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中東に関する論文

トルコとイラク北部のクルド人との対立がここにきて再燃しており、イラク北部とトルコの国境地帯で紛争が起きる危険が指摘されている。問題は、トルコからの分離独立を求めるクルド労働者党(PKK)の武装勢力が、イラク北部を聖域にトルコへの攻撃を行っていることに派生している。最近ではトルコ軍の高官は、「イラク北部におけるPKKの反乱勢力を一掃するためなら、イラク北部への軍事侵攻も辞さない」と発言している。この他にもアンカラは、イラクのクルド人がイラクからの独立を試みれば、トルコ国内のクルド人分離独立運動を大きく刺激することになると懸念している。そして、これら一連の流れの鍵を握るのが、イラクの石油都市キルクークの帰属問題だ。キルクークの帰属を問う住民投票が、2007年末に予定されているが、すでに、トルコとスンニ派アラブ国家は住民投票の実施に反対し、一方、イラクのクルド人勢力は、投票が実施されなければ、イラクからの独立も辞さない可能性も示唆している。クルド人地域がキルクークとともにイラクから独立すれば、イラン、イラク、トルコ、シリア、アルメニアに広がる広大なクルディスタン地方のクルド人がどう反応するか。悪くすれば、中東はこれまでとは全く別次元の大きな問題に直面する恐れがある。

CFRインタビュー
地域外交を展開しだした
サウジの思惑は何か

2007年3月号

グレゴリー・ゴース
バーモント大学政治学助教授

中東におけるイランの影響力拡大を警戒するサウジアラビアは、スンニ派国家との連帯を強めつつも、テヘランと交渉できる領域は交渉して、なんとかイランの影響力の拡大を枠にはめたいと考えている。この観点からレバノンやパレスチナでの影響力拡大を模索するサウジの試みは、それなりに成功しつつある。サウジ・中東政治の専門家グレゴリー・ゴースは、レバノン、パレスチナでの各勢力間の仲介役を担うことで、イランの影響力を抑え込もうとしたサウジは、いまや「パレスチナ新政権のゴッドファーザー」となったと言う。一方、イラク情勢をめぐって「サウジはジレンマに直面している」とみる同氏は、「彼らはイラクでシーア派とイランの影響力が高まっていることを警戒しているが、主要な安全保障パートナーであるアメリカとの関係を損なうことを恐れて、イラクのスンニ派を積極的に支援しているわけではない」と語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

CFRインタビュー
アフガニスタンの統治能力整備への支援を

2007年3月号

サイード・ジャワード
駐米アフガニスタン大使

「アフガニスタンでの治安面での問題はテロによってつくりだされている。しかし、これは、テロリストやタリバーンがアフガニスタンで大きな力を持っていることを意味しない。むしろ、アフガニスタン政府が行政サービスを提供したり、市民を保護したりする能力に限界があることが問題だ」。アフガニスタンの日常生活を脅かしているのは、テロリストの攻勢だけでなく、援助不足ゆえにアフガニスタン政府がうまく統治能力を確立できないことにあるとサイード・ジャワード駐米アフガニスタン大使は強調する。「民衆の必要を満たせるようにカブールの行政、統治能力を改善しないことには、軍事作戦だけでは状況の改善は見込めない」。ジャワードは、「われわれは、アメリカそして国際社会が、テロリスト勢力を壊滅した後のアフガニスタンが国家として持ちこたえられるように統治能力の整備に投資することを望んでいる」と指摘し、「アフガニスタンで平和を勝ち取らない限り、対テロ戦争はうまくいかない」と語った。聞き手は、ロバート・マクマホン(www.cfr.orgの副編集長)。

テロとの戦いの本当の意味は何か

2007年2月

トニー・ブレア/第73代英国首相

イスラム過激派は、イスラム国家の近代化など望んではいない。彼らは、中東地域にイスラム過激主義の弓状地域を形成し、イスラム世界の近代化を目指している穏健派による小さな流れをせき止め、イスラム世界が少数の宗教指導者が支配する、半ば封建的な世界へと回帰することを望んでいる。彼らが攻撃に用いる手段に対抗するだけではなく、こうした彼らの思想に挑まない限り、勝利は手にできない。人心を勝ち取り、人々を鼓舞し、われわれの価値が何を意味するかを示すことが戦いの本質である。力の領域においてだけでなく、価値をめぐる闘いで勝利を収めない限り、イスラム過激主義の台頭というグローバルな流れを抑え込むことはできない。

アフガニスタンを救うには

2007年2月

バーネット・R・ルービン/ニューヨーク大学国際協調センター研究部長

パキスタンとペルシャ湾岸諸国の援助をバックにタリバーンが再びアフガニスタンで台頭しつつある。パキスタン国内の部族地域に聖域を持っていることに加えて、タリバーンの統治システムが極めて効果的であり、一方、アフガニスタン政府が腐敗にまみれ、まともな統治が行われていないために、民衆の立場も揺らぎだしている。アフガニスタン軍と国際支援部隊が戦闘を通じてタリバーンをいくら打倒しても、パキスタン内にタリバーンが聖域を持ち、アフガニスタン政府が弱体で再建活動がうまく進んでいないために、それを本当の勝利に結びつけられない状況にある。アフガニスタンの内務省と司法制度を改革し、アメリカのパキスタンに対する路線を見直さないことには、対テロ戦争の最初の戦場へと再度引きずり戻されることになる。

