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米国に関する論文

台湾海峡紛争をいかに回避するか

1998年7月号

チャス・W・フリーマン 米中政策財団共同会長

二年半前、米中両国は、双方とも望まず、予期もしていなかった軍事的対立局面へと引きずり込まれた。しかし、一九九六年三月に起きた米空母と中国の戦艦および陸上配備ミサイルによるこのにらみ合いは、今にして思えば、有益な効果があったようである。両国はこの危機を通じて米中関係をうまく管理することがいかに大切で、この二国間関係の管理のための中核的要因が、いまなお台湾の地位であることを思い知らされたからである。
以来、米中政府は、一連の二国間問題や国際的問題に関する相互尊重に基づく対話チャンネルの確立にむけて努力してきた。首脳会談やその他の高官による会談が、再び米中外交の常態となり、その後、台湾海峡で軍事対立は起きていない。昨年秋、クリントンは江沢民と会談したさいに、中台間の対話ができるだけ早く再開されるようにと促し、対話決裂についての互いの非難合戦という三年間を経て、北京と台北は、どのようにして会談をもち、そこでどのような問題を取り上げるかについての具体的提案を最近になって交換しはじめた。
かえりみれば、九五年六月に李登輝総統が米国を訪問するまで、中台関係は、非公式の経済文化的交流や対話を通して、和解の方向へ向かいつつあった。海峡を挟んだ二つの勢力間には、なんらかの再統合策をつうじた「一つの中国」という理想およびその必要性についての合意が存在した。米国も支持していたこの合意は、平和と交渉しやすい雰囲気をつくり出していた。しかし、今ではこの合意も崩壊している。しかも台湾は、米国の軍事的後ろ盾によって独立運動を起こせると思いこんでいるようだ。戦争を未然に防ぐには、ワシントンは、北京と台北が、お互いに受け入れ可能な関係を形成する時期にきていること、そして、現状を一方的変化させるような試みは、それがいかなるものであれ、受け入れられないことを双方に納得させなければならない。

二十一世紀もまたアメリカの世紀となる

1998年7月号

モーティマー・B・ザッカーマン  U. S. News and World Report社会長

アメリカ経済の好調ぶりは偶然ではなく、その好調が当面続くとするニューエコノミー論もまたまやかしではない。この成功は、「一匹狼的な人材を育て、若者を育み、新来者を歓迎し、下からわき上がってくるエネルギーや才能に対して驚くほど開放的」なアメリカ文化が、「グローバル経済」の必要性に見事に適合したことによって実現した。過去における危機を教訓につくり出された透明な会計システムを背景とする果敢な投資行動と金融商品の多様化、海外の労働者の賃金が自らの雇用に影響を与えることを理解している順応力に富む「労働者」、進取の精神を理解する投資家と緩やかな規制によって育まれた先鋭的「小規模企業」。これが、情報革命を機に産業経済から「サービス・情報経済」へと移行したアメリカにおける、低いインフレと高い成長の両立を可能としているのだ。好調は当面続き、二十一世紀もまたアメリカの世紀になるだろう。

アメリカの驕りを糺す

1998年7月号

ポール・クルーグマン マサチューセッツ工科大学経済学教授

GDPの伸び率がほぼ四%に達し、失業率もこの二十五年来最低の四・六%。しかも、インフレも二%以下という低レベル。このアメリカ経済の好調ぶりが、ヨーロッパ、日本、アジア経済の停滞とあいまって、アメリカはひとり景気循環の波を克服したとする「ニューエコノミー」論の台頭を促している。だが低い失業率は、主に労働市場における一過性の要因がもたらした一時的現象で、当然持続可能なわけではなく、インフレの兆候もすでに出始めている。加えて、言われるような「数字に表れない生産性の劇的な向上」が達成されたわけでもない。若干低めの失業率で成長を遂げたといっても、ニューエコノミーはオールドエコノミーとかなり似通っているのだ。米国で穏やかなリセッションが起こり、ヨーロッパ経済、日本経済が穏やかな回復を示し、新興アジアが急激に復活すれば、その虚構は打ち砕かれるはずで、そうなる可能性は決して低くない。

麻薬取り締まりは本当に有効か

1998年5月号

イーサン・A・ネーデルマン  リンデスミス・センター所長

麻薬を法律で封じ込めようとしても、結局は事態を悪化させるだけだ。取り締まりだけでなく、われわれは薬物依存者への「害が最小限になるよう配慮し」、麻薬乱用と法的禁止策の双方がつくりだす「犯罪や困窮」に焦点を当てた政策を考えるべきである。必要なのは、公衆衛生上の知識や人権に基づく人間への「害を減らす」麻薬政策ではないか。ヨーロッパの経験からみても、「害を減らすアプローチ」のほうが、法による厳格な取り締まりよりも、効き目があるのは明らかだ。いまや必要なのは、麻薬問題を現実的にとらえるだけの「政治的勇気」を奮い起こすことである。

「撤退戦略」という幻想

1998年4月号

ギデオン・ローズ 外交問題評議会研究員

問題地域に兵力を送り込む前に、まず、いつまでに戦力を引き揚げるかを言明するのが昨今のはやりである。だが、議会や国民の支持確保ばかりを気にかけるこの「撤退戦略」では、介入によって何を擁護するのかが無視され、撤退後の現地の状況が慎重に配慮されることもない。いかにして撤退するかではなく、なぜわれわれが介入するのかを真面目に考えない限り、現地での活動効率は今後も無視され続け、介入の意味そのものが見失われることになろう。

