1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

中東に関する論文

イラク・クルディスタンは独立へ動く
―― イスラム国がもたらした独立の
チャンス

2015年2月号

マイケル・タンチューム   ヘブライ大学フェロー

イスラム国がイラク北部を攻略したことで、石油都市キルクークの帰属を中心とするクルド自治政府とイラク政府の対立も実質的に消滅した。その直後、バルザニ・クルド自治政府議長は独立に向けた住民投票を実施すると表明した。欧米諸国はイスラム国対策として、クルド自治政府との軍事協調戦略を(バグダッドの頭越しに)スタートさせた。バグダッドも、クルド自治政府が管理するあらゆる地域における石油と天然ガスの生産と販売についてエルビルが法的主権をもつことをすでに受け入れている。トルコ、そしてイランさえもクルドの独立を追認するかもしれない。だが、こうした好ましい環境はそう長続きはしない。イラクにおけるイスラム国の脅威が低下し、欧米の関心がもっぱらシリアに向かうようになれば、クルド自治政府は、住民投票を先送りするように求める圧力に次第にさらされるようになる。・・・

イスラム国のエジプトへの拡大

2015年1月号

カリル・アルアナニ ジョンズホプキンス大学 ポール・ニッツスクール非常勤教授(中東研究)

2014年11月、シナイ半島北部を拠点に活動するエジプトのイスラム過激派組織アンサル・ベイト・アル・マクディス(エルサレムの支援者)は、イスラム国(ISIS)とその指導者であるアブ・バクル・アル・バグダディへの忠誠を誓うと表明し、イスラム国との事実上の同盟関係に入った。これによってエジプトに足場を確保したイスラム国は、今後さらに大きな影響力を手にするかもしれない。アラブ世界における主導国として政治・文化的地位を確立しているだけでなく、イスラエルと国境を接しているだけに、エジプトはイスラム国が目指すカリフ制イスラム国家建設に向けたきわめて重要なアセットになる。ユダヤ国家を攻撃すれば、アラブ世界におけるイスラム国の活動はさらに正当化される。・・・

イスラム国に参加するトルコの若者たち
―― 過激化するトルコ社会

2014年12月号

ギュネス・ムラット・テズクール ロヨラ大学准教授(政治学) / サブリ・シフチー カンサス州立大学助教(政治学)

約1000人のトルコ市民がイスラム国に、数百人がシリアのアルカイダ系組織・ヌスラ戦線に参加しているとメディアは伝えている。だが、トルコとシリアの国境管理がずさんであることを考慮すれば、こうした数字はトルコへのジハード主義の浸透、そしてリクルートの実態を過小評価している。驚くべきは、トルコからシリアへ向かったジハードの戦士の多くは、貧困に苦しむ、社会から隔絶された若者たちではないことだ。彼らは安定した家族のなかで育まれ、力強い共同体のネットワークのなかで暮らしてきた。どう考えても、トルコでは非常に特異的な何かが進行している。これは、公正発展党(AKP)が中核的な支持基盤にアピールし、より敬虔な社会を実現しようと、イスラム組織を資金援助したことと関係がある。イスラム主義の社会的活動が盛んになっただけでなく、そのなかで、過激主義も育まれてしまったのだ。・・・

中東ではなく、中ロの脅威を重視せよ
―― 欧州と東アジアの同盟国をいかに守るか

2014年12月号

リチャード・ベッツ   コロンビア大学教授

イスラム過激派がイラクとシリアの大規模な領土を制圧し、ロシアがウクライナに介入し、東アジアでは中国が軍事力を増強している。ワシントンは大きな選択に直面している。これら危険にさらされた地域に介入せずに、運命にすべてを委ねるのか、それとも、状況を正すために危険な賭に打ってでるのか。政策決定者は二つの設問を考える必要がある。一つは危機にさらされている利益がどの程度重要か、もう一つは、その利益を守る上で軍事力を用いるのがどの程度効果的かだ。この設問への答から考えても、いまやアメリカは戦略的優先課題の焦点を伝統的な国家間紛争に再び合わせるべきだし、ワシントンは中東から完全に手を引けるようになるのを待たずに、最優先課題をヨーロッパとアジアにおける同盟国の防衛に据える必要がある。

イスラム国とイラクの現実

2014年12月号

ジェーン・アラフ アルジャジーラ・アメリカ・イラク特派員

イラクのクルド自治区議会は、(イスラム国に包囲された)シリアのクルド人を支援するために民兵組織ペシュメルガをシリアに派遣することを決議し、トルコ政府も一定数のペシュメルガがトルコを経てシリアに入り、コバニでの戦闘に参加することを認めた。一方で、コバニからの難民がトルコを経由してイラクのクルド人地域へと流れ込んでいる。その数は現地の収容能力をはるかに超えた1万1000人に達している。・・・イラク軍はすでに崩壊している。バグダッドの防衛にあたっているのはシーア派の武装組織で、イランがこうした武装集団を支援している。一方で米軍が空爆を実施している。・・・(イスラム国支配下にある地域では)イスラム国は国としての権威をアピールしようと試みている。行政組織を運営しようと試み、教師たちに教壇に戻るように促し、すべてはうまくいっているとみせかけようとしている。だが、これは真実ではない。(聞き手はバーナード・ガーズマン、cfr@orgのコンサルティング・エディター)

