り離していく措置をとるべきだ。国際経済システムを危機から守るには、デカップリングプロセスを国際ルールに即したものにし、命令や統制ではなく市場の力を重視し、各国の国益と経済安全保障上の利益を守る一方で、ほとんどの国が米中の両方と貿易を続けられるようにする必要がある。

ドナルド・トランプと権力政治の時代
―― 同盟諸国はどう動くべきか

2025年3月号

アイボ・H・ダールダー シカゴグローバル評議会 会長
ジェームズ・M・リンゼー 米外交問題評議会 特別シニアフェロー

トランプは19世紀のパワーポリティックが規定する国際関係への回帰を明らかに思い描いている。同盟関係のことを、アメリカから雇用を奪う国々を保護するコストをアメリカに負わせる悪い投資だと考えている。関税引き上げなどの、経済的威嚇をパワーツールとして利用する彼のやり方は、強圧的秩序の幕開けを意味する。アメリカに譲歩しても、トランプがそれを評価することはない。アメリカの同盟国は強さを示さなければならない。トランプが理解するのは力であり、米同盟諸国が協力すれば、十分な力で立ち向かい、トランプ外交の最悪の衝動をけん制できるかもしれない。

量子が導く未来
―― 次なる革命の恩恵とリスク

2025年3月号

カリナ・チョウ グーグル・クォンタムAI ディレクター兼最高執行責任者
ジェームズ・マニュイカ グーグル シニア・バイスプレジデント
ハルトムート・ネブン  グーグル・クォンタムAIヘッド

量子コンピューティングは、ビットの代わりに、0と1の状態を同時に保持する量子ビットを使用することで、これまで解決できないと考えられていた計算を実行できる可能性がある。そうなれば、医療、化学産業、素材産業などでの画期的な進展が期待できる。多くの国が量子情報科学技術の主導権争いへの関心を高めているのは、この理由からだ。だが、巨大なリスクも生み出す。暗号の解読、大規模なデータの盗難、経済的混乱、情報漏洩に加え、量子コンピュータが、化学兵器のシミュレーションを含む悪意目的に使用される危険もある。量子技術が開かれた社会で開発され、善意の目的に使用されるような明確な枠組みを設定することも重要になる。

ポピュリストと軍部
―― トランプが米軍を支配すれば

2025年3月号

ロナルド・R・クレブス ミネソタ大学教授

二期目のトランプが、米軍の自立性とプロフェッショナリズムを傷つけて、より政治化された組織に変貌させれば、民主主義と米軍の能力はともに打撃を受ける。職業軍人からなる米軍を、憲法や国への忠誠心ではなく、大統領への忠誠やイデオロギー的なリトマス試験紙に縛られた政治的任命中心の軍隊に変貌させて、アメリカがより安全になることはない。ポピュリストのリーダーの歴史が手がかりになるとすれば、トランプが米軍のプロフェッショナリズムや自立性を守ることはないだろう。それは民主主義における政軍関係、さらにはアメリカの国家安全保障にも大きなダメージを与えることになる。

戦争とテクノロジー企業
―― ウクライナと台湾の違い

2025年3月号

マット・カプラン シールドキャピタル アナリスト
マイケル・ブラウン シールドキャピタル パートナー

スターリンク、マイクロソフト、アマゾンなどの米テクノロジー企業が、国防に不可欠なデジタル・インフラを提供する戦争の新時代がすでに始まっている。ウクライナはその具体例だ。問題は、こうした巨大ハイテク企業が「国家安全保障よりも企業利益」に合致する方向へ国益を向かわせようと試みるかもしれないことだ。米テクノロジー企業は、台湾を防衛するために、重要な市場であり、顧客である中国を敵に回すだろうか。実際、ウクライナでうまく実現したことが、台湾で再現されるとは限らない。必要なのは、紛争が発生する前にこうした新しいデジタル能力をもつ企業と契約し、彼らを同盟勢力として扱うことだ。ワシントンが同盟国やパートナーを今後もうまく防衛できるかは、米ハイテク企業の力をいかにうまく引き出すかに左右される。

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