漂流するヨーロッパ

1998年2月号

デビッド・カレオ  ジョンズ・ホプキンス大学教授

ヨーロッパは、冷戦構造に替わる新たな統合原理をいまだに見いだしていない。そのような原理は本来連邦主義だったはずだが、今日のヨーロッパは、各国がいがみ合い、経済的困難が増している状態にあり、「共同の政策決定が可能な政治的統一体」にはどうやらなりそうにもない、と著者は言う。だが、実際には中央集権的ヨーロッパが現実的な選択肢となったことは一度もなく、それが達成されなかったとしても失敗とみなすべきではない。それぞれ独立を維持することを堅く決意しつつも、政策面で協力せざるをえない独仏関係を中心とするヨーロッパ合衆国。これこそ、今後長期的にみたヨーロッパの現実の姿なのだ。経済通貨同盟への道が平坦でないのはたしかだが、ヨーロッパ諸国はこの実現に向けて誠実に努力し、EU拡大の道をいずれ見いだすだろう。

だれが日本の方向性を決めているのか?

1998年1月号

ニコラス・クリストフ 『ニューヨーク・タイムズ』紙東京支局長

 「他の諸国のいかなるリーダーと比べても、日本の指導たちが自分から行動を起こすことはまれで、彼らはむしろ状況への対応に終始する」。一般にこの国の首相は、「官僚、ビジネス界の指導者、メディア、そして、国民のコンセンサス志向によって牽制されている」。国家的な課題が、往々にして世論に影響を与えるような予期せぬ事件によって形づくられるために、政治家の選択肢もおのずと制約されてしまうのだ。事実、戦後日本を形づくった主要な力学は、政治や政治指導者の手腕によるのではなく、「経済ブーム、都市化、人口構成の変化、女性の地位の変化など」がつくりだしたものだった。冷戦時代のソビエトならともかく、この国を「政治学」で分析しても、力学の片方を理解したことを意味するにすぎない。

市民的自由なき民主主義の台頭

1998年1月号

ファリード・ザカリア/フォーリン・アフェアーズ誌副編集長

いまや尊重に値するような民主主義に代わる選択肢は存在しない。民主主義は近代性の流行りの装いであり、二十一世紀における統治上の問題は民主主義内部の問題になる公算が高い。目下、台頭しつつある市民的な自由、つまり人権や法治主義を尊重しない非自由主義的な民主主義が勢いをもつようになれば、自由主義的民主主義の信頼性を淘汰し、民主的な統治の将来に暗雲をなげかけることになるだろう。選挙を実施すること自体が重要なのではない。選挙を経て選出された政府が法を守り、市民的自由を尊重するかどうか、市民が幸福に暮らせるかどうかが重要なのだ。行く手には、立憲自由主義を復活させるという知的作業が待ちかまえていることを忘れてはならない。もし民主主義が自由と法律を保護できないのであれば、民主主義自体はほんの慰めにすぎないのだから。

外交官なき外交の時代

1997年12月

ジョージ・ケナン

政治権力の分散化、利益の多様化は、外交組織にも大きな衝撃を与えている。いまや、国務省を迂回して国際交渉がなされることも珍しくなく、かつては国務省の人間とわずかばかりの武官だけがいた海外の大使館でも、国務省の職員や外交官はむしろ少数派である。さらに、州や利益団体までもが海外にオフィスをもち、多国間交渉の場には、相手国の立場や意向すらわきまえていない国務省とは無関係の代理人が送り込まれることも多い。だが、これは急速に変貌する社会や経済の反映であり、むしろ問題は、国家を代弁するのとは異なる次元で活動する多種多様な単位が登場したり、本来国家とは呼びえない資質しかもたない政治単位が国家として対外的に活動していることだ。この外交の混乱をうまく整理し、それぞれに適切な役回りを与えるルールを確立させることこそ急務であろう。

ユーラシアの地政学と日米中を考える

1997年11月号

ズビグニュー・ブレジンスキー 戦略問題国際研究所(CSIS)顧問

世界の人口の75パーセント、GNPの60パーセント、エネルギー資源の75パーセントが存在するユーラシア大陸は21世紀の安定の鍵を握る「スーパー・コンチネント」だ。ユーラシアにおけるアメリカの差し迫った課題は、「いかなる単独の国家、あるいは国家連合も、アメリカを放逐したり、その役割を周辺化させたりするような力をもてないようにすることだ。この点でとりわけ重要なのが、NATO、そして、アメリカと中国の関係であり、これを軸に、ロシア、中央アジア、日本との安定的共存を図っていかなければならない。NATO拡大とロシアの関係同様に、アメリカ、日本、中国の戦略関係にも細心の配慮が必要になる。肝に銘じておくべきは「再軍備路線への傾斜であれ、単独での対中共存路線であれ、日本が方向性を誤った場合には、安定した米日中の3国間アレンジメント形成の可能性はついえ去り、アジア・太平洋地域でのアメリカの役割は終わる」ということだ。

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