イランのエネルギー産業はしだいに崩壊しつつある。サウジアラビアに次ぐ世界で2番目に大きな石油資源を持ちながらも、イランはいまや市場へのガソリン供給を配給制に切り替えつつあるし、大規模なインフラ投資を行わない限り、イランの石油輸出は2015年までに停止すると予測する専門家もいる。イランの石油産業が衰退したおもな原因は、石油インフラへの投資不足による油田の老朽化、そして国内での無節操なエネルギー消費を促しているエネルギーへの補助金制度にあるとみる専門家は多い。グローバル市場でのエネルギー価格がしだいに低下していけば、すでに国連の制裁下に置かれて苦しんでいるイラン経済は、政治的余波を伴うような大きな経済的ショックに直面するかもしれない。イラン側は、中国やパキスタンなどとの契約を通じて、投資をてこ入れしようしているが、一方で、国連の経済制裁が効き始めているのも事実だ。石油産業の不振を前にテヘランは核開発にますます力を入れだし、一方、イランは電力生産ではなく、核兵器の開発を目指しているとみる欧米の専門家はますます危機感を募らせている。

「ブッシュ政権は、平壌がそう望むのなら、北朝鮮を改革・開放化へと向かわせるような道筋を築き、そのうえで、朝鮮半島の安全保障問題、ひいては北東アジアでの大国間関係のための枠組みをつくろうと、中国、日本、韓国、ロシアの4カ国との協調路線を試みている」。2月の6者協議での合意は、「こうした壮大な計画の序章にすぎない」と語るロバート・ゼーリック前国務副長官は、北朝鮮が開放路線を選択するかどうかは、はっきりとしないとしながらも、今回アメリカが描いた道筋は「金正日が改革と経済開放路線を推進していけば、北朝鮮がさまざまな機会を手にできるように設計されており」、これに北朝鮮への安全の保証、和平条約の締結を組み合わせれば、「改革・開放路線をとれば、体制の崩壊につながる」とみる平壌の危機感を緩和させて、北朝鮮の核問題に対処していく広範な枠組みにできると指摘した。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

CFRインタビュー
ブッシュ政権のイラク新路線と
二つのギャンブル

2007年1月号

リチャード・N・ハース 米外交問題評議会(CFR)会長

ブッシュ政権は、「イラクへの米軍増派という賭け」に打って出ただけでなく、「イラクのマリキ政権が大きな変貌を遂げ、シーア派主導の政府よりも、国民和解政府の実現を試みていくこと」に賭けている。イラク政府が国民和解を実現できるかどうかが今回のギャンブルを左右するもっとも重要なポイントとみなすリチャード・ハースは、「ブッシュ政権の賭けが実を結ぶように期待したいが、マリキ首相や彼の側近が、特定の宗派ではなく、イラク国家の指導者としてのアイデンティティーを意識しているようには思えない」と語る。米軍の増派でアメリカがイラクで成功する見込みを高められると大統領は考えているのかもしれないが、イラクからの撤退を検討せざるを得ない状況に陥るリスクも高めてしまったとみるハースは、有り体に言えば、米軍の増派決定など戦略とは呼び得ないし、米軍の増派を中心とする政策路線で、状況を改善できるとは考えられないと語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

アメリカ、イラク、 そして対テロ戦争

2007年1月号

リー・クアンユー シンガポール政府顧問相

イラク政策をめぐっては、シンガポール政府はブッシュ政権を手堅く支持してきたが、米軍がイラク軍、警察組織を解体し、すべてのバース党員をイラク政府から追放するに及び、私はアメリカのやり方に違和感を覚え始めた。これによって、政治的、社会的な空白がつくりだされるのではないかと懸念したからだ。自己統治という歴史も伝統もない国にあっては、自由で公正な選挙を実施することが、民主主義確立のための最初のステップになるわけではない。混乱のなかにあるとはいえ、イラク問題の解決に向けて決意をもって対応していけば、現在のイラク戦争へのネガティブな一般通念もいずれ覆されるかもしれない。ベトナム戦争同様に、それがそのまま歴史的評価につながるとは限らない。必要なのは、アメリカが広範な同盟関係をまとめて適切な姿勢を保つことだ。

CFRブリーフィング
イラクを自治地域に分けて統合を保て  
――米上院外交委員会での証言から

2007年1月号

レスリー・H・ゲルブ 米外交問題評議会(CFR)名誉会長

イラク内の各勢力間の相互不信感は強く、ともに利益を共有しているという認識は存在しない。当然、特定の集団が大きな力を持つ中央政府が「イラク全土」を安定的に支配できるようになることはあり得ない。とすれば、イラクが必要としているのは中央集権システムではなく、(各地域が踏み込んだ自治権を持つ)分権システムということになる。各地域の政府が立法、行政、治安の責任を負い、中央政府の役割は外交、国境防衛、通貨の管理、そして石油や天然ガスからの歳入の管理などに限定する。重要なポイントは、各地域の指導者が、自分たちの地域は自分たちで守るという意識を持ち、地域内の民衆の面倒をみるようになることだ。ここにおける最大の課題は、スンニ派の対総人口比に応じて石油からの歳入の20%を、今後、そして将来にわたって与えるという点での合意をいかに他の集団から取り付けるかだ。

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