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中東に関する論文

Foreign Affairs Update
エジプトは再び軍支配の時代へ
―大統領選挙の真の勝者はモルシではない

2012年6月号

ジェフ・マーチニ
ランド・コーポレーションプロジェクトアソシエート

大統領選挙の本当の勝者はモルシではなく、エジプト軍だ。憲法も議会もない状態でモルシが大統領に就任しても、彼にどれだけ権限が残されているのかはっきりしない。すでにエジプト軍は布石を打っていた。最高裁の判断を受けて軍最高評議会は議会の解散を命じ、17日に暫定憲法を修正し、新議会発足までの立法権を手中に収め、制憲プロセスにおける軍の役割も強化した。軍高官は政治的監督体制の対象外とされ、軍の指導者を選び、経済プロジェクトを継続し、軍備調達を自由に行うことも法的に認められた。さらに18日には軍最高評議会は、国防評議会を復活させた。同胞団の選択肢は二つある。それでもモルシを大統領就任させ、事実上、エジプト軍の利益を促進するように設計されたポストムバラク体制の維持に手を貸すか、それとも、軍最高評議会の解体に向けて街頭デモに繰り出すか。どちらをとってもメリットはない。・・・同胞団と世俗派が相互不信故に、軍事的支配体制からの移行に向けて連帯できなければ、今後も軍がエジプトを支配し続けることになる。

Z・ブレジンスキーとの対話
――イラン抑止、ロシアの欧米化、 アジア外交の非軍事化を

2012年5月号

ズビグニュー・ブレジンスキー カーター政権大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、サム・ファイスト CNN 副会長

われわれがかつてソビエトを抑止し、現在も北朝鮮を抑止できているとすれば、イランを抑止できないと考える理由はあるだろうか。イランに対しては空爆ではなく外交と抑止路線を重視していく必要がある。・・・一方、ロシアについては、この国で市民社会が台頭していることに注目すべきだろう。帝国としての過去にこだわるプーチンも、市民社会が作り出す圧力の前に、路線を見直さざるを得なくなるはずだ。・・・・東アジアについては、中国との衝突を避けるべきで、アメリカはこの地域の軍事紛争には関与すべきではない。必要なのは、紛争を阻止するために介入することだ。もちろん、今後も維持していくべき軍事的利益も残されているが、こうした路線の前提として日本と中国の和解を促す必要がある。われわれの極東政策における軍事的色彩を弱めていく必要がある。・・・・

イラクがシリアを擁護する理由
――「イラン化する」イラク

2012年5月号

モハマド・バッジ  米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー(非常勤)

シリアで民衆蜂起が起きて以降、イランは(シリアの体制を支えていく上で)イラクのマリキ首相を重視するようになり、イラクの同盟勢力がシリア政府を支援することを望むようになった。これまでシリアを批判してきたとはいえ、現在のイラクはイランに多くを依存している。イラクにとって、イランは重要な貿易相手だし、イランとの貿易がイラク経済を動かすエンジンの役目を果たしている。マリキがイランとの関係を清算することはおそらくあり得ない。シリア政府支援をめぐってイランとイラクが一定の協力関係にあることは、おそらくはシリアへの軍事支援物資を積んでいると考えられるイランの輸送機がイラク領空を通過するのを認めていることからも明らかだろう。もちろん、イランと敵対するスンニ派アラブ諸国は、この現実に不満を募らせている。

Foreign Affairs Update
アラウィ派はシリア沿海部を目指す
――内戦の長期化とアラウィ国家の誕生?

2012年5月号

ケイティ・ポール
前ニューズウィーク誌リポーター(在ベイルート)

政府軍と反政府勢力がダマスカスでの最終決戦を選ぶか、それとも政府軍がアラウィ派の伝統的な拠点である沿海近くの山間部へと撤退していくかに関わらず、内戦が長期化し、社会の亀裂がますます深くなっていくのはもはや避けられない情勢にある。二つの勢力の軍事力が拮抗してくれば、内戦は通常戦争レベルの戦闘へと激化していく。すでにアラウィ派の民間人は自分たちの伝統的生活地域であるタルタスやラタキアなどシリアの沿海地域へと移動し始め、一方でこの地域のスンニ派やキリスト教徒は、トルコへと脱出しつつある。こうして、アラウィ派の「国家内国家」が事実上形作られつつある。問題は、その後、何が起きるかだ。・・・

軍との対決路線に転じたムスリム同胞団

2012年5月号

エリック・トラガー  ワシントン近東政策研究所フェロー

どんな理由であっても有罪宣告を受けた者が選挙に出馬することは認められておらず、法に照らせば、選挙管理委員会によるシャーテルの出馬失格は合理的な判断だった。・・・同胞団はこの展開を当初から予測していた。・・・

Foreign Affairs Update
バッシャール後のシリア
――破綻国家化を回避せよ

2012年5月号

ダニエル・バイマン ブルッキングス研究所サバン中東研究センター所長

バッシャール・アサドの命運はすでに尽きている。すでに専門家の多くは、バッシャール後にどのようなシリア政府が誕生するかを考え始めている。バッシャールが殺害されても、独裁政治の構造が残存すれば、軍事、経済上の要職にある彼の親族や側近達が彼に取って代わるだけの話だ。この場合、かつての側近たちは、反政府勢力と戦う一方で、内的な権力抗争を繰り広げることになる。一方、反体制派集団の多くは自由シリア軍(FSA)を自称しているが、そこに明確な指揮統制はない。現実には、さまざまな集団が地域的に政府軍に戦いを挑んでいるにすぎない。紛争が長期化すれば、戦いの構図は「スンニ派武装グループ」対「アラウィ派武装グループ」へと変化し、バッシャールが姿を消しても、紛争が長期化する恐れがある。すでに周辺国へと大量の難民が流出しており、反体制派はこれらのキャンプを反アサド闘争の拠点としている。当然、シリアの内戦が地域紛争へと拡大していく危険がある。最悪のシナリオは、こうした混迷のなかでシリアが破綻国家へと転落していくことだ。

イラクはなぜシリアを擁護しているのか
――「イラン化するイラク」に苛立つスンニ派アラブ諸国

2012年4月号

モハマド・バッジ 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー(非常勤)

スンニ派湾岸諸国は、イラクのマリキ政権がシーア派イランと同盟関係にあること、イラクの生活へのイランの影響が大きくなっていることに不快感を覚えている。だが現在のイラクはイランに多くを依存しており、マリキ首相がイランとの関係を清算することはあり得ない。

「アラブの春」とその後

2012年3月号

フォアド・アジャミー
スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェロー

表面的な安定の下に垣間見えるアラブ世界の政治的現実は悲惨で不毛だった。忌まわしい支配者、ふさぎ込んだ大衆、そして、いかなる正統性もない秩序に対する不満から身を投げ打つテロリストたち。そこに同意という言葉は存在せず、支配者と支配される側をつなぐ唯一の感情は疑いと恐れだった。だが、モハメド・ブアジジが、その死をもって、新しい仲間を団結させた。中東のあらゆる地域で非常に多くの若者が彼の叫びに心を打たれ、行動を起こした。だが、ローマの歴史家タキトゥスは、「悪い皇帝を倒した後の最善の日は、彼を倒したその日だった」と書き残している。たしかにアラブ世界の第三の政治的覚醒は歴史的な流れをもっている。だが、そこには、危険も約束も潜んでいる。自由を手にできる可能性もあるが、監獄に舞い戻る可能性もある。

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