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中東に関する論文

イスラエルと日本
――関係強化に向けた期待と不安

2017年9月号

マシュー・ブルーマ 法政大学講師(国際政治)
エイタン・オレン 国際政治研究者

これまでとかく疎遠だった日本とイスラエルも、いまや、グローバルエネルギー市場と日本国内の政治・経済情勢の変化、そして世界の地政学的パワーバランスの構造的シフトを前に、緊密な協力関係を模索している。安全保障とテクノロジーの最前線にあるイスラエルとの戦略的関係を強化していく路線は、国際社会におけるより独立した影響力あるパワーとしてのプレゼンス確立を目指す日本の新戦略によって導かれている。中国が中東でのプレゼンスを強化していることへの焦りも関係しているかもしれない。もちろん、課題は残されている。日本企業は依然として対イスラエル投資への不安を払拭できずにいるし、政府も、イスラエルとの関係強化によって中東の複雑な宗派間紛争に巻き込まれる恐れがあることを懸念している。・・・

ハイテク起業でパレスチナを支える
―― 西岸とテクノロジーブームと中東和平

2017年9月号

ヤディン・カーフマン ベリタス・ベンチャーパートナーズ  パートナー

私がテクノロジーセクターのパレスチナ人と交流し始めた10年前、イスラエルの友人や同僚たちは「一体全体、ラマラで何を探している」と、私の行動を正気の沙汰ではないと考えていたようだ。だが、パレスチナのテクノロジーセクターで何が起きているかを知ると、彼らも交流プログラムがもたらす希望を理解するようになった。「大丈夫か」と聞くのではなく、「何かできることはないか」と言うようになった。たしかに、パレスチナの希望とイスラエルの安全に対する懸念に対処できるのは、政治的解決策だけだ。しかし、手堅い経済基盤と境界線を越えたビジネスパートナーシップがあれば、政治家が合意をまとめ、パレスチナ国家が間違いなく持ち堪えていくための大きな助けになる。・・・

テロ組織はどのように資金を調達しているか
―― なぜ銀行システムの監視は無意味なのか

2017年8月号

ピーター・ノイマン ロンドン大学キングズ・カレッジ教授(安全保障研究)

各国は長年、テロには金がかかるという思い込みゆえに、テロ組織が国際金融システムにアクセスするのを阻止しようと試みてきたが、このアプローチでテロを抑止できた証拠はない。ほとんどのテロは、数百ドル単位のごくわずかなコストでも決行でき、テロ組織の多くは国際金融システムを使うことはない。骨董品や石油、タバコ、模倣品、ダイヤモンド、象牙などの密輸から資金を得ることもあれば、イスラム国(ISIS)のように支配地域の天然資源を食い物にして資金を確保することもある。あるいはヨーロッパのジハーディストのように、社会保障給付や個人的な借入れでテロを決行する人物たちもいる。国際金融システムに焦点を合わせるのは、時間と資金を浪費するだけで、テロの抑止にはつながらない。

イランとイスラム国
―― テヘランにとっての新しいテロの脅威

2017年8月号

アリアネ・M・タバタバイ ジョージタウン大学客員研究員

イスラム国(ISIS)というスンニ派テロ集団はシーア派を敵視していただけでなく、近代においては類い希な残虐性をもっていたために、テヘランはこの脅威を強く意識してきた。イラクのイスラム国勢力が力をもち始めると、イランは速やかに革命防衛隊の精鋭部隊であるアル・クッズ旅団(コドス軍)をイラクへ派遣し、その後シリアにも部隊を展開し、イラン軍部隊が後にこれに合流した。イラクではイスラム国勢力を力で押し返そうと試みたが、シリアではそれほど力を入れなかった。テヘランは、イラクにおけるイスラム国の活動は自国の領土、人口、利益に対する明確な脅威と認識していたのに対して、シリアはこのテロ勢力を封じ込める場所と考えていたからだ。このやり方が逆効果だった部分もある。2017年6月、イスラム国がテヘランでのテロに成功している。・・・

エジプトにおけるキリスト教徒の未来
―― ISISによるコプト教徒の民族浄化

2017年8月号

ニナ・シーア ハドソン研究所・宗教的自由研究センター ディレクター

イスラム過激派が、イラクのキリスト教徒やヤジディ教徒コミュニティ同様に、エジプトのコプト教徒コミュニティの組織的破壊を進めるのを放置すれば、中東の宗教地図は大きく塗り替えられる。特に、約900万人に達するエジプトのコプト教徒は、中東地域における最大のキリスト教集団、最大の非ムスリム集団だ。イスラム国は、シナイ半島北部の小規模なキリスト教コミュニティをすでに粉砕している。今後彼らが、他のエジプト地域で自爆テロなどの攻撃を通じて、数百万のコプト教徒たちを恐怖に陥れれば、大規模な難民がイスラエルやヨルダン、そして地中海を経てヨーロッパを目指すようになるかもしれず、この場合、エジプトとその近隣諸国はこの先数十年にわたって不安定化することになる。