シリア紛争への直接的軍事介入?
―― さらに踏み込むべきか、現状で踏みとどまるべきか

2014年12月号

スティーブン・サイモン 中東研究所シニアフェロー

(反政府勢力とアサド政権の双方と戦っている)イスラム国に対する空爆作戦を実施しつつも、ワシントンはシリア内戦の直接的プレイヤーにならないように細心の注意を払ってきた。特に、シリア政府を実質的に助けているとみなされたり、あるいは、シリア政府を倒す戦いに加担しているとみなされたりしないように心がけてきた。だが、ワシントンは、このどちらかを選ばざるを得ない状況に、程なく直面するだろう」。ここにおける基本的問題は次のようなものだ。(イスラム国対策として)アメリカが支援している非ジハード主義反政府勢力の一つが、アサド政権に対抗していくための支援を求めてきたら、どうするか。そうした反政府勢力を支援しなければ、イスラム国をターゲットとする空爆作戦を支持している諸国も、アメリカへの態度を変えることになる。だがワシントンが要求を受け入れれば、アメリカは内戦を戦う本当のプレイヤーになってしまう。

2014年9月初旬、アルカイダの指導者アイマン・ザワヒリは、「インドにジハードの旗を揚げる」と表明した。この意外な戦略には伏線がある。2014年の総選挙で、(西洋近代文明やイスラム教に批判的で、ヒンドゥー教徒が唯一卓越性を持つとする)ヒンドゥー至上主義を唱えるインド人民党(BJP)が勝利し、これまで反イスラム主義的な発言をしてきたナレンドラ・モディが首相に就任したからだ。BJPのヒンドゥー至上主義を基盤とする好戦性をモディが抑え込まなければ、新たに不満を抱いたイスラム教徒が、すでにアルカイダと協力している過激派組織に加わるケースが今後増えていくかもしれない。モディがヒンドゥー至上主義路線を貫き、イスラム教徒がインドの経済・文化から疎外されていると感じれば、過激主義を支持するインドのイスラム教徒が増え、イスラム原理主義台頭のポテンシャルは高まっていく。

イスラム国のアジアへの拡大

2014年11月号

ジョセフ・リョー・チンヨン ブルッキングズ研究所シニアフェロー(東南アジア研究担当

東南アジア諸国がもっとも警戒しているのは、国内のイスラム教徒がイスラム国のイデオロギーに感化されて中東に渡り、イスラム国の一員として戦い、最終的にその過激思想をアジアに持ち帰ることだ。すでに、世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシア政府は、50人以上がシリアとイラクで戦闘に参加していることを確認している。マレーシアからは30―40人がイスラム国に参加しているとみられる。しかも実際の数はこれよりもはるかに多い可能性がある。なぜ彼らはイスラム国に魅了されるのか。一つには、イスラム国の活動に「終末のカリフの国」が誕生するというコーランの予言とのつながりを彼らが見いだしているからだ。「(黒い旗を掲げて戦うとされるイスラムの救世主)イマーム・マフディと(偽の預言者)ダッジャールの間で終末戦争」が起きるという予言に彼らは現実味を感じている。・・・・

エルドアン・トルコ大統領との対話

2014年11月号

レジェップ・タイイップ・エルドアン トルコ大統領、ファリード・ザカリア CNNファリード・ザカリアGPS, ホスト

テロと戦うことに、われわれはいささかの迷いもない。テロに屈するつもりもない。トルコはテロの矢面に立たされており、すでに4万人が犠牲になっている。・・・トルコはイラク及びシリアと1210キロの国境線を共有しており、この国境線を守らなければならない。われわれはアメリカその他に国に、この国境線沿いに飛行禁止空域を設定することを提案している。これが実現すれば、より効果的なテロ対策をとれるようになるだろう。・・・現状でトルコ内に6000人の外国人イスラム過激派が入り込んでいるとわれわれはみている。れわれは入国と出国のポイントでイスラム過激派の動きを厳格に監視しているが、過激派は別の国境ポイントから出入りしている。そうした過激派の名前が分かれば、トルコはより安全な場所になる。彼らが旅券をもち、銃をもっていなければ(入国を許され、再び国境線を越えて)最終目的地で銃を手にする。だが、名前が分かっていれば、トルコに入国する段階で、それを阻止できる。・・・

トルコとクルド人のジレンマ
―― イスラム国と軍とクルド人問題

2014年11月号

ハリル・カラベリ 中央アジア・カフカス研究所  シニアフェロー

イスラム国が作り出すトルコ・シリア国境地帯の混乱を前に、トルコ国内の政治バランスは崩れ、いまや軍部が大きな力をもちつつある。一方で、政府と国内のクルド人勢力との和平プロセスはいまや破綻しかねない状況にある。「シリアのクルド人に対するイスラム国の攻撃にトルコ政府は水面下で加担している」とみなすクルド人の怒りはピークに達している。一方、国境地帯の混乱を前に、エルドアンは国内のクルド人の動きを警戒するトルコ軍の見方と提言に配慮せざるを得ない状況にある。トルコ軍は軍のレッドラインが「トルコ国家の統合と領土保全を守ること」であることを改めて強調している。これはシリアとの国境線だけでなく、「クルド人に自治権を与えることを軍は認めない」というメッセージに他ならない。トルコは一体どこへ向かうか。その多くはクルド人が「政治的連帯」のパートナーをどこに求めるかで左右される。

Page Top