ヤジディ教徒の虐殺
―― イスラム国による殺戮と誘拐の人口動態的証拠

2017年8月号

バレリア・チェトレッリ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス リサーチオフィサー アイザック・サッソン テルアビブ大学助教(社会学) ナザール・シャビラ ホーラー医療大学助教(公衆衛生) ギルバート・バーンハム ジョンズ・ホプキンス大学教授(国際公衆衛生)

イスラム国がイラクの宗教的少数派、ヤジディ教徒の虐殺を行っていることはかねて明らかだったが、その残虐行為の全貌は依然としてはっきりしない。われわれがイラクの避難民キャンプで実施した聞き取り調査によれば、2014年8月の数日間で殺害または拉致されたヤジディ教徒は9900人前後。このなかで、殺害されたと推定される3100人のうち半数近くは銃や斬首によって処刑されるか、焼き殺され、残りの6800人は拉致されたようだ。イスラム国による拘束から脱出した者たちの話によれば、拉致されたヤジディ教徒は強制的に改宗させられたり拷問を受けたり、性奴隷にされたりするなどの虐待を受けていた。・・・

なぜサウジは判断を間違えたか
―― 対カタール強硬策の代価

2017年8月号

バッシマ・アル・グサイン アル・グサイン・グローバル戦略 最高経営責任者
ジェフリー・ステーシー ジオポリシティUSA マネージング・パートナー

湾岸協力会議(GCC)はカタールに対して、イランとの関係遮断からアルジャジーラの閉鎖までの13の要求を突きつけ、その受入期限を6月2日に設定した。しかし、カタールは何一つ要求に応じなかった。サウジが主導するカタール封鎖路線には明らかに問題がある。カタールとイランの関係を問題視しているにもかかわらず、経済封鎖で追い込まれたカタールは食糧をイランやトルコから急遽輸入せざるを得なくなり、皮肉にも、カタールを両国の懐へと送り込んでしまった。カタールをイランにさらに接近させただけでなく、地域的な安定と通商の基盤であるGCCの連帯も揺るがしてしまった。なぜリヤドがかくも大きな失策を犯したのか。「カタールは身の丈に合わない野望を抱き、サウジの支配的影響力を脅かしている」とリヤドが考えていることが、その背景にある。・・・

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

サウジはなぜカタールに強硬策をとったか
―― カタールの独自外交とアルジャジーラ

2017年7月号

デビッド・B・ロバーツ キングスカレッジ・ロンドン 助教授

国営のカタール・ニュースエージェンシー(QNA)は、タミル首長の一連の挑発的な発言を紹介した後、「カタールを陥れるバーレーン、エジプト、クウェート、サウジ、アラブ首長国連邦による陰謀を突き止めた」とするツイートを流している。その後ドーハは「カタールのニュースエージェンシーは、周到に計画されたハッキング被害に遭った」と主張し、米FBIもこの事実を事後的に確認したが、断交という抜いた刀をサウジが鞘に収める気配はない。サウジを含む湾岸の君主諸国が今回なぜカタールに圧力をかけているのか、その理由ははっきりしない。だが、アルジャジーラでアラブの独裁体制を揺るがし、ムスリム同胞団を支援してエジプト政府と敵対し、イランとも接触してきたカタールにサウジがこれまで同様に手を焼いているのは事実だろう。米軍基地を受け入れ、天然ガス資源を世界に供給しているとしても、時間が経過するにつれてカタールはさらに追い込まれていく。・・・

シリア東部をめぐる米ロ・イランの攻防
―― シリアにおける政治ゲームの始まり

2017年7月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所  シニアフェロー

イラクと国境を接するシリア東部をめぐる攻防戦が始まっている。すでにアメリカは4月にアサド政権をミサイル攻撃しただけでなく、5月には親アサド勢力を空爆し、シリアのクルド人勢力への軍事援助の強化を発表している。ロシアとイランも、シリア東部におけるイスラム国勢力の崩壊によってシリア政府が失地を回復するチャンスがもたらされると考え、アサド軍支援を強化している。特にテヘランはイランからイラク、シリア、そしてヒズボラが支配するレバノンをつなぐシーア派の回廊を形成することを狙っている。当然、米ロの安全に関する覚書が、今後シリアにおいて試されることになるし、控えめにみても偶発事故が起きる危険は高まっている。いまやアメリカとその同盟国諸国の部隊が、アサドの部隊だけでなく、アサドを支えるロシアやイランの部隊と直接的軍事衝突に巻き込まれる恐れが出てきている。

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